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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ぐちゃぐちゃ感情恋心

作者: よくヘラ

「おっはよー!」

 朝。登校中。私の背中を軽く叩き、彼女が嬉しそうな声色で朝の挨拶をする。

 スカートをはためかせ、足を軸にくるりと振り向き、にこやかな笑みを浮かべている彼女の顔を、目を見て私は言う。

「おはよ……」

 私が挨拶を返すと、彼女は嬉しそうな顔をして頭を撫でてきた。

 にこにこと、口角を上げて、頬を軽く赤く染める彼女。

 私が、どれだけその顔に救われているか。あなたは知っているのかな? 知らないだろうな。

 私が、どれだけその笑顔を楽しみにしているか。あなたは知っているのかな? 知らないんだろうね。

 私が、どれだけそんなあなたを愛しているのか。あなたは知っているのかな? 知る由もないはず。

 私も彼女は友達だ。いや、その垣根を超えて親友と言っても良い。それほどに仲が良い、と少なくとも私は思っている。

 可愛くて、キラキラしていて、愛らしくて、美しくて、素敵な彼女。私は、そんな彼女のことが大好きだ。

 そう、私は愛してしまっている。友達である、親友である彼女を、そういう目で見てしまっている。

 小さくも鮮やかなピンク色で目立つその唇に、私の唇をそっと触れさせたい。

 制服の上からでもわかる胸元に実るその果実に、口を大きく開けてしゃぶりつきたい。

 邪魔な衣服を剥いで、邪魔な衣服を脱いで、二人で裸で抱き合いたい。いやらしく、激しく、淫らに、バカらしくなるほどに。

 そんなことを思っているのはきっと私だけ。こんな想いを抱えているのはきっと私だけ。

 だって私たちは友達なのだから。親友なのだから。愛していたとしてもそれは友愛。それ以上でもそれ以下でも無い。友愛。友愛。友愛。

 私が彼女を好きになったのは、私が彼女を好きだと気づいたのは、ちょうど一年前の今日。

 その日は珍しく、彼女と二人で恋バナをした。どんな人がタイプとか、身長差はどれくらいとか。妄想と想像で幻想を抱き理想を追い求め現実を直視せず空想の世界に二人で逃げる、そんなくだらない他愛ない会話。

 好きな人。好きになりそうな人。私はそれらを脳裏に浮かべていた。

 最初に浮かんだのは親友である彼女の姿。我ながら困惑した。どうして好きな人で彼女が出てくるのだろう、と。

 最初は友達として一番好きだから、と心の奥底に潜む本音を嘘で塗り固め知らないフリをした。

 けれど、自分の好きになりそうな人を思い浮かべるたびに、彼女の姿が思い浮かんだ。

 素敵な笑顔を見せてくれる人。親友である彼女がそうだ。

 私に優しく、私も優しくしたくなる人。親友である彼女がそうだ。

 何を考えても、何を提案しても、何を想像しても。何度も何度も何度も何度も彼女の姿が脳裏に浮かぶ。

 ドキンドキンと胸が高鳴って、きゅんきゅんっと締め付けられて、ズクズクと心が冷たくなって──

 私を見つめ笑みを浮かべる彼女の顔を見て、ズキュンっと撃ち抜かれた。

 その時に気づいたのだ。私が好きな人は、親友である彼女なんだって。

 最初はもちろん困惑した。それを知ってしまったからにはもう誤魔化せない。自分自身の本音に向き合うしかなかった。

 どうして、どうして、どうして、と。自分に何度も問いただした。

 なんで、なんで、なんで、と。自分を何度もぶん殴った。

 それでも気づいてしまったから。私はそうなんだと認識してしまったから。もう、背を向けることはできなかった。

 思うほどに、想うほどに。彼女へ劣情を抱き心情が辛くなり感情がおかしくなって情緒が不安定になった。

 女の子を好きになるだなんて、同性を好きになるだなんておかしい。私は、そんな自己矛盾に苦しめられた。

 女の子が女の子を好きになるのがいけないから、親友である彼女を私が好きになるのはいけないの?

