第14話 悪役にサポート役もいるなんて親切!(違う)
菜子ちゃんのことは――うん。一旦、置いておこう!
それに明日からは、恭子さんに代わって、菜子ちゃんが僕の専属メイドになるのだ。
いくらでも話す機会はあるはず。
今はこの入学式初日を純粋に楽しむことにしよう!
入学式が終わって、次は自分のクラスに移動……と思っていたのだけど。
「女子生徒と保護者の方々は速やかに退出をお願いいたします。退出が完了次第、男子生徒の皆さんは別の場所に移動していただきます。私、佐藤の後をついてくるように」
進行を務めていた女性……佐藤先生のアナウンスが体育館に響いた。
あれ? 女子と男子を分けて移動するんだ。
男子が少ないから配慮してくれてるのかな?
思えば、座っているところも……僕たち男子は、職員側の端の方に纏められていた。
さすがに男子8人だと先生たちも心細いと思ってくれて纏めてくれたのかな?
1人ずつ散らばって大勢の女子に囲まれるのもなんだか気まずいしね。
「今年は8人も男子がいるなんてラッキー♪」
「私、男子と一緒に過ごすの初めてぇ〜」
「いっぱい話したいっ」
「あわよくば、友達に……」
「お母さん、来年はここの職員採用試験受けようかしら〜」
「私はワンチャンに賭けて、食堂のパートを狙うわ」
女子新入生や保護者たちは賑やかに話しつつも、スムーズに退場していった。
「では、男子生徒の皆さんは私についてきてくださいね」
僕たち男子は自然と1列になって佐藤先生の後をついていく。
それにしても……男子が8人かぁ。
元の世界だったら、滅多にない状況だよね。
昨年度から共学化されたばかりって言っていたし……なら、2、3年生には男子がいないってことだ。
つまり、壮帝学園にいる男子は――僕含めて8人だけってことになる。
おお……なんだが男が希少種みたい。
男女比に換算したら、どのくらいになるんだろうねー。
学園では、悪役としてどう振る舞うかみたいなことを考えていたけど……実際、これだけ男子が少ないなら、ヒロインや主人公云々より、とにかく同じ男子と仲良くなりたいな。
なんというか、仲間を作りたいよね。
よし、早めに仲良くなるためにも僕から話しかけてみようかなっ。
僕は1番後ろを歩いているので、まずは前にいるおかっぱ頭の男子に――
……と思ったけど。
「「「「「「「……」」」」」」」
おかっぱくんだけではなく……男子全員、無言である。
賑やかに話していいような雰囲気ではなかった。
そりゃそっか。入学式の時って、大体こうなりがちだよね。
僕も、まだ緊張気味だし。
じゃあ、同じクラスになった男子に話しかけてみようかな!
そんなことを考えているうちに、佐藤先生が立ち止まった。
場所に着いたみたいだ。
プレートには『来賓室』と書かれている。
入り口近くには、8つの椅子が用意されていて、座るように佐藤先生から指示を受ける。
全員が座り終えると……佐藤先生が口を開いた。
「今から皆さんには、自分のクラスが書いてある紙を配布します。名前を呼ばれたら、1人ずつ来賓室に入って受け取ってください」
へぇ、クラス分けの紙を配布してくれるんだ。
数少ない男子に対しての配慮なのかな?
クラス分けの発表って、教室の前や外の掲示板に貼られている大きな紙をみんなで一斉に見るものだもんね。
女子が多いこの学園だと、数が少ない男子は、女子が見終わるのを待つ羽目になるだろうし……こうして個別でもらえるのはありがたいな。
でも……どうして1人ずつ。それも、わざわざ取りに行くんだろう?
クラス分けの紙を渡すだけなら、今ここで渡せばいいのに。
そもそも、クラスだけなら口頭で伝えれば良くない?
