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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
帝都決戦編 レミングの進軍
333/362

キミと俺の戦争②

 天が燃えている。焦熱が何もかもを吹き飛ばした茜色の空がただただ綺麗で、思わず呆けてしまったが呆けていい場合じゃねえ!


「ナシェカちゃん、どこだ! 無事か!?」

「へーき」


 彼女は少し離れたところで爆風に耐え抜いたようだ。ドーム状に展開した四枚翼を収納している途中だ。

 いったい何が起きたのだろう。それは彼女も同じふうに思っているようだ。


「……空爆かな?」

「空爆かもな」


 何が起きたかは不明だがこりゃあ死人が出てるな。

 全滅していてもおかしくない。熱波が吹き荒れた草原はあちこちで火災が起きている。晴れた日が続いていたから草地が乾いていたのもあるんだろうが大きな火事になりかねない。


 あのキレ者な彼女でさえ呆然としているのは珍しい。


「あ、そうだ、リリウスは!?」


 駆けだした彼女を追って俺も歩き出す。

 やれやれ、あいつらなんざこの決着に比べればどうでもいいんだがな……

 


◇◇◇◇◇◇



 草原に寝転がる俺は歓喜に震えている。耐えきった、耐えきってやったぞ!

 ドラゴンブレス級戦技に耐え抜く人類とか誇っていいよ。これは偉業だよ。……何回か諦めかけたけどな。


 俺の横っちょに倒れている煤だらけのクロードが咳き込んでる。


「げほっげほっ……こいつはきついな」

「お前が言っていいセリフではないが同感だ。こんなもん人間に向けて使っちゃいけねえよ」

「だが」


 クロードがものすごい怪物を見るような目つきをしてくる。

 いたいけな少年に向けていい目つきではない。訴訟すっぞ。


「これでも倒せなかった事実が俺達の戦術の正しさと誤りを証明している。キミの見た目に惑わされずに対竜戦術を選んだのは正解と言えて、まさかそれでも倒せないというのが誤算だった。以上を踏まえて次回はもう少し練り直すよ」

「そいつは楽しみ……怖いね」


 本当に怖い。アホアホ戦士マンはちからで圧倒できるがお勉強のできる戦士はこちらを解析してくる。俺はこいつらにちからを見せすぎた。対応策を練られて当然だ。


「次は倒してみせる」

「その情熱はどっからくるんだよ。あれか、どっかで怒らせたか? ごめんごめん、わるかったよ。たぶんあれだろ? たまにお前のツケで飲んでたのがバレたんだろ?」


 非情なる生徒会長パンチが俺の胸板を打つ。ダメージは軽微なので怒ってないな。


「知ってるよ、いつ白状するのかと待ってたんだぞ」

「そいつはすまねえ。でもあまりにも簡単にツケにできたからつい……レリア先輩にバラした」

「やけに金額が大きいと思ったがそのせいか!」


 貴族街には生徒会行きつけの雰囲気のいいBarがあるんだがクロードの名前を出すと「いつも御贔屓にしていただき……」的な接待ムードが始まって帰る頃には「いつものようにクロード様の名前でツケておきます」って言ってくれるんだ。


 金に困った考古工学部メンとよく一緒に飲んだなあ。レリア先輩はいつも酷い飲み方をしていたな。あんまり派手に飲むとクロードにバレますよっつっても聞きやしねえ。

 あの男の器量を試そうとする感じが堪らなくゾクゾクするんだよな。お前はわたしを手に入れるだけの器量を持つ男なのか?って問いかけてくるような感じがね、イイネ、すごくイイ。


 あのアルフォンス先輩が夢中になった理由がよくわかるよ。彼女は英雄や王にしか靡かないタイプの至高の玉座だよ。すべてを手に入れてきた勝者が最後に求めるタイプの女だ。


「そういやレリア先輩はどうしてた? 俺がいなくなって寂しがってた?」

「彼女にそんな可愛げがあるとは到底思えないね」


 普段は隠れているんだけど酔っぱらうと出てくるよ。可愛げ。


「その様子では彼女を連れていったわけではないのか。行方不明だよ、例の三人と一緒にな」

「さいわい事件のにおいはしねえなあ」


 考古学部が揃って行方不明。またぞろどこかの遺跡発掘にちがいない。

 のんびりと話をしていたら本日の勝者がやってきた。おめでとうパンチの出番だ。


「おめでとう!」

「そう来るのは目に見えていた!」


 アーサーくんとクロスカウンター!

 ばかめ、のこのこ近づいてくるのを予期してちからを溜めておいたのだ。さあ俺の靴を舐めろ!


