010 1-2-6 ダンジョン“生命の大森林”
——うーんどこを見ても、緑、緑、緑。あと茶色。
異教の神殿を去り二週間後、彼女は次なるダンジョン“生命の大森林”を訪れていた。
ここは元々広大だった森林がダンジョン化し外部から見た姿よりもさらに異常に広がった場所らしい。
その歴史は古く、人間族が国を作り始めるより前からここに住む特殊な種族が自分たちの集落で聖物を祀っており、その聖物こそがダンジョン化の原因だという。
つまりこの大森林にはほぼ確実に聖物があるのだ。
多種多様な生き物たちを観測でき、空気中の魔力も濃い。まさに"生命の大森林"の名にふさわしい生命力・気が感じられる。
木漏れ日が気持ちいい。清浄な空気の流れるこの場所で、彼女は深く呼吸をした。
「……呼吸が捗る!」
それはもう、ぴっかぴかの笑顔だ。先のダンジョンでの一件以来、彼女1人きりの状態であれば比較的に自動補正がゆるくなった。
ちなみに自動補正がゆるくなったことに気づいた彼女がいの一番におこなったのは自撮りのリベンジである。きゅんですポーズが最もウケが良かった。
「さて、聖物はどこにあるやら……」
彼女はため息をついた。
遠くから軽く見ただけでもかなり広大な森だった。
これが中に入ってみればさらに広くなっているのだから、目的のアイテムにたどり着くまでどれほどの手間と時間がかかるか予測もできない。
「……しらみつぶし……しかないか…………」
げんなり、という顔を隠しもせずに彼女はとぼとぼ歩みを進めていった。
*****
【生きたい】悪役魔術師ラグルスになった女のスレ 3
555:名無しの転生者さん ID:KeCy8LvA
やっぱラグルスくんの顔色良くなってない?
最初はがっつり存在主張してたクマが消え去ってるぞ
557:名無しの転生者さん ID:8g5rJ5Gm
>>555
そりゃ世界滅亡させちゃうぞ☆彡って寝る間も惜しんでた以前と
スレ主が健康生活やってる今じゃ違うわな
559:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3
>>555
よく食べよく寝てよく遊んでるからな
560:1 ID:V1lLa1n+
最低でも一日8時間は寝たい、正直14時間ぐらい寝たい
そんな私はファンタジーな生命力あふれる大森林に来たよ
「空気がおいしい」って言葉を実感できる
[画像ファイル]
563:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
>>560
14時間は多すぎだろ
頭痛くなるぞ
564:名無しの転生者さん ID:9C5y+U4x
RPGの森マップみたいな場所だな
想像より明るいけど
566:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH
樹海じゃなくて大森林って表現がぴったりな感じ
太陽!生命力!パワー!みたいな
569:名無しの転生者さん ID:hEr0iNE/
イッチってどうやって画像とか上げとるんや?
ワイちゃん脳直やと写真とられへんのやが
書き込みも練習中やけど
570:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH
俺も気になってたわ
毎回媒体出さないとうまく取れない
なんかコツとかある?
575:1 ID:V1lLa1n+
>>569
脳直で撮影する時はなんか透明人間(浮遊する特殊能力持ち)がカメラマンやってるイメージで撮ってる
人によっては「ここには見えないけどなんか目玉があるんだ!誰にも見えないがあるったらあるんだ!」とか思いこんだりしてるらしいよ
577:名無しの転生者さん ID:Mc9G8tiy
>>575
その例は思い込み方がなんかちょっと怖いな
578:名無しの転生者さん ID:hEr0iNE/
>>575
透明人間か~
ワイちゃんもヤってみるわ
580:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH
>>575
俺もやってみよ
571:名無しの転生者さん ID:GEnKa2iT
この森めちゃんこ広そうだけど探すアテはあるの?
