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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
いかさまカジノ激闘編
33/362

ワイスマンカジノ再戦

 彼女には眠るという機能は存在しない。

 疑似的に眠るという行為を再現することはできても本当の意味で彼女の脳に類する部分が停止することはなく、疑似的な眠りの時間は収集した情報を解析して高度な次元で経験値へと変換する作業を行っている。


 夢のように再現された先の戦闘データを演算機のうみそが解析する。どれも信じられない数値ばかりが並んでいる。


 個体名:アリステラ=デスアビス・ラ・セイラー・アーキマン

 種族:冥府の亜神

 破壊力:6220TLC

 肉体強度:35KGS

 速度・毎秒:340m

 魔法力:83.850.056.000VP

 高熱耐性:25

 冷熱耐性:60

 雷撃耐性:60

 闘気耐性:25

 アビリティ:再生能力AAA

 戦闘行動解析率21%


 脅威的な数値だ。性能的に見れば圧倒的で勝ち目など存在しない相手で、極めて好戦的だ。これを戦闘をし退けられたのは僥倖と言う他にない。

 短い戦闘時間であったため戦闘行動解析率も低い。解析率は21%。これは次回交戦時に有利になるという数値ではない。ただオーラ系戦技や火系統魔法が弱点であるとは判明した。これを生かせば逃げ延びるくらいは可能なはずだと思いたい。


 だがもう一人のほうが脅威的だった。


 個体名:リリウス・マクローエン

 種族:不明

 破壊力:11580TLC

 肉体強度:集積情報不足のため計測不能

 速度・毎秒:2866m

 魔法力:測定不能

 保有耐性:不明

 アビリティ:不明

 戦闘行動解析率:0%


 まず破壊力が馬鹿げている。彼の繰り出したただ一度の蹴りの破壊力はスカイクロウラー焼夷弾接爆時の二倍の数値をたたき出している。


 約248体のアンデッドとの交戦でも被弾は無し。回避勘が異常なのもあるが彼の速度が尋常ではない。毎秒2866メートル。どう計算してもトールマン種の出せる速度ではない。種族頁の不明表記は解析エンジンが混乱を起こすほどありえない速度だ。


 また魔法力という単純に計測可能な部分でさえ不明表記だ。おそらくは当個体が有する演算宝珠では計測できない莫大な数値であると予想される。

 保有耐性やアビリティも不明。当然だ、何者にも傷つけられぬ者がどんなポテンシャルを秘めているかなど計測できるはずがない。


 脅威的なのは戦闘行動解析率が0%。ここだ。


 インストールしてある簡易版の統制の女神シェナは数分間のリリウス・マクローエンの戦闘行動を解析した結果として情報集積率を0%だと断じた。彼の数分間の行動からは何も読み取れなかった、又は今回の戦闘行動の全てが真実の技を隠す欺瞞情報だったと判断したのだ。

 古代から現代に到るまであらゆる戦闘を観測し続けてきた究極の戦闘観測オペレーターA.I.も簡易版となれば万全とは言えない。……月額利用料金を払ってないからアプデもされてない。


 古巣からの追跡を避けるためにフルカスタム版をデリートしたのを、他に選択肢がなかったとはいえ悔やむことはある。こういう時だ。


(う~~~ん、どったもんかなー?)


 ふかふかベッドの上で伸びをするとそれだけの物音なのに隣で寝てたやつが目を開けた。

 紅白の組み紐を解いた金髪娘がじーっとこっち見てくる。


「どったんナシェカ、悩み事?」

「悩みっちゃー悩みだねえ」

「どんな悩みよ、マリアさんに相談してみるといいかもよ?」

「マリアは頼りになんないからなー」

「何だとこの野郎!」

「その反応はすでに読んでいる!」


 マリアがガバッと起き上がる。その行動は両手を使って上半身を起こすというものなので両手が塞がっているも同じ。そこへと飛び込んだナシェカが抱き着きからのかいぐりでマリアの顎を撫で回す。


「おらおらおらぁ、ここが気持ちいいんだろおらぁ」

「うぉぉうお、や…やめろー」

「口ではそう言っても体は正直じゃねえか、さあおじさんに身を委ねるんだー」


 正直状況がキャパシティを超えている。

 マリアが王とか自称キングメイカーのエロ賢者とか何より……


(リリウス・マクローエン、あいつは何を企んでいる……?)


