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私in俺!〜悪役憑依と転生ちゃんねる〜  作者: 吉祥 瑞喜
5章 悪役と彼女

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040 1-5-5 星の雨降る終焉に

 こうして視界いっぱいに夜空だけが広がるさまを眺めていると、そのまま自分が空へ向かって落ちていきそうな気がしてくる。


 星のよく見える夜、また俺は最期を迎えていた。戦いの余波で荒れ果てた草原に、俺と勇者が倒れている。

 もはや慣れきった苦痛と死の気配。俺が勇者に殺され、お返しとばかりに勇者を道連れにするのはもう何度目になるだろう。数百か、数千か、あるいは。虚しくなり五百を超えたあたりから数えることをやめた。


 自分の置かれた状況の理由を求めた繰り返しを経て、原因を知った後は変化を求めてさらに繰り返す。そうして得た変化といえば、こうしてほんの少し死の時期が先延ばしになったことぐらいか。

 初めてこの日、この星の群れが降る日まで生き延びた時は、その変化に子供のように期待で胸をいっぱいにしたものだ。だが以降はなんの変化も手がかりも得られず、ここ最近はもはやただ死に続けるだけの有様だった。


 過去を思い返し自分がいかに無力かを噛みしめている間に、星の雨が降り始める。夜空に光の線が引かれていく。


「ああ……」


 死の間際に見る景色はことさらに美しく見える、と昔誰かから聞いたことがあった。だがいくら美しい光景が広がっていようとも、何度も寸分違わぬ景色を見た俺には虚しく感じる。

 幼い頃には似たような光景を家族と見上げたことがあったが、今は独りだ。胸の内に冷たい空気が吹き込む、そんな感覚がする。


「ぐっ、……。ララ、リオ……」


 2人に会いたい。

 星の洪水が夜空を洗い流していくこの光景を見て、はるか昔、弟妹に読み聞かせた絵本を思い出した。願いを叶えてくれる特別なお星さま。……本当にそんなものがあればよかったのに。

 もしそのような存在があるというのなら、どうかこの状況をひっくり返してくれ。

 意味のない願いを抱きながら降り注ぐ光の雨を眺めていると、ふと星の雨粒のひとつに目が引き寄せられる。


 俺は目を見開いた。


「っ、近づいて、いる……?」


 いよいよ今回が終わるのだろうか、死にかけているせいで視覚に異常をきたしているのかもしれない。流れる星のひとつが、俺のところへと近づいてきているように見える。

 俺が自身の幻覚を疑う間にもその光はみるみる大きくなっていく。いつか見た絵本の星のように、きらめき輝く金色が。


「な、なん……!?」


 俺の戸惑いをよそにその星はあたり一帯をまばゆく照らし、なおもこちらへ近づき続け、そして。

 視界を光で埋めつくす金色の星が、俺が最期に見たものだった。



  *


 勇者との闘いから数日。あの忌々しい聖剣を材料にした体を前に、前回の死を思い出している。


 今思い返すと、きっと、前回見たあの流れ星がそうだったのだろう。

 その内面や態度、行動を考えればあまり星という単語は似つかわしく思えないが。


「ふ、お星さま、というにはいささか締まらないというか、間が抜けているというか……」


 完成した彼女の体を眺めながら俺は口角を上げ言葉を落とす。不倶戴天(ふぐたいてん)の敵、とでもいうべき存在が消え去り、こうして彼女の体を作成する作業も終わったからか愉快でたまらない。

 聖剣を阻止し体を休めた俺たちは、近くに隠している拠点で彼女の体を作った。とはいっても作業はほとんど俺が行ったのだが。

 体のつくりについて希望を聞いた後、彼女には魂を移しかえる準備のため眠ってもらっている。


「ふむ。正しく希望通りになっているな」


 これから彼女が入る体を確認し頷く。彼女の前々前世の姿をベースに、要望を詰め込んだ仕上がりになっている。


『やっぱりフィジカルつよつよなのがいいなぁ~! あっこういう器官も作ってほしいんだけど——』

『柔軟性と強靭さ、圧倒的なパワーを秘めつつも見た目にわかりにくい体……あと——』

『髪色は最初の生に合わせて黒、いや白もいいかな……いややっぱり前々前世と同じ黒色がいい!』

『ツヤツヤに! 毛並みはツヤツヤのさらふわに!!』

『髪質は水分量を保ちつつ、ふわりと広がりながらもまとまりがあり、さらさらとしなやかに揺れ、柔らかくもコシがあり、光を反射してツヤツヤと輪を描き、つるりとした手触り、それでいて——』


 ……自身の体のことだ、仕方がないとは思うが少し面倒だった。特に髪の質にはなにやらこだわりがあるらしく、かなり色々と注文をつけていったうえに内容も細かい。

 ちなみに希望のない部分は俺に一任された。詳細に指定された箇所とそうでない箇所でかなり偏りがあったのだが、本当に俺が決めてしまってよかったのかわからない。

 特に瞳の色などは視界に影響を及ぼすのだから、指定した方がいいだろうに。


 まだうつろな体の、閉じているまぶたを見つめる。

 そこに隠れた瞳は、あの時のまばゆい星と同じ金色だ。彼女が最初に持っていた瞳の色——いや、今思えば厳密には最初期なら青色だったかもしれない。大丈夫だろうか。

 改めて完成形を見ながら考えると、瞳の色以外にも色々と、本当にこれでよかったかと不安になってくる。

 3日ほど——おそらくそのぐらいの日数だったはずだ——寝食をおろそかにした影響で少し判断力が鈍っていた。1人になったせいか作業に没頭して休息を忘れたのだ。


「……もう少し、手を加えるか」


 根本的なつくりや見た目に関してはもう変えられない。それに彼女はこだわっていない点に対しては真実どうでもよさげだったので、問題はないはずだ。

 だが一応、この段階でもやれることをやっておこう。儀式用のインクを取り出し、また作業を始める。

 どうせならもっと完璧に仕上げようか——いや、余計な機能をつけすぎてもよくないか?

 徹夜によって少しはしゃいでしまっているのかもしれない、冷静に考えなければ。


 取捨選択しながらまだ魂のない体に魔術を施していく。

 彼女と対面し、その瞳を見るのはもう少し先になりそうだ。


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