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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
いかさまカジノ激闘編
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エロ賢者を探れ② マイナスの人材

 バーンズとの昼食のあとは五限と六限に出席した。俺も大人になったもんだ。


 毎日きちんと登校する。途中でサボらない。最低でもこの二つだけは守ると心に決めれば案外簡単に守れてしまうものだ。

 一時期は授業に出るのが苦痛で仕方なかったがやると決めればやれてしまうのだ。


「へへっ俺もやればできるんですよ」

「そんなことでどやらないの」


 放課後。ロザリアお嬢様と肩を並べて歩いている。嬉し恥ずかしの下校デートである。目的地がお嬢様の実家ってのもある。

 親父殿に会いにバートランド家のタウンハウスに行くっていったら久しぶりに顔をお出しになると言い出したのだ。やや反抗期に入ってるせいでアルヴィン様と会うのは嫌だが全然帰ってないと悪いことした気分になってモヤるらしい。


「毎朝ジョギングしてるんだから顔くらい見せにいけばいいのに」

「あんな時間におとーさまが起きてるわけないじゃない。まだ起きてた可能性の方が高いくらいよ」


 お昼手前に起きて深夜の二時三時にようやく眠りにつく生活サイクルですもんね。

 都市で生活する貴族の典型的な生活サイクルと言ってもいいだろう。


「息子のほうはいつ寝てるかも不明なワーカホリックなのにどうして差がついたんでしょ?」

「おにーさまも好きでおやりになられているのだし根本は一緒よ」

「ワーカホリックですもんねえ」

「そうなのよねえ」


 何しろ実の妹が遊んでもらった記憶がないくらいのワーカホリックだ。お嬢様にとって騎士団の訓練に参加するのは兄と交流できる時間がそこしかないからなんだろうね。


 今更だがここで帝国の悪の華バートランド公爵家についての豆知識を語ろう。

 父は帝国政治の中枢貴族院元老のボス。帝国一のド悪党で知られるアルヴィン・バートランド公爵。

 兄は帝国の武の要である帝国騎士団のボス。ガーランド・バートランド伯爵だ。

 妹は顔面を司る女神か何かではないかと噂の帝国の赤薔薇ロザリア様。公爵家次期当主だ。


 お分かりいただけただろうか?

 この面倒くさい対立構造をお分かりになられただろうか?


 父は貴族派閥のトップ。諸侯をまとめる大親分だ。

 兄は皇室派閥のトップ。皇室を崇める連中の親分だ。

 そして次期当主は妹なのだ。……そろそろお分かりいただけたと思う。


 父と兄が政治的にいがみ合ってるのが公爵家の内情でありお嬢様はお二人の仲を取り持ちたいのだ。


「ううぅぅぅぅお嬢様が健気すぎて泣ける……」

「突然泣き出すのやめなさいよ! もうっ、いったい何を考えていたのよ!」

「クソみたいな家庭環境がお嬢様の心を歪めたのだと考えると涙が……」

「あんたの家も大概じゃない!」


 怒鳴りつつハンカチ貸してくれるお嬢様マジで優しい。

 ちーん!


「鼻をかむのやめなさいよ!」

「ちゃんと洗濯して返しますって」

「要らないわよ。それあげるからってゆーか鼻をかんだもの返さないで!」


 よし、俺のロザリアコレクションにさらなる一品が加わった。

 この調子でコレクションの充実を計ろう。


 おしゃべりしながら歩いてるとようやくバートランド公爵家が見えてきた。懐中時計を確認する。徒歩20分ってところか。


 じつは公爵家の庭からは学院が丸見えなのだ。貴族街の丘でも一等地の高所にある公爵家から見下ろせばけっこう近くにあるのだ。直線距離は200メートルあるかないかって感じだ。

 たまにアルヴィン様が双眼鏡でお嬢様を見守ってるんだよね。たまに目が合うんだわ。

 そんな超近い公爵邸だが丘の上り坂やら何やらを使って道なりに歩くと20分もかかってしまう。まぁそんだけの話だ。ゲーム後半でマリア様がバートランド公爵邸に乗り込む時にこの最短ルートを使うってだけの話なのさ。


 正門に近づくとなぜかアルヴィン様が正門を拭き掃除しておられる。なぜ我が国一の大貴族様が自宅の門を磨いているのか……


「さあ行きましょ」

「え、アルヴィン様はスルーですか?」

「いいのいいの、ほっときゃいいのよ」


 悲報、娘から声掛け待ちをしていた父親がシカトされる。露骨すぎたのが鼻についたか。


 スルーされたアルヴィン様が必死になって俺にフォローしろっていうウインクしてくんのマジでスルーしにくいですぅ。


「しかし突然の帰宅にも関わらずよく待ち構えていましたよね」

「双眼鏡越しに何度か目が合ったもの」


 公爵様なのに日に何度学院をチェックしてんだよ。やっぱりヒマなのか。

 裕福な貴族は高等遊民みたいなもんだからな。仕事なんて金で雇ったやつにやらせればいいんだよ。からの汚職が蔓延ってる最大の原因がこれ。


 やべえ、背後からすげえ圧を飛ばしてくるおっさんに肩掴まれてるんですけど!


「リリウスくぅ~ん、私はね、君のことは特に目を掛けているつもりなんだ。……裏切ったりしないよね?」

「お嬢様に直で言ってくださいよ……」

「直で言うと機嫌が悪くなるし……」


 あぁ父親の悲哀よ。別に性的な意味ではないけど父親は娘のことを自分の女だと認識するから対応が甘くなったり嫌われるの恐れるらしい。それはうちの親父殿とリザ姉貴の関係を見ればわかると思う。

 片や家で一番年食ったおっさんと認識していて、片や自分の女だと思ってる。これが思春期に起こる父と娘の関係悪化の原因だ。女子の側が父を気持ち悪いって感じるのはけっして間違ってはいないのだ。


 こういう説明をするとアルヴィン様が真剣に頷いている。


「関係修復の手立てはどうしたらいいね?」

「毅然とした態度を取ることでしょう。端的に言えば格好いい男としての姿を見せて娘をメロメロにしちまえば尊敬されます」

「なるほど、素晴らしい案だよリリウス君。さっそく実行せねば!」


「それわたくしの前で言ったらダメな案じゃないの?」

「でもお嬢様も格好いいアルヴィン様が見たくないですか?」

「格好いいに越したことはないわね」

「じゃあアルヴィン様の努力を見てあげてくださいよ。それはお嬢様のための努力で愛情なんです。きちんとわかっていてあげてください」

「……いったい何を拾い食いしたのかしら?」


 たまに格好いいことを言うとこの反応である。やはり俺も普段から格好いい態度を取るべきなんだろうな。

 やべえ俺アルヴィン様と同じく見下げられてたんだ!

 今気づいたわ!


 バートランド家の正門から屋敷までは石畳が敷かれている。さながらレッドカーペットのような一直線に敷かれた赤レンガを歩いていくと……


 噴水のところに親父殿がいたあ。噴水の縁に腰を掛けて足を組んで読書してるぅ。……完全に俺が声を掛けるのを待ってやがる。

 こいつらの思考回路は一緒なのか。アルヴィン様まで巻き込んで株価下落させやがって。


「お、リリウスじゃないか」

「小芝居はやめろ」

「ははは、いい天気なので外で読書をしたくなってな」

「実家じゃ外で読書してたことなんてねーだろ」


 なんだこいつら、俺とクロノスの男らしい親子関係を見習えってんだ。殴り合いしかしてねえぞ。負けてる……!


