019 1-3-4 邂逅
【生きたい】悪役魔術師ラグルスになった女のスレ 6
68:1 ID:V1lLa1n+
もうおうち帰りたい……家、マイラブ
69:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH
めっちゃ疲れてるな
71:名無しの転生者さん ID:RCUT9dEx
精神に来るタイプの騒動だったからな
74:名無しの転生者さん ID:Ldh7TgdZ
あの記憶はきついやろ
75:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr
>>68
おうち帰りたいも何もそもそもお前家ないじゃん
78:1 ID:V1lLa1n+
>>75
[画像ファイル]
80:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
>>78
無言の脱糞王子やめろ
81:名無しの転生者さん ID:cK+znvSk
>>78
無言で脱糞王子アップはマナー違反ですよ^^;
84:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3
>>81
マナーとかあるのかあの界隈
85:名無しの転生者さん ID:gDN/hr+E
好き勝手ひとの写真アップしてる界隈でマナーも何もないのでは
87:1 ID:V1lLa1n+
脱糞王子には前世で恨みがあるので特にマナーとか気にしない所存
ところでなんか周りを監視してる聖騎士団がピリついてるんだけど
どうしよ
[画像ファイル]
90:名無しの転生者さん ID:Ldh7TgdZ
>>87
警戒中!って感じやな
91:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr
普通に倒して突破したら?
93:名無しの転生者さん ID:RCUT9dEx
>>91
全体の数とかわからんしコッソリ行動した方がよくね?
94:名無しの転生者さん ID:KeCy8LvA
信仰心つよつよの兵って面倒なんだよな~
死を恐れない、むしろ神のため殉職するのは本望ぐらいの奴が多いから殺さず無力化しづらい
97:1 ID:V1lLa1n+
人コロは避けたいのでこっそり脱出を狙っ
98:名無しの転生者さん ID:Ldh7TgdZ
お、途中送信だ
100:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
今度はどうした?
103:1 ID:V1lLa1n+
証拠を渡した姫騎士が襲われてるっぽい
行ってくる
*****
王城跡地から少し歩いた場所、半壊している城門。
王女は聖騎士団の者たちに囲まれていた。
「お前たち、なぜ襲ってくる!? 戦う理由などないはずだ!」
「神に刃を向ける者に耳を傾けるな! 異端者を倒すのだ!」
「聖物を取り返せ!」
攻撃を防ぎながら聖騎士たちと話をしようとしても、聞く耳を持たない。
いくら王女に実力があろうとも、数が多いうえに死すら厭わない聖騎士たちの勢いはすさまじく、じわじわと追い込まれていく。
「くっ……!」
消耗した王女がついに深い傷を負う。聖物を抱え込んだまま膝をつく。
膝をついた王女に聖騎士の1人が聖力を込めた剣技を放つ。
自身の死を確信した王女には、何もかもがひどくゆっくりと動いているように見えた。
全てが鮮明だった。聖騎士たちの動きも、振り下ろされる剣も。
突如目の前に飛び込んできた、銀髪の男の背も。
*
——い゙っっったい!! めちゃくちゃ痛い!!!
