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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
学院入学編(入学できるとは言ってない)
9/362

迷宮都市の聖女ちゃん②

 誰かに肩を揺すられている気がする。たぶん。


「ねえちょっと、ねえってば」

「ニャハハハ! これはダメにゃ~~」

「まったくもう。女の子なのに無防備に飲んじゃって! ほら起きて、ほら!」


 うるせー、寝かせろー……

 Zzzzzzzz……


「こうなった酔っ払いは簡単には起きないニャ」

「だからって外に放り出すわけにはいかないでしょ。女の子なのよ」

「だから奥の手ニャ」


 ざぱーん!

 冷水ぶっかけられたんですけど!? つめたっ! 寒っ! 今何月だと思ってんの!?


 目を覚ましてみれば猫耳のウエイトレスさんと受付のお姉さんがこっちを覗き込んでいる。何事!?

 って、酔いつぶれたのか。


 酒場を見るとおっちゃん達が大勢寝っ転がってやがる。まるで村の酒場だな。しかしここは住み慣れた村の酒場ではない。乙女のたしなみとして着衣の乱れを確認しなきゃ……


「誰も襲おうとしなかったニャ」

「こんなに美少女なのに?」

「本当に誰も襲おうとしなかったニャ。魅力が足りないのニャ」


 くそっ、冒険者のおっちゃん達目が腐ってんじゃないの! 襲え! 美少女が酔いつぶれてんだぞお持ち帰りしろ。あとでぶん殴るけど!


「本当、誰もそういう真似をしようとしなかったわねえ」


 受付の美人なおねえさんが呆れ口調だ。これは本気だね。襲われなかったのは良かったけど美少女的には自信なくすわ。

 受付のおねえさんがしゃがみ込んでじぃっと見つめてくる。これは説教だね。


「ギルドはもう閉店なの。立てる? 立てそうもないならもう少し休んでてくれていいけど……」

「大丈夫ですよ!」


 座り込んだ状態から側転で立ち上がる。

 うん、ちょっと寝たから酒が抜けてるね。


「よかった。もう受付は終わってるから換金はできないの。今日のところは宿に帰ってまた明日来てくれる?」

「宿……?」


 宿って何だ。食えるの?

 猫耳と受付のおねえさんズが呆れて天井を仰いでる。


「女の子失格ニャ。だから襲われないのニャ」

「ほんと、呆れたわね……」

「え、そんな感じ?」


 時刻は深夜零時を回っている。こんな時間に空いてる宿なんてねーよって話らしい。

 仕方ないからギルドの二階にある客室を使っていいって言われた。すごい、宿代が浮いた!



◇◇◇◇◇◇



 翌朝。めっちゃ頭が痛い起床になった。完全に二日酔いだ。

 自分の口から漏れ出す乙女にあるまじき苦悶を無視して枕元の水差しを傾ける。キンキンに冷えてやがるぜ……


 暖炉を見れば火が消えかけている。誰かが火を入れてくれたらしい。気づかずぐっすりしていたらしい。お礼いわなきゃ。


 痛む頭と二度寝したい欲求を無視して一階に降りるとギルドのお姉さん達が開店準備をしている。ギルドのお姉さん達は働き者だー。

 昨夜にあたしを部屋まで送ってくれたお姉さんを発見した。


「あ、え~~~っと……」

「オルシアよ」

「あぁそうでしたそうでした」

 って言ったら微笑み返された。きゅん死させる気かな?


「もっと寝てればいいのに。その様子だと二日酔いなんでしょ。無茶するわ、ドワーフと飲み比べなんて大の男でも死にかけるのよ?」

「あははは、昨夜はどうもご迷惑をおかけしたようで……」

「無事ならいいのよ。冒険者さんのお世話を焼くのが仕事なんですもの」


 なんだこの人は天使かな?

 フィスカさんみたいな付き合い易い豪快なお姉さんもいいけど清楚な大人のお姉さんっていいよね。


「それでも感謝してますから」

「どういたしまして、お世話を焼いた甲斐がありました」

「ところで猫耳さんは?」

「あぁニャルなら今日は冒険者の日よ」

「冒険者なのに酒場でお運びさんやってるんですか?」


「お運びさんの方が儲かるからか、冒険者じゃ儲からないからか。どっちかはあの子の名誉のために伏せておくわ。水をかけられたのを恨んでるとかじゃなければチップを弾んであげてね。お礼よりもそっちの方が喜ぶわ」

「そうします」


 ギルドの開店を待とうと思ったけど待つ必要はないと諭された。たしかに待つ必要はない。魔石の換金ならいつでもできるしギルドで依頼を受けたいわけじゃない。あたしはラティルト迷宮に稼ぎに来たんだ。

 せっかく起きたし二度寝するのもね。町でも見て回ろうかな?


