2話 ファーストコンタクト
なんとなく2話目も書いてみました。
ご意見ご感想あればよろしくお願いします。
敵が接近している。
サポートAIのサーティーンがそう警告を発した。
俺は最初にいた小屋から出て、迎撃に適した地形を探すことにした。
このステージ、俺のいる一角は起伏の多い森林、山の中のようなロケーションだ。
出会いがしらに攻撃を食らわずに済むような遮蔽物は、それなりに多い。
「なあ、どんな奴が迫って来てるのかはわかるのか?」
俺は移動しながらサーティーンに尋ねる。
敵の情報は何より重要だからな。
「ごめんなさい、実際に視認しないとそれはわからないわ。今の時点で距離は約3キロメートルよ」
相手も同じ条件だというから仕方ない。
しかし、なんの情報もない状態で、あてずっぽうに移動を始めるなんて。
敵はよほどの自信家か、よほどのバカかのどっちかだろうな。
「じゃあもうひとつ質問だ。このステージの地形や、俺たちがさっきいた小屋みたいな施設は『破壊可能オブジェクト』か?」
俺は戦闘を進めるにあたって、とりあえずもっとも重要な情報を聞くことにした。
とてつもない高熱を操るスキル、炎と灼熱が俺のプレイヤーとしての持ち味だ。
周りの木々や岩が、ゲーム設定上の「破壊可能オブジェクト」であれば、俺のスキルで焼き尽くし、溶かし尽くすことができる。
「小屋のような施設は破壊できないわよ。森の木や地形に関しては、やってみないとわからないわね。私たちサポーターにそこまでの情報は、与えられていないわ」
「色々手さぐりで試してみなきゃいけないってことか」
「それをする余裕があればいいわね。接近している敵との距離は約1キロメートル」
速いな。
5分かそこら話してただけで、この入り組んだ山の中をもうそんなに距離詰められたのか。
俺だって全力で逃げて相手から離れようとしているのに、相手はそれを大きく上回る速度で俺に接近している。
先に手の内を見せたくなかったが、仕方ない。
急な攻撃に備えて、安全策を取るとしよう。
「スキル、インフェルノカウンター!」
スキルコマンドを叫ぶと同時に、俺の体が赤く光り、灼熱の防御フィールドが展開される。
これは俺が持つ防御スキルの一つで、俺に対して直接攻撃を仕掛けてきた相手に、炎のダメージを自動的にお返しするものだ。
加えて、レベルの低い遠距離攻撃であれば、熱の力で相殺し無効化することもできる。
「ところでサーティーン、お前はそもそもダメージを食らう設定なのか?」
「ええ、参加してる13人の中で、一番HPの低いプレイヤーと同じHPに設定されてるわ。すべてのサポーターがね。属性ごとの防御耐性は全くないわ」
「そうか。じゃあしばらく俺に触るなよ。焼けて死ぬぞ」
「気を付けるわ。ありがと、気を使ってくれて」
サポーターもプレイヤーと同じくダメージを食らい、死ぬという設定なら。
こりゃあ、敵のサポーターを先に殺したほうが勝利の道としては堅実かもしれないな。
「敵との距離、200メートル」
サーティーンが小声で知らせる。
いつ、お互いを視認してもおかしくない距離まで接近されてしまった。
もう少し準備や情報収集をしてから、戦闘に入りたかったんだがな。
「詳しい位置はわかるか?」
「あいにくと、100メートル単位でしか検知できないの。ごめんなさいね」
「いちいち謝らなくていい。そういう仕様なんだろ。相手も同じ条件だしな」
方向とおおよその距離だけでも把握できているなら、なんとでも戦いようはある。
スキルの使用ポイントを俺は確認する。
これは時間と共に溜まっていくもので、100%以上を溜め込むことはできない。
最大威力の必殺技が使えるほどには溜まっていないが、それ以外のスキルを何回か使うくらいはあるな。
俺は立ち並ぶ樹木を防御壁に見立てて、少しずつ移動する。
ちらりとでも俺の姿を相手が確認したら、攻撃を仕掛けてきたり、さらに接近して来たりするかもしれない。
それをあえて誘って、木と木の間を縫うように、こそこそ隠れるように移動を繰り返す。
「敵影、視認」
サーティーンがそう言った視線の先を、俺も追っていた。
俺と同じように、木や岩を盾に見立ててこそこそと移動している奴を、確かに視界の端でとらえた。
この距離なら……!
「スキル、エクスプロード!」
俺が、周囲全体を攻撃対象にした、爆発系スキルのコマンドを叫ぶのと。
「スキル、ロケットアターーーック!」
敵が超高速で突っ込んで来るのは、ほぼ同時だった。
「ぐっは!」
かろうじて両腕で防御行動をとったが、俺は敵のロケットのような頭突きを食らって盛大に後方に吹っ飛ばされた。
100メートル前後あった距離を、1秒あるかないかという短時間で詰められてしまった。
俺が受けたダメージはどうだ?