 銀狼シェーファを追ってきた?

 それだけなら何の懸念もない。勝手に潰し合って勝手に潰れてろって感じだ。だがどうしてマリアにちょっかいをかける? 女好きなやつのことだ、いつもの漁色癖ならどうでもいい話だ。


 ナシェカは知らない。彼らの長い旅路の果てに何が起きたか、竜の谷を攻略したリリウス・マクローエンのその後に何が起きたのかを知らない。


(ベティ…私の可愛いベティ……この置き土産はちょっち重すぎんよ……)


 眠れない夜が明けていく。

 朝日はもうすぐそこにあるのにナシェカは答えを出せないでいた。



◇◇◇◇◇◇



 串カツパーティーを終えて就寝したのが午前四時。遅くとも七時には起きたい的な話をしてから眠ったんだ。完全にフラグだったな。

 起きてみればなんと午前十時だったんだ。眠る前から見えていた結果だったよな。


 自室のベッドで毛布にくるまりながら懐中時計見てる俺は呆然自失と「うそやん……」って呟いた。

 でも泣いても笑っても時は巻き戻らないのだ。現実を受け入れねばならないのだ。……俺の足なら本気だせば三時限には間に合う!


「ま…まぁ明日から本気出そう」


 俺は諦めた。諦めて洗顔に向かうと一階の洗面所でマリア様と出くわした。


 LM商会印の高品質洗顔セットをお使いになられている。美白洗顔剤の使い方とか教えてないはずなのに普通に使いこなしている。女子は本能的にわかるんだろうか?


「おはよー。それともおそよーかな?」

「おそよーだね」


 蛇口をひねって冷水で顔を洗い、歯磨きを済ませる。その際に自慢のモヒカンを水洗いして温風魔法で乾かすのも忘れない。異教の香の香りのする保湿クリームを塗りたくり、最後にワックスでモヒカンを整えて身嗜み完成だ。

 モヒカンは一度びしっと立ててから横に折る形でセクシーにするのさ。


「男子も朝の手入れは時間かけるんだねえ」

「掛けないやつは本当に何もしないけど俺がしっかり派なだけだよ」

「そのクリーム良い香りするよね」

「売ってるよ?」

「うぐっ……おかね貯めてから考えるぅ~」


 資本主義あぁ資本主義資本主義おかねがない、字余り。


 おかねがないのは心の余裕がないのも同じ。ってのはどこかの守銭奴ドラゴンのセリフだったか。だが正しい。良い子のマリア様にはサンタさんのプレゼントがあるべきだ。


「ナシェカは?」

「まだ寝てるよ。……やっぱりナシェカ狙い?」

「いつの失言引っ張ってくんだよ勘弁しろ」

「ちがうんだ」


 ちがいますぜ、だって俺は妻帯者だしね。

 手招きして店内へ誘い込む。字面が妻帯者の行動ではない。ショーケースの鍵を開けて適当にオリハルコンの剣を掴む。


「これがいいかな? ちょっと持ってみてよ」

「へ? うん……重ぉ」

「オリハルコンはまだ早いか。じゃあ聖銀をベースに……」


 当店には武具も置いてあるがどれもドワーフ王国直送の名品揃いだ。本当はオーダーメードがいいんだけど鉱人製にはネームバリューがあるからね。


 銀色を基本色に仄かに青白い光を放つ聖銀剣を渡す。軽く振ってもらったが問題なさそうだ。


「じゃあそれあげるよ」

「いいの?」

「あの鈍器は昨日折れちゃったろ。新しい武器が手に入るまでそれ使ってなよ」

「ほんとにいいの? ミスリルだよ?」

「気後れするってんならお金持ちになったら売り上げに貢献してくれ。それと本当に気にする必要はない、俺は可愛い子ちゃんにはプレゼントをしないと気が済まない変な男なんだ」


