遥か予想の斜め上
初投稿です。いろいろ至らないと思いますが楽しんでいただけると嬉しいです。
空は青く晴れ渡り、新緑な香りも爽やかな風が穏やかに吹き抜ける今日、結婚式日和と言えた。
花嫁はわたくし、アデリアーヌ・シュトルフ・テロル、隣国デロワ公国 テロル伯爵家三女、25歳。貴族としては立派な行き遅れ。この結婚も貴族の義務であり、生きて行く術でもあるので、たいして期待はしていなかった。旦那様がいわくつきなのは、聞いてたし、納得もしていた。
だか、流石にこれは、予想できなかった。
王都で、嫁ぎ先となるマイヨール侯爵家にゆかりのあるアナスタシア教会でのお式の後、侯爵邸にもどり、お披露目を行う予定だった。
侯爵家の執事と従僕、侍女が居並ぶ中、馬車をおり、挨拶をうける。晩餐まで、一息つける、そう思った時だった。
ドンっと身体に衝撃が走った。何が起こったか、理解できなかった。
次の瞬間。
『お、お前のせいで、母様は出て行ったんだ〜ぁ! うわぁーーーん』と、大音量が耳に届いた。
見下ろすと、黒髪の男の子がドレスにしがみつきアウアウ大声で泣いていた。
旦那様も、侯爵家の方々も固まった。
「べ、ベルナール様。」慌てて、従僕らしき男性がかけより、子供を引き離そうとする、が、子供は母様母様と泣いて離れない。
何も考えられない頭で旦那様の方を見たら、目が合った。彼の頭も真っ白のようだったが、目があった瞬間、慌てて子供をあやそうとした。ところに、『父様、新しいお母様?』と声が聞こえ、そこにはさらに小さいレディがいた。
「レ、レティ。」
旦那様が腰をおろすと小さいレディも、寄ってきた。
どうやらこの二人が旦那様の子どもらしい。
侯爵夫妻、テロル伯爵夫人、ご到着です!
このカオスの場に、さらに侯爵夫妻、私の母と同伴のチェシリー伯が教会から戻ってきた。母は、この光景をみて、倒れた。
新しく旦那様となる方に、子どもがすでにいる事は承知していた。だがしかし、結婚式当日のこの混沌は予想出来なかった!
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混沌から抜け出すため、とりあえず侯爵家のま新しい私の部屋に移動した。
泣いて離れないベルナール 6歳と、レティ3歳も私の部屋に招待した。 みだれた着替えもあるので旦那様には、いったんご遠慮いただいた。
混沌とした玄関ホールで、状況改善すべく、私は膝をおり、旦那様のお子様に挨拶をした。
『はじめまして。ベルナール様、レティシア様。今日からこちらでご一緒させていただくアデリーヌですわ。よろしくお願いいたしますね。』
それから、私の部屋でのお茶会を提案し、子ども二人を連れて移動した。ベルナールが抱きついて涙と鼻水で汚れたドレスは、晩餐までに手をいれないといけない。
『僕も行こう。おいで、レティ。カーク案内を』
正気を取り戻したらしい旦那様が女の子をだきあげ、執事に指示した。
『ベルナール様、私のお部屋で何か召し上がりませんか?』
声をかけると、男の子が顔を上げた。手を差し出すと、黙って掴んでくれたので、ほっとした。 ホールに集った人からもほっとした様子が伝わってきた。
部屋につき、お茶お菓子軽食の準備をお願いすると、旦那様にご退出をお願いした。彼と会ったのは1週間前に一度きり。今日が二度目だ。二度目がこれか。心の中で一つため息をつくと、にっこり笑った。
『旦那様、私衣装も少し手直しする必要があります。旦那様もいろいろご準備がおありでしょう。一度ご退出いただけますか?』
『だが、君だけに子供を任せるわけには』渋る旦那様にさらにたたみかけた。
『私も、ニナも子供には慣れているので問題ありません。それよりも、晩餐までのあまり時間がありません。それまでにやるべきことがおありでは?』
新妻の部屋を追い出されたところに、執事のカークが声をかけてきた。
『奥様は、静かにお怒りだ。晩餐はしっかりやれと釘をさされたよ。』
私がボヤくと、カークは面白げな顔で応えた。『しっかりした奥様で何よりでございます。』
『まったくだ。それにしても、何故あの子達がここに? 離れにいるはずだろう?』
状況確認と今後の対応のため、私達は執務室に向かった。
『確かにエミリア様は朝からお出かけになっているようです。どこにおいでなのかは、どなたも把握されてないようで。状況が状況なので、ナニーが焦ってしまい、それでベルナール様も興奮されて、手がつけられなくなり、本邸に来ることになったようです。』
執務室に入り、お茶をもらいつつ現状の報告をうける。父母もすぐに合流した。
エミリアは、私の内縁の妻で、ベルナールとレティの母だ。いろいろあって、内縁関係は解消する方向で話し合いが進んでいる。だが、今日退去するという話は聞いていない。
『ノートル家は、問い合わせたか?』
『はい、ただ返信にはもう少し時間がかかるかと』
屋敷内にざわついた気配がした、かと思ったら連絡がきた。エミリアの兄、ロベルトが来たようだ。
ドドドドドッと慌ただしい音がしたかと思ったら、大きな音を立てて、ドアが開き大柄な男が入ってきた。
『申し訳ありませんでした、侯爵さま、エドアルド様!』
頭が床につきそうなほどにでかい体を折り曲げ、ロベルトが叫んだ。
耳が痛い。カークも同様のようで顔を少ししかめている。
『落ち着いてくれ、ロベルト。エミリアが急にいなくなり、屋敷が騒がしいのだが理由をしっているか?』
ロベルトは顔あげ、私や父母の正装姿をみて、うめくような声をあげた。
『ああ、本当に申し訳ありません、侯爵様、奥様。エド、こんな日にうちのエミリアが迷惑をかけてしまった。本当にすまない。』
『では、ロベルトは、状況をご存知なのね?』
母が確認した。
ロベルトの話によると、エミリアは、とある人物にあうため、急遽出て行ったらしい。急すぎて連絡がうまく回らず、誤解をまねいたのではないか、という事だった。
『では、何か事件性があるとか、そういう事ではないのだな?』
父が確認した。
『はい、侯爵さ、』
ドドドドドッと、階段を駆け上がる大きな音がしたかと思ったら、バタン!と大きな音とともに、ドアが開いた。
『エド様!こ、子供達が、ビーとレティがいません!!』
小柄な黒髪の女性、エミリアが混乱した様子で駆け込んできた。
私は立ち上がり、混乱した様子のエミリアを抱き寄せ、なだめた。
『落ち着いて、エミリア。子供達は問題ないよ、こちらの本邸にいる。』
『本当⁈』
ガツン!
