017 1-3-2 亡国の姫と胃痛探索
彼女は眼前に迫った剣を、とっさに握りしめていた。何重にも身体強化していなければ今頃片手を失っていただろう。
地面に寝ている状態から少し体を起こした彼女の目の前、ほんの数センチほど先に刃。
剣を振り下ろした相手はまさに鬼の形相といった顔でこちらに憎悪のまなざしを向けている。
姫騎士の女。かつてこの国の王女だった女だ。
この王女がここにいる経緯はわからないが、襲ってきた理由だけは明確だ。かたき討ちだろう。
しかし当然おとなしくやられてやるつもりなど毛頭ない。
握った剣を引きよせる。
相手が体勢を崩したところを蹴り飛ばす。
「ぐぅっ!」
飛んでいった相手にそのまま何発か殴る。割とすぐに意識を刈り取れた。
動かなくなった女を見て一息つく。
「そういえば結界は……あぁ……」
ちらりと横を見れば、結界を張るアイテムが先ほどの戦闘のせいで壊れていた。
たしかこれは聖なる力とやらを扱う相手には効かないんだったか。
「はあ……」
ひとまず相手を拘束し、困り果てる。
この王女を、いったいどうしたものか。
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【生きたい】悪役魔術師ラグルスになった女のスレ 5
555:1 ID:V1lLa1n+
華麗な真剣白刃取り……からの蹴り!
[動画ファイル]
558:名無しの転生者さん ID:aqgeZghf
>>555
片手でわしづかみするのは真剣白刃取りって言わないんだが
真剣白刃取りエアプか?
560:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
>>558
そりゃ世の中のだいたいの奴は真剣白刃取りエアプだろ
559:名無しの転生者さん ID:Samw2rAi
>>555
手は大丈夫でござるか?
561:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr
流れるような物理攻撃
564:名無しの転生者さん ID:gDN/hr+E
魔術師くん♡魔術使って♡
568:1 ID:V1lLa1n+
>>564
身体強化の魔術ならいつも使ってるやで♡
ちなみに手は無事
とりあえず元この国の王女な姫騎士を拘束したょ
[画像ファイル]
570:名無しの転生者さん ID:k/ngWZ8e
わぁ綺麗な女の人~
571:名無しの転生者さん ID:hEr0iNE/
>>570
般若みたいな顔してますけど
575:名無しの転生者さん ID:aqgeZghf
>>571
確かラグルスが滅ぼした国の王女だったからしょうがない
574:1 ID:V1lLa1n+
姫騎士「くっ……殺せ!」
このセリフ本当に言う人いるんだな……
578:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr
>>574
くっころじゃん
580:名無しの転生者さん ID:4SYXSMAq
出た!定番だ!
581:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3
>>574
殺すの?
583:1 ID:V1lLa1n+
殺さないです
なるべく人殺したくない
ただどうすればいいかもわかんない
584:名無しの転生者さん ID:k/ngWZ8e
君って人コロコロ経験ないタイプ?
587:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3
>>583
死んだら後味悪いな~って感じなら連れてったら?
588:名無しの転生者さん ID:4SYXSMAq
自分を仇だと思ってる相手と一緒て気まずそ~
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「はぁ…………」
深くため息をつく。気まずいどころの話ではなかった。
彼女には全く関係のないことではあるのだが、今彼女はラグルスの中にいる。
他人の業を背負ってやる気はない。しかしこうして突き刺すような憎悪の視線を一身に受けるのも実にやりづらい。
「んん~~!! ん゛ん゛ん゛~~~~!!!」
王女がわめいているが無視して引っ張っていく。
拘束を解けばすぐさま襲ってくるだろうし、拘束したままダンジョンの中に置いておくわけにもいかない。
死ぬのは怖いが、死なせるのもまた怖かった。他人の命など背負えない。
王女を無視しながら探索し、時折出くわすゾンビや骸骨らしき魔物を倒し、足を進める。
いたるところにある資料からして、この場所で行われたのはかなり悪趣味な事だったらしい。
「……!」
明らかに非合法的な行いがあった資料や痕跡を見るたび、王女がなにやらショックを受けている。
何か声をかけようか迷ったが自動補正がある上に王女からすれば彼女は仇だ。黙っていよう。
——あ~、ダンジョンを攻略し終える頃には胃に穴でも空きそうだなあ……。
心なしかキリキリ痛む胃を気にしつつ、彼女は探索を続けた。
*****
【生きたい】悪役魔術師ラグルスになった女のスレ 5
629:1 ID:V1lLa1n+
ギスギスオフライン
[画像ファイル]
631:名無しの転生者さん ID:KeCy8LvA
空気悪っ!
634:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
二人とも無言で特に罵詈雑言とかもないんだけど雰囲気がめちゃピリピリしてるな
635:1 ID:V1lLa1n+
わざわざ資料とか漁らずに聖物探したいのにホラーゲームみたいな探索時にいちいち謎解きさせる仕様のせいで見ないわけにいかない
そしていちいち姫騎士がショック受けてる
636:名無しの転生者さん ID:RCUT9dEx
ホラゲで割とある隣の部屋に行くだけでわざわざアイテム入手と謎解きが要るようなやつか
637:名無しの転生者さん ID:Mc9G8tiy
>>636
あの謎解きだらけの空間、普段はどうやって生活してたんだ?ってなるよな
641:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH
>>635
ダンジョン化のせいか元々かどっちだろうな
642:名無しの転生者さん ID:Mc9G8tiy
>>635
そりゃあ自分の国、というか家族がやべー実験に関わってた可能性大だしいちいちショックも受けるだろ
644:名無しの転生者さん ID:RCUT9dEx
自分の父ちゃんが国民を生贄にしようとしてました!
……すっごい嫌だな
647:1 ID:V1lLa1n+
やたら多い手記とか日記とか資料を読んで
石像動かしたりエンブレムを取ったり地図を順番に並べたり……
ようやく辿り着いたぞ聖物に
[画像ファイル]
649:名無しの転生者さん ID:4SYXSMAq
>>647
なんかでっかい水晶みたいだね
652:名無しの転生者さん ID:gDN/hr+E
>>647
ふわふわ浮いてていかにも謎のアイテム感ある
653:名無しの転生者さん ID:wCqsy9zr
>>647
なんかうっすら光ってね?
656:名無しの転生者さん ID:RCUT9dEx
>>647
水晶?の後ろになんか白い布垂らしてあるし映像装置的なアイテムだったり?
657:名無しの転生者さん ID:KeCy8LvA
今回の聖物は当たりかハズレかどっちかな〜
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薄暗く広い、石造りの壁の部屋。
扉に背を向けるように並んだ数人ほど座れる長さのソファに、中心に水晶のような聖物。
さらに聖物の前に少し距離を開け、壁際には天井から白い布がかかっている。
ちょっとしたシアターのような部屋である。
彼女はあたりの気配に注意しつつも水晶へと近づいた。
水晶はぼんやりと、かすかに光を放っている。
——三度目の正直ならぬ五度目の正直にならないかな。無理かな。無理そう。
部屋の様子を見る限り単に映写機の機能を持つアイテムであって、あまり強力な力を持つ聖物だとは思えない。
諦め半分で、しかしわずかな希望を持ちながら彼女が聖物に触れる。後ろでなにやらむーむー言っている奴は無視だ。
「ハズレだな。期待はしていなかったが」
案の定、聖物から感じられる力は強くない。これなら前回の方が強かったぐらいである。
彼女が落胆しながら手を離すと聖物の放つ光が強くなった。うっかり起動させてしまったらしい。
そして前方にある白い布、おそらくはスクリーンに向けて光の道が作られる。
「これは……」
スクリーンに映し出されていたのはまだ壮麗さのあるかつての玉座の間。
そこで膝をつく、青ざめた顔をしたラグルス・ヴィア・ヴォロスの姿だった。