 ギルドを出ると太陽が低い位置にある。町に影を落とす高い時計塔から鐘の音が響き渡る。時刻は朝の八時。村ならとっくに働きに行く時間だ。

 時計塔の鐘が鳴り始めると町が騒がしくなってきた。村とちがってこの町は夜明けではなく時計塔で動き出すんだね。


 適当に街を回ってみる。村とちがって色んな看板を掲げる商店ばかりを見かける。宿に武器屋に魔法道具屋。冒険者を相手にする町って感じだ。


 そのうち往来にも人通りが増える。そのうちに猫耳のお姉さんを見つけた。給仕服ではなく体のラインに沿って体を締め付けるタイトな装備だ。武器は鉈を二本。身軽さ重視だね。


「おーい、ニャルさーん!」

「ニャッ!?」


 びくっと飛び上がった猫耳お姉さんが路地裏に急いで逃げ込んで、サッと顔だけ出してきた。


「なんだお前ニャ。誰かと思ったニャ」

「誰だったらあんな反応になるんです?」

「お前気配が怖いニャ」


 乙女に向かって何てことを言うんだ。


 昨晩のお礼を言うと犬でも追い払うみたいに「しっしっ」って手振りをされた。


「つれないー! もっと構えー!」

「め…面倒な奴ニャ。あちきも忙しいニャ、構う暇なんてないニャ」


 早歩きで歩き始めるニャルさんにつきまとう。


「忙しいってどっか行くんですか?」

「迷宮ニャ」

「そういえば冒険者ランクはどのくらいなんですか?」

「なんでそんなこと聞くニャ」

「あなたに興味があるから!」

「そういうのは男に言ってやるニャ」

「おっちゃんには興味ないの」

「若いのを探すニャ」

「若い冒険者って下品なの多いしヤダー」

「うるさい奴だニャ~」


 ニャルさんはいわゆる出稼ぎ勢だ。故郷に兄弟が16人もいるので仕送りをしないといけないので一番上の兄ちゃんと姉ちゃん達の五人で冒険者をやっていたらしい。

 でも今はソロでやってるんだってさ。


「喧嘩別れ?」

「うにゃあ~~~~ロロ兄ちゃんは女見つけて冒険者辞めたニャ。双子ができたニャ」


 そりゃあ実家に仕送りしてる場合じゃねーな。


「ルルニャ姉ちゃんはイケメンに一目ぼれしてストーカーしてるニャ」

「とめた方がいいんじゃ?」

「それも生き方ニャ」


 生き方まちがってる気がするー。

 そんなこんなで兄弟五人の冒険者パーティーは恋愛沙汰で解散したらしい。兄弟の絆が儚すぎる。


 兄弟五人でやってる時は順調で冒険者ランクも稼ぎもグングン伸びてったけど、一番強かったロロ兄ちゃんがいなくなると稼ぎが激減。次に頼りになったルルニャ姉ちゃんがストーカーとして第二の人生を歩みだすともう大変だ。

 チィ姉ちゃんたちは男に貢がせて生きた方が楽だとか言ってエッチなお仕事に逃げ、残ったニャルさんはまぁなんだ、けっこう苦労してるんだそうな。


「うわぁ大変だー」

「生きてくのは大変ニャ。仕送りもあるから余計に大変ニャ」


 正直仕送りは辛くて辞めたいけど故郷の弟たちを思うと辞められないんだってさ。

 他の兄弟たちは本気で反省しろ。


「語尾にニャが多くない? そんなだったっけ?」

「これはケットシー種族の由緒正しいしゃべり方ニャ。でもギルドで給仕してる時は標準語ニャ。えらい人に怒られるのニャ」


 悲しい理由だ!


