クラウン・エンブレム 〜お嬢様、戦場へ参ります〜』
これは、没落貴族の令嬢が、軍に身を投じて再興を目指す物語です。
主人公レティシアと、彼女に仕える執事型AIセバス。
二人(?)が拾い上げたのは、動かぬ旧式機体――
誇りと知恵と少しの執念で、動き出す物語の“種”。
※本作は「原作の種」として公開しています。
続きを書いてみたい方は、プロフ記載の方針をご確認のうえ、お声がけください。
その日、レティシア・ヴァン=リュークは軍の門を叩いた。
かつて栄華を誇ったリューク家も今や没落。
爵位は剥奪され、領地も資産も競売にかけられ、
彼女の元に残されたのは、古びた屋敷と――
「我が主よ、本当に、軍に入隊なさるおつもりで?」
浮遊球体が、彼女の肩越しに語りかける。
銀に縁取られた黒曜石のような球体、執事型AI。
彼女の父から受け継いだ、家最後の遺産だ。
「他に手段はないでしょう?
家を再興するには、資金、地位、そして――軍での戦果が必要ですわ」
レティシアの言葉には、気高くも鋭い響きがあった。
元貴族の身でありながら、今や立場はただの新兵。
そのプライドと現実の落差は、並の者ならば折れていたことだろう。
だが、彼女は折れない。
「その道、容易ではありませんぞ。特に――現状の機体では」
セバスが視線の先へと浮かぶ。
そこには、軍の資材庫で埃をかぶっていた旧式の量産機。
整備もされておらず、ほとんど稼働停止状態だった。
軍上層は、彼女がすぐに辞めると踏んでいた。
あえてロクな機体を与えず、追い出すつもりだったのだ。
「結構。ならば、動かしてみせますわ、この鉄屑を」
レティシアはコクピットに乗り込む。
セバスが彼女の肩口に接続ケーブルを伸ばし、機体と自らをリンクさせる。
「有線接続――完了。……本機、ただいまより起動補助を行います」
警告音が鳴り響き、コンソールにエラーが連なっていく。
が、次第に一つ、また一つと赤い文字が青に変わっていく。
「起動コード、確認。セバス、出力最大に」
「かしこまりました。――“お嬢様のご命令とあらば”」
その瞬間、機体が唸りを上げた。
静止していた量産機が、まるで死者が蘇るように、ゆっくりと立ち上がる。
見守っていた整備兵が目を見開いた。
「あのポンコツ、動いたぞ……!」
レティシアは微笑む。誇り高く、そして挑発的に。
「どうかしら、“平民”の皆様。
貴族を侮った報い、受けていただきますわよ」
旧式の量産機が、戦場へと歩み出す。
そして、この瞬間――
没落した令嬢の名が、戦場に刻まれ始めたのだった。