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第22話 悪役なんだけど、何故か相性抜群(◎)

「……」 

 

 目の前に立つ金髪男子は、口を少し開けて、目を丸くしたまま動かない。


 ……あ、あれ? もしかして人違い? 

 主人公じゃない?


 てか、そもそも……。


『君だよね。会いたかったよ』


 ふと、自分が言った言葉を思い返す。

 と、同時に……血の気が引く感覚。


 あ……これやらかしたパターンじゃない?

 

 初対面なのに掛けた言葉が「会いたかった」とか……めっちゃ怖いこと言ってるじゃん!

 

 完全にヤバい奴だよ!

 下手したらストーカー紛いだよ!!

 

 で、でも僕だって言い分はある!

 この世界のことが分からないことだらけの中……主人公っぽい確かな情報を得たならそりゃ、居ても立っても居られないっていうか……会いたくなるじゃん!


 今更慌ててももう、取り消すことはできない。


 それでも、なんとか取り繕おうと……。


「いきなり話しかけてすまない。つい……な?」


 若干引きつった顔で、僕は恐る恐る声を掛けてみる。

 

「ボクも……」

「ん?」


 おっと、何かを話すみたいだ。


「ボクも……君と話したかったよ! 羽澄玲人君っ!」


 瞬間、彼の顔はパァァァと明るくなってパッと両手を差し出してきた。

 僕は反射的にその手を握り返す。


 僕たちは、固い握手を交わすのだった。

 

 ……おお? これは合っているってことでいいの?


 彼こそが、この世界の主人公ってことでいいの?


「えへへっ。握手してくれてありがとうね!」


 いい笑顔も返してくれた。

 

 よし、じゃあ君が主人公だ!!


「というか、僕の名前を知っているんだな」

「そりゃそうだよっ!  なんたって、羽澄君はボクが1番話したかった相手だもんっ!」


 にぱーっと眩しい笑みを浮かべながら語る主人公くん。


 あら、狙われていたのは僕の方だったと?

 

「初めて見た時から気になっていたし、それにボクと同じでクラスに1人だけの男子だし! あと――」

「ちょっとストップ!」

「ふぇ?」


 このままでは主人公くんの勢いに流されそうなので、ここは1回仕切り直すことにする。

 

「改めて、自己紹介をさせてくれ。僕は1年E組の羽澄玲人だ。よろしく」

「ボクは、1年A組の天笠湊だよっ! よろしくねっ」


 天笠湊(あまがさみなと)


『その男子生徒の名前は―― 天笠湊だ』


 鬼木先生から聞いた名前と同じである。

 

 湊くんかぁ……うん、実に主人公っぽい名前だ。


 どっちかっていうと、女装して女子校に潜入する系のエロゲの主人公の名前っぽいよね。

 

 いずれにしろ、主人公だ。

 

 悪役としては良好な関係を築いていきたい。


 女の子に優しく振る舞うと決めたように……主人公に対しても自分から色々と動いていかないとね。


「湊って呼んでもいいか? 僕のことも好きに呼んでほしい」

「!! ボクは……玲人君でいい?」

「いいよ」

「じゃ、じゃあ……玲人君っ」

「ああ、湊。よろしくな」


 立ち話もほどほどに、僕と湊くんは体育館の壁際に移動して座り込む。


「ねえねえ、玲人君」

「どうした、湊?」

 

 早速、会話の主導権を握られる。

 

 恐るべき主人公力。

 いや、主人公ってこんなに積極的だっけ?

 

 ファンタジー世界ならともかく、現代を舞台にラブコメの主人公って、思い返せば……陰キャでぼっち属性が多い気もするけど。

 

 まあ、この世界の主人公は陽キャ体質なのかもしれない。


「思った通り、荘帝学園には男子が少ないよね」

「まあ、そうだな」


 元は女子校だったわけだしね。


「男子は8人しかいないのに、今日は3人減って5人になっているし……。やっぱり男子はみんな……女の子のことが怖いのかなぁ……。玲人君は女の子のことは怖い?」

「ん? 怖い?」


 湊くんの質問に僕は大きく首を傾げた。


 女の子が怖いとは……どういう質問なのだろうか?


 少なくとも、荘帝学園の新入生……女の子たちはみんな可愛いと思う。

 

 もしかして、たくさんの女の子に囲まれることや視線を集められると怖いってことかな?


「そうだなぁ。僕は女の子に恐怖心とかはないけど、注目されすぎるのはどうかと思うな。そういう湊はどうなんだ?」


『もう1人の男は逆に、性格も穏やかで女子に対しても温厚に接してくれると見越して、1人でも大丈夫と判断した』


 鬼木先生からはそう評価され、担任の先生も同じだろう。


 だからこそ、湊くんはいい意味でクラスでは男子1人にされているけど……本人はどう思っているのかな?


