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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
聖と魔のフロントライン
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和平条約締結とその汚い真実

 おばちゃんは自由都市国家を統べる神とは何の関係もなかったが、泊まり客のダチ公がそうだっていうのでアポイントメントを取ってもらう運びになった。客層がおかしい!

 吸血鬼のお姉さんがヒキニートしてたり技巧神と狩猟神が飲み比べしてたり客層がおかしい!


 普段は違う客同士が会わないように位相がズレているらしいがエンヴィー戦で宿の結界がぶっ壊れたんだってさ。俺ら悪くないんでリブは娘さんに請求してね。


「そんな理由で俺らに同行してくれるヘルメスさんだ。こんな見た目だけど高名な神様だから敬意を払ってくれよ」

「うん、君が一番失礼だね」


 ヘルメスは旅の吟遊自身もかくやという緩めの優男だ。実際普段は各地をさすらう吟遊詩人をやっていて、あちこちの町に恋人がいるという中々のカスだ。


「君は本当に失礼だな~」

「あ、やべえ、心が読めるんか」


 まぁそういう事情でコリス市に戻ることになった。けっこう探したつもりだったが最初の町にいたんかいって感じだ。まぁ本気で隠れている旧神を見つけるのはその程度には困難ってことだろう。探したところで見つからない、そういうレベルの難度だ。


 そして旅の目的の異なるシャレードとヘレナさんとはここでお別れだ。生真面目なシャレードが一人一人にハグをしていく。

 短い間だったが友だと思っている。だからハグにも熱がこもるよ。


「元気でな。そっちの聖務とやらが上手くいくことを祈るよ」

「互いに使命を成し遂げることを祈る」


 ヘレナさんなんで顔真っ赤にしてドキドキしてんの? もしかして潜在的に腐ってるの?


 別れは情熱的すぎてもよくない。再会した時に恥ずかしいから、ハグぐらいが丁度いい。


「そのシャイターンだっけ? 聞いたことねえけど俺らも探しておくよ」

「感謝する。……アハッツェン司教からはアウトランドの者に明かしてはならないと命じられていたが君にならいいだろう。シャイターンというのは我らが光の教敵を指す言葉で、そのものはアウトランドの言葉に直せば魔竜皇というのだ」


 ふぅーん、なんだか小銭皇子の影がチラつくなあ。


「さらばだ友よ、短い間だったが君達との旅は楽しかった」


 シャレードとヘレナさんが馬車に乗って去っていく。

 その背に手を振る俺は思った。でも黙っておく。このいい雰囲気に水を差したくなかったからだ。だがウェルキンなんかは言わなくてもいいのに言った。


「すぐに会いそうな気がするな」

「たぶん会うよ」


 だって目的地が一緒だし。


 ナイト・シャレードVSクリストファーか、ポップコーンが進むだろうなあ。



◇◇◇◇◇◇



 旧神とのアポはヘルメスとクロードたちに任せて俺は別行動。帝国騎士団アデルアード軍の本陣に戻った。報告もあるが表向きの代表との会談にはアデルアードが必要になるし、神ヘルメスの紹介があればいきなりバトルにはならないだろってことでアデルアードに経験を積ませようと思ったからだ。


「旧神探しの過程で永遠の光アゼリアの聖勇者との出会いがありまして、倒して同行者にしました」

「???」


 報告の最初の方からナニ言ってんだコイツ的な顔をされた。

 何かおかしいところあった? 戦士と戦士が出会ったらそりゃあバトルが始まるでしょが。


「ノイジールで四大属性神のエンヴィーから襲撃を受けたんですがおかげで大地母神ママボボと接触できました。ママボボ様の伝手で旅と青空と歌の詩神ヘルメスを紹介してもらい、他の連中はコリス市で旧神との対談準備をしています」


「待て、何もかも待て。なぜエンヴィーに襲われたのだ?」

「ナシェカがエンヴィーの聖勇者を誑かしたのでけじめをつけにきたんです」


「……そうか。時に下男よ」

「何だよ馬鹿皇子」

「神とはそう簡単に襲ってくるものなのか?」

「エンヴィーはまぁ嫉妬心の強い女神さまなんで特例でしょう。普通はエインヘリヤルを遣わして殺しますね。例え話をすると大昔にとある錬金術師が蒸気機関を開発したんですがその町は疫病で滅びたんですよ。それってアルテナ神殿の仕業なんですよね」


「……」

「神々って人界の技術発展を嫌っているのでけっこう手を出してきますよ。聖勇者も言ってしまえば神罰の剣なんで」


「お前の話を聞いていると神が身近に聞こえるよ」

「身近な脅威ですよ。神殿は本当に怖いんです、アシェラ神殿がこの世に広めたコモンバトルスキルのような御業を幾つも隠し持っているので、基本的に神殿の精鋭と国家の英雄では神殿の精鋭の方が遥かに強いんです」


 コモンバトルスキルっていうのはアシェラ神殿が公開して冒険者ギルドなんかで講習をやってるバトルスキルだ。チャージドストライクとかスマッシュとかマナやオーラを使った技のことだね。

 ああいう技を広めておいて、未公開の返し技を使いこなすからアシェラの悪徳信徒はやべーんだよ。俺レベルの奴を何人も抱えているし。


 話が逸れると困るんで戻そう。


「交渉旗を立ててコリス市に向かいましょう。俺らが到着する頃にはクロードたちが話を通しているはずなので」

「うむ、それでは向かうとしようか」


 これが不幸の始まりであり、コリス市の歴史に残るような市街地戦の幕開けであった。


 神兵どもに追われるクロードたち。暗躍する町商人。裏切るヘルメス。劣勢の中戻ってきたナシェカがトレーラーに積んだ完全武装で飛び立つ姿は最終兵器が飛翔するような感動があった。


「これで戦争が終わる」

「あ、ああ」


 横にいたのがアデルアードじゃなくてヒロインだったら間違いなくキスしていたわ。ハリウッドならここでスタッフロールが流れるわ。


「ところで下男、和平協定の意味は理解しているか?」

「人が話し合いのテーブルに着くのは完膚なきまでに負けた時だけなんだよなあ……」

「僕の知っている和平とは随分と違うな……」


 和平を唱えながら空爆するのは何か違うなーって俺も思ってるよ。

 平和ってむずかしいね!



◇◇◇◇◇◇



 ウェンドール807年8月13日。自由都市国家コリスとドルジア帝国軍アデルアード少将の間で不戦協定が結ばれた。賠償き…コリス市は友愛の証として金4000フォルク分の食品と家畜を贈った。別に全然これっぽっちも脅したとかそういう事実は無い。


 コリス市民の心意気にいたく感動したアデルアード少将はコリス市の自治独立を尊重すると宣言し、両国の末永い友好関係を謳った。その際にアデルアード少将の頬がやや引きつっていた気がするが気のせいだ。


 同年同月15日、自由都市国家群は連盟でドルジア帝国との和平条約を締結。この条約の締結には自由と歌を愛するヘルメス神殿の懸命な根回し活動があったとかなかったとか。


 東のアシェンダリア侯国を占領した帝国騎士団本隊の活躍と合わせて本国との補給連絡線の安全を確保した帝国軍は、何故か単独で突き進むクリストファー・オージュバルト混成軍への道を切り開いた。

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