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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
帝都決戦編 レミングの進軍
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愛の戦士再び

『公都アルジャハル正門前大通りの占拠に成功。公軍の七割を壊滅。プランBは順調にタスクを消化中。ナシェカ、プランC実行のためにザクセン軍から離脱します』


 シェナちゃんの報告を聞きながらでかいシャチに乗っかって黒海を北上する。

 海上を驀進するハザクくんの背中に乗っての快適だ。快適な旅だ。本音を言えばもう少し急いでほしいけどな。


『海中に潜ればもっと速くなりますが、他の人が落ちてしまいます』


 雑魚どもへの気遣いだったか。偲びねえ!


 ハザクくんの背中には色んな人がしがみついている。グリフォンごと乗り込んだイースの騎兵とかうちの家族とかだ。

 情けねえ奴らだぜ。親父殿とサトラー殿を見ろよ、俺の隣で腕を組んで遥かな水平線を睨んでいるだろ。弱者にはできない姿勢なんだよ。


 ルド兄貴なんて砲塔にしがみついてガタガタ震えてやがる。帰国したら女遊びを控えて真面目に鍛えろよ!


「ルド兄貴へいきか?」

「逆になんでお前は平気なんだよ……」


 仕方ねえな、コツってもんを教えてやろうじゃんよ。


「風って前から来るじゃん。風に対してやや前傾姿勢に倒すじゃん。いい塩梅の位置を見つけるじゃん。するとこんな感じで立っていられるってわけよ。理屈で言えば前方から来る風圧に対して体重移動で合わせるって感じ」

「マジかよ、そんな簡単なことでいいのか!」


 ルド兄貴が砲塔から手を離して実践する。しかし手を離した瞬間風圧に負けて吹き飛んでいった。ルド! お前マジで女遊びは控えろよ!


 吹き飛んでいったルド兄貴をハザクくんの背中に座って昼飯食ってるラキウス兄貴が片手キャッチ。

 座る方が難しいんだが平然とやってやがる。相変わらずフリーダムな人だぜ!


 ラキウス兄貴が弁当箱を差し出してきた。相変わらずフリーダムすぎるぜ! ラキウス兄貴は場の空気とか全然読まないからな。


「腹が減っては戦はできんぞ。お前も食っておけ」

「ありがてえな」


 兄貴に近づくと強風を感じなくなった。凪のフィールドか。音速をぶち破ってる中でよくもまあ維持できるもんだ、って感心していると苦笑いをされた。


「驚くなよ。一応言っておいてやるが体重移動でどうにかするよりはよっぽど簡単な方法なんだぞ」

「それこそ意見の分かれるところだな」

「いや、お前のやり方は無理だって」


 ルド兄貴がそう言った。何なら俺に騙されたとか思ってそうだ。


 ランチボックスの中身はまぁ適当だ。おそらくは人のいなくなった食堂から料理をガメてきたのだろう。パンにチーズにベーコンが編み籠から顔を出すほど持ってきてる。兄貴のメシ選びのチョイスが戦士すぎるぜ。野菜も食おうぜ。将来太るぞ。


 ベーコンとチーズを魔法で炙ってパンに挟んでいるとシェナちