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第9話 悪役転生したけど、どういうこと⁉︎(違う)

 緩やかな坂を上がり切り、少し進んだところで、車が速度を落として道端に停まった。


 と……運転席にいる恭子さんがこちらを振り返る。


「――着きました。ここが坊ちゃまが通われる荘帝(そうてい)学園でございます」

「ん、ありがとう恭子。ここが僕の通う学園かぁ」


 僕は車の窓越しにじっくりと外の景色を眺める。


 広大な敷地ながらも手入れが行き届いており、中央に堂々とそびえ立つのは綺麗な校舎。

  

 うん、ここアレだよ。

 絶対、生徒数が多そう。

 

 あとは、お嬢様やお坊ちゃんとか選ばれた人間って感じの人が通いそうだ。

 『荘帝学園』って名前もやけに格式高そうだし。


 それぐらい大規模で品のある学園である。

  

 まあ、これは僕のただの想定だ。

 荘帝(そうてい)学園だけに?

 

 なーんて、馬鹿なこと言っていないで……もっとちゃんと学園を見たいな。


「恭子。学園の周りだけでも歩きたい。いいか?」

「……かしこまりました」


 恭子さんが一瞬、驚いたように目を丸くしたが……すぐに表情を整えて、いつもの落ち着いた調子で答えた。


 近くのパーキングエリアに車を停めて、僕と恭子さんは学園の周りを歩く。


「ここまで付き合ってもらって悪いな、恭子。ありがとう」

「いえ……」

「それにしても、恭子はここら辺の道には詳しいんだな。よく来るのか?」

「……ええ、まあ。それに……」


 一瞬の間を置いてから、恭子さんはぽつりと付け足した。


「この学園は、私の母校ですから」

「……えっ、母校!」


 まさかの返答に、思わず声を上げてしまう。

 

 同じ学園ということは、恭子さんにこれから起こることや行事とか聞ければ、破滅フラグ回避のために役立つかも!


 やっぱり、恭子さんはこの世界においてキーパーソンだな!


 でも、今はそれを聞くよりも……恭子さんと純粋に話したい。


「学園生活、楽しかったか?」

「はい。それなりに、楽しかったです」

「そっか。じゃあ、今のメイドの仕事はどう?」


 その質問に、恭子さんの口はピタリと止まった。


「悪い。意地悪な質問だったな」


 僕はそれ以上、聞くのをやめる。


 恭子さんは仕事熱心だけど、こうして面と向かって問われたときには……自分の感情に嘘は付けないみたいだ。

 

 素直なことは、僕はいいことだと思う。

 

「僕はさ」

「?」


 恭子さんが小首を傾げるの尻目に……僕も素直な気持ちを告げることにする。


「この学園での生活をちゃんと楽しみたいんだ。それに、恭子にメイドの仕事が楽しいって思ってもらえるようにしたい。だから僕は頑張るよ」

「……」


 恭子さんが目を見開き、その口は少し開いたものの……。

 

 結局は、黙ってしまった。


 うん。言葉の続きが聞けるかどうかは、これからの僕の頑張り次第だね。


「じゃあ寒いし、そろそろ戻ろっか」

「……。はい」


 僕と恭子さんは、車を停めたパーキングエリアに戻ることにする。


 学園の横にある交差点で信号待ちをしている時だった。


「だ、だから私は貴方のモノにはなりません!」


 ――女の子の大きな声が耳に入った。


 声の主を探せば……横断歩道をちょっと進んだ先では、妙に人が集まっていた。

 

 まず、目についたのは――ふわりとした亜麻色の髪に、透き通るような白い肌。

 ぱっちりとした大きな瞳で、スタイルも良く、思わず、見惚れてしまう美少女だ。


 そんな彼女が微笑んだら、さぞかし破壊力が凄そうだが……今は困り果てている様子。


 その相手は、金髪に革ジャンとジーパンを着ている細身な男性。


 ここまで見れば、可愛い子を柄の悪いナンパしている創作あるある光景だ。


 でも……僕は違和感を感じた。


 何故なら、金髪の男の周囲には――4人もの女性がいた。

 

 それも全員可愛くて、彼はまさにラノベ主人公ばりのハーレム状態。

 

 さぞかし、女の子たちにチヤホヤされて「やれやれ」が口調なのだろう。


 女の子になんて困っていないはずのに……。


「いやいや、今のうちに俺のモノになった方がいいって。俺って、数少ない男の中でも顔もいいし、家も金持ちだし、優しいし、将来、俺の嫁になる女は確実に勝ち組だぜ? だよな、お前ら?」


 会話は聞こえないけど……金髪の男はやっぱり、女の子をナンパしているように見える。


 周りの女性たちもなんだが頷いている様子で、彼がナンパすることを許しているのか……?


 えっ、ますますどういう状況??

 

 なんで既に女性たちに囲まれているのに、ナンパする必要があるの?