彼女は正直ちょっと後悔している。
王女が斬られそうになっている姿を見て彼女はとっさに体を滑り込ませていた。その結果、真正面から袈裟斬りにされたのである。
魔術を使えばよかっただとか、適当な武器でも取り出せばよかっただとか、せめて身体強化をもっと重ねるべきだっただとか。色々な考えが浮かぶが全ては後の祭りだ。
「ラ、ラグルス……!」
後ろから悲痛な声が聞こえるものの、耳鳴りがするせいか遠くから言葉を投げかけられているように感じる。
元々体調が優れなかったこともあり状態はかなり危ういが、これまでの転生経験から考えるにまだ死にはしないはずだ。死の直前に感じる特有の気配がない。
「貴様はさっさとここを離れろ……! いるだけ邪魔だ!」
言いながら逃げ道を作るため適当な方向に向けて魔術を放つ。
徐々に聴覚がおかしくなっているおかげで、魔術に人体が巻き込まれる音は聞かずにすんだ。
「————! ————————!」
血を流し続けているせいなのか王女の言葉も聞こえなくなったが、言った通りにその場を去ってくれたようだ。
自分1人になり多少やりやすくはなったが彼女の怪我は酷い。
少しだけ魔術で回復はした。しかしこれ以上回復するとこの場で意識を失ってしまいそうだ。
自分のせいで人が死ぬ、という状況こそ免れたものの今度は自身の命が危うくなってしまったのである。
「くそ……」
クラクラする。地面が、世界が回っているように感じる。
痛みのせいか涙の膜が張ってきた。泣いてやるなんて悔しいので、彼女は気合いで雫がこぼれないようこらえた。
ぼやけた視界に、聖騎士たちの迫り来る様子が見えている。
すぐに軽く魔術で散らすものの使命にかられた彼らは止まらず、また距離を詰めようとしてくる。
彼らは死ぬまで止まらないだろう。この手の敬虔な戦士がいかに厄介かは前世で嫌というほど知った。
——あぁ、嫌だ。嫌なのに。
彼女は人間が好きなのに、多くの人々が彼女を嫌い——どころか憎悪を向ける。そしてその人間たちを倒さなければならないことが、悲しい。
おそらく多くの人にとってそうであるように、人を殺す事は彼女にとってとても、とても嫌な事だったが。
「淀み、っ許さぬ大気の、意志よ……っ!」
彼女はこの日、初めて魔術で人を殺した。
*
聖騎士団たちを全て始末した後。
彼女は重い体を引きずりながら、倒れた彼らの間を歩いていた。
これだけの大怪我となると魔術で回復した後には意識を失い無防備になってしまう。そのためせめて身を隠せる場所に移動したかったのだ。
「はぁ、はぁ……」
戦闘前から既に不調だった彼女はもはや息をするのも苦しい状態だ。
肩で息をしながら歩く彼女の視界には、自分の行動の結果が広がっている。
「はぁっ……はぁっ……!」
吹き飛ばされ、胴に折れた柱のようなものが刺さった死体。切り刻まれ、体が半分ほど欠けた聖騎士。
角を曲がる。まるで血が涙のように流れる死体の、濁った瞳と目が合った。
彼女は足を速める。
「はぁっ、はっ……はっ……!」
彼女はこれまでの生において一度だけ人を殺したことがある。
だがその時は対等にお互い全力で戦い相討ちとなり、何よりも彼女には——おそらく相手にも——死に対してある種の納得というものがあったのだ。
彼女に突き付けられた、このような死は初めてだった。
「はぁっ! はっ! はっ!」
ほとんど走っている状態になりながら、彼女は城下町の廃墟のうち比較的に元の形を残す建物に入る。足がもつれ、倒れ込む。
倒れ込んだ時に傷が痛み、嫌な汗がこぼれ落ちていく。床に転がったまま回復魔術を使った。
「うぅ…………くそっ……」
魔術によって痛みが消えていき、かわりに強烈な眠気が彼女を襲う。
そうして彼女の意識は闇へと沈んだ。
*
「……うん?」
気づくと、彼女は何もない空間にいた。あたりは全てが灰色でその一色以外にはなにもない。
状況を飲み込めないまま彼女がぼんやりとしていると、ふと後ろに何かの気配を感じた。
「ずいぶんと無様な姿を晒したものだな」
「……!」
振り向いた彼女の視線はこちらを見下ろす青い瞳とぶつかる。
「ラ、ラ、……ラ!?」
「貴様、魔術だけでなく言葉もまともに使えないのか?」
驚きのあまり語彙力が死に絶えた彼女が指さす先にいたのは、心底呆れた目で彼女を見つめる悪役魔術師ラグルス・ヴィア・ヴォロスだった。