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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
いかさまカジノ激闘編
32/362

第三のバカ参戦

 死の町を出てから懐中時計を確認すると深夜の二時だ。旧市街はすっかり静まり返り、通行人なんて一人も見かけやしない。


「うーん、明日の授業にはでたいので直帰せねば」

「リリウスのお店に泊ってかない?」


 おやおやマリア様から火遊び宣言が。

 顎クイをしてみる。


「へぇ今夜は俺と同じ夢を見たいのかい?」

「ぶふぉっ!」


 口説き文句を聞いて笑い出すとか失礼すぎませんか?


「あはははは! 何そのセリフ、おとうちゃんと同じセリフぅ! あははは!」

「その口説き文句何世代前なんだよって感じだよねー」


 言葉の拳でガツンとやられた気分だぜ。やっぱ親父殿の口説き文句は古いのか……

 今もどこかのお嬢さんと同じ夢を見てるだろう親父殿の笑顔に敬礼する。あんたこんな古い武器でまだ第一線で戦ってるのかよ。マジすげえよ。


「一緒に寝たりはしないけどさ、またご飯とあのベッドで眠りたいなーって。寮のベッドに不満はなかったんだけどアレを知っちゃうとねぇ」

「そうそう、ナニあのベッド。ふかふかすぎてびっくりしたんだけど?」

「アルステルム製の超高級寝具だからね」


 アルステルムがどこかも知らん顔されたわ。まぁ俺も実際にフェニキアに行くって時まで知らんかったわ。船探ししてる時にフェニキア&周辺国の内情まとめてカトリに教えてもらったのが二年前。随分と懐かしいもんだ。


「売ってるの?」

「売ってるよ。買う? 今ならリリウスくんが寮までお届けしちゃうよ」

「わあ! 買う買う。いくら?」

「ユーベル金貨で600枚」


 買うって言ってたマリア様が後退る。なんぼなんでも寝具一個の値段じゃないもんな。でもあれポケットコイル山ほど使ってるから高いんだよ。


「ベッド一台で金貨て……」

「それと帝国の金貨は金の含有量が低すぎるせいで鋳つぶした価値で換算されるから手数料込みで三倍になると考えてくれよ」

「1800テンペルとか……」


 いやほんと中央文明圏だとドルジアの通貨使えないんですよ。あちらだと両替商から両替拒否られるレベルで含有量が低いんすよ。

 こういう説明をすると驚かれた。


「うちの国ってそんな感じなんだ……」

「うん、本当にそんな感じなんだ」


 昔の貨幣はまともなんだ。でも近年鋳造されたものは本当にゴミなんだ。金貨っていうか金が少量混じってる銀貨なんだよ。


 とりあえずフェイ君にメールする。ほら、行く前に連絡しておかないと二人の愛の営みを邪魔しちゃうし。その恨みはなぜかフェイにいくので間接的に俺が恨まれるし。フェイはそこまで心の狭いやつではないが積もり積もると怖いじゃん。


『今から店に行くけど出てくる必要はないぞ。泊って帰るだけだから』

『そうか。店は無人だから好きにしろ』


 おい店長。


『え、今どこいんの?』

『ラタトナ迷宮だ。楽しいぞ、お前も来るか?』


 バイザータイプのネット端末を外す。あいつすげえよ、今朝まで邪神と六日六晩戦ってもう迷宮アタックかけてんのかよ。店の経営もそれくらい本気だしてくれ。


 店は店長の言う通りやはり無人だった。

 夜食を作る間の時間、二人が商品を見たいというので店内に放牧する。……料理中にも二人のかしましい声が届く届く。本当に元気だなうちの聖女様は。


 40分後。ようやく夜食ができた。バトル後なんでがっつりいきたい、そういうバサカ女子垂涎の串カツパーティーだ。ソースも当然リリウス印さ。複数の野菜をミキサーして作った熟成ソースにマヨネーズを足すとこれがうめえんだ。

 暗い店内でギャーギャー騒いでる女子を呼びに行く。


「おーい、できたぞー」

「あ、伝説の冒険者が来た!」

「やめて、ナシェカやめて。腹筋がつる……ッ!」


 顔見せただけで腹筋がつる男子とかどんな存在だよ。って思ったらナシェカの手には俺の自伝がある。


「リリウス・マクローエン救世の使命を帯びてウェンドール791年に生まれる」

「ぼははははははッ! やめて、やめてぇぇええあはははははは!」


 おい自伝いじりはやめろ。恥ずかしいだろ。

 朗読はやめろ。笑うな。なんでみんな自伝いじってくんの!


「あぁー笑った。こんなに面白いもん書くとはね。これ買うよ、いくら?」

「20ベイル」

「今ヘックス銀貨しかないんだけどぉ?」

「そっちの銀貨は価値が低いんだよなあ。まぁいいや、26枚でいいよ」

「そこはマケるところでしょー?」

「なんで笑いものにしたやつにマケねえといけないんだよ」

「ちぇ、ケチンボ」


 自伝が売れた。やったね!


「マリア様は何か買う?」

「今ちょっと持ち合わせが……」


 学校サボって金策してるくらいだしな。まぁ後でこっそりオリハルコン武器でもあげるか。


 キッチンに移動する。

 テーブルにどどんと置かれた鍋とまだ揚げていない山ほどの串。視覚効果は完璧だぜ。


「へいらっしゃい、お好きなものを揚げますぜ」

「そういうシステムかぁ。どれが旨いの?」

「お客さん、うちの店は全部旨いんでっせ」

「面倒くさい店主だー」


 おすすめを出せと言われたのでまずはかぼちゃ串を揚げる。糖度高めのかぼちゃを電子レンジの要領で熱を通して柔らかくしておいたもので、衣をつけてサクっと揚げる。こうしておくとたった二分でおいしいカボチャ串が完成するのさ。


 さあ食べてくれ。どんな反応するかな?