 お話をしている内にラティルト迷宮が見えてきた。

 ぞろぞろと入っていく冒険者の群れ。その中にはニャルさんみたいな獣人もいるけど、見比べてみるとニャルさんは猫度合いが少ない。あたしたちとそんなに変わらない気がする。


「ニャルさん付け耳?」

「なんてことを言うニャ! 古い時代のケットシーはもっとモサモサしてたって聞くニャ。でも詳しくは知らないニャ」

「知らないんだ」

「あちきもアシェラの巡礼信徒のバッチャから聞いただけニャ。あんま興味なかったから聞き流したニャ」


 だいぶ後になって知る話だけど古い時代のケットシーはもっと猫だったらしい。猫人族なんて感じじゃなくて猫そのものだったらしい。でも現代では混血が進んで背高人の亜種になっているんだってさ。最初の一人が罪深すぎる。


「ニャルさん尻尾撫でていい?」

「だめニャ! 尻尾は夫になる人以外に触らせないニャ!」


「そういう感じなんだ。耳もダメ?」

「逆にお前は昨日今日会ったばかりの女にケツと頭を触らせるのニャ?」

「相打ちなら望むところ!」

「諭そうとしたら闇を見せつけられたニャ。こいつ強すぎなのニャ。……どこまで付いてくる気ニャ?」


 おっとツッケンドンだぞ。何か嫌われるようなこと言ったかな。やはり尻尾と猫耳を狙うのはダメなのか。


「せっかくだし一緒に冒険しようよ!」

「あちきはC級ニャ。足手まといはゴメンニャ」

「まぁまぁ! そう冷たいことを言わずに!」

「何だか変なやつに懐かれたニャア……」


 ニャル尻尾がブンブン揺れる。犬は嬉しいと尻尾を振り、猫が尻尾を振るのは警戒している時だ。つまり今あたしは身体を狙ってくる怪しい女扱いを受けているのだ。


 ラティルト迷宮へと入る。

 朝だっていうのに迷宮内は昨日と同じく赤い月が出ている闇夜の世界。ぞろぞろと移動する冒険者の列はやはり塔を出て前方へと丘を下りていく。ニャルさんも大勢に倣った。

 腰までの高さに伸びた草原で、これだけ大勢の群れをなす冒険者の団体にも関わらず犬の魔物に頻繁に襲われる。外じゃこんなのありえない。外じゃこっちが多ければ弱い魔物は出てこないんだ。これも迷宮のルールなんだろうか。


