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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
いかさまカジノ激闘編
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運命に選ばれた戦士たち②

 翌朝の早朝から次元迷宮へと挑むイカレたメンバーを紹介するぜ。


「入学前に詐欺に遭って迷宮奴隷になってた一年D組の狂戦士にしてダンジョンマイスター・マリア・アイアンハート!」

「いえーい。彼氏募集中でーす!」


「昼間は天使で夜は小悪魔、貢がせた金額は天文学ナシェカ・レオン!」

「ちょっ―――風評被害風評被害! それは悪質な風評被害。わたしは夜も天使だってば!」


「居眠りしながら訓練相手をフルボッコにするアルチザン王家の狂戦士。治癒術師枠だが火力も頼りにしてるぜ青イエティ!」

「すまないが何のことだかわからない。しかし手伝うと言ったからには全力を尽くそうと思う」


「そして最後はこの俺騎士学一年で一番のイケメン! リリウス・マクローエンだ!」

「旦那ぁ、最後にクソみたいな嘘つくのやめよ?」

「心ん中で思ってるだけなら文句はないんだけどさ、口に出すと責任が発生するんだよねえ」

「君はもしかして嫌われているのか?」


 ああああああああああああ!

 俺ん時だけみんなして結託しやがって。気持ちよく挑ませてもくれねえのか!


「というかいきなりどうしたんだ。さっきまで普通にしていたじゃないか」

「ダンジョンに挑む前にバトルテンションを上げようと思ったんだが……滑った」


 本気で滑った。完全に空気を読めてなかった。

 朝一番でみんなローテンションだから気合い入れてやるかって思ったら逆に盛り下げちまった。


 殺してくれ。それが情けってやつだ。


「気遣いは感謝するがマインドセットくらいは各自勝手にやる。むしろ精神を整えている最中に大声を出される等の行為は妨害になる。今後は控えてほしい」

「ちくしょう、冷静にダメ出ししやがる」


 帝都フォルノークの南の森。旧黒き女王アルバンの居城がある大断崖の底に次元迷宮への入り口があるらしい。

 朝霧も深い谷底を下りていく。夜明け過ぎにも関わらずアンデッドとの遭遇率は高く、手間取るってほど強いやつもいないが煩わしい量と交戦するはめになった。


「アーサー君へいき?」

「アノンテン近郊の死霊よりは手強いな。共食いで成長しているんじゃないか?」


 アーサー君がターンアンデッドをビーム状に細く長く放出し、こいつで一斉に薙ぎ払う。……この使い方をするアルテナ神官は初めてだな。発想が騎士階級だ。

 こんな無茶な使い方したら普通威力が落ちて怯みスタンどまりになるはずだがきちんと必殺の威力を保ってるのがすげえわ。


 女子二人も聖銀の武器で近づいてくるやつだけを切り伏せ軽妙な足取りで坂道を下っていく。慣れてる。以上。


 濃霧に包まれた谷底は本当に何も見えない。冥府の魔法力が濃い霧となってここいらに満ちているのだ。朝が来てもアンデッドが元気な理由はこれだ。この谷底にはストラの光は差さないんだ。


 ゾンビや死霊に明らか進化してる強いアンデッドを殴り倒しながら谷底をタッタカ走ってく。

 やがてマリア様が急停止。闘気を全力で聖銀剣に込め始め、その場で跳躍したと思ったらくるっと横に一回転―――


「ナシェカ!」

「おっけー!」


 ナシェカがマリア様の腕を蹴り、乱暴に加速させた剣を振り抜く。

 この異常加速した一撃が濃霧の中からぬっと現れた強化ゴーストの腹を一発で両断!


 は? 知覚を狂わせる濃霧の中で足音を立てない悪霊をどうやって察知した? しかも通常の攻撃だと無理だと判断して連携攻撃? どの段階で判断した。俺でさえ接敵に気づいたのはマリア様のジャンプ後だったのに……


 二人が闘気と聖銀の二重特攻技でアストラル体が激しく損傷した強化ゴーストを細切れにするくらいの連撃で刻んでいる。

 けっこう強そうなゴーストだったのに一瞬で冥府の魔力を下限まで散らし切った二人がとっとこ走り出す。本当にここでの戦いに慣れてるんだな。


 ほんの二週間かそこいら目を離していただけでここまで変化するのか。

 個々の実力も格段に上がっている。だがピタリと合った連携が凶悪に噛み合い強さを三倍四倍に跳ね上げている。

 おそらくはそこまで這い上がらなきゃ生き残れなかったからだ。次元迷宮の強力な敵と戦うことで刺激された生存本能が強さを求めていった結果なんだ。……面白え。


 面白いな。強敵ごときでここまで強くなれる二人なら本気で立ちはだかってみるのも面白いかもな。現状可愛いマスコット枠でしかなかったドルジアの聖女を本気で仲間に欲しくなってきた。