「いやほんとそこは変だと思うけどありがと」

「おう」


 そんなやり取りをしてると隠れてこっそりこっちを見てた女が出てきた。


「旦那ぁ、ナシェカちゃんには何かありませんかねえ~?」


「……お前のそのクソつよ武器より強いのを? 冗談だろ?」

「そこはほら、宝石とかお小遣いとかお小遣いとか……」


 何の恥じらいもなくお零れを貰いに来るとはイイ性格してるぜ。

 クッキー缶を三つあげよう。


「クッキーはないっすよ旦那ぁ!」

「当店自慢の最高品質クッキーになんてことを言うんだ。俺が監修してるからうまいぞ」

「いやまぁ前に店長さんから貰ったからうまいのは知ってるけど。ここは金目のものだとナシェカちゃんポイント大量ゲットだぞ?」


 何だろ。今日のナシェカは何か変だぞ。言うなれば俺のごとく滑っている。滑り芸がすべすべだ。


「お前のポイントを貯める必要性を感じない」

「まあまあそう言わずに! ねえお願いしますよ旦那ぁ、ナシェカちゃん今金欠でピンチなんですよぉ」


 くっ、心が強い。貢がせ慣れてやがる。


「つか旦那って何だよ」

「いやぁ~~~~旦那マジつよつよなんであっしは…へへ! 舎弟キャラでいかしてもらおうと思いやす」

「気持ちわりぃから急に下手に出てくんなよ、普通にしてろ」

「パイセン、今月の舎弟料がまだですぜ!」

「舎弟ならそっちが払う側だろ」

「可愛い舎弟を助けようという気持ち! 気持ちが足りない~い!」

「そもそも舎弟じゃねーだろ!」

「今日から舎弟になります。舎弟からのお付き合いをお願いします!」

「キャラの幅が広いなこいつ!」


 朝食というネームタグを付けた昼食を作る。なぜか野菜を切っただけでお手伝い料を請求してきた舎弟には子分心が足りなすぎる。

 夕方までトランプで時間をつぶす。ガイゼリックとの決戦に備えてセブンフォール・ナインブリッジの猛特訓だ。


「え~~~っと、それアングリフ」

「マジで? 得点が……フォーカインドカインド240点?」

「またマリアの勝ちか。つかリリウス君よわすぎでしょ」


「あ、揃った! ナシェカ、これ何点!?」

「計算くらい自分でしろし。……嘘、180だ」

「俺まだ何もやってねえのに破産した……」


 マリア様はやはり救国の聖女なのだろう。生まれ持った天運がちがいすぎる。つか俺むかしからトランプよわいんだよな、この世界ってカルマ値システムでも導入してんの?


「神上討魔さんくらい運気に見放されてる気がする……」

「誰だよそれ」

「何かの小説の主人公」

「あははは! 自分さえ覚えてない出典はやめてよね~」


 う~~ん、夕方までみっちり猛特訓したのに点数計算すらできないマリア様に勝てない。偶然一回か二回は上がれてもどっかで必ずひっくり返される。アシェラは観測できないって言ってたマスクデータの幸運値とかあんのかなあ。


「マリアってこっちの道に進めば成功しそうだね。あ、もう夕方か、そろそろ行く?」

「うん、いこう。何だか今日は勝てそうな気がする」

「マリア様、それ負けフラグだよ」


 そして夕方を迎え、さっそうとワイスマンカジノへと旅立つのである。学院? 授業? 明日から本気出す!


 夕暮れのワイスマンカジノは早くも大盛況だ。ものすごい数の馬車が沿道にずらりと並んでいる。景品に神器があるって噂が広まっているんだろうな。

 お忍び用ではない貴族の箱馬車には大抵が家紋が彫り込まれている。


「家紋をざっと見た感じ相当ハイクラスな貴族が遊びに来ているようだ」

「わかるの?」


 マリア様から純粋な質問がきた。心根が純粋なので見栄はやめとこう。


「じつは家紋ではなく馬車のゴージャスさで判断したんだ。家紋で判断なんて紋章官でもないと無理無理。俺なんて実家の家紋さえ怪しいぜ」

「実家の家紋くらい覚えときなよ」

「ちなみにアイアンハートの紋章はどんなん?」

「でっかいハートマークを鉄の剣が突き刺してるやつ」

「愛の剣士みたいな家だな!」


 さあワイスマンカジノに突入だ。じつは今回衣装には凝っている。俺はカジノ荒らしっぽいド派手なしまうまカラーのスーツ。当然マフラーはねじってるぜ。ガニ股歩きと葉巻も必須。