 我が子のことを思えば親父殿に優しくできそうな気がする。


「悪いが頼み事があってな。時間いいか?」

「よかろう、ティータイムといこうじゃないか。なあアルヴィン!」

「うん、すぐに用意させるよ」


 こうして中庭に連行された。中庭なのになぜか存在する泉の中央に浮かぶテラスでティータイムだ。なぜか全部とっくに用意されていた件については触れなくていいだろ。


 ケーキスタンドに乗っかった色取り取りのパウンドケーキにクロテッドクリーム。と来れば当然ミルクティーだ。

 うーん、中々の味わい。料理の歴史が中世から大航海時代前夜まで進んだ感。ちなみに褒めてない。


 まずはホストのアルヴィン様が会話をリードする。


「学院はどうだい?」

「この子ってばさっそく奉仕活動くらっているのよ」

「ええ、二十日間の奉仕活動か退学を選ばされましたよ」

「へえ、懐かしいなあ。なあファウル?」

「俺に振るなよ」

「とか言って嬉しいんじゃないか? 奉仕活動の王様の子は王子様ってわけだ」


 何その不名誉な王家。


「奉仕活動では素直に喜べんなあ……」

「親父殿はなにをやらかしたんだ?」

「こいつは女癖が悪くてな、授業をサボタージュして逢引に出かけたりダンパ中にカーテンの中で乳繰り合ったり、女子寮に侵入したのがバレたのもあったな」

「やめろやめろ。父の威厳が地に落ちてしまう」

「それは元から地面に埋まってるっていうか」

「照れやがって」


 俺は真顔になった。ニコニコしてる親父殿よ気づいて、リリウス君は本気で嫌っているよ?


「まあ若き日の過ちだよ。お前は何をやらかしたんだ?」

「激動すぎて思い出せねえ……」

「やらかしたことくらい覚えておきなさいよ、そんなんだから繰り返すのよ。反省が足りないのよね。……まず初日にパインツ先生を殴り倒して学院から消えていたわ」


 あぁ思い出した。マリア様が行方不明ってんで捜索依頼を出しつつ竜の調査に出かけたんだった。


「五日か六日くらいで帰ってきたと思ったら男子寮で乱痴気騒ぎ起こして止めに来た先生をまた殴り倒したらしいわね」

「乱痴気って親父じゃないんですよ人聞きの悪い。新入生歓迎会でしたよ。あれは一緒に騒いでたクロード会長も悪いんですよ」

「その後は女生徒を四人も連れ出してカジノ遊びの後外泊してきたのよね」


 情報源がデブすぎる!

 あの野郎それはダメでしょうが。それはしゃべっちゃダメでしょうが!


「寮付きの女中にも手を出してよく部屋に連れ込んでるらしいわね?」


 デブー!!!!


