創世の救世主と終焉の王③ 呪われた神話
かみよの時代より星霜の時が流れた。その間に無数の危機が訪れて人の世は滅びたり復興したりを繰り返し、時には魔の眷属どもの支配する時代もあった。
ただ彼らとてヒトと同じく愚かな生き物で、何度も滅びを呼び込んでは栄枯盛衰を繰り返した。魔神はそのいつの時代にあってもヒトの営みを守り続けてきた。魔神はヒトを友として世界の守護者であり続けた。
都市を行進する異世界からきた侵略兵器ペンギンロボは倒すと大爆発を起こした。投げてもなぜか大爆発を起こした。次元ゲートから無限に現れるペンギンロボによって文明崩壊が訪れた時もあった。世界を救えども嘆きに暮れるヒトたちにかける言葉はなかった。
世界を滅ぼす装置とともに異次元へと消えていった友もいた。
無限に出現するモンスターパレードの根源を討ち、帰り着いた祖国の滅びを目にした友から詰られたこともあった。
星霜の悲しみが心に降り積もっても魔神は絶望しなかった。
彼は知っていたからだ。未来には希望があると知っていたから、今日まで歩いて来られた。
◇◇◇◇◇◇
古い森人の議場を模した開けた室内に大勢が座す。
その真ん中に座るのはヒロインだ。だが彼女はヒロインにはなれなかった。
魔王の娘として生まれ、誰もに最強の後継者であれと望まれながらも最強にはなれなかった。なによりあの神々(ゴミども)を許さなかった。
「敵の敵は味方だ。これさ、いい言葉だよね、他人を動かすにはちょうどいい都合のいい言葉だ」
議場に怒りの言葉が広がっていく。
神の怒りは思念となりて聞いた者の心に断片的な記憶を蘇らせた。動揺する者も涙を流した。自らがどうして泣いているのかもわからぬままに……
「何も知らない痴れ者どもが言った、許せ。ボクはその者どもの眷属すべてを狩り殺して言ってやった、さあボクを許せと」
語る残酷よりも怒りの強さがしのぎ、誰もが呼吸を忘れて聞き入った。
「誰一人としてボクを許すものはなく、剣を手に飛びかかってきた奴を片端から殺してやったよ」
英知が語り、聞く者の脳裏に神話が蘇る。
恐るべき最強の暗殺者と手を組んだ英知に敵う者などおらず、神は一人また一人とこの世界から去っていった。
「さあ今から明かしてやろう。救世主の去った世がどれだけ悲惨で残酷なものだったかを知るといい」
神話が開帳される。太陽の聖典に書かれた愛と希望に満ちた神話ではなく、愚かな神々と愚かな人々が紡いだ呪われた神話だ。
◇◇◇◇◇◇
最終戦争の終結はパカ側の敗北という形で終わった。……表向きは。
戦後の平和を甘受する人々の知らぬ内に神々の篭絡は完了し、邪悪なるパカ王の姦計に踊らされて次の戦争が始まった。箱庭戦争、信徒と領地を賭けた神々の遊戯戦争だ。
無限の悲劇が地図を焼く火のように大地を走った。何も知らぬ無邪気な神々は夢中になって己の信徒と兵を潰し合わせた。
とある日、もう闘争は嫌だと嘆いた魔王が王の下をおとない、その手を握りて懇願した。
「お前の英知を貸してほしい。あの狂った悪魔どもを止める英知を授けてほしい」
「いいよ、他ならぬ友の願いだ、何だって聞いてあげようじゃないか」
何も知らぬ魔王は邪悪なる王の軍門に降り、もはや神々の側に勝機は失せた。
とある日、箱庭戦争に反対する賢き神ゼニゲバが討たれた。ロキ神の軍勢に紛れた魔神ティトの仕業であった。それが何者の入れ知恵であったか、それともただの執着であったか? そして時を同じくして戦争に否を唱えるものが次々と討たれていった。
とある日、闘争に酔いしれる者どもの宴に現れた魔神ティトが言った。
「もう悲劇はたくさんだ」
いかなる心変わりかとダーナの戦士長ヌアザが問うた。
「ボクらは何もわかってはいなかった。この闘争の中にあって戦えぬ者どもの儚さも苦しみも何も。先ほど箱庭戦争の中止を掛け合ってきたがオーディンは聞き入れてはくれなかった」
「ならば方法は一つだ」
「止めよう、これが最後の闘争になると願って」
アース神族の内でも若き神々とダーナ神族の若き巨人が手を組み、上位神への反逆を企てた。
協力者に名乗り出る者がいた。パカ王イザールだ。夜の魔王を従えて名乗り出たイザールの名に誰もが上位神への反逆が成ったと思い込み、熱心な勧誘が行われて人界における最大の戦力が揃った。……愚かな猿どもにパカ王は笑いが止まらなかっただろう。
反逆者どもが天界へと攻め入った。多くの反逆者とその信徒が上位神を討ち、ついにはアースの王オーディンが倒れた。
時を同じくしてアルテナがアシェラ神の住処を襲った。愚かな彼らとて馬鹿ではなく、オーディンのルーン魔術に替わるちからを欲し、幸運の白き羽こそが次なる神々の王ティトに相応しいと目論んだのだ。
神殺しの呪いに蝕まれた魔王が帰り着いた家で見たものは燃え尽きた残骸だけだ。
オデ=トゥーラとともに逃がされた魔王の娘は包囲の憂き目にあったが辛くもパカ王の手の者どもに保護された。……ひどく手の込んだ謀略だ。
「これがティトのやり方だ。表では闘争を止めると言いながら我らを謀り戦場に立たせ、そのうちに寵姫を使ってキミの細君を盗み出した」
