第23話 悪役相手だから無理しなくていいんだよ?(違う)
その後の授業は、荘帝学園の施設回りやオリエンテーションなどをした。
いずれも、元の世界と変わらなくてホッとした。
ただ、この学園には男子が8人しかいない。
男女比に差があることで今後、何か変わってくることもあるのか……そこは気になるところだよね。
まあ、そんな大ごとなことにはならないと思うけど!
4限目もあと7分ぐらいで終わろうとしていた頃。
「んじゃ、午前中は特別に少し早めに終わるぞー。売店や食堂に興味あるやつは今日のうちに行っといた方がいいかもな」
そんな言葉を残して鬼木先生は教室を出た。
やっぱり鬼木先生はいい先生だなぁ。
鬼木先生が去ってどこか緊張がほぐれたことと、今からは昼休みの時間になったので、クラス中がざわざわし始めた。
「ねえ、今日のお昼どうするっ」
「私、食堂に行ってみたい〜」
「売店も色々売っているらしいよっ」
「先輩たちも今ないだろうし、あっちで決めようよ〜」
お昼はどう過ごすかという賑やかな声が飛び交う中……僕はというと、今日のお昼の予定は決まっている。
「玲人さん。本当に食堂に行くんですね?」
隣から小さな声で、菜子ちゃんが真剣な表情で聞いてきた。
「ああ、昨日も伝えていた通りだ。それと、一緒に食べる相手もいる」
僕がそう答えると、菜子ちゃんの眉がピクリと動いた。
「確か……1年A組の天笠湊さんって男子ですよね?」
「そうだ」
2限目の後……菜子ちゃんには湊くんと食堂に行く約束をしたことを早めに伝えていた。
菜子ちゃんは僕のサポート役だし、ある程度は情報を共有した方がいいと思ったからね。
その時の菜子ちゃんの反応はというと……。
『男性同士でもう仲良く……玲人さんはすごいですねっ。で、でも男性2人で食堂なんて……」
菜子ちゃんは褒めたと思えば、何やら真剣な顔でぶつぶつ呟いていたのだった。
「じゃあ菜子。食堂が混み合う前に僕は行ってくる」
そう言って、僕は席を立った時。
「わ、私もいきますっ」
菜子ちゃんが慌てて声を上げて、同じく席を立った。
「え? 無理しなくていいぞ?」
菜子ちゃんは僕のサポート役とはいえ……僕が動くたびに動かないといけない的なルールはないはず。
それに、菜子ちゃんだって嫌いな男とずっと一緒というのも息苦しいだろう。
昼休みぐらいは自由にゆっくりとした時間を過ごしたいよね。
「(学園では)男が少ないとはいえ、僕は平気だ。菜子は自由な時間を過ごしてほしい」
僕がそう言うも……菜子ちゃんは首を横に振った。
「私のことを気遣ってくれてありがとうございます、玲人さん。で、でも……(この世界で)男性が少ないからこそのサポート役です。私も同行します。それに私は無理なんかしていません。このサポート役の話を受けたのだって……」
「サポート役の話を受けたのだって?」
何か他に理由でもあるのだろうか?
菜子ちゃんの言葉の続きを待っている僕だっだが……ふと、クラス中から視線が集中していることに気づく。
「ねえねえ! 羽澄くんは今日、食堂行くんだってっ」
「いいこと聞いちゃったっ」
「じゃあ食堂で決まりじゃんっ」
「アタシ、今日はお弁当だけどデザート頼めば食堂使っても問題ないよねっ」
「男子と同じ空間で食事できるチャンス……!」
「ん、私がメインディッシュ」
クラスの女子たちがこちらをチラチラと見ながら何やら話をしている。
もしかして、僕と菜子ちゃんの会話……注目されている?
