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027 1-4-1 勇者クンあらわる

 街中で始まったいさかいに、人々が少し距離を空けつつも注目していた。

 勇者アークの視線は険しく、ジリジリと肌を灼くような殺気を感じる。

 そのうえラグルスの憎悪まで伝わってくるため、内から外からの負の感情に辟易してしまう。


 彼女は勇者が腰の聖剣に手をやっているのを見て意外に思った。


 ——え、こんな街のど真ん中でやる気か? 人がたくさんいるのに?


 小説で読んだ勇者像では、無関係な者を巻き込むようには思えなかったが。

 改めて勇者を観察すると原作での印象よりも鋭い空気をまとっている気がする。対応を間違えればただでは済まないだろう。彼女は気を引き締めた。

 警戒して身体強化を重ねる彼女を見て、勇者が何かに気づいたかのように目を見開いた。


「お前、その膨大な魔力は……! その力を得るためにいったいどれだけの犠牲を出したんだ……!」


 ラグルスの異様なほどの魔力を感じたようだ。

 ラグルスが人の死を捧げ力を得る禁術を使っていると認識している勇者は、被害の大きさを思い憤る。


 彼女は原作で似たような問答があったことを思い出した。

 たしかそのシーンで命を犠牲に力を得る事を素振りに例え、剣の腕を磨くのにいちいち素振りの回数を数えてるのか、のような答え方をしていたはずだ。

 彼女はとっさにこういう遠回しな表現をあまり思いつかないので、よく毎回こんな言い回しが出てくるなぁ、と印象に残っていた。


 目の前の勇者を見る。

 眉間にシワをよせ、今にもはち切れそうなほどの憎しみを感じさせる目をしていた。

 もし原作と同じ答えを返せばすぐさま勇者は斬りかかってくるだろう。

 しっかり返答を考えるべきだ。


 彼女はひとつ呼吸し、言葉をつむぐ。


「貴様は剣の腕を磨くのにいちいち素振りの回数を数えているのか? はは、ずいぶんと几帳面なんだな?」



*****



【生きたい】悪役魔術師ラグルスになった女のスレ 9


435:1 ID:V1lLa1n+

 勇者「お前、その力を得るためにいったいどれだけの犠牲を出したんだ……!」

 私「貴様は剣の腕を磨くのにいちいち素振りの回数を数えているのか? はは、ずいぶんと几帳面なんだな?」

 ッシャ!

 言ってみたいセリフNo.23回収や!


436:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL

 勇者を前に悪役のセリフを言うな


438:名無しの転生者さん ID:9C5y+U4x

 >>435

 「ッシャ!」じゃないんだよな「ッシャ!」じゃ


440:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH

 >>435

 場面に合ったセリフを言えてるので+100点

 勇者クンの前で悪役ムーヴとか生存を考えて無さすぎるので-100,000,000点


441:名無しの転生者さん ID:fa1nEB/X

 この状況で煽るようなこと言うとか馬鹿なの?死ぬの?

 いやガチで死んでもおかしくないけど


442:名無しの転生者さん ID:Samw2rAi

 >>435

 なぜよりによってここでその台詞を!?


445:1 ID:V1lLa1n+

 >>442

 おぼろげながら浮かんできたんです

 原作のフレーズが


446:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr

 ↑弩級のアホ


447:名無しの転生者さん ID:RCUT9dEx

 バカ!


449:名無しの転生者さん ID:8g5rJ5Gm

 >>445

 イッチ馬鹿すぎて大草原


450:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL

 >>445

 お前ほんとに生き延びたいと思ってるのか?


452:名無しの転生者さん ID:Mc9G8tiy

 おっお前…!お前!おま、お前お前お前!!!


455:1 ID:V1lLa1n+

 うわっ勇者くん激おこになっちゃった!

 じわじわ時間差でセリフの意味を理解したみたい

 [動画ファイル]


457:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL

 >>455

 当たり前だろ


458:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr

 >>455

 スレ主バカスwww

 聖剣で斬りかかられててワロタwww


459:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH

 当然すぎる展開


460:名無しの転生者さん ID:RCUT9dEx

 >>455

 お前ほんとバーーーカ!!