「あの二人けっこう強いね」


 並走するアーサー君がそう言ってきた。なぜか困った感じで眉をひそめている。


「子守になるかとうんざりしていたが別の意味でイヤになってきた。君ら三人に治癒が必要な迷宮なんだろ」

「じつは俺も入るのは初めてなんだよ」

「少しは前向きになれる情報をありがとう。本好き垂涎の店に期待して乗り切るよ」

「おう、楽しみにしてろよ」


 今このタイミングで貸し本屋だってバラしたら本気でお帰りになりそうな気がしたから期待を煽っておいたぜ!

 謝るのは迷宮から出たあとでいいしな!


 谷底を覆う霧は濃さを増し、だが反比例するようにアンデッドとの遭遇戦が減っていった。


 隣を歩くアーサーの顔さえ見えない濃霧を歩いていく。空気が冷えていく。まるで冬のようだ。まるでマクローエンのようだ。……ファウスト兄貴を見捨てた日にもう二度と帰らないと誓った故郷の空気がする。


 入った。肌にピリっとくる危険な香りが鼻を掠めた瞬間にそう感じた。


 霧が失せる。真っ白な空間だ。

 霧が避けている。真っ白な空間に黒い亀裂がある。まるで地面に突き立つ黒い剣みたいな空間亀裂がある。時折放電する黒い電気と理解したくない絶望的なイメージを放ちながら黒い亀裂がある。


 ナシェカがスカートの上に巻いた三枚のベルトから一本の短杖を掲げる。血と臓物で造られた短杖はコアとなる部分に黄金の髑髏を嵌め込んだ物。不気味なだけの杖だと思っていた。それだけの杖だと。

 しかし黒い亀裂と反応を始めた短杖から溢れ出した妖気は気持ち悪いほどに禍々しい。音が鳴っている。カリカリと爪で何かを掻くような不愉快な音が鳴っている。

 今すぐにナシェカの手を叩いて短杖を叩き落してどこかに蹴り飛ばしたいくらいだ。


「それが鍵なのか?」

「うん」

「どういう由来の物なんだ?」

「そこまでは聞いていないかなー」

「聞きもせずにどうしてそんな……」


 そんな不気味な物を持っていられる?

 おかしいだろ、そんなのは絶対におかしい。だって俺はこんなにもここから逃げ出したいのに……


 由来が気になるだろ。怖くて手放したいだろ。どうしてあの音を無視できる。

 まるで亀裂の向こうから怪物が爪を立てているような音をどうして無視できる……?


