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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
いかさまカジノ激闘編
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片割れのマリア

「まずは貴様らの実力を見せてもらうぞ、往けゴブリン騎士団!」


 あちこちの空間が開きダイアーウルフに騎乗するゴブリン騎士どもが空白のバトルフィールドを突撃してくる。エラン・ドイル、五人一班を意味するこれは帝国騎士団が採用する最小単位の騎兵部隊だ。

 陣形は密集傘型突撃。五人一班を二十班。これが360度の角度から一斉にやってくる。

 まったく騎兵戦術の基本だ。強兵は囲んで殺す。


「待てガイゼリック君。君がどうして―――どうして俺達を襲う!?」

「クロード、呑気におしゃべりしてる場合じゃねえぞ!」

「っく、騎兵を近づけるな。範囲魔法掃射、隊列を崩せ!」


 アーサーとマリアとクロードが短文詠唱による魔法を構築する。だが魔法が発動しない。強力な干渉波によって魔法の発動が阻害された。

 この干渉波の発生源はガイゼリックか!


 タクトを掲げてグルグル回すガイゼリックがフィールド内の魔法力をかき集めている。クランの歌姫の能力を干渉結界で代用してやがる。魔法力を外に出した瞬間にガイゼリックにコントロールを奪われている。何が何でも魔法を使わせないつもりか。


「まずは身体能力と対応力を見たいなあ。さあ足掻いてみせろ!」

「騎兵が来るぞ。各自切り抜けろ!」


 ランスを構えて突撃してくるゴブリン騎士の一班を殴り倒す。やや時間差を置いて斜め後ろを突いてきた別の一班も腕力で叩き伏せる。


 波状突撃は厄介だ。押し寄せる敵に対してこちらは必ず応じなければならない。行動をコントロールされるのだ。うまい指揮官はこれで隙を作り強兵を狩る。

 騎兵は強い。ダイアーウルフの保有するAGI1700の下駄を履いたゴブリン騎士どもによってチームが分断されている。


 初回の波状攻撃を切り抜けた男子陣がマリアの下へと集まっている。うん、波状突撃に対して密集陣形。基本だがナイスな判断だ。

 駆け抜けていった騎兵は18班78体まで数を減らしているが空間穴から増員がかかり減った分が補充されている。エロ賢者のくせにガチで手強いな。


 ガイゼリックが魔水晶を取り出す。こいつ……!


「次は条件を厳しくしよう。召喚、グレーターデーモン・アゼルシア!」


 ガイゼリックの前面に上位魔神が出てきた。うそぉ……


 ワイヤーを束ねたみたいな超筋肉の六つ腕の巨体を持ち、ジャイアント級の巨大な肉体の胸から美しい乙女が生えている不気味な魔神だ。

 乙女の口が呪言を高速詠唱。やつの周囲に無数の魔法陣が発生する。無数の砲火が一斉に解き放たれた―――


「散開! 生き延びろ、あれは危険だ!」

「波状突撃開始だ。さあ切り抜けてみせろ!」

「くそっ、グレーターデーモンは俺が殺る。つかガイゼリックを潰さねえとジリ貧だぞ!」


 魔神アゼルシアは無視だ。召喚主を仕留める。←これこそが俺がトリックスターと呼ばれる由縁。本心からの発言を秒で撤回して思いつきで柔軟な戦闘行動を亜音速でやってのけるから無敵なのである。


 殺人ナイフを握り締めて無数の兵に守られているガイゼリックへと―――


「ごめーん、そいつは殺らせないよ」

「ナシェカぁああ!」


 眼前に降ってきたナシェカを打倒するべく殺人ナイフで競り合う。ユノ・ザリッガーは人体を切り裂くことに特化した形状のナイフだ。どんな武芸をも無効化する特殊形状の刃に熟達すればどんな盾も装甲でも隙間を突ける。

 だが俺の刃が届かない。殺人ナイフの理不尽な軌道にナシェカの技がついてくる。


 強い。俺の全速についてくるか!


「それがお前の全力か。猫を被ってやがったな?」

「にゃおーん♪ 可愛かったでしょ~~?」


 言動はふざけ切っているが構えに油断はない。

 腰を深く落として左腕の殺人ナイフを突き出し、だが背に隠した右手が握る真紅の大口径拳銃の存在が不気味すぎる。


 イーリィ型の殺人ナイフと呪術弾頭を合体させた異色の武器種ソーデッドガン。どう考えても単一で使った方がいいに決まってる二つを無理やり合体させた、いわゆる趣味枠の武器だが習熟すれば斬撃と銃撃を同時に放てる。

 なによりこいつは殺害の王アルザインが設計した剣銃だ。


 ウェスタ・ラーヴァ・ハスタエルラ。ド派手好みな殺人鬼が設計したというだけのコスパ最悪の趣味銃が神格を得たことでどういう権能を宿したのか。これが不明だから不気味だ。

 イザール戦で一発くらい食らっておけばよかった、とは欠片も思わねえけどよ。


「どうしてウェスタを使わない? 使いこなす自信がねえのか?」

「切り札は最後に切るものでしょ」


「へっ、温存しといて最後まで切らずに終わるのも切り札のロマニズムだぜ。切り札を本当に切るなんて三流の小悪党のやることだ。絶対に使うなよ、一流になりたければ……!」

「読み合いになると途端にイキイキマウント取り出すのやめてほしいなー、男なら暴力で語れよ」

「お前の男性観が垣間見えそうな発言だな。ダメ男に引っかかった過去がありそうで怖くなってきた」

「ううん、わたしリリウスが本当はそんな人じゃないって信じてるから……」

「DV被害カノジョぶるのはまずカノジョになってからお願いできますー?」


 仕掛ける!

