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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
帝都決戦編 レミングの進軍
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キミと俺の戦争① 猛襲の愛の戦士

 ガキの頃からずっと違和感があった。

 町の中で暮らす騎士家の息子として自分と、草原を渡り歩く馬族の族長の孫の自分はどちらが本当の自分なのか?


 竜公などと勇ましい名を掲げども醜い太っちょオヤジにこき使われる騎士か。

 勇ましい草原の勇者になるか。


 どちらを選べと誰かに言われたわけではないが俺の答えは自然と決まっていた。草原こそが俺の生きる場所だ。窮屈な石造りの町なんて俺には狭すぎるってな。


 だがある日お袋から言われた。


「あんたは何にも見えちゃいない。あんたはただ町が嫌いだけじゃないか」


「そりゃあ草原はイイところさ。でも町には町のイイところもあるよ、悪いところばっか見て嫌いだって言って逃げ出すのかい? そんな軟弱野郎の居場所なんてどこにもないよ」


「帝都で見分を広めてきなよ。てめえでてめえを見限るのなんざそれからでも遅くはない」


 お袋は自分そうげんの味方だと思っていたからこのいい方には少なからぬショックを受けた。

 草原での生き方を教えてくれたお袋がこれだ、順調に歩んでいた未来の梯子を突然外された気分だ。


「お袋はさ、俺が騎士になってもいいのかよ?」

「あんたが選んだのなら構いやしないよ。一番ダメなのはあんたが自分で選ばないことだからね」

「なのに帝都に行けってのかよ」

「何も見えてねえガキのままで選ばせたくないのさ。色々見て知ったうえで選びな、将来を選ぶのはそれからでも遅くはないんだ」


 そんな感じで帝都の学院入りが決まり、夏に草原を旅立って秋に到着。帝都の親戚の家に厄介になることになった。

 親戚の家はまぁ居心地はよかった。本家の若様ってことで扱いはよかったし親戚の兄ちゃんたちも気のいい人ばかりだった。


 でも石造りの町での生活は窮屈で堪らない。動きにくい窮屈な服を用意され、見知らぬ奴の無遠慮な視線に晒され、いつも監視されている気分だった。まるで狭い厩舎で飼われている馬の気分だ。

 社交界にも何度か連れ出してもらった。楽しい場所だと聞いていたが、そこに居るのは人を値踏みする視線ばかり向けてくる不愉快な連中ばかりで気分が悪かった。


 やはり石の町はダメだと思った。他人の悪口ばかりをこそこそ言い合って笑っているくだらない人間ばかりが住んでいて、ここに居たら俺もそんなくだらない人間に成り下がってしまうと思った。

 学院にいるのもどうせこんなくだらない連中なんだろうと思って入学前から嫌気が差していたさ。さっさと故郷に帰りたいってな。


 学院長の長い挨拶。教師陣の退屈な説教。入学式は最悪でうんざりした。

 でもそこで彼女と出会ったんだ。


「つまんなそうな顔してんね。もしかしてナシェカちゃん達のこと馬鹿にしてる?」


 彼女はそんなことを言いながら下からガンをくれてきた。

 まず最初に思ったはおっぱいでけえなってことだ。


「あんたの顔見てると見下してるのがわかるんだよ。どうせ田舎じゃでかい面をしていた自称腕自慢なんでしょ? 掛かってきなよ、その腹立つ面を泣き顔に変えてあげる」


「いいのかよ、そこまで言ったからには手加減してやらねーぞ」

「上等。口だけじゃないところ見せてみなよ」


 入学式の最中に決闘を始めて、これがまたあっさりとボコされた。素直に思ったよ、この女すげえって。


 久しぶりに見上げた青空は綺麗だったし、彼女もすごく綺麗だった。


「よぅし、じゃああんたは今日からナシェカちゃんの舎弟ね!」


 久しぶりにワクワクしていたよ。ようやく慣れ始めた作り笑いなんかじゃなくて久しぶりに笑っていたよ。


 この女が運命の女だってあの時たしかに感じたんだ。

 


◇◇◇◇◇◇



 諦めていた。諦めていたんだ。彼女を知れば知るほど諦めるしかなかった。彼女には敵わないって!


「弾けろ、バウンド・クラスターセイバー!」


 闘気の刃を散弾に変えて飛ばす。この技は当てるのではなくむしろ回避行動を取らせることが目的で、彼女のバトルスタイルを考えれば必ず回避を選ぶ。


 しかし彼女は回避ではなく散弾の隙間を抜けてきた。……本当にすげえや。


 接近してきた彼女へと切り上げを飛ばす。当たるはずもないと思いながらも放った斬撃の最中に次の行動を選んでおく。想像の中で何度も彼女と戦ってきた。積み重ねてきたイメージトレーニングの分だけ有利を取れる。


 迎撃の切り上げと同時に彼女の姿が描き消える。

 背中に重い衝撃。背後から背中を刺された。だが……


「ナシェカちゃんの手数が多いのは回避が前提のバトルスタイルのせいで一撃の威力が低いからだ。だがそんなナシェカちゃんでも重い一撃がある。一対一で必殺のバックスタブを決める瞬間だ」


 革鎧の下には純聖銀のプレートを仕込んである。クロードに頼んで侯爵家の伝手で手に入れた混ざり無しの最高品質だ。

 そしてこの瞬間だけ彼女の足は止まる!