461:名無しの転生者さん ID:8g5rJ5Gm

 イッチのアホ具合に語彙力をなくした奴が何人かいるな


463:名無しの転生者さん ID:9C5y+U4x

 >>455

 激おこになっちゃった!というか激おこにしちゃったんだろお前が


465:1 ID:V1lLa1n+

 避けたけど地面えぐれててぴえん

 ここはさっさと逃げたいのに勇者くん追ってくるじゃん


 勇者「待て!!」

 私「追いかけてきてもいいぞ……周りの奴らを傷つけてもいいならな(ここでやり合うと、周りの人が危ないのでは?あと追いかけてこられるの困るんですが……)」

 【悲報】自動補正くん、もはや捏造の域に達する


466:名無しの転生者さん ID:8g5rJ5Gm

 >>465

 自動補正とかいうデバフ


467:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3

 >>465

 まともにおしゃべり出来なくて草


468:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH

 >>465

 勇者クンも怒りで周りが見えてなさすぎるな


470:1 ID:V1lLa1n+

 勇者くんが周りの人々見て無関係な人巻き込んじゃう!?ってハッとした隙に逃げまーす

 最初の生の時から逃げ足には自信があるやで



  *



501:名無しの転生者さん ID:RCUT9dEx

 反省しなさい


502:1 ID:V1lLa1n+

 はい


504:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL

 もう勇者くん煽るなよ


505:1 ID:V1lLa1n+

 善処します


508:名無しの転生者さん ID:Mc9G8tiy

 マジで悪い意味でドキドキした

 勘弁して


509:1 ID:V1lLa1n+

 がんばります


511:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH

 さっきから殊勝な態度で聞いてる感じ出してるけど

 「もうやらない」とか「二度としない」とは決して言わないイッチ


512:名無しの転生者さん ID:RCUT9dEx

 反省して

 ほんとに反省して

 もう二度とやらないで


514:名無しの転生者さん ID:fa1nEB/X

 絶対またやるじゃん


516:1 ID:V1lLa1n+

 え〜だって言ってみたいセリフは……言ってみたい!


519:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL

 >>516

 トートロジーやめろ


520:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3

 >>516

 馬鹿じゃん


522:名無しの転生者さん ID:9C5y+U4x

 お前って命捨てたいタイプ?


525:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr

 >>516

 何か言ってるようで何も言ってない弁明


524:1 ID:V1lLa1n+

 ピッタリの場面だったら正直好きな作品のセリフ、言いたくならない?

 というか皆の慌てっぷりを見るにけっこう私の心配してくれてる人多いの?

 ぶっちゃけ全員草生やすと思ってた


528:名無しの転生者さん ID:8g5rJ5Gm

 言いたくなる←わかる

 下手したら殺される場面で実際に言っちゃう←わからない


529:名無しの転生者さん ID:8g5rJ5Gm

 >>524

 心配っていうか流石に人死にはちょっと……て奴が多いんちゃうか

 ワイは手叩いて笑ってたけど


530:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr

 >>524

 転生回数が少ない人が多かったのでは?

 回数を重ねてる奴は死に対して麻痺しがちだけど回数少ない場合はまだ感覚麻痺してない事が多いし


531:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL

 流石に死なれると寝覚めが悪い


532:名無しの転生者さん ID:Samw2rAi

 >>524

 拙者は心配してたでござる


535:1 ID:V1lLa1n+

 おお……ここ思ってたよりちょっとだけ民度高いな

 まあ私も別に死にたくないし今度から気をつけるよ

 もし死んでこれが最後の命だったら言いたいセリフも言えなくなるし


536:名無しの転生者さん ID:ga+SlRKR0

 >>535

 まだ懲りてないんか??


537:名無しの転生者さん ID:RCUT9dEx

 ぜんぜん反省の色が見えない


539:1 ID:V1lLa1n+

 ラグルスくんにも現在進行形でお説教されてるからもう勘弁して

 とにかく次のダンジョンに行きま~す



*****



 彼女が逃げおおせた翌日、街の中心にある大聖堂から出た勇者アーク・シェインナとその仲間たち。

 彼らの話題は主神教の大司教の1人から先ほど聞いたラグルスの話についてだった。


 大司教が語るには、過去にラグルスが滅ぼした王国跡地で創造神が作りたる聖物を盗み出し、さらには主神教の聖騎士団の1つをむごたらしく皆殺しにしたというのだ。

 ラグルスが去った現場を訪れた大司教の部下が見た光景は、あまりにも凄惨なものだったという。

 その様子を聞いた勇者アークは怒りに震えていた。


「やっぱり、僕があの時ラグルスを倒しておかなきゃいけなかったんだ……!」

「仕方ないわ、無関係な人たちを巻き込むところだったんだもの」

「そうそう、お前のせいじゃねえよ」


 仲間たちが勇者を慰めるが、勇者は首を横に振った。


「いや、たとえそうなったとしても僕が、僕が倒すべきだった!」


 そう言った勇者に、仲間たちは戸惑いながらお互いに視線を交わす。

 勇者の言いようでは街の人々の被害を許容してしまっているのだ。

 まさかあの勇者アークがそんなことを言うなんて。それほど今回の話が痛ましかったのだろうか。

 仲間たちは普段と様子の異なる、いつもなら考えられない結論を出した勇者を案じた。


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