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025 1-3-10 そして姉になる(大嘘)

「今思えば、あの人はわたしたちを通して自分の弟を見ていたのでしょう」


 そう語り出したのは、ララ——ラグルスの妹の方——だった。



  *



 今から2年ほど前、まだこの施設ができたばかりの頃。

 ラグルスの弟妹であるリオとララは、施設からほど近い森で旅の魔術師と出会った。

 

 その男は身なりが良く所作も自分たちとは違い、おそらく貴族階級か平民であっても富裕層だろう。

 そのような者たちは通常であれば孤児にはあまり目もくれない。

 にもかかわらず優しく接してくれ、ねだれば魔術まで見せてくれる男に2人はよく懐いた。

 施設の職員たちはその男と親しくなることにあまりいい顔をしなかったが、リオもララもそんなことを全く気にせず3人で過ごすのが日常となっていく。


「昔、2人に似た弟がいたんだ」


 魔術師の男はあまり多くを語らなかったが、時折昔の話を聞かせてくれた。

 男にはリオやララに似たところのある、同い年の弟のように思っていた少年がいたこと。

 弟ができて嬉しく、最初は少年をとても可愛がっていたこと。

 しかし男が少年との技量の差が気になり、だんだんと負の感情を募らせていったこと。

 ついには男が何か取り返しのつかない事件を起こしてしまったこと。

 あんなに大好きだった相手なのに、自分が陥れてしまってとても後悔していること。

 その後、親に罪を告白して家を出たこと。


 暗い話を聞かせて悪かった、と男は謝ったが2人は特に気にしていなかった。

 ただ少年の話をする時、とても悲しい目をしているのが2人には寂しい。

 だから2人は男がここにいる限り彼が悲しくならないよう、なるべく一緒に居ることにしたのだ。


 そしてあの日。

 職員たちに言われたしばらく森に行くなという言いつけを破り、こっそり森に入る。

 そんな2人を、魔物の群れが襲ったのだった。



  *



「レイン兄ちゃん……生き別れになった兄といるみたいで、楽しかったんです。それなのに僕たちを庇ったせいで……」

「最期にすまないって、謝ってたんです……」

「君たちのせいじゃないよ。きっとその彼も君たちが無事でよかったと思っていることだろう」


 涙目で語る2人を慰める。


 ——ラグルスくん、名前変わってたのか。偽名必要なかったんじゃない?


 双子を見に来る前に“サトウ”とか“ヤマザキ”とかいろいろ偽名を考えていたのだ。“サトウ”の方は昔の偉人の名前だとラグルスに言われてしまいボツにしたが。

 支援の手続きの際にも偽名を使うつもりである。



*****



【生きたい】悪役魔術師ラグルスになった女のスレ 8


894:1 ID:V1lLa1n+

 それでお墓を作って今に至るそうです

 いきなり知ってる人と知らん人の暗いお話を聞かされとっても気まずいです

 ラグルスくんなんか喋って……


895:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH

 突然そんな重い話するなよ


897:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH

 >>894

 いきなり他人の重い過去話するのを法律で禁じたい


903:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr

 ラグルスくんの情緒ヤバそう


900:名無しの転生者さん ID:gDN/hr+E

 >>894

 サラッとラグルスくんの本名?元の名前?が判明してるじゃん


901:名無しの転生者さん ID:NOyRit2T

 これからレインくんって呼んじゃう?


913:1 ID:V1lLa1n+

 >>901

 試しにレインくんって呼んだらめちゃ嫌そうな顔で「その名の人間はもう死んだ」とか言われたのでこれからもラグルスくん呼びです


 >>903

 ラグルスくんの情緒は多分揺れたと思われる

 なんか胸の奥がぐるぐるする感じになったから

 すぐ感情を抑えたのか一瞬だけだったけど


905:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL

 信じてた兄に裏切られたよぴえん

 からの実は相手は君に愛情を感じつつもコンプレックスこじらせてたよ&後悔してたよ&もう死んでるよ

 って状況か


908:名無しの転生者さん ID:8g5rJ5Gm

 ワイだったら複雑な心境になっちゃう


910:1 ID:V1lLa1n+

 ラグルス「全部、……全部いまさらだろう……」

 だそうです


911:名無しの転生者さん ID:fa1nEB/X

 >いまさら

 それはそう


912:名無しの転生者さん ID:k/ngWZ8e

 >>910

 せめて生きてるうちにわかってればねぇ


914:名無しの転生者さん ID:GEnKa2iT

 私がラグルスくんだったら泣きそう


915:名無しの転生者さん ID:ga+SlRKR0

 ワイちゃんは感受性豊かなので既に泣いてる


917:名無しの転生者さん ID:gDN/hr+E

 いちいち赤の他人のそんな話に共感して泣いてたらこの先転生生活やってられないよ?


918:1 ID:V1lLa1n+

 スレがしっとりしてきたけどそれはさておき


 そろそろ双子ちゃんとお別れの時間がやってまいりました

 あ~離れがたい~~~!


919:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr

 ラグルスくんの想いを浴び続けて双子にクソデカ感情抱いちゃってんじゃん


921:名無しの転生者さん ID:k/ngWZ8e

 離れがたくともちゃんとお別れしようね


922:1 ID:V1lLa1n+

 リオララ「よかったらまた来てね、お兄ちゃん!」ニッコリ


 ヴッ!!!