 

 僕の頭は混乱している。

 

 けど……。


「貴方が男性だとしても、私には断る権利があります。なので、私は貴方の誘いは断ります」

「いやいや。まず、断るっていう選択肢があるのがおかしいって。数少ない男である俺が、お前のことを気に入ってるって言ってやってるんだぞ。なら喜んで即答しろよ。なんなら、泣いて感謝したっていいんだぜ」

「っ……! 貴方たち男性はいつもそうやって……」


 女の子が顔を顰めた。


 1人で解決できないほど困っているのなら……行かなきゃ!


「あの子……!」


 隣の恭子さんもその光景に気づいたようで……いつになく険しい顔をして、声も低くなっている。


「行こう、恭子!」

「っ! は、はい」


 青信号になったのを見て、僕と恭子さんは一緒に女の子の元へと急いだ。


「あのっ、ちょっといいですか?」

「あ? なんだお前」


 横から声を掛ければ、金髪の男が不機嫌そうな鋭い目を向けてきた。

 

 別に怖くなんてない。

 そんなことされたって、僕のやることは決まっているのだから。


 次に女の子にも声掛けを……。


「お、《《お姉ちゃん》》!」

 

 ん? お姉ちゃん?


 女の子はどこか安堵の表情を浮かべながら僕の隣……恭子さんを見つめてそんな声を上げた。


 ああ、なるほどね。

 これは、恭子さんのことを知り合いと見立ているんだな。

   

 小説や漫画でよくある「俺の彼女なんだけど」や「やあ、待たせたね」と言って主人公が現れるシーン。


 しかし現実的には、男の僕よりも同性の恭子さんの方が話しかけやすいよね。

 

 女の子が恭子さん隣に移動したのを見てから……僕は男たちと正面から向き合う。


 と言っても、迷惑なことをしているのは金髪の男だけ。

 しかも……。

 

「こんなに可愛い女の子たちが周りにいるのに、ナンパなんて……良くないね。まずは、周りの彼女たちを大切にするべきなんじゃないか?」


 悪役っぽい冷静な口調を維持しつつも、刺激しないようにゆっくりと告げる。


「……えっ。今、可愛いって言葉が……」

「嘘っ」

「私、人生で初めて男性からそんなこと言われたんだけど……」

「そんなことを言う男性がいるだなんて……」


 僕の言葉に彼の周りにいる女性たちがざわめき始めた。

 

  話の内容が分からないけど……きっと、金髪の男に物言いしている僕に対して不機嫌気味なのだろう。


「っ、お前……」


 僕がそう言ってくるのが意外だったように、金髪の男は少したじろいだが……すぐに眉間にシワを寄せて反論する。


「お、俺の自由だろう! 同じ男だとしても、お前には関係ないだろっ」

「君に自由があるなら、彼女にも自由があるだろう? 彼女が嫌と言っているのなら大人しく身を引くべきだ。しつこい男は余計に嫌われるよ」

「だ、だからお前には関係ないだろっ。大体、俺たち男だぞ! なんで女なんか庇うんだよっ」


 ふむ……どうやらこの男、聞く耳を持たないみたいだね。

 

 それに、気持ちが昂ってきたのか発言もよく分からないし。

 男だからって偉いわけがない。


 これがこの世界の主人公……はさすがにないよね。


 まあ僕は……ちゃんと言ってやるだけだ。


「人の迷惑になることをしていることに、男も女も関係ない! ましてや、男だからって許されていいわけがない!」

「っ……」

 

 僕は一歩前へ踏み出し、強い視線を向けて言ってやる。


「これ以上、しつこく彼女に迫るつもりなら……僕が相手になる。けれど、今ここで君が引くなら、誰も傷つかずに済む。選ぶのは君だ、どうする?」

「っ……。チッ……行くぞお前ら」


 金髪の男は、周囲の女性たちを引き連れて不満そうに去っていった。


 ふぅ……割とスムーズに解決して良かった良かった。

 

「あ、ありがとうお姉ちゃん! それに……」


 女の子は恭子さんから離れることなくお礼を言った後……次に僕の方を見た。

 

 ん? あの人たちはいなくなったのに、なんで恭子さんのことを「お姉ちゃん」と呼ぶ演技を続けているんだろう?


 そう疑問に思ったのも束の間……恭子さんが口を開いた。


「ちゃんとお礼は言いなさい」

「あ、ありがとうございます!」

「坊ちゃま、私からもお礼申し上げます。この度は妹を助けていただき、ありがとうございます」

「ああ、うん……ん? 妹!?」


 恭子さん妹いたんだ! 初耳!!


「え……この人があの坊ちゃま……」


 そして、女の子も驚きの反応を見せていた。

 

 今では、僕をじっと見つめ……少し警戒するように眉をひそめている。


 女の子のこの反応に、専属メイドの恭子さんの妹……。


 僕はピンときてしまった。


 僕……この子に嫌われていそうだね!


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