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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
騎士学一学期 短話編
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リリウス、杖を買う

 学院に差す日差しが増し日陰の陰影がくっきりとしてきた。そろそろ夏かなーっていう日差しを感じる今日この頃、俺はなぜか魔法実技のエステル先生とアフタヌーンティーをしている。


 クソみたいな教科書の不備から始まった学院への働きかけてそこそこの儲けを出した事件の結末は俺的には大儲けでホクホクなのだが、エステル先生からすると話の分かる生徒に見えたようだ。気さくに接してくる。

 プライドの高そうな面倒な生徒も多いからな、俺みたいな弄りやすいタイプは癒しなんだろ。おまけでマリアもティータイムに呼ばれている。おそらくは癒し枠だ。


 今は美魔女の愚痴を聞いてあげているところだ。


「教育に不満はないの。若い子を導いてあげるのは大人の責務だもの。それで報酬まで貰えるのだから教師は最高の仕事よ」


 ぼやくエステル先生は中々に波乱万丈な人生を送ってきた。人生はいつも波乱万丈だ。方伯家の次女に生まれ国一番の天才魔導師として名を馳せた少女時代。鳴り物入りで留学した祈りの都ではオースティール魔導学院で学年主席。そんな順風満帆な人生に差した暗い影が祖国の危機で、留学先から急遽祖国に戻って義勇兵として敵対国と戦ったらしい。これ全部十代の話だ。相変わらず話の情報量が濃い~ぃ人だ。


 そんなエステル先生だからメンタルもさぞ強いかと思うが強くない。普通だ。


「教師に不満はないの。でも同僚の方々が面倒でねえ」

「あははは……ご愁傷様です」


 マリアが愛想笑いをしている。この愛想笑いですべてを切り抜けてきた感がある歴戦の愛想笑いだ。何しろあたし困ってます感がニュータイプ並みに伝わってくる。キュピーンって言ってる。

 しかし俺からのフォローはなし。なので仕方なくマリアが応じる。


「困ってるってどんなことで?」

「セクハラ」

「それは許せませんねえ」

「ほんと困っちゃうわ。妾だからって尻軽だと思われているのよ。純愛よ純愛、愛なくして女は心を開かないのよ」

「わかります」

「マリアさんならわかってくれると思ったわ。そっちは?」


 女性二人が結託して俺へと圧を掛けてくる。おまえもセクハラ男と同じ人種じゃねえだろな?オオン?ってやつだ。


「わかりますよ。愛は大事です」

「よろしい」


 満足げに微笑むエステル先生である。これで愚痴も終わりかと思ったが、マリアが話を広げ始めたのである。


「先生がたの勢力図ってどんな感じなんですか?」

「馬鹿、それ長くなる!」

「面倒な女扱いしないの。勢力図ってそんな物騒な言い方は……まああるわね」


 あるんだ。

 騎士学院の教師及び職員には派閥がある。三人寄れば文殊の知恵ならぬ派閥ができるのだ。


 まず主流派としてドロア学院長が掌握する元騎士団員派閥。別名は天下り連合である。


 次に宮廷文官から降りてきた文官派閥。主に学院の裏方である事務員を掌握するこれは元財務官僚のベネット氏が率いている。これがあんまりよくない、というか教師の風上にも置けない連中らしい。


 そして第三勢力である帝国法学のハディン先生を信奉する学者派閥だ。


「尊敬ではなく信奉ですか?」

「帝国の法学者からしたら神様みたいなお人ですもの。あの方は学者とか教師じゃなくて修験者って感じでしょ?」


 言わんとしていることはわかる。

 纏う雰囲気が学者ではなく神官や求道者だ。一つの道を歩くために人間的な一切を捨て去った生き方は昔のフェイに似ている。あいつも随分堕落したな。


「ハディン先生は派閥とか興味ないけど周りがね、って感じ。担ぎあげようとしている方々はちょこっとえらそうだし傲慢なエリート意識が見えるけど本質的に悪い人たちじゃないわ」

