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私in俺!〜悪役憑依と転生ちゃんねる〜  作者: 吉祥 瑞喜
4章 不本意ながら世界の真実

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28/76

028 1-4-2 お嬢様と神託と

 活気あふれる港湾都市は、真上から降り注ぐ日光を浴びてにぎわっていた。

 勇者から無事に逃げおおせた彼女は次なる目的地であるこの港湾都市を訪れている。

 原作にほんの少し、この町の近くにダンジョンがあるとだけ書かれているのだ。


「ラグルス様、お引き受けくださってありがとうございます」

「……そういう取引だからな」


 彼女は今、いつぞやの森をうっかり大破壊した時に出会ったお嬢様、もとい子爵令嬢とともにいた。



*****



【生きたい】悪役魔術師ラグルスになった女のスレ 9


601:1 ID:V1lLa1n+

 お嬢「ラグルス様に出会ってようやく理解できたのです。我が家の始祖が記録に残した“推し”の概念を……!」

 そっすか……

 ご先祖様は転生者だったのかな……


603:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3

 >>601

 推されてるじゃん

 よかったね


604:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL

 推しの概念を理解して速攻で「ラグルス・ヴィア・ヴォロスを推す会」を作るって行動力すごいな

 しかも勇者に知られないよう対策もしたうえで人を集めてるとか


607:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH

 イッチの目的地予測して張り込んでるとかお嬢様の情報収集能力こわい


608:名無しの転生者さん ID:9C5y+U4x

 なんか今までのスレ主の活躍()も知られててこえーよ


610:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH

 転生先で他の転生者の名残を見つけるとなんかテンション上がるわ

 あんまり出会いたくはないけど


611:名無しの転生者さん ID:oQyvScqi

 >>610

 ワイは出会いたい派

 相手がまともなら同じ元の世界の話とかしたい


614:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH

 >>611

 お前が出会いたくても相手が嫌がるんじゃないか


617:名無しの転生者さん ID:oQyvScqi

 >>614

 は?事実陳列は法律で禁じられてるんやが???


615:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr

 スレ主、グイグイこられると引いちゃうタイプ?

 テンション下がっててウケる


620:1 ID:V1lLa1n+

 >>615

 何もよくないし面白くもないです

 チヤホヤされるのは嫌いじゃないけど推されるって何すればいいんだ

 なんかお嬢様には握手と短い会話をお願いされたけど


622:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3

 >>620

 それだけしか言われてないならそれでいいんじゃない?


623:名無しの転生者さん ID:a7d8VEnt

 >>620

 それさえやればダンジョンの情報もらえるんだし頑張れ~



*****



「ああぁっ、ありがとうございます! ありがとうございます! もうこの手は一生洗いません!!」

「……いや、手は洗え…………」


「ううぅぅっっ! う゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛お゛ん゛!!!」

「ゎ………………」


 推す会にて、汚い声を上げながら泣き崩れる者の前で、彼女はかすかに声を漏らしつつ内心震えていた。

 そもそも登場時に男女混声による黄色い声が上がった時から、彼女はどんどんドン引きしていたのだ。

 数人ほどと会話を終えた時点で既に逃げ出したい気持ちになったが、しかし取引なのでちゃんと握手をして短くも会話する。

 その他にもファンからのお願い——カメラもないのにどこかで転生者から仕草が伝わったのか片思いハートしたいとか、あるいは椅子になりたいとか——を聞き入れたり拒否したりしながらイベントをこなす。


『……貴様の世界にはこんな狂人の宴があるのか? 神経を疑うんだが』

『狂人扱いは流石に……いや、ラグルスくんに狂ってるとも言えるのか……?』


 会場の異様な空気に気圧されたような声でラグルスが問う。

 狂人とまで言えるかはともかく、限界を迎えたオタクははたから見れば異常ではあるなと彼の言葉を否定しきれなかった。


『貴様の行動の結果がこれなのだから、奴らが狂っている対象は俺ではなく貴様だろう。俺自身が奴らに好かれているわけではない』

『ラグルスくん、どこまでも自分自身の好感度は低いってスタンスがブレないね』


 どうやら彼の、この点についての自己評価の低さは根が深いようである。



*****



【生きたい】悪役魔術師ラグルスになった女のスレ 9


688:1 ID:V1lLa1n+

 終わった~~~!!!