「じゃあ行くよー」


 ナシェカが杖を亀裂に差し込んで亀裂を押し開ける。横に少し広げただけで人一人が入れる程度の大きさまで広がった。


「ここから入るの。じゃあついてきてー」


 ナシェカが穴の中に足を踏み入れ、落下するみたいに穴の向こうに消えていった。

 アーサーも穴の向こうに消えていった。


 マリアが中に入ろうと足を上げる。俺は居ても立っても居られずに彼女の肩を掴んで引き留めた。


「怖くないのか?」

「なにが? え、もしかして怖いのリリウス? マジかよその筋肉は見せ筋かぁ~~?」


 どうしてそんなふうに笑うことができる。


「まったくしょうがないな~。ほら、マリアさんが一緒に入ってあげるから行こ」

「本気かよ……」

「へーきへーき、何度も入って出てきてるし」


 彼女の手に引かれて穴の向こうに落ちていく。


 闇だ、深くて深くて何も見えない闇の向こうへと落ちていく。耳元で鳴っていた爪の音が止んでいた。



◇◇◇◇◇◇



 気づいたら宇宙みたいな空間に立っていた。

 怪しい光が渦巻く二つの星雲が互いを喰らい合うような宇宙に生まれた平面のサークルの上に立っていた。

 奇怪な宇宙空間に空白みたいな白い板があって、ナシェカとアーサーが空白を踏んで歩いているシーンだ。


 俺はただただ呆然としていて、でも背後に熱を感じている。

 気づいたら後退りそうな俺の背中を体温の高い手のひらが支えていた。


「なんのつもりだよ。まさか俺を支えてくれるのか?」

「と思ってたけどしっかり立ててるし必要なかったね。さあ行くよ」


 マリアが空白を踏んで宇宙を進んでいく。

 まったく俺は導き手のつもりだったんだがな……


「おっ調子戻った?」

「ああ。オモシレー、久々に熱くなってきたぜ。傍観者とかピンチの時のお助けマンのつもりだったが俺は根っからのアタッカーだってのを思い出したぜ。本気でやりたくなってきた」

「うんうん楽しようとすると癖になるよね。じゃあ全開で、こっちも最初からフルでいくし」


 空白の板を踏んで宇宙を歩いていく。

 やがて空白の板が二つの方向へと分岐する。分岐の前でナシェカが説明する。


「左に進むと大物が一頭だけ出てくるんだ。けっこう手強いんでおすすめは右だね」

「右はどんなの?」

「右は小物が群れで出るね。多くても十頭、少なくても四頭。けっこう連携が取れてるから種類によっては大物より苦戦するかも?」

「この次元迷宮はそういうルールでできてるんだ。イレギュラーは今んとこ一回だけ」


 アーサーがマリアへと質問する。


「イレギュラーとは?」

「戦ってると途中で乱入してくる変なのがいるんだ。強いってのもあるけど完全な奇襲でくるからコントロールしてる戦況を崩されるんだよね」

「言葉通りのイレギュラーエンカウントというわけか。うん、注意しておく」


「報酬の取り分はどうする?」

「頭割りでいいだろ。売却先が決まってないなら俺に任せてくれ、一番の収益を出してやる」

「売却先は決まってるんでLM商会は引っ込んでてもらえるかなー」


 相談事が決まっていく。

 最後に。


「どっちに行く?」

「この四人でバトるの初めてじゃん。最初は強い大物でいかない?」

「そうだね、連携する群れを相手に連携の危ういファーストチョップを挑むのは危険だ。S級冒険者、まとめてくれ」


「わかった。まずは各自の手札を知りたいな。ナシェカ、まずはお前の戦い方を教えてくれ。明かしてもいいと思ったなら奥の手も頼む、誰にも負けない一芸でもいい」

「かく乱の得意な高機動アタッカーで他人の合わせるのが超得意。タイマンで競り合ってるとこに後ろからトドメを刺す的な感じ」


 むかしの俺のスタイルに近いな。バトルの趨勢を一人で決めきれる破壊力のなかった時の俺だ。となるとタフネスと腕力が弱点になっているはず。

 バトルスタイルには必ず理由がある。裏返して読めばそいつの弱点が隠れているってわけだ。


「一芸ってなるとクロックアップだね。つまり体感時間操作。理論上稲妻だって視認してから回避できる」

「理論上ってなんだよ。はっきりしろよ」

「ほら、必ず回避できるかって言われると色々あるじゃん。ごちゃってる時とか背後から打たれたら無理だし」


 そりゃそうだ。俺だって油断してるところに雷撃魔法ぶち込まれたら食らうわ。俺のレジスト通せる雷撃魔法なんてそうそうねえし、威力を増幅する気配があれば確実に回避できるけど。


「アーサー君は?」

「得意なのはこの剣。返しカウンターの剣だ。能動的な攻撃よりも誘い込んで隙を作ってそこを狙うのが得意だね。魔法は火系統なら神話級までいける。癒しの術法も高位階を収めているが使うには精神の安定が必要だ。重傷を直すには僕と患者を戦闘から完全に切り離してもらう必要がある」

