芸能学校
「ええ、今日から芸能学校担当になりました、タチプロの橘誠です。年齢はそこで黙ってる理事長と同い年の23です。基本的には情報準備室にこもっているので、パソコンなどで困ったことがあればいっってください。勿論教員免許なんて持ってないので。ここに配られてるタチプロのソフトで使いにくいところあれば、言ってもらえればこの学校仕様にある程度なら変更します。」
「えっ、タチプロの橘?後継者?」
「いや、あの会社は兄の俊が継ぐので。俺はあくまで技術開発部長ですよ。」
「いや、それにしてもなんでそんな偉い人がうちに?」
「ほんとですよ。ここの理事長と知り合い、所謂幼馴染なもんでうちの親に俺を送ってくれと頼んで了承されたわけですよ。まあ、俺自身肩書きとか興味ないんで、変に固くならずに普通に接して下さい。詳しいことは理事長に聞いてください。」
「え〜と言う事で、今日からウチの専属になったタチプロ技術開発部長の橘誠だ。こう見えてもうちで使ってるタチプロのソフトのほとんどはコイツの作ったものなぐらいすごい奴だ。基本的にウチのことをメインにやるが、本社での仕事の関係もあるからできない時もある。あと、コイツ趣味で配信してて人気あるからその辺のことでも相談して大丈夫だ。まあ、そんなところだ。折角の機会だから、うまいこと使い倒してくれ。」
「え〜、めんどいから程々にしてください。あと指導方法とかはわかんないんで。言えて配信する時の注意点と機材の使い方ぐらいなものなんで。」
「あっ忘れてた。コイツ基本的に面倒くさがりだから。」
「は、はあ。」
そのようにして俺こと、橘誠は幼馴染である紫衣玖瑠美の作った芸能事務所ぱーぷるの運営する芸能特化型の学校『私立ゆかり芸能学校』担当として父の会社『たちばなプログラムズ』から派遣されることになった。実を言うと俺自身突然のことすぎてまだ頭の整理ができていない部分もあるが、ここに居る経緯を話すとしよう。
〜〜〜
ことの発端は1ヶ月前。夕方になって家で配信でもしようかと準備をしている時だった。突然インターホンが鳴り、モニターを見ると見慣れた顔があった。すぐさま通話を押し「何しに来た?」と不機嫌そうに話しかけながら家の鍵を手元で開け、「とりあえず入れ。」と言いその人物玖瑠美を迎え入れた。
「いや〜、久しぶりだね誠。元気そうでよかったよ。にしてもお父さんから聞いたけど、技術開発部の部長だって?」
「まあな。親父から好きなようにやればいいって言われてたから好きにやってたらこうなっただけ。俺自身権力とかどうでもいいから。そう言うお前こそ、事務所軌道に乗って学校作ったらしいじゃん。順調そうだな。」
「そうそう。お父さんの会社にもスポンサーになってもらってたりするから本当頭が上がんないよ。」
「へ〜。あの親父がスポンサー契約したとか珍しいな。基本的に依頼された仕事もしくは独自のソフトを作ることしかしないのに。相手が玖瑠美だからってのだけじゃないのか。…と言うか玖瑠美はなんでうちに来たんだ?」
そう、俺は情報系の短大入学と共に一人暮らしだ。ついでに言えばちょっといい部屋で今いるリビングの他に寝室と作業部屋兼配信部屋がある一人暮らしにはかなり広い間取りになっている。まあ、そんなことは置いておいて。
「わざわざ会って話すぐらい重要なんだろ。」
「まあ、そうだね。数日前にたちプロのオフィスで徹さんに会ってきたんだ。」
「親父に?。仕事でか?」
「勿論。そこで私の学校専属のエンジニアが欲しいってお願いしたの。」
「まあ、お前のとこ配信者の育成もしてるみたいだし、居ればありがたいよな。」
「うん、そしたら誰が良いか聞かれたんだよ。あたし的にはやっぱり誠がいいからホント叶うはず無いって思いながら言ってみたんだよね。」
「ふーん。なんとなく読めた。あの親父の事だから即オッケーだしたんだろ。どうせ会議とかはリモートで参加して俺指名の依頼さえやってくれれば、みたいな条件で。」
「そう。基本的にはサーバーの維持管理とソフトの調整、あとコンピュータ関連での教師陣のサポートでその他の時間は基本的に何してても自由。誠なら配信しててもいいってか出来るなら定期的に校内でやって生徒の見本になって欲しいし。勿論誠がいいって言ってくれればの話だけど。」
「別にいいけど。なんなら部長辞めたいし。書類義務マジでめんどい。」
「いや、部長なのはそのままらしいよ。でも、書類の方は免除だって。」
「おっ、ちょっとラッキー。…明日空いてる?」
「え?唐突だね。空いてるけど?」
「じゃあ明日会社休みだし実家帰ってそのへんのこと話進めるか。」
「てか、2人してそんな即決しちゃっていいの?」
「親父が何を思って受けたか知らないけど一応部長の俺をあっさり出すぐらいには期待してるのと、俺の社会経験を増やすのも狙ってる気がする。俺としても新しい環境で働いてみたいから即オッケーした感じだな。ついでに玖瑠美のとこって、ウチのソフト使ってるから使用者と直で関われるのは開発の人間としては非常にありがたいな。」
「まあ、何にしろ来てくれるならすごく助かる。ほら、私って結構コミュ障な所あるからさ、完全に初対面の人だと慣れるまで時間がかかるから。」
「そういや、そうだったな。俺とかと話してる分には普通だから忘れてた。」