689:名無しの転生者さん ID:9C5y+U4x

 >>688

 お疲れ


692:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL

 男女半々で30人ぐらいいたけど平和な人たちだったな

 テンションはおかしかったけど


693:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH

 号泣して泣き崩れてる相手にドン引きしてるイッチの図はちょっと面白かった


695:名無しの転生者さん ID:oQyvScqi

 相手が感極まるほど逆に引いていくイッチ

 あきらかに顔ひきつってて草生える


698:名無しの転生者さん ID:a7d8VEnt

 はがし役の騎士がピクリとも表情変えずに対応してるのすごいな

 プロじゃん


696:1 ID:V1lLa1n+

 思ってたより人数いてびっくりした

 こんなに推してる人いたんだなって


700:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH

 なんか変な奴と限界なオタクばっかりだったな

 ファンタジー世界でもオタクはオタクなんだなって思った


702:名無しの転生者さん ID:fa1nEB/X

 共感性羞恥で胸が痛い


699:名無しの転生者さん ID:9C5y+U4x

 30人って旅の道中でのスレ主の絡まれ具合とか嫌われ具合からすると多く感じるな


703:名無しの転生者さん ID:oQyvScqi

 >>699

 まあイッチも一応たまに人助けとかしてたからそれも影響あるんちゃう?

 こんなカスの集落の住人なのに


704:名無しの転生者さん ID:RCUT9dEx

 スレ主ここの住民の割にはお人よしか?


706:1 ID:V1lLa1n+

 >>704

 まだ転生1桁なのもあるのか、さすがに目の前で人死にとかはちょっとナシかなって感じです

 死ぬなら私の知らないところで私と関係ない理由で死んでほしい

 目と鼻の先だと現代日本で培われた倫理観が邪魔してくるから


707:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr

 お人好しっていうよりフツーの人かな


709:名無しの転生者さん ID:k/ngWZ8e

 >>706

 見捨てたらそれはそれで無駄に心に残ったりするからね

 無理しない程度に助けるのもいいんじゃない


711:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3

 >>709

 そもそもそういう状況にならないのが一番だけどね


708:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr

 推す会とかできるぐらいだしもうその体のまま好感度稼いで生きる手もアリでは?


714:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH

 >>708

 俺も思った

 健康だし若いしわりとよさげに思える

 でもご本人いるの確定してるからなあ


718:1 ID:V1lLa1n+

 >>708

 >その体のまま

 いやラグルスくん本人居るし

 それに私、肉体とか服とか道具とかトイレとか、全部「自分の」が良い派だから

 自分の体手に入れて、恋愛とか結婚無しで自分の家族作るんや……!


720:名無しの転生者さん ID:fa1nEB/X

 >>718

 「自分の」っていいよね

 わかる……


721:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3

 >>718

 他はともかくトイレは一人暮らしか家が大きくないと難しくない?


723:名無しの転生者さん ID:9C5y+U4x

 結婚無し縛りで家族作るってどうするつもりなんだよ


725:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH

 >>723

 養子とか?


727:名無しの転生者さん ID:fa1nEB/X

 >>723

 まあ血族や同じ籍でなくても家族っぽい関係の人たちもたまに居るし

 スレ主もそういうのを目指してるんじゃないかな?

 難易度高そうだけど


730:1 ID:V1lLa1n+

 >>727

 そうそれ!

 そういう家族が欲しい

 朝になんかご飯の良い匂いで目が覚めて家族とおはよーって挨拶し合ったり

 夜はハグしておやすみなさいって言ったり

 時々いっしょにお散歩したり日向ぼっこしたりしたい


 それはそれとして、お嬢様からダンジョンの場所と入り方を聞けたのでまたダンジョンへ出発しまーす



*****



 ラグルスが立ち去った後、子爵の別荘にて、子爵と令嬢が話し合っていた。


「ありがとうございます、お父様。お父様の協力のおかげで無事に会合を終えることができましたわ!」

「なあに、お前のためならこのぐらい。たとえどんな願いだって叶えるさ」


 この子爵が一人娘である令嬢を溺愛しているというのは、彼を知る者の間では有名だった。

 たとえ令嬢が世界を滅亡させたいと言っても、否定せずまず理由を確認し、内容によっては検討するだろう。


「それに神託のこともあったからね」

「神託……ラグルス様をかのダンジョンへと導けという言葉のことですわね」


 子爵家は他の商いを営む者たちと同じく商業を司る神を信仰している。

 つい先日、その神から子爵へと神託が下されたのだ。


「なぜあのような神託が下されたのかはわかりませんが。ついでにラグルス様を推す会の会合もできましたし、わたくしとしては大満足ですわ!」

「お前が満足したならいいが、本当にただ推すだけでよかったのかい? 会合での様子を見て、お前が望むなら彼をわが子爵家に迎えてもいいかと思ったんだが」

「まあ! 推しはそういったものとは別の存在ですわ、お父様。わたくしはただ、ラグルス様が健やかに過ごせて、さらにその活躍を拝見していたいだけですの」


 令嬢はそう力説すると、ラグルスが向かっていったダンジョンの方角を見る。


「神のお考えがどうあれ、ラグルス様の行く先に幸多からんことをお祈りしていますわ」


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