第24話 悪役だけど、ただ食堂にいるだけだよ?(違う) 前半戦
食堂に入れば……圧巻だった。
広々としたフロアにはシンプルなデザインながらも、新品と思われる長机や丸テーブルがずらっと並べられていた。
また、食堂ということで券売機で並んで買うだとイメージしていたが……。
「荘帝学園では各テーブルにタッチパネルが設置していますので、席で料理を頼むことができますよ」
湊くんの隣を歩く静音ちゃんが、ふわりと笑みを浮かべながら教えてくれた。
おそらく、お姉さんが生徒会長の関係で、荘帝学園の仕組みには詳しいのだろう。
「へぇ〜。兎乃さん物知りだね」
「そう言っていただいてありがとうございます、天笠様」
湊くんにそう言われて、微笑む静音ちゃん。
そして……話すたびにおっぱいがフルフル揺れている。凄いよ。
僕たち4人は窓際の端の方の席についたけど……どうしても視線はソワソワしてしまう。
湊くんも僕と同じ気持ちのようで、辺りをキョロキョロと楽しそうに見回していた。
「ふぁ……すごい食堂だね。ねっ、玲人君っ」
「ああ、そうだな」
湊くんの言葉に相槌を打っていると……向かいの席に座る静音ちゃんが僕を見ていることに気づく。
「ん? 僕の顔に何かついているか?」
「いえ、何も付いてはいませんが……。羽澄様も驚かれるのですね。てっきり、こういうのは見慣れているものかと思っていまして」
「え?」
静音ちゃんの発言が妙に引っかかる。
僕たちは初対面のはずだ。
なのに、僕のことを既に知っているような発言……。
いや、昨日の大名行列を見たのかもね。
十数人のメイドさんとSPに囲まれているなら、家はお金持ちっていうのは察しがつくだろうし。
「羽澄様なんでもありませんよ。ふふっ」
「そ、そうか?」
「はい」
静音ちゃんが両目を閉じてにこっと笑う。
なんでもないというなら……今は下手に聞き返さないでおこう。
タッチパネルでどんなメニューがあるか調べる。
ステーキ、海鮮丼、麻婆豆腐やフルーツサンド……和洋中にデザートも揃っている。
食堂というより、フードコートに近いな。
施設も整っていて、サポート役もいて食堂も快適……なんとも暮らしやすい空間である。
最高の学園だな。
この快適空間がもっと広まれば、男子生徒も増えるんじゃないの?
来年あたりには、男子も増えてくるだろう。
そんな考え事もほどほどに……お腹が空いてきたなぁ。
とはいえ、先に……。
「先に2人が選んでいいよ」
僕はタッチパネルを湊くんと静音ちゃんの方へ寄せる。
「いいの、玲人君!」
「ああ、ゆっくり選んでいいからな」
「ありがとう、玲人君っ。えへへ、どれにしようかなぁ〜」
「天笠様はどんな料理がお好きなですか?」
「えっとね、ボクは……」
湊くんと静音ちゃんはタッチパネルに映し出される料理に釘づけになっている。
その間に僕は……菜子ちゃんと話すことにしよう。
「菜子、付き合ってもらって悪いな」
「い、いえっ」
菜子ちゃんは「大丈夫」とばかりに首を横に振るけど……湊くんと静音ちゃんとは初対面だし、緊張するよね。
なので、僕から話すことで緊張をほぐすことにしよう。
それに、菜子ちゃんの新たな一面を知れるかもだしね。
「菜子はどんなメニューが気になるか?」
「私は……デザートが気になりますね」
「デザートか。いいね」
ほうほう、菜子ちゃんは甘いものが好きなのか。
そういえば……。
『私は、二条菜子と言います。趣味はお菓子作りです』
自己紹介の時にも趣味でお菓子作りしているって言っていたね。
「菜子はデザート……甘いものは何が好き?」
「そうですねぇ。いっぱいあって迷いますけど……やっぱりケーキ。それも、いちごとホイップたっぷりのショートケーキが好きですっ」
菜子ちゃんの声のトーンが明るくなった気がする。
うんうん、いいね。
この話なら、菜子ちゃんも話が続くだろう。
「いちごとホイップたっぷりのショートケーキ……絶対美味しいな」
「美味しいですよっ」
「そうか。僕も久しぶりに食べてみようかな」
元の世界だと男子校だった故に、男友達しかいなかった。
男の寄り道といえば、ハンバーガーやラーメンなどコッテリ、ガッツリ系になりがちになる。
思えばケーキは、クリスマスや誕生日以外には食べてこなかったなー。
「玲人さんも甘いものが好きなんですか?」
「ああ。僕は甘いものも好きだし、基本なんでも好き嫌いなく食べるよ」
「そ、そうなんですね。も、もし良かったら……私がケーキを作ったら食べてくれますか?」
「ああ、うん。食べるけど」
「!! 本当ですかっ」
菜子ちゃんが顔を明るくさせた。
作ってくれるなら、食べたいよね。
それに菜子ちゃんは、屋敷でケーキを作ってくれる話をしているのだろう。
夜ご飯のデザートかおやつの時間に出てきたら嬉しいなぁ。
「2人は仲良いんだねっ」
ふと、湊くんの声が耳に入る。
湊くんはタッチパネルではなく、僕と菜子ちゃんを交互に見ていた。
「そうか?」
「うんっ。だって、女の子と会話が続くだなんて仲の良い証拠だよっ」
んー? そういうものなのか?
