016 1-3-1 王国を燃やした炎
燃えている。全てが。
昨日までは人々が生きて、言葉をかわし、笑顔を浮かべた街並みも。この国の始祖が作り上げ、王国の象徴として民を導かんとする者たちの誇った絢爛たる白亜の城も。
何もかもを灰にしようとする意思を持つかのような青い炎を、もはやこの地でただ1人の生者となった青年が睨みつけていた。
青年はボロボロの衣服に傷だらけの体で、しかしその瞳だけが異様にギラギラと怪しい光を持つ。
「……ふざけるな」
青年——ラグルス・ヴィア・ヴォロスが、自らの生み出した炎を前にぽつりとこぼす。
「こんなことは、許されない」
言いながらラグルスが魔術を使う。青い炎がさらに勢いを増し、ごうごうと唸る。
「もしもこれが、こんなものが許されるのなら」
その瞳の奥には、ふつふつと何かが煮えたぎっていた。
「俺が世界の何もかもを、滅ぼしてやる……!」
*****
【生きたい】悪役魔術師ラグルスになった女のスレ 5
361:1 ID:V1lLa1n+
ラグルスくんが燃やした国に来たその日の晩にそんな感じの夢を見たわけですけども
なんかのフラグとかかな?
364:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH
>>361
普通に考えてラグルスくんの記憶では?
365:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH
内容がなんか悪役にも悲しい過去が!?系イベントっぽく思える
367:名無しの転生者さん ID:fa1nEB/X
>>361
国滅ぼし事件は原作ではシンプルに悪役がやった悪事だったはず
なんか裏設定あったのかな?
気になる
368:名無しの転生者さん ID:k/ngWZ8e
聖物探すついでにその辺の手がかりも探してみたら?
*****
彼女はスレッドの反応を見て少し落胆した。
何か自分の知らない話、例えば自分の死後に番外編やスピンオフなどが登場し明らかになった情報があるのではないかと期待していたのだ。
ここはかつてラグルスが一夜で滅ぼしたという国の跡地である。
昨日の夜にたどり着き、城下町のかろうじて屋根が一部残っている建物で眠りについたのだ。
数年前までこの国は活気にあふれ、強国といえるほどではなくとも安定した立ち位置にいたという。だが今は見る影もなく廃墟と灰が残るばかりだ。
国ひとつを燃やす魔術の代償かあるいは亡者の執念か、この地は瘴気に満ちておりただの人間であれば近づくことすら難しい。近隣にいる主神教の神官たちが定期的にこの地を浄化しているらしいが、いまだ人の気配のない町を見るに成果はほぼ無いようだった。
瘴気の影響を考え立ち入り禁止区域に指定され、主神教の聖騎士団が監視しているところに彼女は忍び込んでいる。
この世界では瘴気とは、魔力や生命力といったものに悪影響を与える力のことだそうだ。ただし、特定の禁術や邪術ではむしろ瘴気をエネルギー源として扱うらしい。
「呼吸が捗らない……」
この場所を前提知識を持って見てみれば、良くない空気がただよっている気がしてくる。彼女には瘴気というものは、いまいちよく感じとれなかったが。
静かで、生者もおらず、まさに死んだ場所。前回のダンジョン“生命の大森林”とは何もかもが真逆の、死を象徴するような場所だった。
今回は王城跡地の地下に出来たというダンジョンが目的だ。
王国の財宝が眠っていて攻略すれば一生遊んで暮らせるだとか、無念の死を遂げた王族の亡霊が襲ってきて生還したものはいないだとか、はたまた秘密の人体実験の研究所があるだとか。様々に好き勝手噂されていた。
そんな眉唾物の噂を信じたわけではない。たが未だ生命の住めない土地であるからには何かあるのでは、と探索に来たのだ。
——ついでに原作の舞台裏ってやつも見られるかもしれないし?
せっかく原作で描写された場所に来たのだから、と沈む気分を入れ替え彼女は探索を開始した。
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【生きたい】悪役魔術師ラグルスになった女のスレ 5
395:1 ID:V1lLa1n+
なんか気分上がらなーい……
ここにいると明らかに私のじゃない感情がわいてくる
悲しいし悔しいし憎いし腹が立つ
場所の問題なのかラグルスくんの感情なのかもわからん
396:名無しの転生者さん ID:NOyRit2T
けっこうキてる?
399:名無しの転生者さん ID:8g5rJ5Gm
>>395
あんまりヤバいなら撤退もありやで
400:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH
安全第一でいこう
403:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3
そこで死んだ人の怨念とかならわかるけどラグルスくんの感情だったら「悲しい」とかは意味わかんなくない?
自分が殺したんじゃん?
405:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
>>403
そこはまあ悪役にも悲しい過去パターンならありえなくもない
406:名無しの転生者さん ID:GEnKa2iT
スレ主体調とか大丈夫そう?
410:1 ID:V1lLa1n+
>>406
今のところ大丈夫
自分の感情と切り分けられなくなりそうなら離脱するわ
とりあえず気分を変えるためにこのダンジョン攻略後にやるラグルスくん自(?)撮りのネタを募集したい
人前に出ても大丈夫な程度に、常識の範囲内でよろしく
411:名無しの転生者さん ID:oQyvScqi
>>410
バニーガール
412:名無しの転生者さん ID:aqgeZghf
>>410
青空全裸
415:名無しの転生者さん ID:9C5y+U4x
>>411>>412
注意事項ガン無視じゃねぇかよ
417:1 ID:V1lLa1n+
常識の範囲内でって言ったんですけど……
418:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3
いきなりきっついリクエストすんなよw
419:名無しの転生者さん ID:NOyRit2T
このスレたまに変態いない?