「ボクも女の子たちと接するだけなら平気だけど……玲人君と同じで注目されたり、露骨にジロジロと見られるのは嫌かなぁ……。ほら、女の子って顔や身体……下半身とか特に見てくるからさぁ……」


 湊くんは身体をきゅっと縮こませた。


 僕たち男でいうところの、おっぱいやお尻についつい目がいってしまう感じかな。

 

 そう言われると……ジロジロ見てしまうというもので。


 改めて、湊くんの容姿を見る。


 サラサラの金髪で刈り上げマッシュカットに、柔らかな水色の瞳。

 華奢な体つきで、全体を見るに美少年って感じの容姿である。

 

 表情もコロコロ変わり、声色も雰囲気も明るい。

 いきなり声を掛けた僕に対して、こうして優しく接してくれるし……。


 あれ? 主人公っていうよりなんだがヒロインみたいだな?


「って、玲人君? ボクのこと、ジロジロ見てるの?」

「ああ、すまない。湊は可愛い見た目をしているなって思ってな」

「そ、そうかなっ」


 可愛いと言って照れる湊くん。

 

 主人公ってことは、君は下半身に付いている男の子のはずだよね?

 普通なら「もう、僕は男だよ! かっこいいがいいよ!」って、反論してくるものじゃないの?

 

 それとも、この世界に男の娘ルートってあるんですか?


「クラスでも男子1人だから注目を集めているけど……でも、サポート役っていう、あらかじめ頼れる人が分かっているのは安心だよねっ」

「そうだな」


 それについては、僕も同感である。

 

 だけど、そのサポート役の子が僕の屋敷で専属メイドとして働いているという状況……。

 

 しかも、メインヒロインである。


 うん、絶対主人公こと、湊くんにもバレてはいけないね。

 バレたらなんだが面倒なことになりそうな予感がする。


「玲人君はサポート役の女の子とはもう話した?」

「ああ、挨拶程度の会話はしたな」


 本当は、学園入学前からがっつり関わっているけど……無難にそう答えておく。


「ボクも挨拶はしたよ。これからよろしくね〜って。相手の女の子は少し驚いた様子だったけど……いい子そうだったよ。それに、その子のお姉さんは生徒会長なんだってっ」

「そうなのか」


 つまり、生徒会長の妹ということだ。

 これまた、ヒロインっぽいなぁー。


「玲人君はサポート役の女の子はどんな感じなの?」

「僕のサポート役もいい子そうだな」


 今は湊くんの前だからそう言うけど、菜子ちゃんはお姉さん想いで頑張り屋で優しくていい子だよね。


「昨日の入学式で新入生挨拶していた女の子のことは覚えているか?」

「ああ、うん。覚えているよ! すごく可愛い人だったよねー」

「その子が僕のサポート役だ」


 そして屋敷では、専属メイドである。


「そっかぁ〜。玲人君のサポート役が優しそうな子で良かったよ」


 そう言って、フワリと微笑む湊くん。

 

 いい子! この子、絶対主人公だよ!!

 

 それからも話は続き……。


「玲人君は今日のお昼はどうするの?」


 今はまだ2限目というのにお昼の話を持ち出した湊くん。

 

 お腹が空いているのかな?

 でも、質問されたから答えないとね。


「僕は昼は……《《食堂》》に行こうと思っている」


 荘帝学園には、食堂があると事前に恭子さんに聞いていた。

 

 僕は、元の世界では男子校出身であり、そこでは小さな売店しかなかった。

 

 しかも、ガタイのいい運動部が買い占めてしまうから、飲み物しか買うことができなかった。


 だからこそ、食堂にはちょっとした憧れがあった。


 昨夜のうちに、恭子さんには食堂に行くことを伝えていた。


 そして今日の朝。

 お弁当はなかったわけだけど……。


『……菜子。食堂ではくれぐれも坊ちゃまから目を離さないようにするのよ』

『わ、分かっているよ。お姉ちゃんっ』


 二条姉妹が何やら、真剣な表情で話し合いをしていたのは気になったけど……。

 まあ、大丈夫だろう。


「玲人君凄いね。いきなり食堂に行くだなんて……。玲人君が行くなら……ボクも食堂に挑戦しようかなっ」


 挑戦って……湊くんは言動がいちいち可愛いな。

 

 ……あれ? 僕は主人公と話しているんだよね?


「じゃあ一緒に行くか、湊」

「うんっ、玲人君っ」


 こうして僕は、主人公と食堂でのランチを約束をしたのだった。


 なんだが……主人公の好感度上げは上手くいっているのかな?



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― 新着の感想 ―
 主人公枠と言うよりは、まるでヒロイン枠。但し男の娘……
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