表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私in俺!〜悪役憑依と転生ちゃんねる〜  作者: 吉祥 瑞喜
5章 悪役と彼女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/76

038 1-5-3 転生者たちのお話

 ぶるぶると、彼女の眼前で一本の剣が震えている。

 憔悴しきった顔の勇者アーク・シェインナがその振動の根源だった。

 聖剣が彼女の命を奪う寸前、勇者がその動きを止めたのだ。


「な、なんで……僕はいったい……」

「ああ……やっとか」


 困惑する勇者の姿に効果が出たのだと確信した彼女が安堵する。

 そして座り込み声を上げた。


「……あ~もう! つっかれた~~~!!!」

「!?」


 ほとんど意識のないままに自身が人の命を奪いかけていた。

 その事実に恐怖を抱いていた勇者だったが、いきなりラグルスとは思えぬ態度をとった彼女に驚く。


「作戦がうまくいってよかった! 死ぬかと思った! あ、君だいじょーぶ? メンタルとか体調とか……」

「え、ええと……?」


 調子よくしゃべり続ける彼女を見て、勇者は強く違和感を覚える。

 顔のつくりや服装、体型は確かにラグルスそのものなのだが、別人だとしか思えなかったのだ。


「あの、君はいったい、何なんだ……?」


 思い切って質問した勇者に、彼女はどう答えたものかと少し迷った後答えた。


「う~ん、私は……聖剣を止めた者の1人、かな」



  *



 とある世界の王城。

 城外が夜のうす闇に包まれる中、城の一室にて、一人の男と二人の女が向かい合っていた。


「それで、その魔術師は今も孤軍奮闘しているって話さぁ」

「まぁ……」

「なんてかわいそうなのかしら」


 穏やかな物腰と間延びした話し方に似合わず、兄弟や親戚を排して血染めの王冠を手にしたのがこの男だ。

 彼は妻たちに聖剣と『正しいあり方』の話をしていた。


「それじゃあ、またねぇ」

「いつでもお待ちしておりますわ」


 こうして妻たちに話をしてまわれば、ものの数日の間には多くの者たちに伝わるだろう。

 男が協力しているのは、何も善意によるものだけではない。


「次に転生したとき、僕の行き先があんな世界だったらイヤだしねぇ」


 男はつぶやいて、残りの妻たちへと話をしに向かった。

 他の多くの転生者たちもこうした考えを持っているだろう。だからこれはきっとうまくいく。



 そして、王宮の夜は更けて行く。



  *



 また別の世界、王立学園の生徒会室にて。

 男女ひとりずつ、令嬢と王子が話していた。


「そんな苦しみをずっと繰り返していたなんて、きっと彼もさぞ辛かったことでしょう」


 そのように令嬢が話を終えると、甘いマスクに金髪碧眼、いかにも“王子様”といった姿の王子が目を伏せた。


「世界の行く末なんて、その世界の人々がそれぞれの意志で作り上げていくものだ。それなのに……ずいぶん酷なことになったんだね」

「はい。…………脱糞王子も平行世界で環境が変わればこんなにまともになるというのに、悪役と決めてそれを強制するなんておかしいでござる」

「だ、脱糞? …………まさか私のことか!? したことないんだが!? あと口調が素に戻っているぞ!」


 令嬢の言葉に王子が反論するも、まったく聞いていない。


『拙者、これでも人を見る目には自信があるでござる。貴殿はなにかを抱え込んでいるのではござらんか?』

『それを拙者に話してはくださらんか? きっと力になってみせるでござるよ』


 そう話した時のラグルスの、戸惑いと疑念と、ほんの少しの期待が入り混じった顔は今も心に残っている。

 その後何度も問いかけ、やっと話をしてくれたと思ったらあの体たらくだ。何が『力になってみせる』だ、と令嬢はずっと恥じていた。


「これでやっと、心残りが解消されたでござる」

「おい、おーい! ……私の話聞いてないな!? そろそろ泣いちゃうぞ!」

「泣き顔なんて、脱糞という(いただき)に比べれば(ちり)も同然でござる。需要はござらん」

「また脱糞!? さっきからなんなんだ一体!? というか流石に不敬が過ぎる!」

「おっと、そろそろ時間でござる。拙者はこれでお暇させていただくでござるよ」


 令嬢は美しく礼をすると、すぐさま生徒会室を出て行った。

 あの時偶然にも普段は見ない板のスレッドを見たのは、そういう縁だったのかもしれない。

 時々スレッドを見ていて不安になることもあったが——特に聖剣ズブブで草などと言い出したあたり——ラグルスもアークも、これからはもう大丈夫だろう。


「彼らの未来は、きっと明るいでござる!」

「ちょっと待って! お願いだから人の話を聞いて!」



 これが、令嬢と王子のにぎやかな日常であった。



  *



 とある世界においてその日、ギルドに激震が走った。


「エヒ、ウヒ、ウェヒヒヒヒヒヒ……」


 無能と言われAランクパーティを追放されたのち、外れスキルと言われた能力を超覚醒。その後美少女エルフを筆頭とする新たな仲間たちと共に一気にSランクパーティまで駆け上がった青年。