 女子二人にはセクシーな背空きのナイトドレスを着用してもらった。この二人を両腕に侍らすことで完成するカジノ荒らしコーデなのさ。


 さあどけどけ庶民ども! カジノ荒らしのお通りだオラァン!


「り…リリウス……?」

「……」


 フロントで親父殿と遭遇! どんな羞恥プレイだよ! なんで沈痛な面持ちで顔を伏せるんだよ!


「リリウス、そのな、言いにくいんだがそのスーツは少しばかり…そのな、趣味が……」

「言わなくてもわかってるよ! ちょっとした冗談なんだよ!」

「そ…そうか。そうだな、普段はきちんとしてるもんな」


 心底ほっとするのはやめろよな。普通にいいパパみたいに見えるだろうが。

 親父殿が何だか言いにくそうな表情をしている。まだあるの!?


「若い内からカジノ遊びはよくないと思うぞ?」

「わかってるよ!」


 だからその息子を心配するお父さんムーブやめろ! 息子全員集合春の大ナンパ大会を開催していたあんたはどこにいったんだ! ダメ親父帰ってこい! いややっぱ帰ってくるな。土に還れ!


 マリア様が俺の袖を引っ張っている。何だろ?


「このイケてるおじさまは?」

「うちのクソ親父です……」

「へえ、へえ~~~~あんまり似てないね」

「リリウス君のお父さんなら身長こんくらいあると思ったけど普通のおじさまだね」


 ナシェカが手を限界まで掲げてそう言った。その身長はもはやオーガだろ。


 親父殿がダンディな仕草で一礼をする。うん、様になってるっていうか気品を備えた熟練の遊び人感がすごい。男の俺から見ても上質な紳士に見えるんだから年頃の女子からしたらそれもうすげえんだろうな。


「お嬢さんがた、これの父のファウル・マクローエンです」

「まっ、マリア・アイアンハートです」

 声裏返ってるし。


「こっちのマリアと一緒でご子息とは学院同期のナシェカ・レオンです」

「お二人とも良い名だ。さぞ父母の愛情に恵まれたのでしょう」


 握手と見せかけて手にキスをしていく親父殿。うん、こういう手腕に関しては本当にすごいと思う。


「すでに上の息子に家督を譲り渡した身ではありますがこれで顔は広くてね、何か困ったことがあればぜひ連絡を。ちからになって差し上げよう」

「こらこら息子の目の前で堂々と名刺を配るな」

「男児という生き物は麗しいご婦人を見れば胸ときめかずにはいられないのだよ」


 ナシェカの手にキスをしながら親父殿が上目遣いのウインクしてきた。女誑しモードのまま俺に接するな土に還れ。


 そして苦笑いする女子二人。


「遠慮することはない。オヤジ世代の古~い口説き文句を笑ってやってくれ」

「いやははは、やっぱりリリウス君のお父さんだなーって感じするなあって」

「格好いい……」

「「えッ!?」」


 やばいマリア様に親父殿が嵌ってる。亜音速リリウス神拳で悪い虫を追い払おうとするがよけるよける。くそっ、ローゼンパームで決闘した時より早くなってやがる。


 そこへ見慣れた人物と言っては失礼だが高名なお二人が現れた。デブのパパのバランジット様とバートランド公アルヴィン様だ。


「中々来ないとは思ったがリリウス君じゃないか。おっと、綺麗なお嬢さんがたを連れているな」

 バランジット様が太鼓腹を揺らして豪快に笑い。


「ファウルに似て手が早いね。こんなに可愛い子たちを二人も侍らせるなんてやるじゃないか」

 アルヴィン様がおかしそうに笑っている。


 まぁ場所が帝都のプレイスポットで親父殿と来ればこのお二方もいるわな。で、やっぱりこの方々がどんな方々なのかわかってないマリア様である。


「こちらの方々は?」

「では俺の方からご紹介をば。こちらの御方はバートランド公爵アルヴィン様。こちらはセルジリア伯爵バランジット様です。お二人とも帝国貴族の中でも指折りの大人物で、うちの親父はおまけです」