 彼女の腕を掴んで神器を起動する。


「謳え、バルティクス・サンダー!」


 彼女は高電圧に弱い。絶対に克服できない弱点であるとクロードが教えてくれた。

 雷撃を纏う神器から発せられた黒い電撃が俺を伝って彼女を攻撃する。勝った、と言えたらよかったんだがな。


 彼女は高電圧を浴びても平然としている。まいったな、クロードにガセを掴まされたか。


「へえ、やるじゃん」

「まいったね、ここで勝つつもりだったんだけど」

「じゃあ降参する?」

「いいや、だってナシェカちゃんはまだこの腕の中だ」


 彼女の顔面に拳を叩きこむ。まぁ避けられるだろう。ついでに蹴りを飛ばしてくるはずだ。最も効果的な俺の顔面に向けて。練り込んだ闘気を解放してオーラガードを最大まで高める。

 直下から繰り出された顎を引っこ抜くような衝撃。彼女の最も得意とするゼロ距離蹴り技で、思えば何度も食らってきたっけ。


「って、今のに耐えるの!?」

「今ので確信できた。ナシェカちゃんの攻撃は俺には通らない!」


 彼女の左腕が超速度で移動。俺の眼球の前に拳銃を突きつける。


「じゃあこれで♪」

「音の大きなだけのオモチャじゃ俺は揺るがないよ」


 小悪魔のような言動をする彼女だけど心根は真面目だ。きっと本当にピクニックのような装備で来ていて、それでは俺の防御を貫けない。

 俺が目を閉じた瞬間に距離を取るつもりならそうさせてあげよう。


 彼女の腕を離した瞬間に彼女は遠くに飛び退いていった。


「手加減のつもり?」

「弾薬一個分で貸しを作れたとは思わないよ」


 あのままで戦ってもこっちも手がなかった。彼女のゼロ距離戦闘の情報は皆無に近く、どんな手を使われるのかわからない。

 俺も体術は修練を積んでいないからな。素人同然の殴る蹴るだけで彼女に勝てるとは思えない。


 だが小さな貸し一つで少しは見なおしてくれたようだ。


「本当に手強くなってるね。本当に驚いたよ」

「気づいたんだ」


 気づかされた。運命の女を目の前でかっさらわれていってようやく気づけた。

 そこまでの事が起きなきゃ気づけなかった自分の馬鹿さ加減に落ち込んだけどようやく気づけたんだ。


「キミを手に入れるには愛を囁くだけじゃダメなんだ。キミを打ち負かす強さを示さなければならなかった!」

「……ナシェカちゃんとの交際条件にそんな項目はないんだけどなー」


 ……マジで?


「え、無いの?」

「ナイナイ。強いだけの野蛮人とか一番嫌いな人種だし、ナシェカちゃんお金持ちでナシェカちゃんのグータラ人生を容認してくれるスパダリが好きだし」


「じゃあ俺が全力でお金持ちになったら結婚してくれる?」

「ざーんねん、だってもうスパダリ見つけちゃったんだよね。だからごめんね?」


「じゃあ俺のやることは変わらないね」


 二振りの大剣を構える。

 超重の大剣インサニティ・エイビスと破砕の大剣オルランドゥにちからを流し込み、応じると返答するように剣からちからが発する。


「―――キミを奪い取る、例えキミに恨まれたとしても!」

「フェザービット解禁」


 彼女が兵装を二つ解禁する。機械仕掛けの四枚の翼は危険な武器だ。あの一つの翼が十六のビームガンに分離して独立した機動から射撃を行う。威力もピクニック気分ではない迷宮深層の魔物を一撃で殺すものだ。

 長大なブレードを有するブーツは彼女の空戦能力を大きく高め、また遠距離斬撃を発生させる危険な武器だ。最悪なのは剣の届かない空に逃げられることで、それを許してしまったらもう俺の言葉は届かない。


 ここで決める。じゃないと俺は彼女を掴めない。


「ピクニックはもうおしまい。じゃあ決着ってのをつけようか」


 彼女には誇りがある。俺程度に貸しを作ったまま逃げるはずがない。必ずクリーンヒットを決めてから最大効率での空戦に移る。


「「勝負!」」


 その瞬間、爆風が何もかもを吹き飛ばしていった。

 


◇◇◇◇◇◇



「血統呪―――射出マーク・オン


 痛みを伴わない矢に胸を刺された。そんな感覚と共に体が動かなくなる。

 いつだったかイレギュラーエンカウントを磔にした血統魔法か、厄介なものを対人にもちこんで来やがる。


 俺の動きを封じたところにUFO軍団襲来ってわけか。いい作戦、普通に奴なら詰みだ。


「うぎぎぎぃ! 俺をッ、舐めんじゃねえ!!!」


 空中でジタバタに足掻いて手で宙を掻き、強引に血統呪の空間座標固定化から逃れる。勝った!