 首をもぐ勢いの突き蹴りを姿勢を下げて回避したナシェカへと別の足によるソバットを打ち込む。床を砕く威力のソバットをバックステップというか跳弾のように後ろに下がっていったナシェカ。

 ウェスタを使うならここだろ?


 しかしナシェカは銃を使わない。ガイゼリックへと到る空間を塞ぎ続けている。。守護が一番。俺を倒すのは二の次ってわけだ。


 強い。守りに回ったナシェカを打ち崩せない。

 何よりこいつの向こうには魔神が控え、ガイゼリックを守護するジャイアントの戦士団までいる。……コツコツ貯めたリバイブエナジーをこの程度の連中に使わされるのは癪だが切り札は適切に切るべきだ。使わずに後悔するくらいなら使い果たしてから悔やんでやるさ。


 殺害の王を縛る十二の枷。十二の試練と名付けられた指輪を一つ外そうとした時、魔神の連射する爆炎の向こうからマリアが抜け出してきた。


「ナシェカ!」

「マリアか、来なくてもいいのに……」

「どうしてそっちにいるの? 答えてよナシェカ!」

「……神器が欲しかったの」


 しょうもねえ理由でびっくり!


「ナシェカちゃんにも重い理由があるんだ。つよつよ神器貰って人生を無双して左団扇で暮らすっていう夢が……」

「あんたってやつはそんなアホな理由でぇぇええええ!」

「うるせー馬鹿マリア! 神器欲しさに迷宮潜りしてる馬鹿とちがって裏切れば確実に貰えるんだから裏切るに決まってんだろ!」


 あーあ、二人が醜い喧嘩を始めちゃったよ。

 武器を放り出しての醜いキャットファイトだ。掴み合いだ。ほっぺをつねり合って髪を引っ張り合っている。なんてしょうもねえケンカだ。


 俺は俺で十二の試練を五つ外す。認めるよエロ賢者、てめえは俺が本気を出すに値する敵だ。


 権能の再取得。

 クランの歌姫の能力など無意味だ。このちからは俺の根源から湧きいずる神のちから。


「クズが、あくまで俺に逆らうか」

「勝手に言ってろ。この狂った世界で弱者が何をほざいたとて意味はないんだよ」


 自らの左腕を引きちぎる。噴き出した鮮血と闇の魔法力を触媒に殺害の王の腕を現出させ、魔神アゼルシアへと殴りつける。

 殴打は魔神の魔導防壁に阻まれた。コーンと甲高い音を奏でる衝突音。構わず王の左腕で殴り続ける。


 魔導防壁は攻撃を受ければ摩耗する。だが王の暗黒の腕は摩耗しない。この腕はこの世に降臨した死の奇跡そのものだからだ。

 MATK32550という凶悪な魔法攻撃を秒間300発だ。魔神の魔導防壁は瞬く間にすり切れ、胸から生える美しい乙女が絶叫した。


「危機感が遅え!」


 アゼルシアの本体を王の腕で殴りつける。魔法力のすべてを消費し尽くすまで殴り続ける。すべてが霧散してゼロになるまで殴り続ける。再生は許さない。俺の意思にかかわらず殺害の王は死を逃れることだけは絶対に許さない。

 汚いドブ色の闇に染まったアゼルシアが苦悶と共に消えていく。


「憎しみは俺に向けろ。だが文句ならガイゼリックに言え」


 ガイゼリックへと向けて歩き出す。奴を守護する巨人の戦士団が雄たけびをあげて迫ってくる。……その判断は俺が覚悟を決める前にするべきだったぞ。


 ジャイアントの戦士団30体の心臓を同時に抉る。広範囲即死魔法デスパレード・オーバーデスの原型となった殺害の王の御業によって巨人どもが膝を着いていく……


「さあ終幕だ、祈りを捧げろ」

「イレギュラーめ、使えるのなら使ってやろうと考えていたが……」


 ガイゼリックがタクトを振り上げる。

 その瞬間に王の左腕を叩きつけるが魔導防壁に阻まれた。人の魔導師としては脅威的な防御性能だが一度で足りなきゃ何度でも叩き続けてやるまでだ。

 ガイゼリックから干渉波が放たれる。逆らう理由はない。


 固有世界へのご招待だ。邪魔者なしで殺し合おうってんなら望むところだ。



◇◇◇◇◇◇



 世界が切り替わっていく。世界という、次元迷宮という完成された空間に切れ間を入れてパズルを壊すみたいに剥がしていくそこに存在する感覚を言葉にすることはできない。

 一つ一つ一斉に剥がれていった世界の向こうにガイゼリックの固有世界がある。


 砂嵐吹き荒れる天に浮かぶ小島で、ガイゼリックが真っ白い剣を提げたまま俺を睨んでいる。


「純後衛職が今更おままごとかよ。俺も通常兵装に切り替えたほうがいいか?」

「互いに手心を加える余裕などあるまいよ。―――時の神器シュテリアーゼよ、時を刻め、そして止めろ」


 へえ、あれがシュテリアーゼか。ゲームで見たのとは随分ちが……


 は?

