018 1-3-3 ある王国の終わりの日
「ふっ、ふはははは! 発動さえしてしまえば、さすがのラグルス・ヴィア・ヴォロスといえど耐えられまい!!」
「ぐ……ぅ…………っ!」
スクリーンの中、かつての玉座の間。
膝をついているラグルスを前に王が勝ち誇る。
彼女はそれを見ながら、スクリーンに映し出された記録の彼と、今ここにいる自分の感覚とが交じり合っていくような心地になっていた。
頭がぐるぐると、地面はぐにゃぐにゃとして、体の中がかき混ぜられているような気がする。気持ちが悪い。
気がつけば彼女はスクリーンの中のラグルスと同じく膝をついていた。
体中の力が吸い取られていくような感覚だ。魔力が抜けていっているのだろうか。
*
「魔術の使えぬ魔術師など、もはや恐るるに足らず!」
玉座の間、陣の周りには術を行使する魔術師が十人ほど、そして王がいた。
ラグルスが必死で術に抵抗している。体から力が引きずりだされ、同時にぐちゃぐちゃに作り変えられていく感覚だ。
「ははは、ははははは!! これでわしも、神に——」
王も魔術師たちも自分たちの圧倒的優位を疑っていないが、彼は当然諦めてなどいなかった。
ラグルスが懐から何かを投げる。
「ガッ!?」
「へっ陛下!?」
投げナイフが王に刺さる。
それにひるんだ魔術師たちに爆弾を投げつけすぐに身を伏せた。
熱と爆風。
ラグルス自身もダメージを負いつつも気合いで動き残った者を殺す。
数十秒後にはこの空間から、ラグルスの荒い息以外の音が消え去った。
そしてラグルスが重たい体を引きずりながらゆっくりと部屋の外へと出る。
*
国中が地獄絵図だった。
城の中も、街も、異形と化した人間であふれている。
原形の残る程度がそれぞれ違うのは、おそらく各人の抵抗力の差が出たのだろう。
ひたすら暴れまわる者、お互いを喰らい合う者、まだ意識が残っているのか相手に必死で話しかけ喰らわれる者。
それら全員がなぜかラグルスを見ると優先的に襲ってくる。魔術で蹴散らしながら進んだ。
——こんなもので一体どう神になるというんだ。何者かに騙されでもしたか、あるいは手に負えない物に手を出したか。
ひたすら異形を倒しながら外へと向かっていると、ふと親の死体にすがる兄妹らしき者たちが目に入った。
「……リ、…………」
ちょうど——弟妹と生き別れた頃と同じぐらいの年齢の二人。その二人に、最後に見た弟妹の姿がかぶる。
あの時の弟妹も、倒れた父母の亡骸にすがって泣いていたのだ。
思わず立ち止まりつぶやいたラグルスに気づいた二人が頭を向けてくる。
先ほどまでわずかでも意識が残っていたのか、その顔は涙に濡れていた。
しかし二人にもはや理性はない。子供たちが異形と化した腕を振り上げる。
「ヴヴヴ……ガアァアッ!」
「ッ!」
未熟で理性もない攻撃がラグルスに届くわけもなく、二人は彼が反射的に放った魔術で切り刻まれる。
どちゃり、と音がして地面に体の半分ほどが異形となった子供二人の死体が転がった。
小さな子供の死体が。
「…………」
ラグルスはしばらくその場に立ちすくんでいた。
胸の奥で、ぐずぐずと重いものがくすぶっている。最悪の気分だった。
しかし感情とは裏腹に自身の力が増していくのを感じるのがさらに不愉快極まりない。
そしてラグルスはまた歩き出す。
彼は一日中この国の人間を葬り続け、力を増し、最後にはその力でもって国全てを燃やすに至ったのだった。
*****
【生きたい】悪役魔術師ラグルスになった女のスレ 5
698:1 ID:V1lLa1n+
なんか強制的に追体験させられたんですけども
まだちょっと気持ち悪い……
700:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH
さっさとそこ出よう
701:名無しの転生者さん ID:4SYXSMAq
>>698
大丈夫?
704:1 ID:V1lLa1n+
とにかく聖物はハズレだったし帰る
今回は一番疲れたな……
もうなんにも起きませんように!
705:名無しの転生者さん ID:Ldh7TgdZ
おっフラグか?
707:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr
ダンジョン、密室、2日間。何も起きないはずがなく…
708:1 ID:V1lLa1n+
>>707
そういう方向の出来事はマジで何も起きないよ
空気がお通夜なんで
[画像ファイル]
710:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH
>>708
雰囲気が死んでる
711:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
姫騎士からすると仇だと思ってた相手が実は巻き込まれ被害者だった、と
しかも黒幕は父親
気まずすぎてヤバいなこれは
714:名無しの転生者さん ID:KeCy8LvA
姫騎士と聞いて脱いで待ってたんだが……無理そうか……
718:名無しの転生者さん ID:RCUT9dEx
>>714
この状況でよくそういうの期待できたな
717:1 ID:V1lLa1n+
そもそもこんなシリアス状態でなくても元々恋愛とかはやらないけどね
あと服はちゃんと着ようね
720:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
あんまり変態多かったらちゃんとキック機能使えよイッチ
724:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr
>>720
そういえばこの掲示板そんな機能あったな
723:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3
>>720
キック機能ってオンラインゲームとかにある追い出せるやつ?