「傲慢な選民思考って悪い人じゃないんですか?」

「少なくともワイロを要求したりセクハラはしないわね」


 そこは大事なポイントだよね。マリアも納得の理由である。


「他にはないんですか?」

「第四勢力ってほどじゃないけどマイルズ君の派閥は強いわよ」

「マイルズ教官派閥持ってたんだ……」


「そういえばマリアさんはマイルズ君が担任だったわね。そうね、派閥っていうのはおかしいけどね」

「おかしいんですか?」

「だって彼一人だもの。スタンスは常に中立ではなく彼個人の美学に基づき、誰にも屈さず孤高の一匹狼。でも誰も無視できない強力な武を備えた個人なの」


 マイルズ教官ってそういうところがあるな。やりたくないことは死んでもやらないと言ってのけそうな、組織人として扱いづらい雰囲気がある。でもそういう人物って我の強さに見合った能力もってんだよね。


「縦割り組織でよくやりますねえ」

「そうね。でも世の中ってそういうものよ。立場とか権力とか色々あるけど強さだけには一目置かざるを得ない」

「王権の根底にあるものも武力ですからね。王権が保証する身分だって言ってしまえば武力が根底にある。……何ですかその顔は?」


「驚いたの。リリウス君ってたまに頭が良さそうなこと言うのよね」

「誰こいつ感がありますよね!」

「ナチュラルにひどいことを言わないでくださいよ」

「だったら普段の言動をどうにかしなさいよ、と言えるくらいには親しみがあるのよね。付き合いやすいところってすごいアドバンテージだと思うわ」


「おっ、褒められた。許しました」

「うんうんそのユルさもいいのよね。マリアさんはどう、こういう男とは長続きするわよ。捕まえるならこういうのもいいんじゃない?」


 おおっ、何だか俺の評価がグングン高まってるぞ。

 こういうのは素直に嬉しいねえ。


「でもこういう男って地味にモテるから浮気には要注意よ」

「でもリリウスがいいって言ってる子見た事ありません」

「あらら、まぁこの良さが分かるのはもう少し年齢が必要かもね」


 最初の嬉しさが欠片も残らず吹き飛んだぜ。なぜ女子の悪気のない発言はこうも破壊力が高いのか。本音なのがつらい。悪気があれば受け流せるんだがな。


「俺にとって何の得もない話題やめません? 授業の話をしましょう」

「お茶会でまで勉強とか……」

「真面目なのもいいことよ。それじゃあ……そういえば気になっていたんだけど学院の子って杖を使わないわよね?」


 ????

 最初は何を言われているのか分からなかった。でも思い返してみると、そういえばみんな杖を使ってない。レイピアとかそういう武器を杖の代わりにしている。


「そういえば……」

「あんまり見かけませんね」

「あなたたちも使わないわよね? それってナンデ?」


 ナンデって言われても困るな。

 ハリー・ポッターならダイアゴン横丁で杖を買ってもらうんだろうな。あったら使うかもしれんが自分から買うっていう意識はなかった。


「もしかして特に理由もなく使ってないの?」

「はい」

「そうっすね」


 エステル先生が驚愕して背後に落雷。なお比喩。それくらい驚いてるって意味だ。


「そんな衝撃を受けた顔せんでも」

「呆れた。ここまで意識が低いなんて思いもしなかったわ……」

「でも特に困りませんし」

「あたしも剣士が本業なんで」

「魔法の先生の前でトンデモナイこと言わないの。要るの、魔法には絶対に杖が必要なの。一度使ってみればわかるから!」

「で…でもでも魔法の杖って高いって聞きますし」

「杖は自作が基本よ!」


 魔導師ガチ勢がヒートアップ!


「それに貴族でも手が出ない杖って何なの!? そんなの誰が買えるのよ、買えなきゃ自分で作りなさいよ。素材なんてどこでも手に入るし何なら自分で集めればいいんだし!」


 先生が杖の利便性についてめっちゃ熱く語りだした。最初の頃の愚痴なんかより暑苦しい魔法談義のほうがよっぽどつらい。

 説教されてるみたいに項垂れてる俺とマリアが視線を交わす。

 お互いに察している目をしていた。


(このあとの流れは決まったな……)

(杖を作りに素材集めとか言い出す気がするぅ~)


 お昼休みどころか午後の授業と放課後まで潰れる気がしたが、それが現実になるのは俺もマリアも疑っていなかった。魔導オタクって他人の迷惑を顧みないもん。



◇◇◇◇◇◇



 休み時間のお茶会の後……


 俺ら三人は帝都新市街にある魔道具店までやって来た。


「なぜ貴族のご子息さまである俺が馬車馬のように女性陣を担がされたのだろう……?」

「ジャンプ一回でここまで来れる異常者がなんか言ってますね」

「ほんとよね。こっちの驚きの方が強いわよ、今何キロ飛んだの?」


「だってモタモタしてっと午後の授業つぶれそうな予感がしますもん」

「一回くらいサボったって死にはしないわよ」


 みなさん信じられます? これが教師の発言ですよ?