「息子よ、パパに向かってオマケはひどくないか。まぁ本格的なのはバーラウンジに移動してからにしよう。女性をいつまでも立たせておくのは紳士的ではないぞ?」


 うるせえな分かってるよ。いつまでも立たせちまったのは親父殿のせいだろうが。

 バーラウンジでシャンパン片手に三対三の自己紹介が始まったが長いので以下略。談笑の間にお二方プラスおまけがカジノにいる理由もわかった。


「へえ、噂の神器を見物しに来たんですかあ」

「うん、正直眉唾ではあったがあれは本物っぽいね」


 目の肥えたバートランド公が本物っぽいというからにはかなり本物っぽいんだろうな。なお真贋は未だ不明。神器ビジネスにおいて騙されてきたのは各国における公に匹敵する大人物たちだからだ。


「正直ね、ワイスマン子爵ごときの財力であれほどの物を揃えられるとは思わなかったから疑ってはいたんだ。おかげでこいつに奢らなきゃいけなくなった」

「ガハハ! な、俺が言ったとおりだったろ?」


 どうやらバランジット様経由で本物っぽいという話が出てきて、じゃあこの目で真贋を確かめてみるかって重い腰をあげたようだ。


「うちは半分武器商人みたいな家だから名品を見る目は肥えているんだよ」

「セルジリア製の聖銀武器は品質の良さで有名ですからね」

「うん、リリウス君もうちの武器を愛用してくれていたろ。どうだね、あれは役に立ったかね?」


 いつの話だろ。もしかしてマクローエンにいた頃の話か?

 もう随分と昔にセルジリア伯爵領に出入りする商人を伝ってあちらの聖銀の短剣を購入したことがある。五年六年ってくらい昔の話だが……


「ええ、そりゃあもう」

「そりゃよかった。俺はてっきりファウルからのプレゼントだと勘違いして子飼いの職人に打たせたんだがまさかリリウス君がお小遣いをコツコツ貯めて取り寄せているとは思わなかったよ。十になるかならずかの年に聖銀武器は早すぎるとは思ったがそんなキミが今やS級冒険者だ。やはりマクローエンの鷹の子は常人とは早さがちがうな」


「あ…あぁ~~~そういえば不自然なくらい高品質な武器だと驚いた覚えがあります。まさかそんなお気遣いを戴いていたとは露知らず。一先ずここにお礼を、知らぬこととはいえお礼を申し上げるのが遅れて申し訳ありません」

「いやよいのだ。この種の気遣いとはバレた方が恥ずかしい!」

「おいおい自分でバラしたんじゃないか」

「勘弁してくれ。ずっとバレないのも気が気がじゃなくて恥ずかしいんだよ!」


 ドッと笑っていい雰囲気である。いや~いい酒の席だなあ。……マジでこの方々が普通のおじさん達なら胃も痛まないんだがな。

 ここで親父殿が追及する。やめれ。


「そういえばあの短剣はどうした? まぁ今のお前の体格では不要だろうがバランジットの心遣いだ、まさか売り払ってやしないだろうな?」

「折れた。ハイエルフの顔面に叩きつけて折った。……すいません、せっかくのご厚意の品を……」

「「……」」


 なぜにみんなしてフリーズするのか。


「あー、ちなみにだ、リリウス君あのね」

「はい」

「ハイエルフとは実在するのかね?」

「しますよ」


 まさかセフレにも一人いるとはいえまい。女子の前だ。


「戦ったのかね?」

「ベルサークに潜入した時にですね。いやほんとしつこいのが一人追跡に来まして迎撃に失敗してセルトゥーラ王の眼前に引きずり出されまして……」


 バランジット様が豪快に笑い出す。


「こりゃあいい! ハイエルフとも戦えるなんてうちの武器にも箔が付くってもんだ!」

「折れてるけどな」

「それは言うな。まったくとんでもない冒険をしているな、じっくり聞かせてくれよ」

「うん、私も聞きたいね。じゃあ今夜はリリウス君のワンマンショーといこう」


 やっべえ、これ長いやつだ。

 親戚の集まりなんかで確定発生するクソイベントだ。しかも何の利益もないやつ!


