突然変異
子供が生まれた、頑丈な卵の殻に包まれて……。
卵の殻に包まれて生まれて来るのは私の子供だけでは無い、最近生まれた子供の全てが卵の殻に包まれて生まれて来る。
人間だけでは無く、本来胎生で生まれて来る哺乳類の全ての胎児が卵の殻に包まれていた。
哺乳類だけでは無い、鳥類や爬虫類、両生類、魚類に虫など卵生の生物たちも卵の殻が2重になって生まれて来るのだ。
卵の殻に包まれて生まれて来た生物は種の違いを問わず全て、卵の殻を破って誕生するのに今までの倍から数倍の時間が掛かった。
ただ卵の殻に包まれて生まれた生物は大気汚染などの汚染物質に対する耐性が、卵の殻に包まれずに生まれた同種の生物より著しく高い事が調べられている。
私は妻に感謝と労りの言葉を告げてから病室を出て病院の出入り口に向かう。
外気を病院内に入れないように3重になっているエアロックの手前にある部屋で、全身を覆う防護服を着込み顔全体を覆う防毒マスクを着用し酸素ボンベを背負う。
23世紀の今、外気はあらゆる化学物質や放射能で汚染されていた。
20世紀の中頃から繰り返された核実験や原子力発電所の事故、地球温暖化なんかより経済発展を優先し先進国並に発展を目指した後進国が垂れ流したあらゆる汚染物質などにより、外を出歩くとき人は皆防護服と防毒マスクを着用しなければならない、それを怠って外出すれば即死する。
もしかしてだが、新たに生まれて来る人間を含む全ての生物は、卵の殻を纏って生まれて来る事によって此等の汚染物質に対抗しようと突然変異を起こしたのではないだろうか?
そんな他愛も無い事を思いながら私は帰路についた。