『痛ーい』
『この馬鹿! 侯爵家の大事な日に何やらかしてるんだ!』
エミリアは、ロベルトがゲンコツ落としたあたりをさすりながら、初めて兄の存在に気が付いたらしい。
『ロブ兄様?』
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私アデリアーヌは、小さいお客様とお茶会をしていた。本来は晩餐に向けて、一息つく時間のはずだったが仕方ない。子供に逆らっても無駄なのは、実家の経験からよく知っている。実家である伯爵家は、兄弟も多ければ、姪も甥も多いのだ。
子供達が食べれそうなお菓子や軽食を用意してもらい、すすめると、大人しく食べはじめたので、私は衣装を改めた。
簡素なドレスに着替えてから、子供達に向き合った。二人とも不思議そうに、また落ち着かなそうにあたりを見回していたが、私が子供達のまえのソファに座ると、こちらを見つめてきた。
『ベルナール様、お母様は、いらっしゃらないの? 私、そのような話はきいていないのだけど。』
紅茶を一口飲んでから話しかけると、ベルナールがポツポツと応えた。
いわく、いつもは離れに母親と住んでいる事、朝おきたら、母が何か知らせを受け取っており、顔いろを変えた母親がそのまま慌てて家を出て行った事。
乳母に聞いても誰も事情を知らず、本邸に来ても事情がわからず、乳母も半パニック状態になって突撃してしまったらしい。
ベルナールも、乳母も、父親が母親と別れることをしっているからこそ、なのだろう。
私付きの侍女が来客を知らせた。エミリア、彼らの母が来たらしい。
『ビー! レティ!』
ドアがあき、母親らしき人物が入ってきた。その声を聞き、ベルナールが椅子から飛び降り、駆け寄った。
『母様! 母様〜!! 』
ほっと一息ついたところで、エミリアの後ろの大男に気づいた。
『エミリアの兄にロベルト・ノートルと申します。奥様。本日は大切なお式の日に、騒ぎを起こしてしまい申し訳ありません。』
兄に続いてエミリアも、今日の不手際を詫びた。そして子供達と下がり、ようやく静寂が訪れた。
その後旦那様の謝罪をうけいれ、倒れた母を見舞い、なんとかお披露目の晩餐にこぎついた。その場にも子供達が突撃してきたのには、驚いた。
アデリアーヌ様綺麗〜とホワッと笑うレティ様は天使だった。さっきはごめんなさい、と小さい花束を差し出したベルナール様には、心打たれた。だが、招待客からのお祝いと好奇の視線で倒れそうになった。
そして夜
夫婦の寝室で寝支度を整えて待っていたら、旦那様がやってきた。正直言ってフラフラだ、今すぐ寝たい。
小さくノックの音が部屋に響き、旦那様が入ってきた。
『アデリアーヌ、今日はいろいろ不手際があってすまなかった。』
『旦那様』
『エドアルド、名前で呼んでくれ、夫婦になったのだから。』
『エドアルド様、一つお願いしても?』
『何でも聞くよ。奥様』
では、と私は、切り出した。
『私、貴族の結婚、義務についてよくよく理解しておりますが』
チラリと見上げた旦那様は不思議そうな顔をしている。
『今日はこのまま休ませていただいても、よろしいでしょうか? 正直申し上げて眠くて仕方ありませんの』
わかってる、初夜を迎えてようやく正式な結婚だということは。でも今日は無理。わかって旦那様!
『そうだね、ただ私も初夜から花嫁に寝室から追い出された新郎とは言われたくない。こちらで休んでも構わないだろうか?』
あーまー、ソーデスヨネ。
『もちろんですわ、旦那様』
『エドアルドで。抱きしめても?』
『はい、エドアルド様』
二人並んでベッドにはいり、私の体をエドアルド様が後ろから抱きしめる。シガーとウイスキー、そしてほんのりコロンの香りがした。大きな男性の身体に包まれると、一瞬驚いたが、暖かくて、私はすぐに眠りについた。
実はこの後更に色々あって、旦那様と初夜を迎えるまで、もうしばらくかかるとか、エミリア様とは親友のようになるとか、全く予想もしない方向に進むことを、私はまだ知らない。