「呆れたな、竜種すら縫い付ける血統呪を強引に打ち破るなんて人間業じゃないぞ!」

「ハッ、誰を相手にしているつもりだ! 伝承に謳われし救世主さまを止めようなんざ、アルチザン家ふぜいが思いあがったな! 一手だけ本気を見せてやる、これが俺とお前の格の違いだ!」


 竜剄を解放する。練りに練り込んだ生命のちから―――これを技を用いて戦技と為す。

 見せてやる、これが本来想定された本物の戦術気功闘法『竜王流』のちからだ。


「嵐壊・破竜爪!」


 五本指を持つ竜王の爪が世界をバキバキに切り裂く。

 空間だろうが大地だろうがお構いなしに引き裂いて、猛烈な竜巻が巻き起こる。この嵐のフィールドは何者の移動であろうと阻害する!


「秘術、リリウス多重影分身!」


 六体の幻影身で嵐に抗う生徒会メンを強襲する。リリウス・ライダーキックが模範生を討つ! っち、さすがクロードとアーサーくんはやるな。俺のキックを迎撃しやがった。

 だが五体の幻影が蹴落としたメンバーの代わりに神器ツクヨミに乗り込む。ええい、暴れるな! 新しい里親さんだよ、お願いだから仲良くしよ?


「こいつは次元迷宮産の神器だろ?」

「それがどうしたー!」


 つまりは所有者のいない無色の神器だ。染める程度のマネはしてあるようだが……


「神聖存在から直接下賜された神器ではない、つまりは所有者を書き換える余地があるってわけだ」


 殺害の王の魔法力を神器に流し込む。抵抗はあったが瞬時に突破できた。

 神器の属性が染め変わる。今日からお前は殺害の王の眷属だ!


「ちょ―――わたしの神器を取ったの、ひどい!」

「泥棒だー!」

「窃盗罪は免れんぞ! リリウス、法廷で会おう!」

「我々は全力で告訴する!」

「ばーかばーか! 取られるマヌケが悪いんだよ!」


 これがかつてお弁当一個食われたくらいで大騒ぎしていた男の発言である。

 では総評を出そう。


「生徒会の諸君、君達の奮闘を讃えて今回の戦功評価を行いたいと思う!」

「まだだ!」

「もう勝ったつもりか!」


 だってもう出し物は品切れでしょ?

 って思っていたらクロードが荘厳の鎧装具を纏う大変身!


「魔神転身!」

「なんそれ!?」


 うっそ、興味本位で放った鑑定眼が弾かれた。レジスト何万だ? いや、神器の鎧装具のアビリティか?


 重い剣戟を受けた瞬間にクロードにハグされる。ちょ―――俺そういう趣味はねえから!

 俺を拘束したままツクヨミを蹴って大地への心中を始めたクロードが叫ぶ。


「アーサー、俺と共に殺れ!」

「演習だってわかってる!?」

「≪アルチザンの火よ、我が身を喰らえ 我が身を竜に変えても宿命をやり遂げるために!≫」


 アーサーくんの肉体がリザードマンのように……というかファンタジーRPGにたまに出てくる竜のちからを宿した戦士みたいになっていく。

 そういう性癖のファンに刺さりそうな姿だ。特撮ファンには確実に刺さる。かっこいいぃ……(往年の特撮ファン)。


 アーサーくんが落下する俺達に向けて両腕を突き出す。そ…その構えは伝説の……

 ばかな、ありえん、それの使い手は一世代に一人しか生まれないとされる伝説の神々の戦士の……


「≪我らは覚えているぞ、千年の先までも魂に刻みつけ忘れない! 豊国統一の志を忘れぬ我らだからお前を討つのだ! 地に潜む悪竜バルバネス、その命運が尽きる時は今! 終焉の劫火よ! ゼノ・ブレイグル・アシャー!≫」


 アーサーくんの両手に魔法力が収束していく。見た目完全にドルオーラ!


 はっ、クロードお前まさか……

 ティト神のヴァルキリー装備で身を固めた理由って高熱耐性のためかよ。これ心中じゃねえわ。自分だけちゃっかり生き延びるつもりだ。


「リリウス、俺と一緒に死んでくれ!」

「お前だけ耐え抜く準備を整えておいて!?」


 笑い出すな、怖いわ!


「このセリフは一度言ってみたかったのさ」

「ちくしょう! てゆーか血統魔法を組み合わせた連携必殺技とか一番やっちゃいけないだろぉおお!」


 こっちも神器召喚だ!

 耐えきってやる。絶対に耐えきってやるぞ!



 事ここに至ってもナシェカの見せている欺瞞情報に踊らされるウェルキン。

 ナシェカは自分で演出した弱点や欺瞞戦闘行動によって自分の戦闘能力を擬態していて、ウェルキンはそれに完全に踊らさせているという……

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― 新着の感想 ―
フェイは他の弟子を倒したんですか? 竜王流になってますが…それともただの略称?
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