 わからない。どこから間違っていて、何が正解なのか、私にはもうわからない。

 ただ一つだけハッキリしている事は、私が彼女を心の底から愛していると言う事だけ。

「どうしたの?」

「……えと」

 やめて。そんな目で見つめないで。

 大きな瞳、綺麗な瞳、素敵な瞳、美しい瞳、惹かれる瞳、吸い込まれるかのような瞳、夢中になれる瞳、覗き込んでしまいたくなる瞳、逃れられない瞳、背けられない瞳、離れられない瞳、見つめてくる瞳、見つめてしまう瞳、大好きな瞳、愛している瞳──

「……何でも無い」

 私は必死に嘘をつく。絶対にバレないように、察せられないように、気づかれないように、違和感を覚えられないように。

 親友への恋心、後ろめたい抱えている事実、バレたくない苦痛、知られたくない本音。色々な感情が混ざり合って溶け合って、私の胸を高鳴らせる。

──好きだよ。一言そう言えたならどんなに楽か。

──好きだよ。言ってしまった全てが終わってしまう。

──好きだよ。伝えたいのに伝えられない。

──好きだよ。簡単に言えるけど言いたくない。

──好きだよ。心の中だけであなたに伝える。

 恋をするとウキウキする、楽しくなると漫画で言っていたけれど、それは嘘だ。

 こんなに苦しい気持ちを抱えて何が楽しいんだろうか、何が嬉しいんだろうか。

 恋心を抱いて胸を高鳴らせキュンキュンするのは頭がハッピーな人だけだ。実際は、辛くして苦しくて気持ち悪い。

 この好意を伝えたら相手との関係が変わってしまう。この好意を知られたら私への意識を変えられてしまう。この好意がバレたらもう二度と元には戻れない。

 幸せな未来だけを想像できる人間が羨ましい。私にはどうしたってどう頑張ったって、暗い未来しか想像できない。

 相手が親友である彼女じゃなくても、私はこんな気持ちを携えていたと思う。

 だって、人を好きになるのって、物凄く怖いから。

 自分の気持ちが素直に相手に伝わるかわからないし、それを知った相手がどう思うかわからないし、結果関係がどうなってしまうのか全くわからない。

 自分の抱えている恋心は、相手に違う自分を見てほしいと言う現れ。仲良くなりたいんじゃなくて、もっと仲を深めたいと言う事。

 友達としての好きならば、ただ単純に遊んでお喋りして、それだけで済む。

 けれど恋心は、このクソ最低な恋心は、それだけじゃすまない。

 性欲が絡まり劣情を抱き、種としての本能を実感させられる。間違いなく自分がしたい事なのに、どこか不思議な違和感を感じてしまう。

 ただ好きだと言うならば、一緒にいるだけで十分。仲の良い友人関係で十分。

 だけどどうして、恋心を抱くとどうしてそこにセックスやらキスやらが絡まってくるのだろうか。

 わからない。もう、私には何もわからない。

 私が初めて彼女に好意を抱いた時には間違いなく携えていなかった欲求。エッチな要求、性的欲求。

 気持ち悪い。こんな自分がどうしようもなく気持ち悪い。

 相手が好きだからエッチをしたいのか、エッチをしたいから相手が好きなのか、わからなくなってくる。

 エッチだけが好意の伝え方ではないのは知っているはずだ。仲の良い友人家族みんなが軒並みセックスをしているというならば話は別だが、そんな事実は無い。

 私は彼女が好きだ。友達の彼女が好きだ。親友の彼女が好きだ。女の子の彼女が好きだ。

 そう、好きだ。好きなんだ。どうしようもなく好きなんだ。

「……私、あなたのこと、好きだよ」

「ん? 私もあなたのこと好きー」

(ほら……いいじゃんこれで。お互い友達として好きなんだからそれで充分じゃん。なのにさ、なんでさ、私……彼女とエッチな事がしたいの?)

 全てがわからない。だから、だから──

 ちゃんとこの気持ちを隠して、無くして、知らないフリをしていなきゃ駄目なんだ。

 だから私は今日も嘘をつく。

 彼女に、そして自分に。

 本当はちゃんと知っているはずなのに。わからない知らないと、バカのフリをしながら──

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