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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
いかさまカジノ激闘編
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短話 アルチザン家

 アルチザン家は360年の歴史を持つ古い家です。豊国アスラン王朝の時代に悪竜を屠った功を称えられ騎士となりました。当時のアルチザン家は四つの村と一つの町の支配者にすぎませんでした。


 それからもアルチザン家は地方の一豪族にすぎませんでした。現代ではこれを長い冬の時代と称します。長い雌伏の時を経てアルチザン家が飛躍したのはウェンドール557年に誕生したアルトリウス・アルチザンの時代です。


 18歳で家督を継いだアルトリウスは街道の守護者として貴族の責務を果たすだけのアルチザン家の在り方に疑問を抱いたのです。

 ベイグラントの大地に敷かれた交易路『赤い街道』を往く人々の安全を保証し、賊徒どもを打ち払う。それが当時の地方豪族の能力にして権威そのものでした。


 通行税を貰う立場にある。それが地方豪族の証でした。ですがアルトリウスの眼は己が所領よりも遥かに広かったのです。


「賊徒が増えるは世が乱れているからだ。アスラン王家にはもはや世を正すちからはない。ならば俺が立たねばならん」


 アルトリウスは声明を世に発し、近隣の豪族の下に赴き理想を説きます。

 当時のベイグラントには王はいても名ばかりの王でした。強大な豪族の脅しに屈し、都を占拠されては退去料を払って退いてもらう情けない王でした。


 麻のように千々に乱れたベイグラントの大地を統一する理想を説き、初めに盟友となってくれたのはベイダー・クレルモンでした。

 境界を接する豪族の長同士長年の交流のあったベイダーはアルトリウスの理想に噓偽りはないと知っていたのですが、思いとどまるように説きました。


「富は賢者の眼さえ眩ませる。権力は王者の心根さえ歪ませる。統一など夢物語だ、やめておけ、理想を見失った貴様の姿を見たくない」


「俺が志を失ったならば俺を討ち貴様が志を継いでくれ。俺は王になりたいわけではない。この地に真の平穏をもたらす王は誰であってもいい。……ベイダー、それが貴様なら俺は本望だ」

「ベイグラントのために身命を賭す覚悟か。そうだな、貴様はそういう男だ。……約束しろ、私に討たせるなよ?」


 盟友ベイダーと約を交わしたアルトリウスは戦いの日々に身を投じます。アルチザン家による統一戦争の始まりです。


 豊国統一の理想の下に戦い、敗者には手を差し伸べて軍団を拡大していき、五年の後にとうとう王の都アノンテンへと入ったのです。


 五万の騎兵を従えてアノンテンを闊歩するアルトリウスは王城の前で名乗りを挙げ、王クリートデンゼルへと降伏勧告を続けます。三日三晩王城の前で理想を説き続けたアルトリウスの王威に屈したクリートデンゼルは臣下に命じて己の首を刎ねさせ、幼い我が子に我が首を届けさせました。

 この幼い王子が後の盟友ミルディン・アスランです。当時はまだ九つの少年でした。


 王の首を差し出した王子ミルディンはアルトリウスに民と兵の安全を願い出、アルトリウスは了承の後に王の首を自らの手で埋葬しました。


 アルトリウス・アルチザン24歳。豊国の王として戴冠したのです。同時にアスラン王家の姫を妻へと迎え入れ、その子を次の王にすると約束を交わしました。


 王の都に拠点を移したアルトリウスでしたが都に留まることのない転戦の日々にありました。王命に従わぬ地方豪族との戦いは長く苦しいものでした。

 南部最大の都市ウェンディゴでの決戦に勝利し、王の都に凱旋したのは42歳の秋です。彼は理想のままに生き本当に身命を捧げてとうとうベイグラントの統一を成し遂げたのです。


 統一後のアルトリウスはイルスローゼ式の統治モデルを取り入れました。しかし豊国の気風とは合わずにこれに苦戦しました。

 人質として預かっている豪族の子弟を太陽に留学させるなどの意識改革を目論見ましたがあまり上手くはゆきません。

 豊国には豊国の生き方があり太陽には太陽のやり方がある。これを認めるのに十年が掛かりました。ですが統治そのものは盤石と言ってよい状態です。


 ウェルゲート海を数百キロも隔てぬところにある他種族国家『獣の聖域』と太陽と同盟関係を結び、海の向こうからやってくる脅威に対抗する手段を得たのです。


 アルトリウス・アルチザン58歳。とうとう最後の夢に挑む時が来ました。


「竜の谷を制圧しこの地の真なる統一を成し遂げる!」


 アスランの姫ライザリュリュとの間に生まれた息子ガストークへと王位を譲り渡したアルトリウスは西方五大国からの援軍を招き入れ、30万の大軍をもってして竜の谷へと進軍したのです。

 彼らの運命がどれほど悲惨なもので、アルトリウスの最後がどうであったかを語る者は誰もおりません。


 ですがアルチザン王家に大きなちからが宿ったのです。

 アルチザンの王ガストークに長子が生まれる夜のことです。ガストークは父の夢を見たそうです。


 夢の中で父アルトリウスと語り合ったガストークでしたが目覚めた後にそのほとんどを忘れておりました。ですがたった二言だけは心に刻み込まれたかのように忘れることはなかったのです。


「我がちからをお前の子に託す」

「いつの日か我らアルチザンの手でバルバネスを討て」


 この日から竜の谷の征服はアルチザン家の悲願となりました。

 使命なのかもしれません。悲劇なのかもしれません。後の世でも豊国援助の下で竜の谷遠征軍が招集され続けたのは、過ぎた欲を持ったからなのでしょう。

 血統呪『アルチザンの火』

 火系統魔法への高適正。事象干渉力+1500~3200。火系統魔法における増幅限界突破。増幅効率1.1~2.2。

 保有者は常時高熱耐性-30。対象に高熱耐性-50の呪いを分け与える。


 氷柱竜バルバネスの熱量への絶対耐性は太陽神ストラへの信仰に支えられており、まったくの皮肉だが耐性減の呪いを無効化する。

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