第20話 悪役転生なので、無難にいこう(違う)
僕が教室に入ると……クラスにいた女子たちの視線が一斉に集まり、静かになった。
おお……これは気まずいし、肩身が狭い。
だが、萎縮している場合じゃない。
僕には悪役故の破滅フラグがある。
学園こそが物語の定番の舞台であり、無数の破滅フラグが待ち受ける場所。
そして、破滅フラグをへし折るためには、じっとしているわけにはいかず……自ら何かしら行動を起こさないといけないのだから。
「羽澄君……今日も学園に来てくれたっ!」
「昨日、話しかけなくて正解だったねぇ〜」
「ねー。隣のクラスには早速、生徒指導喰らった子がいるみたいだし……」
「ん、今日は8時40分から15時25分までのコース。放課後+αの可能性もある。これはもう同棲生活と言ってもいい」
思考を戻せば、今度は教室内がざわざわとし出した。
話している内容は分からないけど……僕の方をチラチラ見ていることから、僕に関してのことをなのだろう。
まあ、この学園で数少ない男子だからそうなっているんだよね。
だけど、これがずっと続くとなると……さすがの僕も居心地がよろしくない。
『母さん。僕は相手に優しくしてほしいなら、まずは自分から優しく接するべきだと思う』
母さんにもそう言ったことだし、居心地が良くなるように、ここは自分から動かなければね。
かと言って、飛ばし過ぎは注意。
となれば……無難にいこう。
「おはよう、みんな」
僕は無難に挨拶をする。
うん、これなら問題ないよね!
「えっ、羽澄君……私に挨拶してくれた?」
「ば、バカじゃないのっ。アタシに決まってるでしょ!」
「ん、私。目が合った。子宮が疼いた。私が運命の相手」
女子たちには変わらず、チラチラと見られているものの……見ているだけで挨拶は返ってこないし、声も掛けられない。
中には、僕が挨拶をするのがそんなに意外なのか、口をぽかんと開けた人までいる。
そういえば、昨日の佐藤先生も同じような反応していたような?
「あの、玲人さん……」
菜子ちゃんがどこか心配したような小声を掛けてきた。
きっと、僕が挨拶をしたのに周りから言葉が返ってこなかったことに対して、励まそうとしているのだろう。
菜子ちゃんって優しいよね!
「菜子、心配するな。僕は大丈夫だ」
「そ、そうですか? 玲人さんがそう言うなら……」
菜子ちゃんは何か言いたそうに口をもごもごさせていたが……口を閉じたのだった。
菜子ちゃんが頑張りすぎないように、僕も変に心配されないような言動をしないとね。
1番後ろの自席に座り、教室を見回す。
改めて……女子しかいない。
可愛い女の子たちが目一杯に広がる。
透明人間になって女子高に侵入している的な感覚が味わえる。
こうして眺めている分には眼福なんだけどねー。
E組のクラス人数は、30人と鬼木先生が言っていた。
何もおかしくはない。
でも、昨日の自己紹介の時に僕は気になることができたのだった。
てか、クラスを見回しても……《《おかしいこと》》なのだ。
「お前ら、席につけー……って、もうついているか。んじゃ、視線はアタシに向けろ」
そんなことを考えている間に、赤ジャージを着た鬼木先生が教室に入ってきた。
鬼木先生のその声で、ざわついていた空間がスッと静まり……みんな正面を向く。
そのまま朝のホームルームが始まったのだった。
「さて、お前ら。今日は学園2日目だ。このクラスは遅刻もなく、全員が出席している。そのことは褒めてやろう」
鬼木先生がそう言って、フッと笑う。
鬼木先生ってただ怖い先生ではなく、小さなことでも褒めてくれるタイプの先生なんだね。いいね!
「午前は身体測定とオリエンテーション。午後からは通常授業が始まる。浮かれた気分はもう無くせよ?」
ふむふむ。その流れは前世と変わらないな。
それに昨日、恭子さんにも聞いてみたけど、荘帝学園の行事は前世の高校と同じよな感じだった。
じゃあ、行事やイベントは特に警戒しなくていいかなっ。
「んじゃ、1限目は身体測定だ。各自、教室で速やかに体操服に着替えろよー。ああ、それと……《《羽澄だけは男》》だから、他のクラスの男子と合流してもらう。案内してやるから、体操服を持ってアタシについてこいよ」
僕の名前が呼ばれ、そう告げられた。
この学園では男の数が少ないから、合流するのは分かるんだけど……。
もっと重要なことがあるよね。
「アタシからの以上だ。他に何か質問があるか?」
鬼木先生はそう言って、クラスを見回す。
こういう時って、質問しないことが多いけど……僕はどうしても気になることがあったので、ゆっくりと手を挙げた。
「お? なんだ、羽澄? 何か不安なことでもあるのか?」
「不安というか、質問ですね」
「そうか。なんだ?」
鬼木先生だけでなく、クラスの女子全員が僕の次の言葉に注目している。
てか、僕が質問することはクラス全員が気になっていることだと思う。
だからこそ、男の僕が……代表して聞くのだ。
「このE組の男子って……《《僕1人》》なんですか?」
「……」
「鬼木先生?」
「……。ああ、そうだな」
ん? 今、妙に考えるような間があったよね?
でも、E組の男子が僕1人だけというのは事実のようだ。
って……ええっ!? 男子は僕1人なの!?
昨日の自己紹介で「あれ? 男子っぽい子がいないなー?」とは思っていたけど……えっ、本当にクラスに僕しか男子がいないの!?
いや、他のクラスも同じような状況になっている男もいるんじゃ……。
頭の中では混乱状態が続くが……それを表で出すわけにもいかず。
僕はひと息吐いてから……冷静な様子で聞く。
「なんで男子は僕1人なんですか?」
「まあ、それは……」
「それは?」
「ま、まあ……厳正なる話し合いがあってだなぁ」
「厳正なる話し合い……」
「そ、そうだ」
「……」
いや、尚更、僕1人なのか気になるんだけど!?
だって、先生たちの話し合いの結果がE組は男子1人。
それも、羽澄玲人だけにしようってなるのおかしくない!?
「と、とにかくだ! 1限目があるから朝のホームルームはここまでだ! 女子はこの教室で着替えろ。羽澄はアタシとこいっ」
鬼木先生は早口で話を切り上げて、教室を出た。
いや、逃げたと言ってもいい……。
絶対おかしいよね!
クラスには男子1人とか……悪役転生特有のやつなの!?