すべてはこの一言のため。謀略の王イザールはこのチェックメイトのために動いてきたのだ。
「私も協力する。白き羽を取り返そう、これを最後の戦争にするんだ。私とキミが救世主となり真の楽園を作り上げよう」
ここまではイザールの計画通り。最後に夜の魔王がすべてを殺して、感謝する魔王と万能の願望器を手に入れた彼が世界の王に返り咲く……はずだった。
天界へと乗り込んだ夜の魔王の勝利を疑わなかった。だが魔王は敗れた。如何なる卑劣な手を使われたものか知るすべはないが最強の魔王が帰ってくることはなかった。
上位神を葬り、母ダーナを討ったダーナの巨人族は新たに手に入れたちからに増長してパカとの戦争を再開した。話が違うと反論する魔神ティトはだが幾つかの神器を奪って天から逃げ帰ってきた。
闘争の世が蘇った。魔神ティトは今度はダーナを討つべしと説いたがもはや彼の言葉に耳を貸すものは誰もいなかった。
「頼む、イザール、これまでのことはみな謝る。だからちからを貸してくれ」
「この惨状が誰のせいだと思っている! お前のような愚かな猿に貸すちからなどない!」
盟友である魔王を失った王は怒り、魔神を叱責して蹴り出した。
だが七日の間エイジアの外から動かぬ魔神の姿に誠意を見たか、怒りのままに言葉のみをひるがえした。
「いいだろう。私に仲介できる旧神と会わせてやる」
こうして魔神ティトは冥府の王デスに売られた。この供物を大いに喜んだ冥府の王はイザールの盟友となり、地上からダーナの眷属を殺し尽くした。
ダーナ神族はこの世界から撤退した。だが不和の種だけは蒔いた。
文明寄生生命体、今の世でいうところの迷宮を蒔いて世界のちからを削ぐことにした。信仰が絶えればデスの脅威は衰える。パカ王だとて所詮はヒト、時には抗えない。
ダーナの王ヌアザは敗残の神々に役目を与えた。迷宮を巡る収穫者の役目だ。アルテナの手によって魔神が冥府から連れ出されたのはこの頃だ。
敗残の神々は口々に魔神を責め立てた。すべての責を魔神にあるとして収穫者の役目を押し付けた。醜い内輪もめの挙句に敗残の身まで堕ちた彼らにはなんの反省もなかったのだ。
呪われた神話の最後に英知が問う。即ち許すか殺すかを。
「ボクの魔王よ、さあ答えてくれ! ボクはキミに従おう!」
「殺そう」
呪われた神話に幕を引くためにも愚かな大罪人には処刑こそが相応しい。
だがなぜか、なぜだか英知は一つ涙をこぼし……
「そうか、キミでさえも闘争の輪廻には抗えないんだね?」
静かに泣いた。
◇◇◇◇◇◇
赤茶けた荒野に夕日が沈む。トワイライトのこの一瞬にだけ輝く虹色の輝きはもう何万回と見てきたが飽くることはなかった。きっとこれからも初めてのように綺麗だと思うのだろう、そう思って魔神が悲しげに微笑む。
「これが見れなくなる日も近いのかな? 近いといいな……」
待ち人は来た。彼だ、彼こそが待ち望んだ男だと確信している。
だが時が満ちていないのか完成には足りない。
「ボクはいつまで待てばいいんだろうね……」
「待たせたな」
ドスの利いた声に振り返れば、荒野に待ち人が現れていた。軍勢と呼んでもいい大勢の仲間を率いて、何の予兆もなく出現していた。
どういった手を使ったのかは不明だが、彼の傍に立つ魔王の娘を見るに彼女の仕業だろう。
「お前があの夕日を綺麗だと思う日はもうやってこない。ティト、お前の紡いできた呪われた神話を終わらせる時が来たんだ」
待ち人が来た。きっと魔神の望んだ最強のちからを育み終えて。あぁトワイライトが終わり往く……
あの夕日が完全に沈んで夜になる前に殺してくれと魔神は願った。
創世の救世主と終焉の王
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キミも好きだねえ。ゲームなんかではとりあえず全部の選択肢の会話を見ておくタイプだろ?
いや、いいんだ、最悪の結末を読んでおいて心構えをしておくのは賢明な選択だ。それがどれだけ愚かな行動なのかを知らず無知ゆえに選んでしまう者よりも、正しい知識を得た上で危険を避けて正しい選択を選べる人を賢いというのだからね。
では④を選んでしまった君への言葉を届けようか。
馬鹿なのかな!? 馬鹿なんだよね!?
特に理由もなく十二の試練を外し続けるぅ? 馬鹿だろ!
まぁ最悪の判断だね。どれくらい最悪かって最悪なんだよ! これ以上ないから最悪っていうんだよ!
まず二日ほどでかな、こちら側からの干渉で十二の試練による再封印が不可能になる。
一月も放置すれば肉体に顕著な症状が現れる。この時点でキミは戦闘行動が不能になるだろうね。
三ヵ月も経てば余命三日の老人くらいに衰弱していると思うんだよね。それか死んでる。
半年も生き延びていたら奇跡だ。まず起こりえないけどもし半年生き延びたのならキミの獲得した耐性値はもはや殺害の王に充分抗し得ると言える。
ここまでくればよほど大きなちからを引き出さなきゃ問題ないと思うんだよね。
ではここまで生き延びたキミへの助言だ。
①十二の試練を外した状態を維持しつつ徐々にちからの抽出量を増やしていく 127Pへ
②限界を越えて引き出す 128Pへ