「おかげで部屋から蹴り出されたバイアットが中庭にテントを張って暮らしているのよ」

「息子よ、それは本当に謝った方がいいと思うぞ」

「私もそんな目に遭わされたなら確実に根に持つな」

「ちゃんと謝りましたよ」

「謝罪しても繰り返しちゃ意味がないじゃない」


「ハハハ! まあ楽しくやってそうで何より。そろそろ中間考査だろう、勉学のほうはどうだね?」

「もう終わりました。この子満点取ってるのよね」

「へえ、そりゃすごいな。頭の方はファウルより上なんじゃないか?」

「学院時代の親父殿って成績はどんなでしたか?」

「下から数えた方が早かったね。まぁ夜遊びを繰り返して授業なんてまともに出てなかったせいもあるか」

「期末だけは本気出して上位に食い込んでいたじゃないか。勉学なぞきちんとやればできるんだ」

「ファウル様、リリウスも同じこと言ってましたわよ」


 おい、そこで嬉しそうな顔になるな親父。


「まったく聞けば聞くほど昔のファウルそっくりだな。この調子なら二代目はるかぜの騎士襲名かな?」

「そういえば親父殿のあだ名はそれでしたね。どういう意味で付けられたんです?」

「おいやめろ」

「春になると動物は盛り出すじゃないか」

「? ええ、そうですね」


「学院に春を運んできた愛の伝道師ってことで付いたあだ名なんだよ。何しろこいつの在学中は例年稀にみるカップル成立率だったからね」


「何が起きたらそんなことになるんですか……?」

「こいつはみんなに危機感を与えたんだ。モタモタしていたらファウルに寝取られるという強迫観念に急かされてみんな昼も夜もなく熱心に口説き始めたんだ」


 アルヴィン様の披露する学院時代の親父殿の馬鹿エピソードが続く。親父殿がまったく反撃しない様子を見るにアルヴィン様は優等生だったのかもな。反撃材料がないんだ。

 それか披露すると本気でお嬢様が引くエピソードの線もあるな。


 まずいな、このペースだと普通に夕飯食べて今夜は泊っていきなさいパターンだ。


「あのぅ、今日は親父殿に頼みがあって来たんすけど」

「そういえばそんなことを言っていたな。何だ、金なら貸さんぞ」


 親父殿よ、言っちゃ悪いが俺の商会の売り上げはあんたの年収の十億倍はあるんだ。

 いい年こいて財布に金貨数枚しか入ってないあんたの湿気た財力なんて頼りにしてねえんだよ。


「ちげーってば。その顔の広さを見込んで調べて欲しい男がいるんだ。ワイスマン子爵家のガイゼリックってやつが同期にいるんだがそいつの持つ異能について知りたいんだ」


 楽しいティータイムの空気がピリリと緊張する。

 なんだこの空気?


 アルヴィン様が笑い出した。悪事を白状する寸前のラスボスみたいな笑い方だ。


「異能ね、あぁもちろん知っているよガイゼリック・ワイスマンなら当然知っている。知らないはずがない。あんなに怪しい男を調べないわけがないじゃないか」


「アルヴィン様はすでにお調べになっていると。話していただけますか?」

「その前に―――異能と言ったね?」


 やべーやつに宝の地図を持ってるってバラしちゃったくらい嫌な予感がするな!


「彼の持つ異能がどんなものかはわからずとも異能と断言したわけだ。どこまで掴んでいる?」

「まだ全然です。奴が妾か何かに産ませた私生児であること、趣味や性格、それとワイスマン子爵家に度を越した幸運を運んできたくらいでしょうか。異能に関しては心が読めるくらいのものです」


「心が読める、それはS級冒険者としての断言かな?」

「まだ全然調べられてないんですってば。他人様に吹聴できるほど確かな情報ではありません」


「ふぅ~~む……ごねたらもう少し出てきたりしない?」

「しません。もう素寒貧っす」

「じゃあ今度はこっちの財布を逆さにしよう。ワイスマン子爵家の飛躍の陰にはガイゼリックの活躍アリ、これはここ数年帝都を賑わす大きな話題になっていたんだ。当然ワイスマン子爵の後に続きたいと考える者がいた。大勢ね」


「大勢ですか」

「大勢だね。私などは興味本位で軽く調べた程度だが中には子爵家の情報を丸裸にするくらい熱心に調べる連中もいてね、そういう奴らがどういう手を使ったかについては娘の前では口にしたくないねえ……」

「いやマジで素寒貧なんすよ」

「本気で? もう少し出てきそうな顔をしてるんだけどな?」


 マジで鋭いなこの人。


「ほらリリウス君ジャンプジャンプ。まだ出てくる音がしてるよ~~」

「別に手札ってほどじゃねえんですがね、やつは超位階の魔導師です。おそらくは帝国でも有数のオーバークラスウィザードでしょう」

「杖を交えたのかね?」

「いいえ、ですが相対すればわかるんですよ」


 奴の固有世界の巨大さを目の当たりにすれば誰だってわかる。やつの魔法力は神域に届いている。だが奴個人から感じるちからはそこまでのものではない。おそらくは外付け魔力タンクのようなアイテムで自らを強化している。

 別に珍しい手段ではない。等級にもよるが貴族家の当主クラスなら誰でもアクセサリーに加工して持ち歩いているものだ。


 魔法能力はエキスパートクラス。純正の後衛魔導師だ。バインドとバッドステータスで相手を罠に嵌めて中・遠距離からトドメを刺すタイプだ。そんな男がワイスマン子爵家の莫大な財力で自らを強化しているのだ。生半可な相手ではない。


 イメージとしてはナルシスが一番近い。切れる頭脳と狡猾な戦闘思考。詰将棋のように一方的に蹂躙してくる厄介な魔導師だ。……さすがにナルシスほど強いとは欠片も思わんけど。