ここにもそんなのあるんだ?
通りで2.5ちゃんねるみたいなサツバツ感がないと思ったわ
726:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
>>723
最初期はほぼ2.5ちゃんだったぞ
どんどん改修されてってキックだのブロックだの出てきたけど
その辺の機能とあとこの掲示板の特性とかがなけりゃこのスレも多分「くっさ」「しね」とかで埋まってただろうな
729:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH
>>726
あとどうやってるのかわからんスクリプトの類も一掃された
つまり今botみたいな書き込みしてる奴は全員手動でやってるイカれ野郎
725:1 ID:V1lLa1n+
>>720
たまに使ってるよキック機能
でもいちいちキックしてたらキリがないんだよね
変態は1匹見たら無量大数って言うし
悪意がある転生者とかち合うことも皆無だしあんまりキックブロック使う機会がない
732:名無しの転生者さん ID:hEr0iNE/
>>725
初めて聞いたわそんなん
727:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr
>>725
流石にそんなに居てたまるか
736:名無しの転生者さん ID:Ldh7TgdZ
クソデカ単位すぎていまいちよくわからない>無量大数
739:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
>>736
銀河系に含まれる原子の総数ぐらい、らしいぞ
正しいかは知らんが
745:名無しの転生者さん ID:hEr0iNE/
>>739
変態の人数=原子の総数は草生える
743:1 ID:V1lLa1n+
まあスレが荒れたりあんまりにも変態話がスレ占領するようだったら適当に対処するということで
変態の話してるうちにやっと地上に戻った
姫騎士も大人しくなったし拘束を解いてさよならしまーす
*****
地上、崩れた城に出た彼女は王女の拘束を解いてやった。
彼女から見て、王女はどこか呆然としているように見えた。もう襲っては来ないだろう。
彼女がその場を立ち去ろうとすると王女が声をかけてくる。
「ま、待て!」
「……なんだ?」
立ち止まって聞くが王女は何かを言いよどんでいるばかりで話を始めない。
「話がないなら去るが」
「待ってくれ! ……あの事件は、お前の仕業ではなかったんだな?」
「聖物で見た通りだ」
彼女も聖物に映し出された部分しか知らないが、それでもラグルスが発端ではないことは確かだ。
記憶を漁ると確実に見たくないものを見る羽目になるため、他の情報は得られていないが。
「そうか……。私は、その、……すまなかった」
「別にいい。貴様は俺に傷1つつけられなかったしな」
自動補正はいちいち皮肉を足さなければ気が済まないのかもしれない。
しかしその皮肉は、むしろ王女の心を軽くしたようだ。
「……ふ。そうだな、私ではお前を倒せない」
「…………」
「私はこれからこの事件について仲間と探る。痕跡を見る限り、明らかにアレをこの国に持ち込んだ何者かがいるからな」
「ならこれを持っていけ。俺には必要ないからな」
彼女はそう言って聖物を渡した。ダンジョン内にあった映写の装置である。
「いいのか?」
「この国にあったものだ、最初から貴様のものだろう。……気になるなら対価としてこの事件の真相を広めておけ。俺の面倒が減るように」
元々は自分の肉体を手に入れるより先に勇者と出会った場合に、弁解して少しでも助かる確率を上げようと持ってきたのだ。
王女が真相を言って回るなら手間が減るし、第三者から話した方が信じてもらいやすいだろう。
「わかった。必ず真実を明らかにしてみせる」
「これで用は済んだか? なら俺はもう行く」
それだけ言ってすぐに彼女は王女と別れた。
先ほどの追体験ですっかり心身ともに疲れている。早く休みたかった。
*
真相が記録された聖物を預け、ラグルスは去っていった。
王女はその背を見送る。
——父上のことで、彼には迷惑をかけてしまった。必ず濡れ衣を晴らそう。
王女はそう心に決める。
隠してはいたがラグルスはひどい顔色をしていた。そんな状態になってまで手に入れた聖物を渡してくれた、その分だけでも何か返したい。
そして王女は共に来た仲間と合流し今後について相談するためラグルスとは逆の方向へ歩き出した。
——まずは彼らと情報共有して、情報を流すルートを決めて、…………。
これからの行動を歩きながらずっと考え込む。
だからか、王女は気が付かなかった。
数人の影が気配を殺しながら近づいてきていることに。