〜〜〜
まあ、そんなことがあって後日親父に返事して、今に至るわけだ。まあ、向こうの会社じゃできないことできそうだしやったね。そんなわけで新たな環境で仕事をしているわけだがここの環境は現段階でも十分すぎるくらい整っており、配信に必要な機材なども問題なく動いている。…あれ、これ俺の仕事ないんじゃね?とそんなことを初日にして思い始めた。そう言えばここの人に活動名言ったっけ?まあ、たちプロのホームページに一応載ってるしいいか。そんじゃ、本格的な確認のためにも配信して見ますか。この情報準備室のPCは俺しか使わないと言うか俺用に用意してくれたみたいなのでありがたく使わせてもらう。
「えっと、持ってきたノートPCから立ち絵と2Dモデルを移して、このソフトを立ち上げて「おっ、早速配信ですか?誠さん?」おい、玖瑠美。お前は敬語禁止な。なんか、違和感がすごい。」
「え〜、そこまで言わなくてもいいじゃん。」
「それより、理事長モードはどうした?朝はそんな感じじゃなかっただろ。一応学校内なんだから素は出さないほうがいいぞ。」
「いや、そもそもこの部屋には誰も来ないよ。そもそもこの部屋自体、システムとか詳しい人雇った時用で作ったから存分に配信でもリモート会議でもやっちゃってくださいな。」
「うい〜。っと、こんなもんだな。あとはこのソフトの細かいところをウチのと合わせてっと。」
「へ〜。このソフトってこんな設定画面あったんだ。」
「まあな。と言っても完全に開発陣専用だからな。開発陣のアカで入らないと出せないから。まあ、ここでしかできない設定なんてほとんどないから大丈夫。」
「じゃあなんでわざわざそっちに行ってるの?」
「いや、ちょっと修正点があるからそこだけね。次のアプデで修正するけど、どうせならね。…おけ。ちょっと動作確認。…まあ、大丈夫かな。このPCのスペックならゲームしながらでもLive2D動きそうだな。」
「…配信っていつもこんな感じでやってるの?」
「まあな。今は配信してないから結構力抜いてやってるけどね。いつもはこれやりながら違うモニターに自分の配信とPCの稼働状況出したり色々チャックしながらだから結構疲れる。」
「そのおかげで、たちプロの配信用ソフトは世に送られてると。」
「そう言うこと。ただ、最近は製品版でやって配信を楽しんでる時もあるけどね。流石にずっとこの調子だと俺が耐えきれなそうだから。そういや、玖瑠美は何で配信者やv、そのマネなんかを育てようと思ったんだ?」
「唐突ね。いいけどさ。…うちと言っても事務所の方ね。そこで面倒見てるVの子に聞くとやっぱり基本的な機材のこととか、ソフトの使い方を理解するのに手間取ったって言っててそこからかな。」
「まあ、確かにそうかもな。俺は自分で作ったのだからいいけど、そうじゃなきゃ大変だよな。一応たちプロのソフトに関して言えば、ホームページやら俺のチャンネルである程度使い方講座みたいな動画出してるけど、本当に最低限のことしか言えないからな。俺も他のとこのソフト使うと1時間くらいは設定と動作チャックを繰り返すからな。」
「うん、慣れてないせいで放送事故が起きることもあるからさ。せっかく頑張って作ったものがその事故で無くなっちゃうのはちょっと残念だからさ。」
「まあ、そうだな。だからこその開発者を呼んだと。なるほどねー。ちゃんと社長やってんだな。俺なんていつもめんどくさいとしか思ってないから大違いだな。」
「誠は天才側の人だからね。昔っから興味あることはとことんやって、それ以外は最低限。それでもそこそこできる方なんだからすごいよ。」
「だからって自分と比べんなよ。俺は好きなことしかしたくないし、社会不適合者だから、お前みたいに人を纏めたり、とか、誰かのためにとか、そんなこと一ミリも考えてないから。これ親父と兄貴ぐらいしか知らないけど、このソフトもそうだけど、配信関連のソフトってはじめは俺が配信始めたくていいソフトないかさがしてでも使いやすいのがなかったからじゃあ作っちゃえって事でほぼ1人で作ったやつで、一応需要あるかも程度でホームページのラインナップに載せたやつなんだよね。」
「えっ、そうだったの?このソフトを1人で…。それって配信始まる前だから、高校時代にって事……。」
「てか、その頃はたちプロに入ろうとも思ってなかったから。配信でゲームしながら生きてこうかなーとか思ってたから。」
「そう言えば、誠ってなんでたちプロに入ったの?別に他でも十分やれるでしょ。」
「いや、他んとこの面接全滅した。それでイヤイヤながらにたちプロに本格参戦した。まあ、おかげで相当自由にできてるから良かったけど。…一つ面倒なのは実は俺のチャンネルがたちプロ公式の広報用垢になりかけてることぐらいかな。」
「ふふっ。まあおかげでいち早くバグやら問題解決できてるんだからいいんじゃないの。かなり儲けてるみたいだし。」
「そりゃな。広告収入も割と入り、さらに働いてんだから、儲かってなきゃ、趣味でもやってらんないよ。…てか、玖瑠美もそろそろ仕事戻りなよ。俺も配信始めたいし。」
「そうする。じゃあ、またあとでね、誠。」
「おう。」
そう俺が返すと玖瑠美は部屋を出て行った。
さて、ここからは配信者『ねこ』としての時間だ。
誤字脱字などありましたら教えてください。