「魔導師殺しと呼ばれた俺でも倒すのは難しいでしょうね。実際盤外戦術で完封されてますし」

「どうせ……」


 親父殿が何か言いかけた。どうせ淫らな女性関係をばらすとかしょうもない脅迫でもされたんだろって言いたげな目つきだな。その通りだ。


「そのとおりだ」

「兄弟の中で一番俺に似ているのはお前なんだろうなあ。いま心が通じ合ったぞ」

「俺も親父殿が何でため息をついたのかわかったよ。嫌な通じ方したな、これって殺す寸前に通じ合って親子が和解するやつだろ」

「和解するのだとしても俺を殺そうとするな」


「まったく羨ましいとは思えんが仲がいいじゃないか。話を戻すがそれだけかね?」

「ええ、後はギャンブルが強いみたいなクソ情報しか出てきませんよ」

「……有益な情報を握っていると思ったのだが勘違いか。私の勘も鈍ったものだ」


 その期待外れだったよ、多大な期待をかけてすまないねっていう視線やめてもらっていいですか?

 指摘すると遅々として進まないクソ会話に巻き込まれそうだから嫌だけど。


 たぶんアルヴィン様は意図的に長々と引き留めている。お嬢様に泊っていってほしいんだろうな……


「リリウス君が思ったより使えなかったので情報開示を進めるか」


 俺はつっこまねえぞ。


「ワイスマン子爵家の成功の秘訣はガイゼリックにあり。こう睨んだ連中は誘拐や脅迫を目論んだんだ。でも不思議なものでね、彼らはそれら蛮行を実際には行わなかったんだ」

「ワイスマン子爵に懐柔されたと?」

「いいや、計画段階で潰されたんだ。襲撃者やら馬車の手配を行って明日にも実行するという時に根こそぎ逮捕された。ガーランドに確認を取ったがあの時期ワイスマン子爵家からの通報が山ほど来ていて、半信半疑で指定の場所に突入してみると要逮捕者がごろごろいたらしいよ」


 貴族には横のつながりがある。他の貴族からの妨害や悪意ある攻撃から身を守るために友愛を謳い贈り物をしてつながりを太くする。よくできた密告と監視社会ってわけだ。


「それの何が問題なんですか?」

「この話を聞いて私が最初に思ったのは過ぎた能力という感想だ。ありえないのだよ、ワイスマン子爵ごときにわたっ、あれら計画を潰せるはずがない。彼ごとき匹夫にあれだけの財を得る才覚はない。何のノウハウもなくあの財産を運用しあれだけの成功を収められるはずがないんだ」


 俺はつっこまねえぞ!!!


「子爵が成功を重ねるほど現実と私の予測が乖離していく。異分子やノイズというレベルではない得体の知れないナニカが足元を這いまわっているのだ。処分するべく何度も手を打ったさ!」


 だからつっこまねえって言ってんでしょが!

 ここまで来ると絶対嘘だろ! ノリで会話しやがって!


「冷たいぞリリウス君!」

「うるせえ早く吐け!」


 ぐぬぬ顔すんな!


 スパァン!

 面倒くさいアルヴィン様の顔面に親父殿の裏拳が華麗に入る!


「バートランドの血筋だな。こうなったアルヴィンは人の意見を聞き入れん、眠らせてやるのが一番だ」

「そ…そうか……」


 表情一つ変えずに娘の前で父親を殴れる親父殿はすげえよ。

 さすがの俺もここまでのクズにはなれないから安心したよ。例え世界を滅ぼしたとしてもこいつより下ってことはないだろうな。


「ロザリア嬢、勝手ながら父君は乱心なされていると判断してこの処置となった。よいだろうか?」

「ファウル様のご判断に従いますわ」


 お嬢様の声が震えている。当然だ。キリッとしている時の親父殿に逆らうのはまずい。殺人マシーンみたいな目をしてる時はまずい。

 どこに殺意のスイッチがあるかわからないからまずい。


「リリウス」

「うす」


「臆するな。お前は年のわりに目端が利くがそれ以上ではない。年経た貴族の狡猾さとそれを上回る者を相手にできるほどではないのだ。斬れ! 我らマクローエンの戦い方はそれしかないのだ。卑劣な脅迫に屈するような息子に育てた覚えはない。マクローエンならば敵を斬り伏せ己が道を斬りひらけ!」

「うす!」


 俺はいい返事をした。今だけはしておいた。だって怖かったんだもん。

 やっぱ俺とこいつは似てねえよ。中身が戦国武将だもんよ。

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