014 1-2-10 転変の一族との戦い
大森林にて、あたりがすっかり夜の闇に包まれた頃。
集落の中心、一族の聖物をおさめた祠にひっそりと近づく影があった。彼女である。
そして彼女が祠の扉に手をかけた途端。
「そこまでだ!」
声が響き渡る。気づけば周囲は転変の一族の戦士らしき男たちに囲まれていた。
リーダー格だと思われるひときわ大きな男がさらに叫ぶ。
「我らの巫女に手を出した代償、支払ってもらうぞ!!」
気配を感じ、彼女が飛びのく。
直後、彼女がいた場所に大槌が振り下ろされた。
大槌を振り下ろしたのは先ほど叫んでいた周囲の戦士より一回りほど大きな体格の男だ。
他の戦士と違い上半身に一枚の上等そうな布をまとっている。
「ハッ、随分なご挨拶だな。敵対するなら容赦はしないぞ」
彼女が言い、拳を構える。
こうして不本意ながら彼女と転変の一族たちの戦いが始まった。
*****
【生きたい】悪役魔術師ラグルスになった女のスレ 4
297:1 ID:V1lLa1n+
戦士「我らの巫女に手を出した代償、支払ってもらうぞ!!」
は?なんか事情を知ってる巫女本人がいるのに誘拐犯扱いされてるんですけど??
巫女さん???さっきから視線が合わない巫女さん?????
298:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3
ちょっと切れてて草
300:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH
>>297
お前の中で巫女の好感度めちゃくちゃマイナスになってそう
301:名無しの転生者さん ID:9C5y+U4x
年齢的に同意でも誘拐犯になったりするのでは
305:名無しの転生者さん ID:RCUT9dEx
>>301
巫女はたしかギリこの世界で成人のはず
302:1 ID:V1lLa1n+
なんか一番の戦士っぽいやつを殴ったけど物理通らぬ
戦士が大森林の加護により物理攻撃を通さない一族の宝衣とかドヤってて腹立つな
魔術を……ん?
306:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3
>>302
でもお前もよくドヤってるじゃん
307:名無しの転生者さん ID:Ldh7TgdZ
まず物理攻撃から始める魔術師()
309:名無しの転生者さん ID:9C5y+U4x
最近殴った方が早いみたいな判断しがちでは?
310:名無しの転生者さん ID:gDN/hr+E
魔術師くん魔術使って!
314:1 ID:V1lLa1n+
魔術が発動しない
316:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3
は?
317:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH
えっ
319:名無しの転生者さん ID:fa1nEB/X
どゆこと?
322:1 ID:V1lLa1n+
戦士「フハハハハ……!これぞ魔術の発動を防ぐ一族の秘伝の陣、魔封陣!」
なんか周りの戦士が呪文みたいなの唱えてる
多分複数人で一つの陣を完成させるタイプかな……条件揃えて敵をハメさえできれば強いやつ
323:名無しの転生者さん ID:a7d8VEnt
名前そのまんまやんけ!
324:名無しの転生者さん ID:Ldh7TgdZ
名前のわかりやすさはピカイチ
329:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH
周りの戦士から倒したら?
331:名無しの転生者さん ID:fa1nEB/X
ボス戦で複数体一緒に出てきて先に倒さないといけないやつ、嫌い
328:1 ID:V1lLa1n+
周りを倒そうとすると物理無効の戦士がキッチリ邪魔してくるし、物理無効に魔術使おうとしても発動しない
隙を生じぬ二段構え……ずっこい!
のじゃ「どうじゃ一族の力は?このままではお主は不届きものとして討たれるが……お主がわらわとどうか婚姻させてくださいというならとりなしてやってもよいぞ?」
なんか黙ってた巫女が調子乗ってきたけど嫌でちゅ……
こんな奴と結婚するぐらいならたとえ次の人生がなくとも舌嚙んで死ぬでちゅ……!
334:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
>>328
ピンチの時ふざけないと死ぬ病か?
336:名無しの転生者さん ID:9C5y+U4x
まだ諦めてなかったのかよ!
337:名無しの転生者さん ID:RCUT9dEx
これ詰んでね?
339:名無しの転生者さん ID:k/ngWZ8e
なんか今までで一番追い詰められてる気がするなあ
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——たとえ死んでも、こいつの言う通りにはしてやるものか。
彼女は憤っていた。大柄な戦士の攻撃を避け続けながらも、怒りが腹の中をぐるぐるとめぐる。
その感情に支配されすぎないよう頭の中でスレッドを眺める。スレッド内では現状をアニメやゲームに例えて会話が繰り広げられていた。
「ふふふっ……ふはははぁっ! もう打つ手はないじゃろう!?」
「……チッ!」
——なくはない。成功するかはともかく。……いや、絶対成功させてやるからな!
彼女はひとつ舌打ちをこぼしつつもそれ以外には何も反応を返さないようつとめる。
戦士から距離を取り、ひとつ呼吸する。自分の記憶を掘り返す。
以前ラグルスが体感させてくれた魔力の扱いもすくい上げ、これから行うことをイメージした。
「もう観念して——」
言葉は聞かず跳ぶ。
戦士の懐に入り込み、首を掴む。
戦士は一瞬目を見開くもすぐに余裕の表情を浮かべる。
着用すれば肌の出ている部分であろうと物理攻撃を無効化するという一族の宝衣によほど自信があるのだろう。
しかし。
「ガッ……!? ぐぁっ、ああああっあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙あ゙あ゙っっっ!!!」
突如戦士が苦しみ出し、倒れる。
倒れ込んだ後もなお苦悶の表情を浮かべ身をよじった。
「な……っ!? 一体何をしたのじゃ……!?」
圧倒的な優位を保っていたはずの大槌の戦士が倒れ、巫女や周囲の戦士たちは動揺を隠せない。
その隙にさっさと戦士たちをただの置物にしていく。数人蹴り飛ばしたところで陣が維持できなくなり、戦士たちの中には恐怖からか逃げるものも出た。
魔術を使う。氷で全員を囲み、電撃で意識を落とす。
巫女が何が起こったのか理解する前に、立っているのは巫女と彼女だけになった。
「ひ、ひっ…………!」
ゆらりと、青い瞳が巫女を見た。
巫女が思わず後ずさる。
「魔力だ」
「ま、魔力……?」
ゆっくりと近づきながら説明してやる。
「魔力は魔術に使うだけでなく直接相手にも流し込めるだろう。人1人の許容量をはるかに超えるだけの魔力を一気に流し込んでやれば、あとは勝手に魔力がそいつの中で暴れまわる」
「は、はぁ!? 流し込もうとしたとて、普通は魔力がほぼ失われるだけで終わるじゃろう!! そんな技術を持つやつがおるか!? だいいち、そんなことをしようと思うたら人の持つ魔力では到底足りんぞ!」
「俺にはできる。実際やっただろう」
——まあぶっつけ本番だったけど。できたのでヨシ!
「ば、化け物じゃ……」
こういった反応が出ることは、彼女には予想の範囲内ではあった。ラグルスは魔力を扱う技術もとびぬけているが、魔力量の方はもはや異常としか言えない。
おそらくは例の禁術とやらによるものだろう。
少なくない数の人の命を犠牲に成り立っているものを利用することに、彼女は思うところがないでもない。
だが彼女にとっては自身の命の方が大切だった。死ぬのは——いや殺されるのは、嫌だった。