でも元の世界の男子校でも、女の子と会話が続くだけで貴重な体験だの、リア充だの言っていたなぁ。
「まあ、菜子とは仲良くなりたいと思っているからな」
「っ!」
菜子ちゃんの好感度を上げていかないから、仲良くなるのはもはや登竜門的なものだよね。
ちらっと菜子ちゃんを見れば……少し俯き気味になっていたのだった。
ん? どうしたんだろ?
まあ、僕が気にしたところでなんでもないと返されてしまうか。
「それで、湊はメニューが決まったのか?」
「それが……オムライスとカツカレーで迷ってるんだぁ」
そう言って、奏くんはタッチパネル画面をこちらに見せる。
オムライスもカツカレーも美味しそうであり、どちらも450円と破格の値段である。
「どっちも頼んだら食べきれないし、かと言って、どっちも食べたいし……うーん……」
湊くんが首を傾げて悩んでいる。
「じゃあ湊はオムライスにすればいいよ。僕がカツカレーを頼むからそれを食べればいいさ」
「玲人君はそれでいいの?」
「ああ。いいよ」
「〜〜! ありがとう、玲人君っ。玲人君は優しいねっ」
湊くんはパァァと明るい笑みを見せた。
静音ちゃんは日替わり焼き魚定食に決めたらしくて、タッチパネルが渡され、僕と菜子ちゃんは見入る。
メニューの種類が豊富なのはもちろん、プラス50円で味噌汁がうどん、蕎麦、ラーメンに変更できたり、デザートもプチサイズが付いてきたり……うん、この学園は最高だね!
商品を頼んで数分後、タッチパネルに料理が出来たとの通知がきた。
ほんと、便利な学園だなぁ〜。
「わたしたちは料理を取りに行きますね。行きましょうか、二条様」
「う、うんっ。あの、静音さんって、呼んでもいいかな……?」
「ええ、構いませんよ。では、わたしは菜子様と呼ばせていただきますね」
「……私に様はいらないよ? 同級生なんだし」
「これはわたしの《《家柄》》の問題がありまして。あまり気にしないでいただけると嬉しいです」
「そうなんだ。じゃあ、よろしくね静音さん」
「はい。よろしくお願いします、菜子様」
菜子ちゃんと静音ちゃんが微笑ましいやり取りをしている。
2人はそのまま受け取りカウンターへ行こうとするが……。
「待って、2人とも。僕たちも行くよ」
僕は席を立つ。
いくら彼女たちがサポート役とはいえ……さすがに女の子に自分の分の料理を運ばせるなどできない。
「湊も行くか?」
まあ、湊くんの分ぐらいだったら僕がついでに取りに行くけどね。
一応、声をかけておこう。
「う、うんっ。ボクは玲人君が行くなら……ついて行くよ!」
湊くんはゆっくりと腰を上げた。
湊に向けた視線を菜子ちゃんと静音ちゃんに向ければ……2人は少し驚いたような顔をしていた。
「玲人さん、無理はしていませんか?」
「え? 無理? 全然無理してないけど?」
菜子ちゃんの問いかけに僕は頭の中が「?」になりながらも、そう答えた。
次に、静音ちゃんの方に目を向ける。
「わたしはお2人がそう仰るなら構いませんよ。ただ……」
「ただ?」
「天笠様と羽澄様が動かれるとやはり、目立ちますね」
「ん? 目立つ?」
静音ちゃんの言葉に僕は首を傾げつつ……ふと、何気に周りを見回した。
ついさっきまでは空席だらけだったものの……今は多くの女子生徒がいた。
そういえば、チャイムは鳴っていたね。
つまり、全校生徒が昼休みに入ったといこと。
当然、食堂には人が集まる。
それも……女子だらけになるわけで。
いやいや、食堂に行く理由はあくまで食事のため。
みんな、お腹空いてそれを満たすために食堂でご飯を食べる。
だから、時間が経てばなんともないよね?




