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死霊の街
姉の名前はエスメラルダ。
今はエメル と名乗り、アメリカの国家情報局MIAの諜報員として世界を走り回っている。
「ルーパート」
物心ついた時には当たり前になっていた、彼の名を呼ぶ声が懐かしい記憶となったのは、彼が5歳の頃だった。周りの誰もがそんな遠い昔の事は覚えていなかったが、幼かった彼の脳髄にそれを刻んだものは、銃弾が飛び交う音と、屋外で地鳴りのように響く人々の怒号だった。
「ルーパート!」
懐かしい姉の声が悲鳴に変わる時、望郷を探る思索の旅路が終わるのだった。
「ルーパート様」
クーデターから逃げ出した先、隣国の村で匿われている身、時は過ぎてルーパートは二十歳になっていた。