 そんな俺の戸惑いを放置してエステル先生とマリアが店に入っていく。そういや帝都の魔法道具店は初めて来るな。

 看板を見るにこの店は『親切なネルガルじいさんのニコニコ魔法薬堂』という店だ。もうすでに胡散臭いな。


 古本屋のような香りのする魔法道具店は伝統ほこりの漂う雰囲気のある店だ。掃除しろ。

 店の奥では眼鏡を掛けた老人が本を読んでいて、来客に気づいて顔をあげる。


「おや、おやおや……腕っこきの魔女とお弟子さんという感じだね」

「トボけたことをお言いでないよ。帝都で店を構えておいて学院の制服を知らないはずがないし、あれだけ強い魔力触指を伸ばしておいてよく言うね」

「あんな勢いで遠くから飛んでくるんだ。僕じゃなくても警戒するさ」


 腰の曲がったじいさんが立ち上がる。足腰がだいぶ弱ってそうだ。


「それで何が入用だい?」

「この子らに杖を見繕ってほしいの」


 素材集め回避!

 しかしマリアが急に挙動不審になったぞ。やはり所持金が不安なのか。また無駄遣いしたのか。この子あればあるだけ使うもんな。


「心配しなくても生徒に出させたりはしないよ」

「ごちになります!」

「大切にします!」

「買ってもいない内からはしゃがないの。もうっ、調子のいい子たちね!」


 物怖じをせずにぶっこむ勇気と愛嬌は大事だ。気前のいい先輩からおごってもらえる可能性が高まるからね。


 魔法屋のじいさんが俺をじっくり見つめる。眼鏡を遠ざけたり近づけたりして不可解そうに唸っている。


「またトンデモナイ小僧を連れてきおった。いったいいずこの御柱の御子だいね。ここまで禍々しい魔法力はちょっと関わりたくないっていうか教団にいい杖があるだろうに……」

「わかりますか?」

「わからん奴は魔導師を名乗れんよ」


 だそうだ。とはいえ普通はわからないはずだ。見た目はショボくれたじいさんだが相当な力量と知識を備えた魔導師なんだろうな。


 今度はマリアを見る。なぜか目に見えて安堵している。


「こっちは普通じゃな」

「褒められたのかな?」

「うむ、天の気とストラの火。まっとうな人間らしい心ある魔法力だ」


 失礼なじじいが杖を一振り。すると奥から金属の箱が宙を飛んできた。こういう物体干渉系の魔法って逆に珍しいな。いや簡単な魔法なんだけどね。でも俺が普段関わるのって攻撃と防壁と消去ばかりの荒々しい魔法世界だから。


 カウンターまで浮遊の魔法でやってきた金属の箱の蓋が勝手に外れる。中には金属の筒がたくさん詰まっていた。


「これ全部魔法の杖なんですか?」

「魔導師が持つべき杖ではあるわね」

「魔法の杖だと誤解があるわなあ」


 エステル先生と店主が分かってる人だけにわかる空気を出している。

 そしてたしかに誤解がある。


「マリア、魔法の杖というとマジックアイテムの意味合いが強くなる。これはあくまで魔法を使いやすくするための補助具でしかないから別物なんだ」

「どうしてそれをわかっているのに今まで杖を使ってこなかったの……?」


 そこを指摘されると困るな。知識だけはあるんです。

 店主のじいさんに杖を選んでもらう。どういう素材で作られた杖かも説明を受ける。先生からはこの素材を覚えておくように言われた。将来的に自作する時の指標になるからだ。また杖の素材になる物は覚えておくといいとも助言を受けた。


 最後に先生が店主の足を指す。


「現役の店主ならともかくこのじいさまの足腰を見なよ、もう自分で素材を集められない。となると誰かから買い取るしかないのさ。人生何があるか分からない。貴族だなんて胡坐を掻いていても没落は一瞬。そういう時にこういう知識があると食いっぱぐれないよ」

「説得力の権化じゃん」

「元方伯家のお嬢様のセリフだもんねぇ」


 国家の崩壊からクーデター政権の樹立に伴い味方からも追われての残党狩りを生き延びた元戦時大隊長さんのセリフだからすげえ説得力だ。他国に逃げ延びて冒険者に身をやつすまでは魔法素材の収集で生き延びたのかもしれない。信じられます、これ全部十代の出来事なんですよ?