まあ、僕が今そう疑問に思ったところで、何も変わらないだろう。
「では、清水君からね」
「っ、は、はい……」
呼ばれた清水君がか細い声を上げる。
緊張した様子で立ち上がり、来賓室に入っていった。
他の男子も同じく、緊張した面持ちでどこか不安そうだった。
さっき話しかけなくて正解だったね。
僕は入り口から1番遠くに座ってるので呼ばれるのは最後だ。
と……僕の順番が回ってくるのは早かった。
「羽澄玲人君。この度は、入学おめでとうございます。こちらが羽澄君が1年間過ごすクラスになります」
中に入ると、校長先生が紙を手渡してくれた。
校長先生直々に対応してくれるなんて、ちょっと緊張する……。
一礼して、1枚の紙を受け取り……内容を確認する。
『1年E組』と書かれていた。
E組ねぇ……。
悪役転生モノだと、A組が優秀でE組辺りになると、落ちこぼれや問題児ってパターンが多いけど……それは、ファンタジー物の悪役転生の場合。
主人公の能力覚醒とか、成り上がりとかだったら、そういう設定が多いよね。
でも僕は別にチート能力は持っていないし、この世界は現代ラブコメを舞台としているはず。
なら、E組っていうのはあまり悪い意味ではないかな? 関係ない?
「羽澄君。どうか……我が校の女子生徒達と良好な関係を築いてくださいね」
「はい」
校長先生にやけに真剣な面持ちでそんな言葉を掛けられ、僕も真剣な表情で返事をする。
「私からは以上です。では次に羽澄君は、そちらの紙に書いてある場所へ向かってください」
ん? 場所?
校長先生の言葉に僕は紙に目を通す。
クラスばかりに気を取られていたけど……よく見れば下の方に『校舎1階。職員室横休憩室』と書かれていた。
来賓室を出ると、佐藤先生が僕のことを待っていた様子で……。
「無事に終わりましたか。では場所を案内しますね、羽澄君」
また佐藤先生の後をついていく。
それにしても、男子は色々な場所に移動するなぁ。
入学式後って、普通は自分のクラスに直行だよね。
でも、今行ったところで大勢の女子に囲まれた状態になるのは想像がつく。
こうして移動していた方が、教室で肩身の狭い思いをするよりはまだ気は楽かも?
「羽澄君には今からとある女子生徒と会ってもらいます」
「女子生徒?」
佐藤先生の言葉に、僕は少し首を傾げる。
生徒ってことは……先生や大人、ましてや母さんとかではなく、同年代ってことだよね。
「は、はい。女子生徒です。しかし、そう警戒しなくても大丈夫ですよ。彼女には、羽澄君が学園で過ごす上でのいわば、サポート役をしてもらうことになっていますから」
「サポート……」
「はい。羽澄君のような男性は、数が少ない故に、これからは色々と大変になると思います。ですから、学園側が厳選なる審査をしたサポート役の生徒を用意してあります」
えっ、この学園は数少ない男子に配慮してサポート役までいるの!?
つまり、事前に頼れる人を紹介してくれるってことだよね!
めっちゃ助かるんだけど!!
休憩室に着き、佐藤先生が僕の顔を見つめる。
「心の準備はいいですか、羽澄君?」
「はい」
僕がそう言って、頷いたのを確認した佐藤先生が、まずはドアをノックをしようとした時だった。
突然、スマホの着信音が鳴り響いた。
僕ではないから……。
「っ! す、すみません。ちょっと急ぎの電話ですね。羽澄君、1人で中に入れますか?」
「まあ……はい」
「では、すぐに中に入ってくださいね」
佐藤先生はそう言い残すと、スマホを耳に当てて僕から離れていった。
「さてと……。中に入りますかね」
僕はひと息吐いてから……ドアを数回ノックをする。
すると、中からは「ど、どうぞ」という女の子の声が返ってきた。
ふむ、女の子……それも、学園生活において僕のサポート役をしてくれる。
是非とも、仲良くなりたいよね!
あわよくば、悪役の僕の味方になってくれるかもしれない。
そんなことを考えてから、中に入れば……。
「!」
座って待っていた、亜麻色の髪の見覚えのある女の子と目が合った。
「れ、玲人様。その……お久しぶりです」
そして、聞き覚えのある声。
そう、この子は……菜子ちゃんである。
新入生挨拶といいサポート役といい……その正体は全部菜子ちゃん。
この世界のシナリオやヒロインのことを把握できていない僕でも察するよ。
これは逃げるなってことかな?
後回しにしちゃいけないというやつかな?
破滅フラグに関わっているのかな?
じゃあ……ちゃんと向き合いますよ。
――メインヒロインの1人とね。




