026 悪役から見た彼女
「……まあ、中級くらいなら屋内で使ってもなんとか……なる…………はずだ……なるかこれは……?」
「ふへ、へへへ……」
不安を隠せない俺に彼女がへらへらと笑ってごまかす。
こいつの魔術の扱いがあんまりにもあんまりだったせいで、結局あらかじめ考えておいた指導内容はほとんどこなせていないままだ。
……最初はふざけているのだとばかり思っていたのだが、なんと彼女はいたって真剣に指導を受けていた。
軽く説明してから魔術の手本を見せてやれば、金の瞳を星が瞬くようにきらめかせ、自身も行使せんと取り組む。しかし何故か扱いきれずに暴発させてばかりだ。
それでもどうにか彼女の実力を上げ、新しい魔術も習得し、戦力を底上げできた……と、思いたい。
この俺の体を使っておきながら魔術の扱いがあまりにも下手すぎることは問題だ。
だが何よりも弱すぎて目的を果たせなくなるなどあってはならない。
“原作”における俺の死ぬ時期までまだいくらか時間がある。
それまでに出来うる限り彼女を鍛えなければ。
*
『リオ、ララ……』
片時も忘れることのなかった2人が、記憶よりも少し成長した姿でそこにいた。
胸がきつく締め付けられるようだ。……彼女にも、これが伝わっているかもしれない。
あまり自分の感情がさらけ出されるのは好ましくないが、この気持ちはどうにも抑えられそうになかった。
そうやって俺自身の感情を抑えられずにいると、俺の懐古の念に引きずられたのか彼女からも強い感情が伝わってきた。
——寂しい、会いたい。家族に、会いたい。
こんなにも強く共鳴するのはおそらく彼女と俺と、共通するものがあるからだ。
懐かしさ、もう手に入らぬものへの恋しさ、そして……心の奥底で常に存在する、家族への想い。
俺自身と彼女との泣きそうになるほどの感情にたまらなくなってくるが、今の俺には逃げようがなかった。
もはや彼女の郷愁が、俺自身のものにもなっているように感じる。
彼女が異なる世界の存在で良かった。
もしこの世界に彼女の家族がいて、さらには俺の望みのためその者たちを害さなければならない状況になったら。
……考えたくもない状況だ。
それでも俺はやれるのだろうか、会ったことすらないというのに、まるで自分の身内のような心地のする相手を。
俺はそう考えながら、彼女を案内している2人の姿を内側から見ていた。
*
リオとララ、弟妹たちが俺に——いや、彼女に笑いかける。
「よかったらまた来てね、お兄ちゃん!」
心臓がドクンと強く打つ。くらくらする。
おそらくこれは俺だけではなく、彼女からの感情も含まれているように思う。
なぜ彼女まで2人に対してそんな感情を抱いているのかはわからないが。……後で確認しておくか。
去っていく2人の姿を見送る。笑顔を見ることができて、元気そうで良かった。
あの子たちには、この先ずっと幸福でいてほしい。
そのためなら、何を犠牲にしてもかまわない。
たとえ、この命だろうと捧げられる。
……今胸をおさえている彼女は、果たして希望となりうるのだろうか。
期待はしたくないが、一方でどうしても期待してしまう自分がいた。
彼女がそうであればいいのに。