037 1-5-2 逃げない死なない殺さない
瞳のほんの先に迫った剣を紙一重でかわす。
一度3mほど距離をとり炎を打つ。聖剣で振り払われ一瞬のうちに目の前にやってくる。
斬撃、回避する。
氷、砕かれた。
相手の猛攻を時に魔術で防ぎ、時に回避し、時に素手で流す。
勇者アークは聖剣に強化でもされているのか、攻撃の強度も素早さも格段に上がってはいる。
しかしその精神状態ゆえかその剣筋はひどく単調だった。
お互いに決め手の出ないまま戦いが続く。
彼女には全く相手を倒す気がないし、勇者の攻撃はむしろ前回よりも避けやすい。
「先ほどから単調すぎてあまりにもつまらない攻撃だな。退屈であくびが出そうだ、少しは変化でもつけてみろ」
「うるさいっ! 殺してやる!!」
相も変わらず話にならない。
彼女としてはもう少しまともな攻撃ができるようになれば、ちょっとした特訓代わりにはなるかと思ったのだが。
——ラグルスくんとも今はお話できないし、もうスレしかないな。早くこの戦い終わらせたい……。
少しがっかりしつつ、彼女は勇者に魔術を行使し強制的に口を閉じさせた。
勇者には同情するがどうにも彼女にはうるさかったのだ。
「ろくに会話もできないんだ、言葉などいらないだろう?」
*****
【生きたい】悪役魔術師ラグルスになった女のスレ 14
63:1 ID:V1lLa1n+
初めてこの魔術使ったけど耳が楽になった
[動画ファイル]
64:名無しの転生者さん ID:9C5y+U4x
勇者くん口ぱくぱくしてるな
65:名無しの転生者さん ID:fa1nEB/X
ゲームで言うなら魔法とかスキル封じ系のスキルって感じ?
「サイレント」とかそういう名前のやつ
68:名無しの転生者さん ID:RCUT9dEx
勇者くんもかわいそうに
洗脳されたり何回も殺されたりなんか変なのに煽られたり喋れなくされたり
踏んだり蹴ったり
69:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3
かわいそうw
70:名無しの転生者さん ID:4SYXSMAq
僕じゃなくて良かった(笑)
72:名無しの転生者さん ID:hEr0iNE/
うーん、この民度
73:1 ID:V1lLa1n+
勇者くんがこの状態だから特訓的な方向での期待はできないし、ラグルスくんはおねんねしてるし
つまんない……
これで成果が出るまで下手したら何日も戦い続けなきゃいけないとかつら……
スレ民なんか面白い話ない?
74:名無しの転生者さん ID:ga+SlRKR0
ない
77:名無しの転生者さん ID:NOyRit2T
いきなり面白い話ない?とかいう無茶ぶりをやめよう
79:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
>>73
唐突に面白い話求められて期待に応えられるネタがあるやつは個別にスレ立ててるだろ
80:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH
イッチと俺たちは観察対象と観察者の関係だから
俺らが観察する方だから面白い話はイッチが提供するのが筋
76:名無しの転生者さん ID:8g5rJ5Gm
なんでラグルスくんおねんねしとるんや?
81:名無しの転生者さん ID:k/ngWZ8e
ラグルスくんのおねんねは確かなるべく敗北フラグ立たないようにする一貫じゃなかったかな
83:1 ID:V1lLa1n+
そうそう
ラグルスくんのVS勇者の記憶漁りまくって考えた結果
勇者につよく殺意とか憎悪とか向けてるとそのぶん聖剣バフも強まってるっぽいなって
それでラグルスくんは聖剣を前にするとどうしても感情が抑えられないらしいので眠ってもらうことにしました
なぜか渋られたけど
85:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3
聖剣バフってこの前のなぜか魔術消えちゃった時のやつもそうなのかな?
86:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr
>>83
渋られたのはスレ主に任せるのが不安だったからなんじゃね
いきなりふざけたりされたら嫌だし
89:名無しの転生者さん ID:Ldh7TgdZ
>>86
まあイッチに任せるのはちょっとな……
ある程度戦えるのはわかっててもなんか不安
92:1 ID:V1lLa1n+
>不安
失礼では???
私もこんなシリアスシーンでふざけたりしないし
98:名無しの転生者さん ID:hEr0iNE/
>私もこんなシリアスシーンでふざけたりしないし
1クン急に記憶喪失にでもなったんか?
95:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
>>92
街中で勇者くん相手に悪役セリフ回収してた奴の言うことではない
97:名無しの転生者さん ID:8g5rJ5Gm
>>92
前回聖剣に貫かれた時は聖剣ズブブで草とか言ってたやんけ
99:名無しの転生者さん ID:ga+SlRKR0
そもそもイッチの戦闘能力ってどんなもんなんや?
それなりに戦闘力ありそうやけど
101:名無しの転生者さん ID:9C5y+U4x
>>99
何回か転生してるしどっかで戦い方を習得してはいるんじゃないか
104:1 ID:V1lLa1n+
戦闘力は前々前世のおじいちゃんにガッツリ鍛えられてそれなりに有るとは思う
あくまでそれなりで例えば前々前世の死ぬ直前(多分一番強い時期)の状態でラグルスくんと戦ったらだいたい負けるんじゃないかな
ラグルスくん相手に限らず勝敗は状況とかにも左右されるとは思うけど
あと前々世と前世では病気しててあんまり訓練できてないからちょっと鈍ってるかも
まあ今のろくに技術使えてない勇者くんの力押し攻撃なら余裕で回避し続けられる……といいなあ
105:名無しの転生者さん ID:RCUT9dEx
願望かよ
107:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3
フラグかな?
108:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH
聖剣バフとかいう不確定要素がこわい
111:1 ID:V1lLa1n+
実際聖剣くんがバフってるのかちょっとずつ攻撃が強くなってきてる
なので転生者の皆さんには頑張ってほしい
マジで
113:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
おいおい大丈夫なのかそれ
116:名無しの転生者さん ID:4SYXSMAq
こんなところでやられるとかやめてほしい
こっちも困るんだから
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闇夜の中だろうと戦いは繰り広げられ、次第に日が昇る。
そこからさらに時がたち、今は太陽が真上から光を降りそそいでいた。
あたり一帯に響き渡る、さんさんと降る暖かな光にそぐわない破壊音。
斬撃に、打撃。氷、雷光、爆発。
2人のいる草原はもはやすっかりその姿を変え、えぐれた大地は土色がむき出しだ。
彼女は徐々に重くなる攻撃に鬱陶しい気持ちになってきている。
——勇者補正ずるい、私も欲しかった! いや洗脳は嫌だけど!
戦闘を始めたあたりよりも圧倒的に威力を増した勇者の攻撃。聖剣もいいかげんに焦れてきているのだろうか。
時たま強化した手で剣の流れを変えていたところ、一度片腕を失いかけた。
あわてて回復し事なきを得たがもうこの回避方法は使えない。同程度の怪我をまた治療すれば、反動により戦いの継続は難しくなるだろう。
「……くそっ、まだか……!?」
歯噛みする。先ほどの回復魔術の影響で、今すでに動きが鈍っている。
いっそ逃げて時間を稼ぐか、と考えるも現在の勇者のスピードでは背を見せた途端に斬られて終わるだろう。
ひたすらに回避と牽制を繰り返す。
威力が大きくなってゆく勇者の攻撃、その口を閉じた魔術が切れたのかまたこちらに向けられる憎悪の声、治療の反動による消耗。
じわじわと追い詰められるような感覚が彼女に迫る。
そのせいだろうか。
「……っ!」
勇者の攻撃を避けきれず彼女は体勢を崩してしまう。
とっさに立て直した彼女の目に映ったのは、光をまとい今まさに彼女の命を奪わんとする聖剣だった。