「くっ、今なら打ち勝てると思ったのに……」

「ばかめ、騙し合いの年季がちがうぜ。こちとら読みの深さだけで戦ってきた男よ」

「まっ、こういう部分じゃアーサーには勝ち目がないな。育ちが良すぎる」

「そっちだって似たような育ちじゃないか」

「俺はまぁ歳の功だな。最年長を舐めるなよ」

「一個ちがいのくせにえらそうに……」


 勝負が終わってなんだかいい雰囲気だ。前にお嬢様から言われた、たまには負けてやらないと延々と恨みを買うだけってのを実感したよ。


 そうだな、これはそういうことなんだろう……

 じゃあ掛ける言葉は薄っぺらい雑談でもなければ、おめでとうなんかじゃなかった。


 アーサーくんに手を差し出し、言ってやるさ。悔しいけどな。


「負けたよ」

「ああ! ああッ、そうだ、僕らの勝ちだ!」


 ものすごく嬉しそうに俺の手を取って立ち上がるアーサーくん。そんな俺達を見つめる生徒会メンのみなさんであった。

 ご無事だったんですね! 絶対死んでると思ってたから驚きました!



◇◇◇◇◇◇



 なごやかな雰囲気で握手しているとナシェカとウェルキンが合流してきた。ウェルキンからはお前らの邪魔がなければもう少しで勝てるところだったと愚痴られたが……


 それはお前に勝つちからが無いのせいだよ。勝てる奴は横やりが入ろうが勝つからな。

 勝てないお前が悪いと論破しておいた。


「信じられるかアーサー、これが今しがた負けを認めた男のセリフだ」

「とても信じられない、彼は頭に病気を抱えているのではないか」


 棒読みで雑にディスるなー。これは今年一年は延々といじられそうだ。


「お前負けておいて俺にあんな暴論をきめたってのかよ。ダセえぞ」

「いやいや俺の敗北とお前の敗北はちがう問題ですしー」


 即座に煽り返してウェルキンと睨み合う。背中を押すなよ、絶対に押すなよ、キスしちまうからな。

 誰も押さないところが素晴らしいね!


 ナシェカが不思議そうに首を傾げている。


「負けてあげたの?」

「普通に負けたさ。惜敗だ」

「ふぅん、優しいんだ?」


 なるほど、でもあなた殺害の王のちからを使いませんでしたよね的な解釈か。使うわけがあるか。仲間だぞ。


 おっとどこに居たのか知らないがロザリアお嬢様が黒焦げのデブを引きずって走ってくる。どうやら護衛としての仕事をしっかりやった結果の黒焦げらしい。

 デブよくやった。お前がきちんとガードの仕事したの久しぶりに見たけどファインプレーだ。


「ねえ! 突然あんなの打ち上げるなんてどういうこと!?」


 どうやらお嬢様は公軍の魔導兵部隊と協力して干渉結界とレジストファイアの制御で大変な苦労をなされたらしい。すみません悪いのはデブです……


「そうね」


 マジかよコンボがつながった!

 かつてないレベルでの風評被害にも関わらず『デブが悪い』でコンボがつながる。よっしゃ、この追い風に乗ってすべての責任をデブに押し付けてしまえ。


 このあと調子に乗った俺達のせいでデブはまったく計算式を用いていない架空にして多額の賠償金と七百年を超える懲役刑と数々の称号を手に入れることとなった。デブ、起きたら覚悟しろ。


 そしてクロードが言う。


「まぁ神器『カイザールの護鍵』を刺しておいたからそんな苦労は必要なかったんだが」

「対策を打ってたんかい」

「そりゃあ最初からこういう作戦を立てていたんだから対策くらいするさ。模範生徒の会の作戦で生徒に怪我人を出すわけがないだろ?」


 そりゃあそうかもしれないが……

 せめてお嬢様のいない場所で種明かしをしてくれ。頑張ったのに可哀想じゃん。


「じゃあ演習成功ってことで! みんな、お疲れ様!」


 生徒会のみなさんがめっちゃ笑顔で笑い合っている。けど巻き込まれた他のみなさんの気持ちも考えてくれませんかって俺言っていい? 演習の発案者じゃダメだよね……



◇◇◇◇◇◇



 色々あってようやく湖畔の町マウアイレスまで到着した。途中で夜襲を仕掛けてきたAランク冒険者率いるクランを鮮やかに撃退したりと色々あったがみんなすげえよ、みんなして「ナシェカか!?」とか「お前はリリウスだな!」とか言いながら激闘を繰り広げていたもんよ。どんだけ俺らに不信感持ってんだよ。

 まぁ幸い怪我人が少し出たくらいの被害だった。演習の効果が早くも出たな。


 マウアイレスでも宿探し任務が待っていた。そして……まぁ詳細は語るまい。また出たんだよ。


 マウアイレスでの一泊を挟んで義勇兵団とLM商会は軍艦でマウアー湖を南下。

 クリストファー率いる、オージュバルト辺境伯との混成軍が戦う最前線を目指す船旅が始まったのだ。



 次回から転章というか全四部構成の帝都決戦編の第三部開始です。

 長い間すがたを見せなかったエロ賢者とかアシェラのエイジア暮らしとか神託の勇者アスタールが描かれます。エイジアで大暴れしたフェイくんが(ひどい日だと一日に六度イザールを襲撃した)ガレリアの傭兵(ちからが有り余ってるなら外で働いてきなさい!)として登場したり、色々と混迷の第三部ですががんばって書きます。


 なんであの鑑定の女神はバイトさせられてるんでしょうね。VIPのはずなのに……

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