始まりの夜
“アメリカ-ワシントン基地-最下層”
「彼に託すのね。ミネルヴァ」
仮面を着けた女は、人影にそう言った。
「.....」
人影は、コクリと頷いた。仮面の女が問う。
「一つ聞かせて」
「.....」
「貴方、まだ彼のこと愛してるの?」
人影は、少し考える様な仕草を見せた後、啜り泣き程の小声で言った。
「カレ... ワタシ恨ンデル...」
「貴方が、彼を愛してるかを聞いたんだけど」
これに対して人影は、数秒間考え込んだ末に、返答した。
「資格ハ... ナイ...」
「はぁ...」
仮面を着けた女は、一旦溜息を吐き、言葉を続けた。
「話にならないわね」
「.....」
仮面の女は、去り際に言った。
「彼が憎んでいるのは、貴方。だけど同時に、彼が愛しているのも、貴方。不思議な話ね」
そう聞くと人影は、難儀する様な仕草を見せた。
「グリ...ッド... ドウシテ...」
「今の貴方じゃ、まだわからないわ」
部屋の外から、男が歩いてくる。
「もうその辺でいいだろ。二番隊隊長様」
「ヒットレイ... 何の用だ」
「アラビア半島に向かう前に、最後の御挨拶をしておこうと思ってな」
男は何か企んでいる様な声でそう言った。
「どういう意味だ」
「どういう意味だろうなぁ... 自分で考えなぁ...」
男はそう言うとニヤリと笑った。
“イエメン-マアリブ”
「おじさん。なんでそんなに若くなったの? それに顔も違う...」
「俺の顔は元からこんなじゃなかったか?」
俺は、ロイに貰った手鏡で、自分の顔を見ながらそう言った。
「成程ね。やっぱ、僕が追ってた都市伝説。本当みたいだね」
そう言うと、ロイは顎をさする。私は、手鏡を床に置き、耳を傾けた。
「都市伝説?」
「そう。人間の記憶を改変するシステムが存在するって、巷では結構噂になってるんだ。確か正式名称がリ...」
⁑⁑⁑⁑⁑ 突然、辺りが暗闇に包まれ、音が消えた。
「な、なんだ...」
そして次の瞬間。
――リグレットおおおおおおおおおおお!!!!!!!
突然、誰かの叫び声が聞こえた。
気が付くと、私は地面に倒れていた。
――背中に重力を感じる...
「じさ... おじさ... おじさん!」
意識が戻ると、ロイの呼び声が聞こえた。
私は、ゆっくりと目を開けた。
「おじさん... どうしたの? 急に倒れたりして」
体を起こすと同時に、何とも言えない疲労感に襲われた。
「うわっ... おも...」
「体が重いの?」
「そうだ... 声が聞こえたんだ。叫び声が...」
「叫び声...」
「そいつは、こう叫んでた。リグレットおおおおお... ってな。変な話だな。忘れてくれ」
ロイは、一瞬そっぽを向くと、もう一度、私の方に向き直し言った。
「その声って、男の声だった?」
「そうだが」
「おじさん。やっぱり、本当みたいだ」
窓の外を見つめながら、ロイはそう言った。
「何がだ?」
「リグレット。あるんだよ。そういうシステムが。人間の記憶を改変するシステム」
「記憶を... 改変する...」
私は、再び床に寝転んだ。
「まぁ、この話は終わり。僕個人の話だから、おじさんが思い悩む必要はないよ」
「そうか... まぁ... がん....ば..... れ......」
グリッドは、眠りについてしまった。
「寝ちゃったか... それにしても、一番隊隊長にまで手を出すとは。僕が追ってる相手って、一体なんなんだろう...」
ロイは、再び窓の外を見つめながら、そう言った。
“イエメン-サナア”
「はぁあ。こりゃひっでえな。全員死んじまってらぁ」
男は、サンドワンダーの襲撃を受けた町をフラフラと歩いていた。
そんな男の背後から、サンドワンダーの群れが忍び寄る。数は二十以上。
すると突然、男はその場に止まり、言った。
「それじゃあまだ足りねぇなぁ」
男がそう言うと、周囲の空間が捻じれ始めた。
そう言うと、男はその場から姿を消した。
次の瞬間、男の背後にいた、二十体以上のサンドワンダーが、一瞬にして姿を消す。
そして再び、男が現れた。
「斬り捨て御免。なんつって。にしても奇襲って、趣味悪いぜ~ レオン・クロノス~」
「流石に強いな。ジョン・クリスタという男は」
そう言ってレオンは、再びサンドワンダーを生成した。
「うっわ。きも。錬金術師かよ」
「私の通り名が、なぜ ”徘徊者” なのか。貴様は知ってるか?」
レオンはそう言うと、体の両側面から、自身のクローンを生成した。
「興味ねぇな」
「そうか。では特別に、今からその体に教え込んでやろう」
「ほぅ。それは悪くないかもな」
ジョンはニヤリと笑った。
「ここで死ね。陽炎」
「推して参れ。徘徊者ァ...」