「あのぅ、じつは俺も噂の神器を見に来たっていうか急速に見たくて仕方ない病が。うっ、アタマがイタイ…神器ミタイ……」

「おや、若者を困らせてしまったか」


 一瞬でバレる俺の想いである。


「すまんすまん、つい長話をせがんでしまった。うむ、若者はおっさんと付き合うより若い娘っこと遊びたいよな」

「うん、私達など気にすることはない。いや引き留めてしまい悪かったね」


 こう言ってくれるお二人。しかし貴族マナー的には……

 親父殿に目線をやる。頼むぜ親父、不肖の息子に正解を教えてくれ。


「……(大きな〇のポーズ)」

「お心遣いありがとうございます! 次の機会にはぜひわたくしめの冒険譚にお付き合いください!」


「うん、次の機会を楽しみに待っているよ」

「今度の安息日には息子も連れてうちに来なさい。自慢の美食を用意して待っているから」

「ありがとうございます!」


 バーラウンジを颯爽と去る俺と女子二人。女子二人の霊圧がない。どうした?

 女子二人がわたしは空気みたいな顔になってる。


「どうしたんだ?」

「しゃべりかけられても困るから全力で空気の演技してただけぇ」

「マジの大人物ばかりで本気で困ったよ」

「暇ならうちの親父を殴っててよかったよ?」

「どんな親子仲なのよ……」

「ファウル・マクローエンって夏季遠征なんかじゃ諸侯軍の総司令官を何期も務めてる議長派の超大物じゃん。さらに貴族院議長様まで一緒とか勘弁してよ……」


 カジノエリアに降りていく。一番下のフロアの中心に警備員と四つのショーケースが並ぶコーナーがある。あれが噂の神器か。


 トールハンマーとか本物なら世界的に有名な神器じゃん。俺に適性のある武器種だし本物なら絶対欲しいじゃん。

 刀もあるな。刀にはロマンがあるから欲しい気はする。全然使えないけど居合切りには興味がある。

 ヴァンパイアロードの魔剣は呪われてそうだしなー、うーん、別にいらんかなー。


 最後の一個。真紅に塗装されたソーデッドガンを見た瞬間に俺の中の不思議感性にキュピーンとくるものがある。


 なぜだろう、どこかで見たことがあるような……

 どこだ、どこで見た……? 俺の趣味にここまでドストライクな銃を忘れるなんて……


 どうしても思い出せないからに鑑定紙を読んでみる。


『神話の時代に活躍した最強の殺人者の愛銃。焼却の権能を有するのみならず専用のマジックカートリッジを用いることで全ての属性攻撃を放てる超絶の兵装』

「イザールの銃じゃん……」


 あ…あああああ!

 ああああああああああああ! 思い出した! これ偽証精霊事件の時にイザールが使ってた剣銃だ!


 あいつあの後これをどっかに捨ててって誰かが拾ったってのかよ。マジかよ、途中で捨てるくらいなら俺に回収させろよ!


「へへっ、旦那お目が高いっすねえ。これを見ても偽物とか言っちゃう?」

「ここは素直に誤りと認めてやるぜ。へっ、久しぶりにガンカタがやりたくなってきたぜ」


 サブマシンガンでもいいけどガンカタの真骨頂はソーデッドガンなんだよ。

 これさえあれば本物の殺人舞踏ってやつを見せてやれるぜ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 統制の女神シェナはイザールに負けて道具になっちゃった系女神?
[良い点] 春のマリアに移ってからも最高ですね。いつも楽しみに続きがアップされるのを待ってます!
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