 スキルに頼りすぎたくないと言って普段は純粋な戦闘技術で戦い、そのスキルの内容を知る者は少ない。しかしそれでも圧倒的な力を見せ、今や誰も彼を無能だなどとは呼べない。

 その彼が、今までどんな美人にもなびかずストイックに力を磨き続けた彼が、クールで仲間想いで最近話題の注目度ナンバーワンの彼が。

 大変にだらしのない顔をして大変に気持ちの悪い声を上げていたのである。


「ふへ、フヒヒ、フホッフホホッ!」


 パーティの仲間たち、ギルド職員、冒険者。黒い板を見ながらおかしな声を上げ続ける青年を見ていた者は、呪いかあるいは精神疲労かと彼の身を案じていた。

 しかし彼はただ興奮していただけである。


「ふへへ、至高の一枚……!」


 黒い板もといスマホ型の媒体には、スレッドでの協力願いと共にアップされたラグルスのちょっとえっちな女装姿が映っていた。

 ラグルスの中にいる彼女がその体を利用し撮影したもの。

 この写真は彼にとっていわゆる”性癖に刺さる”ものであった。


「リーダー、一体どうしちまったんだよぉ」

「もし何か大変な問題があったら……!」


 とてつもなく美しい顔の男が、しかしその体つきによりどうにも少しの違和感が拭えない女装をしている。

 そんな写真の価値に比べれば、今まで訪れた街全てで話をしてまわることなど苦にもならない。

 彼らのリーダーにそのようなシュミがあることを仲間たちが知るわけもなく。


「急患、急患だぁ!」

「リーダーを助けて!」



 こうして、仲間たちの手により青年は治療院へと担ぎこまれることとなった。



  *



 この世界でも、あの世界でも。

 勇者が、魔王が、令嬢が、令息が、現代人が、異世界人が。


 転生者たちの掲示板で彼女に頼まれ、それぞれ口々に語っていく。

 聖剣と、『正しいあり方』と、それにずっと抗いつづけている悪役の話を。



*****



クソガバ聖剣対策本部 7


551:名無しの転生者さん ID:hEr0iNE/

 板を問わず協力したしだいぶ広まったんちゃう?


552:名無しの転生者さん ID:a7d8VEnt

 報告スレに報告された分から計算した分だけでも話がいってる人数は原作のPV数こえてると思われ


553:名無しの転生者さん ID:k/ngWZ8e

 >>551

 ROMも多分大勢話してるだろうし、これで原作を知ってる人数より余裕で超してると思うよぉ


558:名無しの転生者さん ID:Samw2rAi

 これなら『正しいあり方』にも影響があるはずでござる!


556:名無しの転生者さん ID:KeCy8LvA

 この作戦が成功したらご褒美にもっと写真が欲ちぃ


557:名無しの転生者さん ID:oQyvScqi

 ぼくはバニーがいいです!!!


561:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH

 変態どもはともかくここまでやったんだから成功してろよ!

 俺はあんなシステムの世界に転生したくないからな!



*****



 かくして『原作』が聖剣の命令となって以来、初めて『正しいあり方』が変更された。



*****



【生きたい】悪役魔術師ラグルスになった女のスレ 12


138:1 ID:V1lLa1n+

 私「転生者たちに協力をお願いするにあたって、お礼としてラグルスくんには女装をしてもらいます」

 ラグルス「は?」(苦虫を嚙み潰したような顔)

 私「ちょっとえっちな感じで!」

 ラグルス「は???」(苦虫が100匹増えた顔)


 この後ラグルスくんは弟妹の未来を考えて心底不本意ながら女装の許可を出しました

 その時の女装写真がこちらです

 [画像ファイル]

 [画像ファイル]

 [画像ファイル]


 あとおまけにラグルスくんの苦虫噛み潰しフェイス

 苦虫が増加する際の変化をお楽しみください

 [動画ファイル]


139:名無しの転生者さん ID:gDN/hr+E

 ラグルスくんかわいそ(笑)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