極東音-グリッド・ノーツマン
“三時間前-アメリカ-シアトル-Lv.5.0収容所”
――私は、独房の中にいた。
「グリッド... いえ、キョクトーネ。久しぶりね」
モニターから、聞き覚えのある声が聞こえた。彼女だ。
「ミネルヴァ。捨て駒に何の用だ」
彼女の名はミネルヴァ。私の元上司だ。
「あなたに... 依頼が出されたわ」
もう三年も前の話だが、私はかつて軍人として、とある部隊の隊長を務めていた。だが。
「俺はもう軍人じゃない」
そう。私はもう軍人ではない。
“三年前-日本-白神山地”
「隊長。今回の任務、本当に我々が実行するような内容でしょうか...」
「マテラス陣営の中でも、最弱と名高い戦闘部隊の殲滅が、今回の任務だが、この任務は我々にふさわしくないと。そう思うのか?」
「い、いえ... で、ですが今回の任務は」
「そうだな。明らかに上層部からの嫌がらせだろうな」
世界最高の戦闘部隊と評されていた当時の我々は皆、この任務内容に憤りすら感じていた。奴が現れるまでは。
「作戦などいらん。最速で殲滅する」
私はそう指示を出した。いや、もはやこれは指示ではない。こんな指揮の下で行われる殲滅作戦など、素人の喧嘩茶番と大差ない。その時の私は、そんなこと百も承知だった。
――我々の底力。見せつけてやる。
そう。見返してやりたかったのだ。だが、この時の私は、気付いていなかった。ミネルヴァというAIの、予測能力の高さを。
「なぜ奴が... こんな所に...」
クロノス陣営の最高幹部、白夜-ヴェイン・クロノス。
そんな男が、マテラス陣営の戦闘部隊に編成されていたのだ。偵察を怠った我々は、ヴェイン・クロノス率いる、戦闘部隊との戦闘を余儀なくされた。
「隊長! 耐えきれません! 防具が蒸発してしまいます!」
「クソ... なんて強さだ。格が違いすぎるぞ...」
「撤退命令を! 隊長!!!!」
「クッ... 撤退命令だ。全員に伝えろ!」
撤退命令を出した瞬間。ヴェイン・クロノスと目が合った。
「逃ガスワケ... ナカロウ...」
次の瞬間、戦場が光に包まれた。
⁑⁑⁑⁑⁑ そして、私だけが... その場で生き残った。
何故か分からないが、私だけが生かされたのだ。
「.....」
戦闘後、ヴェインは戦場に一人残された私を、嘲笑うかのように見つめた後、闇夜に消えていった。
――この事件の後、私は、自身の中で渦巻き続ける自殺念慮を、必死に抑え込みながら、白神山地を脱出し、本部に戻った。
「はぁ... はぁ... グリッド・ノーツマン。帰還しました」
そして、本部に着くと同時に、私は逮捕された。
「離せぇええ! 俺は奴を葬らなきゃいかんのだああああ!」
そして私は、独房に入れられた。数週間後。私は、気づいてしまった。
私は、国際関係を保つための、捨て駒として使われたのだと。
「は、はは。なんだ。そういうことか...」
気づいてしまったのだ。クロノスに媚びを売るための駒として、ミネルヴァがを捨てたのだと。
『白夜-ヴェイン・クロノスが、殺戮者-グリッドを、自国に追い返し、勝利した。』
俺を逮捕すれば、こんな捏造が可能になる。
つまり俺は、クロノス陣営の株上げの為に、利用されたのだ。国に忠誠を誓った私を、国は見捨てたのだ。
“アメリカ-シアトル-Lv.5.0収容所”
「釈放?」
「ええ。あなたが依頼を成功させられたらね」
「...依頼はなんだ? 暗殺か?」
「証拠集め」
「ハハッ。落とし物拾いで釈放か... 良いだろう。受けよう」
依頼内容は以下の通りだ。
『アラビア半島南部で起きた、原因不明の核爆発の原因を究明せよ』
現在半島では、この原因不明の核爆発を引き金に、アレス陣営の最高戦力、『陽炎-ジョン・クリスタ』と、クロノス陣営の最高戦力、『ヴェイン・クロノス』が、凄まじい戦闘を繰り広げているらしい。
当然ながら、誰も止められない。そこで、事件を解決するために、戦犯の俺が派遣される事になったという訳だ。
任務を受けた理由は二つ。
1.任務遂行のため。原因究明の暁には、私の釈放が待っているらしい。
2.『ヴェイン・クロス』を暗殺するため。
私の部下達の無念、晴らさせてもらう。