「あぁやっぱりおいしい。普通においしい」

「また変なもの食わされるんだろうなーって思ってたけど今回はまとも」

「前回もまともだったろ」

「じゃあ何を使って作ったか言いなよ」


「……」

「黙るなあ!」

「もうっ、あぁもう! これさえなければ、これさえなければ通い詰めるのに!」


 通われても困るから秘密にしとこう。


「次のおすすめは?」

「カマンベールチーズ串っすわ」

「絶対おいしいじゃん。それ絶対最高じゃん!」


 カマンベール串は外はサクッと中身はとろっとのすげえやつだ。チーズの濃厚な甘みを引き立てる黒コショウが素晴らしいアシストをしている。これはソースをつけずに食べてもらった。


 これの反応がよかったので次はカマンベールチーズ・ソーセージ串を揚げる。これはソースではなくレモンで食ってほしい。


 用意した串を次々揚げていく。合間に会話を挟んだり俺も食べたりする。

 ベーコン巻きアスパラ串や豚バラ串のようなお肉系。定番のピーマン串やレンコン串にプチトマト。チャレンジ枠でこの世界独特の野菜も使ったがけっこううまい。


 よし、こういう日は高い酒も出そう。ステ子あれだせ、こないだ買ったあれ。


 火酒の樽を出して蓋を拳でかち割る。ちょっとだけ手が浸かってしまった。


「ばっちい」

「俺が手仕込みしたもん散々食っておいて汚いとはなんだ。リリウス君はおいしいですって言え。おいしいわけがあるか」


「この人自分で否定したよ……」

「そういう芸風なんでしょ。あー、このすっきりした味は?」

「ドワーフ王国第六本陣直送の火酒だ。これと揚げ物の相性は神だぜ」

「あ、あ、あ、これは反則だあ……」


 マリア様も気に入ったようでちょこちょこ飲んでは揚げ物に耽溺している。うん、今宵は大成功だな。

 さっきまでイヤな気分だったから酒が進むぜ。


「そういやカジノに嵌ってるって聞いたけど大丈夫?」

「大丈夫じゃない」

「うん、マジで大丈夫じゃない」


 自分で大丈夫じゃないって言えるギャンブラーは大丈夫なんだが。


「ガイゼリック知ってるでしょ、ワイスマン子爵家のガイゼリック。あいつと勝負してんだよね」

「勝負?」

「神器チャレンジ。あいつに一回でもカードで勝てば神器が貰えるんだ」

「なにそれ詐欺くせえ」


 神器っつったら神のちからを移した最高位魔法具だ。奇跡と呼ばれる魔法を超えるちからの触媒だ。トランプ勝負で出すような位階の品では絶対にない。


「騙されてるんじゃね。それ神器じゃない骨董品か何かってオチだろ」

「本物だったよ」

「見ればわかる。あれは本物」


 って言いつつ騙されてる人よく見るから困る。神器と偽って骨董品を売りつける商法は古来絶えることなく技法だけが進化していって今じゃあよほどの目利きでも騙されるレベルの贋作が出回っているもんだ。

 当然ながら鑑定書を偽装するくらい初歩の初歩だ。アシェラの鑑定師を呼んでその場で鑑定させるのが神器売買のセオリーになってるくらいだ。


「自分の審美眼に自信があるのは構わないが本物って言い切るにはA鑑定くらいに掛けてからしてほしいぜ」

「私たちの目を疑う気かー?」


「人の目なんて本気で宛てにならないよ。加えて言えばトランプ勝負の景品になってる時点で信憑性は薄い。はい論破」

「リリウス君一言多いってよく言われるでしょ?」

「そのはい論破ものすごくむかつくよね」


「わるかったよ。じゃあ本物だと仮定してどんな勝負か詳しく聞かせてくれよ。酒の肴にしよう」

「リリウス君よ、不要な煽りが増えておるのじゃ……」

「ほんとね……」


 なぜ俺は不必要に他人を怒らせてしまうのか。またやっちゃったぜ☆


 詳しく聞いてみる。セブンフォール・ナインブリッジで勝負。互いに持ち金300コインでタイマン勝負。二人合わせて十戦以上やったのに勝てる目も見えなかったとか。


「で、挑戦権は一回50テンペル金貨ときたもんだ。カモられてねえ?」

「だとしても諦めきれないんだよねー」

「ふーん、そんなに欲しいんなら協力してやるか。神器ってどんなのよ?」

「真っ白い剣の神器なんだ。名前はたしか……」

「マリアってば忘れたの? シュテリアーゼでしょ」

「おっ、それそれ、シュテリアーゼ」

「そっ、それだあああああ!」


 思わず大声が出ちまった。忘れてたよ、すっかり忘れてたよ!

 カジノに盗みに入ったのに怒りのあまり肥満体のおっさんしばいて帰ってきたけどそれだよ。それを盗みに行ったんだよ!

 すっかり忘れてたよ!


「なっ、なんだその大声?」

「以前カジノに盗みに入ったじゃんか」

「え、うん、行ったね」

「……二人して消えた夜の話?」

「それ。で、目的がそのシュテリアーゼだったんだよ」


 二人が顔を見合わせる。困った顔してる。


「協力してくれるのかと思えばライバルが増えちゃったね」

「話して損したよね」


 よっしゃ、本日の予定が決まった。

 真面目に授業受けてからカジノだ!

 カジノに嵌るバカがもう一人増えただけ

 次回、エロ賢者VSエロの救世主!

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