浅いとも深いとも言えないな。
しかし、十発も連続で喰らったら確実に死ねるくらいには、俺のHPは削られていた。
一方で、俺に頭突きをかました相手と言えば。
「あっちちちち、あち、あっちちち!」
俺の爆発攻撃スキルと、俺を攻撃したときに発生したカウンターダメージの両方をその身に受けて、やかましく騒ぎながら、悶絶していた。
子供、少年のような見た目のアバターだ。
「ダメだこりゃ! 退散退散!」
「あ……?」
初邂逅した敵は、俺と初撃だけを交わして、目にもとまらぬスピードで一目散に、逃げて行った。
「今の奴……ひょっとして『瞬帝』か?」
ニックネーム、瞬帝。
正式なユーザーネームは「はやて」という名のプレイヤー。
ジェノサイドハンターの中でも1、2を争う有名プレイヤー。
同時に、攻略サイトのひとつ「ジェノハン最速最高効率」の管理人でもある。
「サーティーン、敵の距離は?」
「来た道とは別の方向に、もう1キロメートル以上離れたわ」
速すぎだな。
瞬帝のはやては、ユーザーの中でも速度ステータス重視のプレイスタイルを貫いている。
速いことは強いことで、速くて強いことは最高の効率を達成できる要素だという、頑なな哲学を持っているやつだ。
実際に攻撃を食らってみて実感したが、最大の必殺攻撃でないのに、かなりのダメージを俺は喰らった。
当たり前の話だが、速度だけじゃない基礎ステータスも普通に高いな。
しかし俺の攻撃も相手にしっかり通ったようだ。
「あいつ、まず真っ先にすべてのユーザーに直接会って、こうして相手の強さを確かめるつもりじゃねえだろうな」
もろ刃の剣過ぎるプレイだ。
初見ではやてを殺せるようなスキルの持ち主に出くわしたら、一発でゲームオーバーだぞ。
「どうかしらね。少なくともあの移動速度じゃ、サポーターはついていけないわ。別行動をして少しでも多くの情報を集めている可能性は高いかも」
「確かに他のプレイヤーやステージの情報を集めるスピードは、アイツが一番速そうだな」
俺が炎系スキルの使い手であるということや、俺の攻撃力や体力という情報を、はやてはすでに得てしまっている。
あのスピードでマップを踏破して、なにか有利な施設でも発見された日には手におえないぞ。
しかし、俺の方もそれなりに有益な情報を、この戦いで手に入れることはできていた。
「俺の爆発攻撃スキルで、森の木が結構吹き飛んだな」
「すべてではないみたいだけど、破壊可能オブジェクトが地形データの中にも混じってるみたいね」
俺とサーティーンは爆発で変わった地形を眺めたのち、その場を離れた。
ひとまずは命を拾い、敵の情報を少しだけ手に入れることができた。
これからどう戦うか、どう勝つか。
「なかなか、楽はさせてもらえそうにねえなあ……ところでサーティーン、お前って回復スキル持ってるか?」
多少とは言えダメージを食らってしまったが、俺は自分のスキルポイントをなるべく節約したい。
サーティーンが使えるというのであれば、まかせようと思った。
「ええ、あるわよ。13人のプレイヤーのうちの一人が使うスキルの、ダウングレード版を持ってるわ」
「使用制限や条件はどうなってる? 俺たちと同じように、スキルポイントが溜まるまで使えないのか?」
「いいえ、いつでも使えるわ。ただし、それぞれのスキルは、このイベント中、一回ずつしか使えないの」
「マジかー。制限多いな」
「ごめんなさいね、色々中途半端で」
また謝っている。
こいつは運営から「そういう機能」として用意されただけなんだから、いちいち謝らなくてもいいと思うんだがな。
俺はサーティーンの肩をポンポンと軽く叩き。
「気にすんな。ゲームってのは制約があるから成り立つし、面白いんだ」
そう言って励ました。
俺の体を覆っていた灼熱の防御フィールドは、もう効果が切れているのでサーティーンにダメージはない、はずだ。
AI相手に何をやっているんだかな。
そのとき、サーティーンがまたもや機械音声じみた口調になって話し始めた。
「第二実績解除。プレイヤーからの直接的身体接触を確認しました。これより、サポートAI『サーティーン』の自律行動性能が向上します」
「あん? 今度は一体なんだ?」
女の子のNPCにボディタッチしたら実績解除とか、いかがわしいゲームかこれ。
元の口調に戻ったサーティーンが、説明を続ける。
「あらためてよろしく、カイト。私、飛べるようになったわ。偵察とかに使いやすくなったわよ」
「マジか。速度や高さは?」
「地面から10メートルの高さまで。速度はプレイヤー13人の歩行速度の平均値ね」
おいおい、結構使えるじゃねえかそれは。
「この実績を解除してないプレイヤーが、たくさんいることを祈るか」
「そうだといいわね。私たちの勝利が近くなるわ」
ひょっとすると、他にもまだまだ便利な機能がサーティーンには隠れているのかもしれない。
それを全開放するのが先か、ゲームの決着がつくのが先か。
俺にはもちろんわからなかった。