「重傷というとどの程度まで?」

「部位欠損となると止血どまりになる。臓器の損傷もだ。そこまでいくと本職の神官の技だよ」


 ミドルポーション程度と考えていいな。勝手にミドルポーションを使ってくれるナイスガイと考えておこう。


「奥の手を聞いてもいい?」

「アルチザン家の血統呪についてなら聞いたことくらいあるんじゃないか? 聞いたこともないのならすまないが遠慮してくれ」

「……ファイアドラゴンスレイヤー?」

「理解があって嬉しいよ。おおやけに言いふらすようなまねさえしなければ問題視はしないが可能なら秘めていてくれ」


 アルチザン王家の秘匿魔法だ。グラーエイス王の許可なく触れ回るのは王子にだって許されていないんだろ。ラストさんはホイホイしゃべってたけどね。


「ちなみにラストさんはほぼ同じ状況で奥の手を教えろって言ったらホイホイしゃべってたぜ」

「姉上はなんというか深くはお考えになられない御方なんだ」


 動物の話してんじゃねえんだから。

 あの人油断してる時はとことん油断してるよね。


「アーサー様のお姉様とリリウスって知り合いなん?」

「マブダチだよ。会ったらいつも襟首掴まれて愚痴の相手させられてるぜ」

「会ったらリリウスが逃げようとしてお姉様に捕獲されて延々と愚痴の相手をさせられてるわけだ。それマブダチなん?」

「ラストさんはうちの商会の超得意様だから……」

「金でつながってる友情じゃんか……」


 だってラストさん気に入ったもの全部買ってくれるんだもん。

 外商に出かけた時に持ち込んだ物全部買ってくれた時は女神様に見えたもん。アルステルム製の大型飛空艇で遊覧飛行した時に「ねえリリウス君これ幾ら?」って聞かれた時は魂からブルったもんよ。

 プライベートジェット買う人種ってああいう人なんだと初めて体験したわ。


 戦力把握に戻ろう。


「マリアの戦い方を教えてくれ」

「アイアンハート流の極意とは格好いい魅せるバトルにあってね。技は華麗に。放った後まで可憐に。納剣時さえも美しく……」


 この後もクソみたいな話を聞かされたわ。アイアンハート流剣術の極意をまとめると格好いい剣士になって異性にモテようだ。

 このクソみたいな教えに従ってあの強さなのか。きちんとした武術を仕込んであげたくなるが、変にいじると正史からズレそうで怖い……


「一芸は?」

「あたしは常に全力!」


 何もなしと。裏表のない子なんだな。


「最後は俺だ。打撃・斬撃・魔法攻撃どんな弱点にも対応できる。魔法攻撃はいまは封じられてて使えないと思ってくれ。奥の手はやはり魔法攻撃だ」


「なんて?」

「事情があって自分に十二個の枷を付けている。外せば魔法攻撃を使えるけどデメリット有りなんであんまり使いたくない」


「言い出しっぺの分際で自分の能力を全力で隠してる。旦那ぁ、さすがのナシェカちゃんもフォローは無理ですぜ」

「あいつって冒険小説なんかだと最後は敵になるタイプだよね」

「いるいる。最後は改心して主人公を庇って死ぬタイプだ」

「おっ、この場で裏切ってやろうか?」

「おっ、やる気かこの野郎」

「ファイト!」

「手伝えと言われてついてきたらそいつが敵に回った僕の気持ちがわかるか? 帰るぞ」


 チームワークはバラバラ。この状態のチームを一戦でまとめあげて次元迷宮攻略に適合させるのが俺の仕事か。腕がなるぜ。……え、俺が輪を乱してる説?


 分岐の左へと進む。この先に固定エンカの大物がいるらしい。


「作戦は各自好き勝手に動けだ。個々の特性が見えないうちは連携なんて取りようもない、各自が最適な戦闘行動を取りながら仲間の特性を見極めるんだ。俺も本気でいく、足を引っ張るなよ」

「そっちこそ」


 さあ戦おう。

 怠惰な観測者や導き手なんかじゃなくて俺自身も手駒プレイヤーとなって彼女の隣に立とう。

 モラトリアムなんかじゃない。俺は戦うために帝国に帰ってきたのだから。



◇◇◇◇◇◇



「ふんぬぅ!」


 俺の拳一発で大きな狼が爆発四散する。

 四人全員のフルアタッカー作戦だとか言ってたやつが誰よりも早く動いて大物を一発で仕留めたもんだから空気は最悪だ。

 なんだあいつって感じだ。恐ろしいほど滑ってる空気を視線で感じる。背中が冷たいんだ!