422:名無しの転生者さん ID:aqgeZghf
そもそも他人の体で好き勝手写真アップするのが常識の範囲外なのでは?
426:名無しの転生者さん ID:hEr0iNE/
>>422
ええこと言うやん、と思ったら青空全裸リクエストした変態やんけ
424:1 ID:V1lLa1n+
>>422
それはそうだけど変態に常識を説かれるとなんかムカつくな……
425:名無しの転生者さん ID:Mc9G8tiy
草
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スレッドで雑談をしながらも歩き続け、彼女は王城跡地へとたどり着いた。
かつてその美しさをたたえられた城も今は見る影もない。
彼女は周囲が崩れないか気にしながら跡地の中心、謁見の間があったと思われる部分へ向かう。
何かの魔術であろう壊れた陣が玉座の前、部屋の中心から広がっている。破損がひどく陣の内容は推測できない。
「多分、ここだな、っと!」
床に魔術的な隠蔽の痕跡を見つけ解除すると地下へと続く階段が現れた。先からひんやりとした空気が漂ってくる。
想像していたよりも大きく、かつ王城にあるものとしてはシンプルな下り道。等間隔に灯りがある。
なんとなく、聞いていた眉唾物の噂を思い出しつつ、彼女は階段へと進んだ。
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【生きたい】悪役魔術師ラグルスになった女のスレ 5
469:1 ID:V1lLa1n+
ひんやり空間
全然階段が終わらない
[画像ファイル]
472:名無しの転生者さん ID:Mc9G8tiy
>>469
階段長くね?
ダンジョンだからこんなもん?
473:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH
そっちの世界のダンジョン、仕組みが気になる
研究したいな~
475:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
お前のところのダンジョンって、元々ある空間がダンジョン化するのと異空間が新しく作られるのとあるんだっけ?
そこはどっちっぽいんだ?
479:1 ID:V1lLa1n+
>>475
王城なら秘密通路ぐらいありそうではある
あと、この階段を降り始める前にヤバな文書を見つけたから前者かなあとは思う
[画像ファイル]
483:名無しの転生者さん ID:NOyRit2T
文書が難しくて頭痛くなった
誰かわかるように言って
488:名無しの転生者さん ID:9C5y+U4x
>>483
簡単に言うと国の人間の多くを生贄にしようぜ!って儀式についての文書
破れてて儀式の効果は不明
485:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3
>>488
堅実な運営がされてたっていう国が実はだいぶヤバいことやってたのか
487:1 ID:V1lLa1n+
やっと階段終わった!
3時間ぐらい降りてた気がする
[画像ファイル]
489:名無しの転生者さん ID:8g5rJ5Gm
おつかれ
493:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH
>>487
1時間50分ぐらいだぞ
494:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH
退屈な時間は体感長くなりがち
499:名無しの転生者さん ID:Mc9G8tiy
たしかスレ主駆け下りてたよな?
2時間弱はヤバいわ
あとスレ主体力お化けか?
503:1 ID:V1lLa1n+
>>499
ラグルスくん元々バトル続きの日々だったぽいし
私が健康的な生活送ってるし
あと憑依してからずっと毎日体操してるし
今すごい体力ありあまってる
498:名無しの転生者さん ID:ga+SlRKR0
いっぱい部屋が並んでて探索に時間かかりそうやね
500:1 ID:V1lLa1n+
試しに2つドア開けたけど両方ベッドがある個室だった
時間も時間だし適当に結界張って寝ちゃおうかな?
504:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3
>>500
ベッドが使えそうならいいんじゃない
507:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
>>500
安全確保はしっかりしろよ
510:1 ID:V1lLa1n+
じゃおやすみ~
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——予想していた展開ではある。
彼女は夢を見ている自覚を持ちながらそう思った。
おそらくかつての滅ぶ直前の王国の城下町で、ラグルスが夜の闇にまぎれた刺客の1人を締め上げていた。
締め上げている対象以外は地面に倒れており、絶命していると思われる。
ラグルスが冷笑を浮かべた。
「へえ? それで俺を連れて来いと言われたわけか」
「そっ、そうですっ……」
「この俺を儀式の素材扱いとは、どうやら国王陛下は命が惜しくないようだな?」
「すすっす、全てお話しましたからっ、た、たすけ……! カハッ!?」
ラグルスが腕を一振りし、最後の1人も血を吐き死んだ。
表情を消し、そのまま刺客たちを見もせずに王城へと向かう。
「発動にわざわざ高魔力の素材を必要とする儀式か……禁術の類か? 俺の役に立つものであればいいが」
すたすたと歩くラグルスを眺めていると、——ふと彼がこちらを振り返った。
そして明らかに彼女に対して、冷めた目で言葉を放つ。
『いつまで寝ているつもりだ。そろそろ起きなければ死ぬぞ』
その瞬間目を開いた彼女が見たのは、自身に対して今まさに振り下ろされている剣だった。