 とりあえず間合いに入ってきたやつだけ首を跳ね飛ばす。

 他の冒険者と一緒になって最初の襲撃を退けた時に、ニャルさんが変な顔してた。


「お前あちきより強そうニャ」

「鍛えてますから!」


 二度目の襲撃はけっこう数が多い。とはいえこっちも数が多いので危なげなく撃退できた。迷宮で稼ぐ冒険者だ。田舎のしょっぱい連中とは格がちがうね。


「お前が登録したばかりの新入りなんて反則ニャ……」

「ニャルさんもけっこう強いと思うんだけどな」

「七年も冒険者やってるのに新入りに慰められるニャルの気持ちにもなるニャ」


 二度目の襲撃の討伐数はあたしが四頭。ニャルさんが一頭だった。ついでに魔石が一個落ちた。


 三度目の襲撃は先手を打てた。

 冒険者たちの中に数名いる魔導師の列に並んでファイヤーボールで先行打撃を打ち、苦もなく掃討に移れた。


「魔法も使えるのニャ……」

「鍛えてるからね!」

「お前はニャルなんかよりもずっと強いやつの一党入れてもらった方がいいニャ」

「一党ねえ。あたしを巡る人間関係が複雑になりそうだからヤダなあ」

「お前なら大丈夫ニャ」

「それはどういう意味だ!」


 冒険者の群れに交じって草原を歩いていると草原に空く大きな穴を見つけた。冒険者たちが大穴へと次々と飛び込んでいく。


「ニャルさんあれは?」

「次層への入り口ニャ」


 大穴へと飛び込む。途中で上下が反転したみたいな不思議な感覚がしたと思えばまた元のような草原に着地。

 また冒険者がぞろぞろと歩いていく。群れは何組にも分かれた。


「二層で稼ぐ連中と三層を目指す連中に分かれただけニャ」

「ニャルさんは?」

「あちきは三層を狩場にしてるニャ」


 浅層の中では魔石のドロップ率が気持ち多い気がするらしい。根拠的なものは存在せず体感で何となく多い気がするようだ。


 三層に到着するとまた冒険者の群れが二手に分かれる。ここで稼ぐ組と先に進む組で、あたしとニャルさんもここで稼ぐつもりだ。

 冒険者たちが思い思いの方向に散っていく。気になったのは彼らが向かわなかった方角だ。


「あっちには何が?」

「森があるニャ。魔物は森から出てくるから避けるニャ」

「なんで避けるの。森で稼げばいいじゃん」

「数が多くて大変ニャ。ラティルトでの稼ぎ方は森を避けて草原をうろついてる小さな群れを叩くニャ」


「稼ぐために来たのにぃ? 変なの」

「お前も一度行けばわかるニャ。本当に大変なのニャ。稼ぐつもりはあっても死ぬつもりはないのニャ」


 昨日行ったけどそこまで大変じゃなかった、という経験則もあったけど森には群生相カルマフロラという強力な魔物がいるらしい。


 森に近寄って怖いのは魔物の数だけじゃない。大きな群れを率いる強い魔物に襲われるのが一番怖いらしい。


「草原をうろついてるのはみんなそいつの影ニャ。倒すと消えるのは弱い影ニャ。魔石を落とすのは成長した影ニャ。群生相の周りにいるのはみんな魔石を宿すくらい成長した強い影ニャ。やめとくニャ」


 やけに詳しいな。さすが七年先輩だ。


「ニャルさんも戦ったことあるの?」

「ギルドで聞いたニャ。オルシアは色々教えてくれるニャ」


 あの清楚系お姉さん受付嬢はやはりいい人みたいだ。たぶんニャルさんを案じて色々危険な場所を教えてくれているのだろう。たぶん。


 会話を止める。背の高い芝草を踏み割るみたいにガサガサと音を立てて魔物が近づいてくる。

 まだ遠い。でも視認はできた。影と言われたあとで見れば実感も湧く。あの真っ黒な犬どもは本体から切り離された半実体を持つ影だ。


「四頭ニャ!」

「任せて!」


 ニャルさんと視線で意思を交わす。この距離なら魔法で先手を打てる。


「≪天なるストラの火の勇壮なるや! おおっ、その勇ましき王者の火よ 今一時わが手に宿りて我が敵そなたが敵を焼け!≫」


 スペルエンチャントを噛ませる。


「≪顕現せよ! 地上を照らす大いなる輝きにてこの大地を焼き払え―――ファイヤーストーム!≫」


 炎の渦がシャドウサーバントどもを包む。指先にピリリと走る違和感。突破される!


「ニャルさんまだ!」

「わかってるのニャ!」


 炎の渦の中から飛び出してきた二頭の影犬ども。あたしは右でニャルさんは左のを殺る。

 オーラで強化した斬撃で影犬を一刀両断する。


 ニャルさんは―――?


 一対一に持ち込んだニャルさんは影犬とすれちがい様に腹を浅く裂き、でも絶命までは至らずに振り返っての睨み合いになっている。援護だー!


「不要ニャ! 新入りは大人しく見てるニャ!」


 おっとお手伝い禁止みたいだ。プライドだ。


 影犬が突進。大きなジャンプで突進を交わしたニャルさんが影犬の胴体に乗ってしがみつき、ナイフを首に突き立てる。影犬は振り払おうと走り回ったがすぐに黒い光になって霧散する。

 影犬が消えた後も駆け抜ける勢いそのままに大地を滑っていったニャルさんが立ち上がる。その指には小さな魔石がある。


「儲けたニャ。この大きさなら銀貨四枚になるニャ」

「こっちのは?」

「……そっちも落ちたニャ。珍しいニャ」


 迷宮の魔物って言ったって魔石をポンポン落とすわけじゃない。十頭に一頭落とせばラッキーだと思ってるくらいだ。二頭連続はたしかに珍しいかも?


「さすが三層?」

「んニャ。ただの馬鹿ヅキニャ」


 ニャルさんが何かを見つけたみたいだ。最初にファイヤーストームを打ち込んだ芝草の燃えカスが舞う場所に行き、しゃがみ込む。

 魔石二つを掲げてきた。


「四の四はさすがに異常ニャ」

「ラッキーじゃん」

「……ニャ」


 ニャルさんが不安そうに顔をしかめた瞬間だ。硬い石壁を一点集中で撃ちぬいたような鋭い音が響き渡る。

 同時に聞こえてくる大勢の怒鳴り声と獣の吠える音。誰かが戦ってる。けっこう近い!