576:名無しの転生者さん ID:9C5y+U4x
手がかり無かったらめちゃくちゃ時間かかりそうだな
579:1 ID:V1lLa1n+
手がかりは正直全くない
けど毎回何かしらイベントが起こって聖物なりダンジョンなりへの道筋が出来てるし大丈夫やろ
今回も — 運命 — に導かれるはず
元々私は運が強い気がするし
582:名無しの転生者さん ID:KeCy8LvA
>>579
運命って書いてデスティニーって読んでそう
583:名無しの転生者さん ID:uqKO/6oH
>>582
「さだめ」の方かもしれんぞ
586:名無しの転生者さん ID:qJfRGTx3
運が強いってなんだよ
しかも気がするだけかよ
587:名無しの転生者さん ID:GEnKa2iT
こんな憑依なんて状態になってるあたり幸運ではなさそう
589:名無しの転生者さん ID:8g5rJ5Gm
>>579
つまり行き当たりばったりか〜
588:1 ID:V1lLa1n+
というわけで、一応探索しつつイベント発生を待つやで~
*
674:名無しの転生者さん ID:ZaYM4VEH
そして5時間ほど経ったわけですが……
677:名無しの転生者さん ID:4SYXSMAq
もうそっちは暗くなってるんじゃないの?
678:名無しの転生者さん ID:hEr0iNE/
イベントゼロで草
680:名無しの転生者さん ID:k/ngWZ8e
ちょこちょこ雑魚モンスターが出るだけだったねぇ
682:1 ID:V1lLa1n+
は?何も起こらないんだが???
は???
運命くん?????
683:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
別にイベント発生は誰かが確約してくれてるわけでもないからな
685:名無しの転生者さん ID:GEnKa2iT
もう今日は寝たら?
686:1 ID:V1lLa1n+
おのれ運命め……
もう薄暗くなってるし今日は寝る!
688:名無しの転生者さん ID:9C5y+U4x
お疲れ
689:名無しの転生者さん ID:4SYXSMAq
おやすみ~
670:名無しの転生者さん ID:5PZyVgBL
乙
*****
彼女は若干ふてくされながらもするすると木の上に登った。
野営のための道具は持っているが、設営をめんどくさがる彼女は1人の時にはいつも適当な木の上や茂みの中で寝ている。
落ちないよう枝の強度や体勢を確かめ、目を閉じる。
すぐに眠気が襲ってきた。
「待てぇい!!」
「待てと言われて待つ馬鹿はいないのじゃ!!!」
しかし響いた大声に彼女の眠気は散らされてしまった。
少し不愉快になりながら声の方を見ると、フードをかぶった小柄な少女が三人のガラの悪そうな大男たちに追われている。
その様子を見ていると、少女の前方からさらに二人の男がやってくる。
「へへっ……もう逃げられねぇぞ」
「くうっ…………!」
男の1人に腕をつかまれ、少女のフードが外れる。
中からくりくりした瞳が印象的な可憐な顔と艶やかな金髪、そして独特な飾りのついた大きな耳が現れた。あれは狐か犬の耳だろう。
それを見た彼女はつぶやく。
「転変の一族か……!」
転変の一族。この大森林がダンジョンとなっている原因の聖物を祀る一族である。
改めて少女を見ると一族の民族衣装である一枚の布を使った服を着ている。
思いがけない幸運に彼女はにやりと笑みを浮かべ、さっそく五人の獲物を狩ることにした。
まずは木の上を伝って男たちの真上に移動し、飛び降りながら少女の腕をつかむ1人を足蹴にする。魔術で勢いを増すことも忘れなかった。
「ぐあぁあっっ!!」
「な、なんだコイツ!?」
「てめぇ、この野郎!!」
いきり立つ拳士らしき男の拳をひらりとかわし、奇襲に戸惑っている双剣使いの懐に入り込む。
軽く、ほんの軽く電撃。
「ぎゃああああ!! 痛い゛い゛い゛!!!」
「このっ、食らえ!」
後ろから殴りつけようとする拳士の顎に掌底をたたき込み、意識を失ったその男を魔術を発動しようとしていた魔術師にぶん投げる。
「ぐぇぇっ!」
「ぎゃっ!!」
「か、勘弁してくれ……! この通りだ」
最後の1人、弓使いが両手を上げ降参したが。
「ぎゃんっ!!!」
彼女ではなく、後ろから少女に股間を蹴り上げられ悶えてしまった。なんだかとても痛そうなので意識を刈り取っておく。
こうして、哀れな男たちは一分もしないうちに全員倒れることとなった。
彼女はとりあえず少女の腕を治した。腕をつかまれた状態で男を蹴り倒してしまったため、赤くなっていたのだ。
「お主」
彼女がどう話を始めるか考えていると、少女の方から話しかけてきた。
少女は腰に両手を当て胸を張り言葉を繰り出す。
「お主には大変名誉な役目を与えるぞ! わらわをこの森の外へと連れ出すのじゃ!」
「……チッ!!!」
……どうやらこの少女も、ありがとうが言えないらしい。