 破片になって飛び散っていった巨狼の血肉が魔素に分解されたみたいに光の粒子へと変換されていく。

 その存在は夢のように消えてなくなり、最後に存在の証を残すみたいに一個の魔石を残した。


「こんなもんなの?」

「最初はこんなもんだね。進めば進むほど強くなるし……てかナシェカ、これってやっぱり進行度がリセットされてない?」

「されてるね。たぶんリリウスとアーサー様がいるからやり直しになったんだ」


 次元迷宮にはルールがある。通常の迷宮とは異なるルールだ。

 分岐を左で固定ボス一体。右で群れ。たまにイレギュラーエンカウント有り。条件不明。

 バトルフィールドは空白の平面が作るフィールド。目算で直径300mの円形。

 ボス討伐後に魔石またはマジックアイテムのドロップ有り。これを拾得すると迷宮から強制退去させられる。再突入には約十時間程度の時間経過が必要になる。

 そして強制退去後も攻略状況は保持される。


 進めば進むほど強い怪物の出てくる次元迷宮を進み続けた彼女たちの二週間の攻略状況は42ステージであったらしい。

 だが俺らを加えたことで攻略状況がリセットされた。

 今ここはステージ1だというのが二人の感想だ。敵があまりにも弱すぎたからだ。


「あれで弱すぎるってか。外にあんなのが出てくりゃ旅人に注意喚起が出されると思うがな」

「そういう程度の低い話のできる迷宮ではないということか。帰りたくなってきた」


 ステージを進める。敵を倒してさらに強い敵を求め続けるシンプルさがじつに気に入った。

 コツコツ一気にステージを駆けあがっていく。


「15ステージも一発か。あいつマジでおかしくね?」

「あいつ本気でおかしいから」

「これ僕が来る必要あったか?」


「28ステージも一発とか……」

「あいつならこのくらいはやるでしょ。でもそろそろ私たちの出番だと思うね、ナシェカちゃんの勘は当たるんだ」

「ここまで連携どころか各自の動きすら見えていないから突然の出番は困るんだけどなあ」


「42ステージも一発だったね」

「あれ昨日苦戦したクソモンスなんだけど……」

「帰っていいか?」


 42ステージまでワンパンでクリアしてみたが次元迷宮が名前負けしててクソです。

 たしかに怪物は強くなっている。だが俺に勝るほどではない。


「旦那ぁ、そろそろナシェカちゃんたちにも出番をくれませんかねえ?」

「俺より早く動いて俺より早く倒せ」

「人間を辞めろって言ってるようにしか聞こえないんすけど」

「そろそろ連携の練習しない? ヒマでヒマで仕方ないし次は群れの方に行こうよ」


 というわけで分岐で初めて右に進んでみる。

 到達した43ステージにはバジリスクの進化した双頭の蛇バジリコックが十五頭いる。数え方は匹ではない。電波塔ほどに成長した巨大蛇は頭数というのもおかしいジャンルの怪物だ。


「危ないところは俺がフォローする、殺せ!」

「わー、堂々としたサボる宣言だー」

「全部かゼロしかないんか……」

「蛇なら炎で視覚と嗅覚を狂わせるか。初手は任せてくれ」


 アーサー君による初手ファイヤーストーム。フィールドの属性を塗り替えてから戦闘が始まる。

 イイ即席チームだ。みんな視野が広くて戦況判断が早い。気遣いができることは戦士にとって必ずしもプラスとは言えないが各自ロールを理解している。

 フルアタッカー構築。眼前の敵に食らいついて殺して次の敵へと迫るだけの乱暴なスタイルだが、即席チームにありがちな誤射・混線が起きていないだけで充分だ。


 よし、しばらくはチーム戦をやろう。

各自の切り札

マリア

:王の大号令 チームメンバーの戦闘力を向上させる。マリアへの信頼度が高ければ高いほど高倍率が掛かる。

:統率者 率いられる者どもを高揚させる。恐怖などの精神的バッドステータスに大きな耐性を与える。


ナシェカ

:クロックアップ 演算能力を犠牲に高速戦闘を可能にする。デメリット無し。

:オーヴァクロック 演算能力を限界まで犠牲にして超速戦闘を可能にする。デメリットとして人間形を保てなくなる可能性がある。


アーサー

:血統呪 対象一体の熱耐性を大幅に減じる。

:忌まわしき覚醒 気絶などの状態にある時狂戦士の本能が目覚める。近接戦闘能力が三倍になり、いかなるダメージにも怯まぬ狂戦士と化す。デメリットとして敵味方の区別がつかなくなる。


リリウス

:十二の試練 殺害の王を封じる十二の枷。一つ解くごとに権能を一つ取り戻す。デメリットとして精神に大きな負荷がある。

:神器召喚 魔神の宝物殿から任意の武器を召喚する。

:魔王の呪具 魔法抵抗力が常時極大化する。 

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