 俺並みに激動の人生生き抜いてきてるもんよ。すげえよ。


 俺の杖は柳を主軸にして塗り薬が特殊だ。異教の信徒の骨を砕いて物と、墓所から獲ってきた汚染された魔石をこれまた砕いて秘伝の液体に混ぜて塗り上げた品だ。完全に呪いのアイテムだ。


「リリウスの杖キモすぎない?」

「俺だって好きでこんなもん……。マリアのは普通だよな」

「だって普通の女の子だし」


 絶対普通の女子じゃないやつに普通の杖だ。じいさん耄碌してね?


 マリアの杖は普通だ。サルワタリとかいう木を用いた短杖で特に怪しい素材はなし。普通の杖だ。魔法屋の陰謀を感じる。


 杖二本でお会計は金貨18枚。やはり杖は高いな。


「高いと思ったら自作するといいよ。素材さえ集めてきたら作り方を教えてあげるわ」

「買うわ! たかだか金貨の数枚のためにデス教徒の骨を手に入れたり墓所で魔石探しするくらいなら素直に買うわ!」

「うわぁ……」


 俺の杖だけ素材がひどいんだよ。マリアのなんて森に行けば普通に集まるぞ!

 とはいえ杖は手に入った。学院に戻って的を相手に試し打ちの時間だ。なおとっくに五時限目が始まっている時刻だ。


「じゃあ杖を使った基本の戦い方をやろう。無色の魔法弾、魔力量は0.01アテーゼ程度でいいわ。これを杖に載せて」


 エステル先生が杖を振るう。三度振るう。鉄の鎧を着た騎兵を模した的の表面が三度弾ける。口、のど、サーベルを持つ右腕の手首、さすがの命中精度である。止まってる的でもこの精度はさすがだ。

 俺ら生徒二人は拍手である。


「ありがとう。もちろんきちんと見ていたと思うけど疑問点はある?」


 無い。疑問点を持つほど熱心ではないからだ。それは先生も分かったらしい。さすが家庭教師歴が長いだけあるな。


「魔法弾を杖に載せ、手首のスナップを利かせて、杖のしなりを利用して勢いよく投げ放つの。これだけよ」

「なるほど」

「投石具と似てますね!」


 マリアよそれは乙女のセリフじゃないぞ。でも騎士学院生としてはこの上なく正しい。投石紐スリングではなく木製の孫の手に似た投石具シューターそのままだ。


「でも威力が低いような?」

「そこは工夫のし甲斐よね」


 エステル先生が杖を振る。今度はえげつない音と共に土くれの騎兵の頭部がバラバラになった。腕のいい魔導師の怖いところだな。


「まずは投げ放つために物体を加速させるという工程を簡略化した杖という武器が誇る奥深い術理を学びましょう。すべてを学び終える頃には剣がいかに仰々しくて手間が掛かるものかにうんざりし、杖の利便性に頷くでしょう」

「どのくらい掛かるんですか?」

「とりあえず夕方までみっちりやってみましょ!」


 うん、予想外というか予想通りというか……

 杖の自作ではなく杖の訓練で放課後まで潰れるのが決定した瞬間である。けっこうスパルタ先生なんだよね、とほほ……



◇◇◇◇◇◇



「マリアさん魔法力を込めすぎです。威力を高めるのはけっこうですけど速度が落ちるのはいただけないわ。それと込める量にバラつきが出てます。一定量を心掛けなさい」

「はい!」


「リリウス君は特にいうことがないわ」

「うっす!」


 十分が経過した。


「じゃあそろそろマジックバレットの工夫に入りましょうか」

「早くないスか?」

「延々と同じ事やっても飽きちゃうでしょ」


 この人教え方うまいな。辛抱のできない飽き性の子供に教える家庭教師だった人だしな。

 一つ一つ完璧にするのではなく、まず一通り教えてから時間をかけて全体的に底上げする。じつに上手い修練方法だ。


 エステル先生が新しい教科書からマジックバレットのレシピをチョイス。術式を構築して脳内の片隅に待機させ、そのまま保持する。使う時は術式を転写複製して魔力を流して実行する。魔王様直伝の高速連射方法だ。