「なんで急に!」

「誰かが静音のフィールドを破ったのニャ!」


 けっこう近い。駆け足で向かうと本当に近くの、ほんの200mも離れていないような草原で冒険者たちが戦っている。

 相手は一際大きな影犬のボスに率いられた群れだ。体高だけで大柄な冒険者よりも大きい。グレイトボアよりも大きい。あの大きさの犬は初めて見るな……


「群生相ニャ! 逃げるニャ!」

「苦戦してる。助けに入るよ!」

「なんで向かっていくニャ!?」


 見捨てたらたぶんあの人達は帰って来れないからじゃん!

 戦いの祝福ソルジャーズ・プレスでオーラを増大。放つのは必殺技。あれは一気に仕留めないと不味い!


「アイアンハート流奥義! ドリッド・スロー!」


 助走からオーラブレードを投げ放つ。光の矢と化したオーラブレードが群生相化した影犬の右目を貫く。……足りない。

 あの大きさの魔物はしぶとい。一発じゃ絶対に足りない。追撃だ!


 群生相が前肢を振りかぶって叩きつけてくる。サイドステップよりも斜めへの踏み込み気味に無理やり回避し前進して群生相の顔面に飛びつく。


「剣は返してもらうよ!」


 群生相の右目を貫いた剣を、顔面を蹴りながら抜き取り直上へジャンプ。

 群生相が狙いをあたしに定めた。跳躍したあたしを追って後ろ脚で立ち上がり、鋭い牙を揃えた大口を開いて嚙み殺しに来る―――


 オーラブレードに追加の生命力をガンガン回す。気だるさを感じるのほどの量をぶちこんだ剣が軋む。


「ガアアアッ!」

「こちとら辺境出身だよ。ケダモノとの戦い方は弁えてるの!」


 風を圧縮して風の踏み場を形成する。首を伸ばしてくる群生相へと向けて今度は真下へとジャンプ!


「アイアンハート流奥義、ザンテツ!」


 群生相の首を叩き落す。手応えが超重かった!

 着地から数秒、のっそりと立ち上がったままだった群生相がずしんと地揺れを起こして倒れ込む。……影犬の親玉なのに倒しても消えないんだ? 謎だ。


 残った群れが無言で散っていく。ケダモノは群れのボスのかたき討ちなんてしない。それは迷宮でも同じらしい。


「マリアー!」

 おっとニャルさんが抱き着いてきた。


「逃げるって聞こえなかったニャ!? でもすごいニャ、群生相を倒すなんてすごいニャ!」

「えへん!」

「今だけは威張っていいニャ!」


 へっ、今なら尻尾触っても許される気がするぜ。

 そぉ~~っとニャルさんのお尻に手を伸ばしていると……


 ボロボロになってる冒険者たちが近づいてきた。お礼ならいいぜ。今から先輩が尻尾で払う。


「あー、なんだ、分け前の話をしてえんだがな」

「お礼の前に分け前だって?」


 冒険者チームの頭目らしい若い男がくしゃりと顔を歪める。

 色々とわかっていて主張している感じだ。


「苦戦をしていたのは認めるがそこまでじゃない。俺らの獲物にあんたが横から手を出したのが問題で……いや俺も馬鹿みたいな言い合いがしたいわけじゃない。あんたがトドメを刺したのは認める。その上で分け前をどの程度にするかって話だ」


 ニャルさんがこっそりと小声。

「よくあることニャ。だから逃げた方がよかったニャ」


 よくあることのようだ。さすが七年先輩は達観している。


 若い冒険者は何かと色々と言ってきた。面倒だからそーゆーのはパス。


「分け前はいいよ。今度酒でもおごってよ」

「いいのか?」


 きょとんとするくらいなら主張すんなって言いたいところだ。

 だから舌をべーって出して主張しておく。


「そっちこそいいの? 朝まで飲むつもりだぜ」

「群生相よりも手強い勝負になりそうだ! ああ、楽しみにしてる!」


 冒険者たちから離れるとニャルさんが身を寄せてきた。そんなに体で払いたいのかエロい子だなこいつ。


「いいのニャ?」

「いいよ、八人の武装集団と揉める方が大変だし」

「豪胆なのか小胆なのかわからないのニャア……」


 別にいいよ。八人とも無事だったんだしそれでいい。

 おかねならまた稼げばいいしね。


 まだ三層に着いたばかりだ。さあ今日も狩るぞー!