*****



 2人は笑顔で彼女に言葉をかけ、去って行く。


「よかったらまた来てね、お兄ちゃん!」


 その瞬間、心臓が大きく強く跳ね上がった。まるで魂にまでその鼓動を刻みつけるかのようだ。

 どくどくと脈拍が激しく飛び、震え、その存在を知らしめる。

 彼女は眩しいものを見ている心地で目を細め、2人を見送った。


 ——お、お兄ちゃん呼び、強い……!


 彼女は無意識のうちに胸を押さえてしまう。

 双子と居る間中ずっと、ラグルスが弟妹に抱く強烈な感情を浴びていた。その愛しさと苦しさ、リオとララに対する深い愛情に彼女の心はずっとくらくらと酩酊していたのだ。

 そして彼女はそれらの感情を自分のものとしてしまった。


 つまり一言で言えば、メロメロである。



*****



【生きたい】悪役魔術師ラグルスになった女のスレ 8


931:1 ID:V1lLa1n+

 リオちゃんララちゃん……尊い……

 私はあの2人の姉だった気がする


932:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL

 気のせいにもほどがある


934:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH

 >>931

 お前は姉じゃないぞ


935:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH

 ラグルスくんの感情に引きずられすぎだろ


937:1 ID:V1lLa1n+

 あの2人の笑ってる顔を見るともう、もう……!

 守りたい、この笑顔……!!


940:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH

 もうコイツだめだろ


941:名無しの転生者さん ID:gDN/hr+E

 完全に気持ちが姉になってる


943:名無しの転生者さん ID:ga+SlRKR0

 >>937

 イッチがこんな有様になるあたりラグルスくんもブラコンシスコンの気があるんやろなぁ


946:1 ID:V1lLa1n+

 一応まともに自分を分析すると、元々私が家族を恋しがってたところにラグルスくんの感情がクリティカルヒットしたのかなって思う


 もはや私は姉です


947:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr

 >>946

 錯覚です


948:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL

 >>946

 圧倒的気のせい


950:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH

 >>946

 そこまで自己分析できてるのに姉気分になるのかよ


951:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH

 >>946

 2人の気持ちにもなってみろよ

 いきなりお前みたいななんか変なのが姉になるなんてかわいそうだろ


954:名無しの転生者さん ID:8g5rJ5Gm

 >>951

 イッチに限らず転生ちゃんねる利用してるような奴とは家族になりたくない


959:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr

 >>954

 わかる

 他の住民をスレ越しに眺めるのはよくても家で一緒に暮らしたいとは思わない


958:1 ID:V1lLa1n+

 あ~あの2人の姉になりたい……


960:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr

 >>958

 ラグルスくんと結婚したら?


961:名無しの転生者さん ID:ga+SlRKR0

 >>958

 そこに2人の兄がおるじゃろ?


963:1 ID:V1lLa1n+

 >>960>>961

 嫌です


966:名無しの転生者さん ID:NOyRit2T

 キャー1サーン!(ラグルスくんと)結婚シテェー!!(うちわフリフリ)


967:1 ID:V1lLa1n+

 嫌です


 しかし上の子ってこんな気持ちなんだなって

 いとしすぎて爆発しそう


970:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH

 >上の子ってこんな気持ち

 それは人による


971:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL

 >>967

 兄弟仲は人それぞれだぞ


973:名無しの転生者さん ID:k/ngWZ8e

 >>967

 ラグルスくんは結構弟妹への感情が強い方なんじゃないかなぁ


972:1 ID:V1lLa1n+

 ずっと下の子かひとりっ子だったから新鮮な気持ち

 最初の生では人と猫含めて家族の中で一番年下だったから猫ちゃんすら私には甘かったし

 生後数ヶ月の頃から猫を吸わせてもらってたぐらい


975:名無しの転生者さん ID:fa1nEB/X

 >>972

 生後数ヶ月から猫吸いとかうらやましい


976:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL

 >>972

 猫好きは筋金入りか


978:1 ID:V1lLa1n+

 さて双子ちゃんともお別れしちゃったし支援の手続きも終わったし

 またダンジョン探索に戻るぞ〜!


979:名無しの転生者さん ID:k/ngWZ8e

 >>978

 いってらっしゃい


982:名無しの転生者さん ID:8g5rJ5Gm

 がんば



*****



 ラグルスの弟妹と会った後また船に乗り、そして無事上陸した彼女は街を歩いていた。

 ここで物資を補給しまた次のダンジョンへ向かうのだ。


 荘厳な大聖堂を囲むように広がる街は人通りも多く、活気にあふれている。

 自動補正によりにぎやかな街には相応しくない表情をしている自信がある彼女は、早く用事を済ませようと足を早める。

 人と人の間をするすると通り抜けながら彼女が目的の商店へと向かっていると、ふいに声が投げかけられた。


「ッ、ラグルス・ヴィア・ヴォロス!」


 刺々しい声色に振り向いた彼女の瞳に映ったのは、聖剣をたずさえた勇者アーク・シェインナの姿だった。


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