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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
帝都決戦編 レミングの進軍
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目からビームを出すのは卑怯とか小物とかそういう話ではない

 戦の最中だろうが人間ってのは生きていれば腹が減る。軍令所を出た俺はぶらりぶらりと港町のぶらり旅。目的地はまぁうまそうなメシを出すメシ処ってところか。


 日が落ちても港町は騒々しい喧騒の中にある。各地からやってきた兵隊が乗船待ちでヒマをしている。それだけの理由でしかないが、それだけでも充分なんだ。

 喧嘩かと思って目を向けてみれば喧嘩興業をやってる奴までいる。拳と拳で男の勝負ってやつだ。興味深く見つめているとルアが冷めた目つきで呟く。


「馬鹿ばっか。ELSが来ているのにこんなことで怪我を作るなんて……」

「ルアは賢いんだな」


 俺がそう肯定してやるとムッと眉を吊り上がらせた。本当に賢いよ、今のは小馬鹿にされたってわかったんだな。


「なああいつらを見ろよ、馬鹿以外の何に見える? あれは知性の欠片もない野の獣のような連中だ。そして賢い奴は兵隊に向いてないよ」

「私に軍を辞めろって言いたいんですか?」


「気づかなかったのか? 俺はずっとそう言い続けている」


 俺が笑うと馬鹿にされていると感じるらしい。なんだろうな、難しいね。


「お袋さん…アセリさんのことなら俺に任せろ。女の一人が国主をやっていてな、そいつの国なら誰にも手出しはさせない。お前達も手を汚す必要はなくなる」


「代わりにあなたが手を汚してくれるっていうんですか? 願い下げです、私達の未来は私達がこの手で掴む、お母さんのことだってそうです。本当に辛い時に居なかったくせに今更出てきて兄のような顔をして上から物を言わないでください」

「……」


 まいったね、ぐうの音も出ねえや。


「なんですか黙り込んで。なんとか言ったらどうなんですか?」

「いや、お前の言うとおりだ。今更だな」


 お前達には優しい世界で生きていてほしかった。そう思い込めれば俺も後顧の憂いなく戦って死ねたさ。

 だがお前達は手を汚してでも未来を掴みにいった。それがニコニコ変態おじさんの思惑通りだとしても、自分のちからで運命を切り開いた誇りだけは本物だ。……そうじゃないと誰も報われない。


 憂さ晴らし代わりに喧嘩興行に乱入する。囃し立てる群衆の前で兵隊を左ジャブで倒す。加減がうまくいったな。殺さずにうまく倒せた。


 チャンピオン特権だ。挑戦者は指名させてもらうぜ。


「掛かってこいよ、久しぶりにやろうぜ」

「何の意味があって?」


 ルアが本当に不思議そうに問うてきた。笑かしてくれるぜ。


「マクローエン家では殴り合うのに理由は要らねえよ」

「野蛮ですね」

「そこは同感しかないが、せっかくだから戦う理由を一個やろう。俺に勝てたらもう二度とぐだぐだ文句はつけねえってのはどうだ?」

「それは兄と殴り合う理由にはなりません」


 マジレスかよ。ノリの悪いところは誰譲りなんだろうな。

 いや、こいつだけが手に入れた個性なんだろうな。なんて大きな話ではないんだろうな。女子って嫌いな男には冷たいよな。まさにこれ。


「俺に勝てたら俺の持ってるどんな加護でも神器でもやるよ。不癒の魔剣カラドボルグでも月を射抜く槍シャー・ラハー・タバールでも獣の魔剣レザナだってくれてやる」

「言質は取りましたよ?」


「来いよ、兄の切なさと愛しさと心強さを教えてやる」

「……相変わらず適当な発言の多い人ですね」


 調子が出てきたらしいな。遠慮がちというかどう接したらわからない戸惑いが消えた気がする。

 俺もこいつらも随分と兄と妹をサボっていたからお互いにまだ手探りなんだろうぜ。


「さあ見せてやるぞ偉大なる兄の姿を、リリウス目からレーザービーム!」


 思い出せ、兄の姑息な姿を。

 実際のところ俺ってけっこう卑怯で小物な兄だったろ? 大物感出されてもこんな人だったっけって思ってしっくりこなかったと思うわ。



「都会に出稼ぎに行った兄が目から光線を出すようになっていました。どう接していいかわかりません……」

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