「うん、リリウス君は特に言うことはないわ。その調子で反復しなさい」

「うす」

「えこひいきだ……」

「だって本当に言うことがないんですもの。ものすごく呑み込みがいいのよね」

「手先が器用なものでして」


 器用さにかけては天下一品の俺氏である。大抵の楽器は一時間もいじってれば使えるし技だって使える。その分忘れるのも早いのが玉にきず。反復練習は大事だ。忘れないためにね。

 マリアも物覚えがいいというか勘がいい。大抵のことはすぐにこなせるけど俺はちょっとレベルが違うからな。


 普通の人 器用さ8

 マリア 器用さ24

 俺 器用さ 99

 くらいの差がある。アシェラに言わせればループで一度通った道なんだから魂が覚えているんだろうぜって話だ。スキルツリー的な何かが最初からあちこち解放されているんだろうな。


「マリアさんも天才的なまでに呑み込みがいいわよ。この調子でやりましょう」

「そうは思えないんですけどぉ?」

「比較対象がおかしいだけよ」


 こんな調子で丸一日が杖の訓練で潰れて、俺もマリアも杖の面白さを目覚めた。ただまあ面白いオモチャ止まりではある。だって手が片方杖で埋まるのはちょっとね。


 翌日、杖の実用性の模範ということで授業でエステル先生と俺の模擬戦がド派手に行われ、学院でも杖を持つやつがけっこう増えたのはいいことかもしれない。



◇◇◇◇◇◇



 杖という面白い武器を手に入れた俺がこそこそ練習を重ねてから向かったのはLM商会だ。

 さっそくこの武器でフェイと戦ってみようという話だ。LM商会の中庭訓練場は特別な場所だ。主に俺とフェイとレテが使う訓練場だから耐久力が特別だ。


 空間をいじってあるので戦場くらい広い。いやはやアシェラの御業の凄さを思い知るね。


「杖ねえ、まあお前が扱うのならそれなりなんだろ。掛かってこい」

「ぼっこぼこにしてやんよ」

「僕との対戦勝率が5パー切ってるやつが吠えるじゃないか」


 ぐぅの音も出ねえな。フェイは対人格闘の名人だ。将棋のように定石を理解して闘争という場で独り黙々と最善手を打ち続けて詰め将棋のごとく一方的に勝利する戦いの名人だ。

 はっきり言って俺じゃもう勝ち目がない。癖も技も出尽くすくらい稽古を重ねてきたせいで完全に見切られている。


 そこでこの新装備である。杖使いとしての俺の戦法ならまだ勝機があると踏んでいるのだ。


 さあバトルスタートだ。

 いくぜ、いきなり連打!


「せめて開始の合図くらいしろ」

「うるせえ、ストリートファイトの合図は視線がかち合った瞬間だろうが!」

「場末のチンピラでも難癖や前口上くらいするだろ……」


 猛攻をかけるも当たらない。速度はかなりのものだ。弾幕ってくらいの面攻撃もできている。つっ、杖の振りでマジックバレットの軌道が見破られている!?


「ほーお、マジックスタッフ初心者のくせにけっこうなもんだ」

「せめて当ててから褒めてもらっていい?」

「当たるかよ」


 魔法弾の弾幕を駆け抜けてきたフェイが俺の顔面に一発寸止めを入れていった。反射的にイタ!って言いかけたくらいに見事な寸止めだ。


 その後三回ほど組手をやったがやっぱり当たらなかった。


「個人的にはかなり気に入っていたんだがサブウェポンとしても不採用かな?」

「習熟度次第じゃないか? 実際これまで戦ってきた木っ端魔道士どもとは比較にならない強さだったぞ」


「最終的に使い物になると思うか?」

「んなのやってみるまでわかるもんか。甘えるな、使い物になるように功夫を積み上げるのが武道だろうが」

「わかってるわかってる」


 熟練度、あぁ熟練度、熟練度が足りない。

 思ったより使い勝手がよさそうだと思ったけど熟練度が足りないので使い物にならない。先生には悪いけど雑魚相手のオモチャになるなー。

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