第12話 悪役じゃないとしても、ごく普通の学園生活は送れなそう?(◎)
翌日の朝。
目覚まし時計の音を待たずにシャキッと起きた僕。
軽く柔軟体操をして、しっかり目を覚まし、気分も体も万全だ。
何故、こんなに気合が入っているかって?
答えは簡単、今日は僕が通う荘帝学園の入学式なのだ。
いよいよ始まる、悪役転生した僕の学園生活。
ここは現代ラブコメを舞台とした世界っぽいので、授業も学園イベント的なものも、前世とは仕組みはさほど変わらないだろう。
変わらないものがあるとちょっと安心するよねー。
制服に着替えて、大きな姿見の前で髪型も整える。
今日はちょっとワックスも付けてみる。
ポジションは悪役だが、外見だけでも『爽やか系男子』っぽくして、少しでも印象を良くしたい。
「髪型もよし! これで準備は万端だ。あとは……母さんを待つだけだね。恭子さんも今頃は、菜子ちゃんのことを見ているのかなぁー」
そう、いつもお世話をしてくれた恭子さんは、今日の午前中は休暇を取っていて僕の傍にはいない。
というか、そうするべきだと僕から恭子さんに事前に言ったのだ。
確か、その時の会話は……。
『入学式の日までが恭子が僕の専属メイドであるが……僕のお世話などしなくていい。その日は迷わず、菜子の……妹のところ行け。今まで妹のために頑張ってきたのだろう? なら、入学式ほどその目で確かめないといけないものはない』
『……坊ちゃま、いいのですか?』
『当たり前だ。それに、家族を優先するのもまた君の大事な仕事の1つだ」
そんな感じで、押し切ったのだ。
恭子さんは仕事熱心で、聞けば玲人のお母さんから直々にメイド長を任されたとのこと。
だから責任感がより強いのだろう。
嫌いな僕のことをメイドを辞めることなく、今も仕えているのだから。
でもそれは逆に……仕事以外のことは遠慮がちになるということ。
ましてや、家族との時間は取れていないだろう。
その一因は、元の玲人が周りに散々迷惑を掛けて、それによって恭子さんが動かざるをえない状況になっていたからかも。
だからこそ、僕からの言葉で。少し無理やりにでも、菜子ちゃんのことを最優先してもらうよう、背中を押す必要があった。
入学式ほど優先しないといけないものはないよね!
恭子さんの不在の場合、本来なら代わりのメイドさんが僕のお世話をしたり、送迎などをするのだが……。
何度も言うが、今日は入学式だ。
普段は仕事で多忙な玲人の母親も、今日ばかりは駆けつけてくれるのだ。
というか……。
『れーくん! まま、入学式は絶対行くからっ。たとえ、お店の経営が危うくなっても、取引先に契約打ち切られても、経済止めてでもいくから!』
って、昨日電話越しの時に言っていた。
いやいや、全部ダメでしょ!
まあ、それほど息子のことを大切にしているってことだな。
「僕もこれからは少しずつでも親孝行してあげないとね」
元の玲人はお母さんに冷たく当たっていたみたいだし。
だって、「お母さん」って呼んだだけで号泣していたんだぞ?
ほんと、実の母親相手にどんな酷い態度を取っていたのやら……。
感動して泣く分にはいいと思うけどさ。
今日は入学式だけど、母さん……また号泣するのかな?
いや、僕の制服姿を見た時点で泣く可能性もある。
ハンカチは予備で2枚ぐらい持っていくか。
「入学式の前に、母さんとの時間だな。僕の方もちゃんと親子で会話をしないとね」
……なぁんて、数時間前の僕は穏やかな気持ちになっていましたよ。
「ねえ母さん? ちょっと聞きたいんだけど……これはどういうこと?」
荘帝学園の広大な敷地を歩いていた僕は……立ち止まって、母さんに尋ねた。
いや、尋ねざるを得なかった。
だって……だって……。
恭子さんや菜子ちゃん以外の屋敷のメイドさんたち十数人が揃い、僕と母さんの後ろをついてきていた。
それだけではなく……。
「通路に危険物なし」
「こちらも周りと生徒たちに問題はないし」
先頭には、ピシッとしたスーツとサングラスというボディーガード的な高身長の女性2人がいて、何やら周囲を警戒していた。
僕は周りから完全に浮いていたのだった。
いや、目立ちまくっていると言った方が分かりやすいか。
「今日7回目のお母さん呼びされちゃった。きゃっ!」
「いやいや、これから何度だって言うから毎回喜ばないで? あとメモ帳にも何か書かないで? 僕の話をまず頭に入れて?」
「それってプロポーズ?」
「違うから。お願いだから僕の話を聞いて、母さん?」
あれ? 玲人の母親ってこんな感じだったっけ?
ああっ、僕も話が逸れ始めたよ。
「なんで僕の周りにこんな人がいるの? メイドさんも全員連れてくることある? 前にいるボディーガード的な人たちはいつ雇ったの? 入学式って僕と母さんの2人で行くものじゃないの?」
思わず、質問攻めになってしまう。
「れーくんがたくさんの女性に囲まれて落ち着かない気持ちも分かるけど、今日はれーくんの入学式という一生に一度の大事な日でしょう? なら、ちゃんとサポートしなくちゃ〜」
母さんは、さも当然のようにニコニコ笑いながらそう言うけど……どう考えてもサポートの域を超えている。
これ、パレードとか大名行列の領域だよ!?
思えば、玲人のお母さんと初めて会った時から、過保護気味な雰囲気は感じてはいた。
そもそも、悪役の母親が普通ではないか。
「今年の荘帝学園には、男子生徒がいるって本当だったんだ!」
「男子では珍しく身なりが整っていてカッコいい〜」
「あらあら〜。いい男がいるじゃない〜」
「今から弟を増やすのも……アリよねぇ……」
「私は孫までいけるわ……」
同じ新入生たちや保護者たちの視線が痛いどころじゃない。
みんなが僕を指差して、ヒソヒソ話を始めているのが分かる。
ここまで視線が多いと、もはや、何を言っているのか想像したくないレベル。
とりあえず……悪口じゃなければいいな!
「母さん……集合場所の体育館に着くまでこのままなの?」
「当たり前じゃない〜」
当たり前って……なんだっけ?
「僕、普通に入学式に参加したいんだけど……」
「ダメよっ! れーくんはカッコいいから護衛なしじゃ狙われちゃうでしょ?」
いや、狙われるって何?
そんなに僕を嫌いな人が多いの?
でもここで……1つ、確定したことはある。
それは今日からの僕の学園生活だ。
平穏に、静かに、目立たず……ましてや、ごく普通の学園生活が送れないのは間違いない気がする。
入学会場である体育館に近づくにつれ、周りの新入生らしき子たちが増えてきた。
当然というか、視線もすごい。
僕の顔を見ているっていうより、頭の先からつま先まで……一通り見られている気がする。
こんなに見られることになるとは……少なくとも、デブルートにならずに良かった。
とまあ、見られているんだし、たまにはこっちも見てみようか。
「あっ、こっちみた!」
「ばかね。私のことを見たのよ」
右を見ても女子。
「今絶対私のこと見た! これって運命ってやつだよね!」
「ん、私の王子様だ」
左を見ても女子。
前も後ろも……女子生徒ばかり。
んーー? なんか……女子率異様に高くない?