「れ、玲人様すいません……私の声が大きかったから……」
菜子ちゃんが小声でそう言った。
菜子ちゃんが「わ、私もいきますっ」って言った時から注目されていたのかな。
「いや、大丈夫だ。菜子は何も悪くないから気にするな」
「玲人様……」
僕も小声でそう返した後……こほんっと咳をして仕切り直す。
「まあ、菜子が無理していないのならいい。一緒に食堂に行こう」
「は、はいっ」
そうして僕と菜子ちゃんは教室を出る。
四方八方から突き刺さる視線の中で、これ以上、話し合いをする気にはなれなかった。
それに、昨日のうちに僕が食堂に行くことを聞いて、菜子ちゃんも今日はお弁当を持ってきていないのだろう。
なら、今日のところは一緒の方がいいか。
湊くんとの待ち合わせは、食堂前にしている。
そこに行けば、すでに湊くんが待っていて……。
「あっ、玲人君っ!」
僕と目が合うなり、パァァと満面の笑みを浮かべて手を振ってくれる湊くん。
僕もクールな表情を浮かべて、小さく手を振り返す。
なんだかなぁ……。クラスの女の子たちと目が合った時、何故か逸らされたりすることも多いから、湊くんがこうして嬉しそうにしているところを見ると、心に沁みるものがあるよね。
主人公だよね?
今のところ、癒し枠だよ。
ヒロイン人気投票とかあったら1位になっちゃうタイプだよ。
しかし……湊くん以外の男子と仲良くなるのは難しいと思った。
何故なら、体育館にいる時。僕と湊くんが話している中……他の男子は喋ろうとも動こうともずにいた。
孤立を望んでいるようにも見えた。
まあ、他の男子に関しては後回しにしてもいいかもね。
「やっぱり玲人君もサポート役の女の子と一緒なんだね!」
湊くんが僕の隣にいる菜子ちゃんを見る。
「ああ。彼女も一緒でもいいか?」
「もちろんだよっ」
湊くんは明るい笑みを浮かべて、大きく頷いた。
湊くんはほんと、いい子だぁ〜。
と、僕の隣にいた菜子ちゃんが一歩前にでた。
「は、初めてまして。わ、私は、羽澄玲人さんのサポート役をしています。二条菜子と言います……っ」
「こちらこそ、初めてましてっ。ボクは天笠湊って言います……! 玲人君とは今日話した関係だけどよろしくお願いします!」
2人はどこか緊張したような表情で自己紹介をする。
というか、湊くんの自己紹介……わざわざ僕との関係を入れているの可愛いな。
「じゃあ僕も自己紹介しようかな。湊の――隣にいる《《彼女》》に」
そう、湊くんの隣にも女の子がいるのだ。
ならばその子は当然、湊くんのサポート役となってくる。
僕は、彼女を見つめる。
よく手入れされた腰までかかるさらりとした栗色の髪に、透き通るような白い肌。
人形のように整った顔、優しそうなタレ目……飛ばして、下には黒ストッキングを履いる。
可憐さと清楚さを兼ね備えた文句なしの美少女である。
そして、例の生徒会長の妹であり……メインヒロインの1人である可能性が高い。
メインヒロインならば、僕の破滅フラグにも関わってくるわけで……。
そう思うと緊張してくるが第一印象が大切なので、キリッとした顔を崩すわけにはいかない。
「僕は1年E組の羽澄玲人だ。よろしくな」
僕の自己紹介を受けて、今まで湊くんの隣で静かに佇んでいた女の子が……口を開いた。
「わたしは天笠様のサポート役をしております。兎乃静音と申します。よろしくお願いしますね、羽澄様」
静音ちゃんって言うんだね。
静音ちゃんは最後にはふわりと笑い……ぶるりと揺れた。
どこが揺れたって?
おっぱいだよ。
微笑んだだけでおっぱいが揺れたよ。
気になりすぎて逆に気にしないようにしていたけど、この子……おっぱいが凄く大きいよ!!
「羽澄様? どうかされました?」
「玲人さん?」
静音ちゃんと何故か、菜子ちゃんからも視線を受ける。
「……なんでもない。立ち話もほどほどに食堂へ行こう」
「そうだねっ、玲人君っ」
湊くんが話に乗ってくれたことで、なんとか誤魔化せただろう。
それにしても、悪役と主人公とヒロイン2人……初手から中々の構図だよね。
でも、食堂でご飯を食べるだけだし……何もないよね?