◇◇◇◇◇◇



 ニャルさんはけっこう几帳面で倒したモンスの数をカウントしていた。褒めると「お前冒険者向いてないニャ」って言われて悔しかったから尻尾を撫で回してやった。もちろんその後殴られた。


 三層で粘りに粘って92頭の影犬を倒した結果、魔石を七つ拾えた。魔石にも等級があってニャルさんが目盛りで計ってこれはE級ニャとか言ってた。


「お前冒険者向いてないニャ。魔石の等級を覚えれば帰る前に儲けがどれくらいになるか計算できるニャ」

「どうせギルドで換金する時にわかるからよくない?」

「甘いニャ。そういう大雑把なやつはギルドからもカモられるニャ。ギルドで誤魔化されてる奴はたくさんいるニャ」


 なんですと!?


「オルシアの窓口は安全ニャ。でも他の職員の窓口は気をつけるニャ」

「そうする……」


 ギルドは冒険者の味方って完全に油断してた。買取価格を誤魔化すとかあるんだ……


 帰り道、ニャルさんとだいぶ仲良くなってきた気がする。


「にゃあ、マリアの剣の切れ味すごいニャ。いったいどこで手に入れたニャ?」

「ふふん、じつはお父ちゃんから貰ったんだ。これうちの家宝の剣なんだ!」

「にゃあ! 見せてもらってもいいかニャ!?」


 ニャルさんにアイアンハート家の家宝であるラムゼイブレードを渡す。

 秒ですごい顔された!


「これ鈍器ニャ! ボロボロで刃なんか全部潰れてる鈍器ニャ!」

「ふふん、アイアンハートの剣士は技で斬るのさ。お父ちゃんよく言ってた。鋭い刃は敵をよく切り裂くが己もまた傷つける。名剣士名剣に溺れる。つまり名剣は剣士の技を曇らせるというありがたい―――」

「お前父ちゃんから絶対騙されてるニャ! 名剣士は名剣を使ってるニャ! 名剣じゃないと倒せない敵もいるニャ!」


「だから技を磨けというありがたい教えで―――」

「こんな鈍器で迷宮に潜ってたらいつか死ぬニャ! マリアはすぐに武器を買い替えるべきニャ!」


 うちの家宝ボロクソだな。

 でも確かにミスリルソードには憧れがある。夜闇でも仄かに光る青い剣とかカッコイイし。


「換金したら鍛冶屋回るニャ! あちきが良い店紹介してやるニャ!」


 最初は煙たがられてたのにだいぶ仲良くなってきたぜ。

 この調子でニャルさんを攻略しよう←

まりあ

ぼうけんしゃ おんな

Lv:16

HP:882

MP:1092

ちから:522

すばやさ:542

みのまもり:682

かしこさ:442

うんのよさ:1250


こうげき力:534

しゅび力:682


ぶき:ラムゼイ・ブレード

よろい:ツェルのふく

たて:なし

かぶと:なし

くつ:騎竜革のブーツ

そうしょくひん:シャピロの組み紐


まほう

スパーク:対象に火をつける

ランプ:20分間だけ明かりを灯す

ウォータータンク:水が飲める

ファイヤーボール:対象範囲に1000ダメージをあたえる

サンダーボルト:対象範囲(直線)に1000ダメージをあたえる

ファイヤーストーム:広範囲に600ダメージをあたえる


とくぎ

ソードスマッシュ:単体に800ダメージをあたえる

インパクトスマッシャー:対象範囲に400ダメージをあたえる

ドリッド・スロー:とおい敵にもこうげきできる。3500ダメージをあたえる


ちょうひっさつ

ブレイド・ラッシュ:スタミナを引き換えに怒涛の連続攻撃で敵を圧倒する



所持金:1073.20ボナ

目標額:3264.00ボナ


ユーベル金貨=12800ボナ

テンペル金貨=3400ボナ

ヘックス銀貨=100ボナ

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