 いつの間にか視界からガイゼリックが消えている。それだけじゃない、俺の腹がごっそり抉れている……


 激痛が脳まで這い上がってくる。痛みを抑え込んで気配の方へと視線を向ける。嵐の空を飛翔するガイゼリックへだ。


「何が起きた。何をしやがった?」

「理解したとて対処する術はない。何より教える理由がない。―――オーヴァドライブ」


 またガイゼリックが消えた。

 すぐに肉体の異常を診断するが特に異常はない。寸前に抉られた腹からの出血がひどいくらいと、殺害の王の左腕がやや出力が衰えているくらいか。……充分な異常だな。

 あの神器の攻撃力は殺害の王の腕にダメージを与えるほどなのか。


 ガイゼリックが嵐の空を飛翔している。飛翔というには浮遊に近いゆっくりした動きで一定の距離を保ったまま俺の周囲を回っている。目算で3000m。もはや声も届かぬ距離だ。


 アルテナの神具で肉体の完全回復を実行する。呼び起こした殺害の王の左腕が退場を嫌がって修復したはずの俺の腕を喰らいやがった。制御が利かない。だから嫌なんだこのちからは……


 ガイゼリックの姿が砂嵐に隠れていく。

 だが思念の声だけが届いた。


『先ほど』

『あん?』

『クズにしては面白いことを言ったと思ってな。切り札を切れば三流、切らずば一流。愚かな貴様に俺が一つ追加してやろう。機を過たず切り札を切れたなら超一流とな』

『馬鹿が、そいつはオモシロ会話シリーズだ』


 ガイゼリックがタクトを振るうと嵐の空を三頭の獅子が駆け上がってきた。一つ目と長い一本角を持つ獅子が奴を守護するように空を踏んで制止する。

 俺は―――気づけば俺は絶叫していた。


「馬鹿な!?」


 ありえない。ありえてはいけない。あんなものを使役するなどありえるはずがない。

 だから俺は声が一声で枯れ果てるほどに叫んだ。こんな現実は夢だろうがって信じたくないからだ。


 その一角一つ目の獅子は砂のザナルガンドだろうが!


「馬鹿な馬鹿な馬鹿な――――! ガイゼリックッ、そいつをッ―――そいつをどこで手に入れた!?」

『ダージェイル旅行の折にな。あぁもちろん貴様らの活躍は視ていたぞ。苦労して捕獲した瀕死の一頭をようやくここまで増やせたところだ』

『まさか寄生させたのか。ザナルガンドを!?』

『間もなくこの地を嵐が襲う。血と裏切りが渦巻き億万の命をすする革命の嵐が。……貴様とてそのためにちからを求めたはずだ。予見の眼を持つ俺がどうして対策を講じなかったと考える?』


 ガイゼリックが魔法杖を持ち変える。ナシェカが所有していた血と臓物で造り上げられた黄金髑髏の短杖が怪しい妖気を放ち始める。


 ガイゼリックの危険度が更新され続ける。もはやこいつの脅威度は神聖存在に等しい。加えて砂のザナルガンドまで使役するなんて……


『おまえ本当に何なんだよ……』

『我が名はガイゼリック・ワイスマン、大賢者にして時空の支配者である。予言されたリセットの日に抗うために我らという種の生存本能が生み出した片割れの王種マリア。……品のない名称になるがアシェラ信徒どもがトールマンキングと呼ぶ存在だ』


 黄金髑髏の短杖が輝き明滅する。まるで嗤っているみたいだ。

 ガイゼリックの背後におぞましい死霊の姿が見える。緩やかに波打つ長い髪を広げた耳の長い死霊が嗤っている。ハイエルフの死霊なのか……?


『何が始まりの救世主だ、おぞましい時神の傀儡め。貴様にはここで退場してもらうぞ!』


 それが王の命令だったのか。

 三頭のザナルガンドが流星となって襲い掛かってきた。

神器シュテリアーゼ

権能:クロノアクセル 追加パラメータの付与 AGI2000~3500上昇。

権能:バンガード・ランス 光の矢を放ち対象を消失させる。

権能解放:オーヴァドライブ 術者本人のみが時の停滞したフィールドで7t行動できる。デメリットとして性能が恒久的に微減する。

真名解放:真の名を唱える事それのみが光の最強剣を鞘から解き放つ。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ガイゼリック君、強すぎ〜    トルーマンキングとかの新たな謎とかまさかの第三勢力がいたりとかの先の読めない展開すっごい好き [一言] 最近の更新頻度と加速度的面白さに感謝
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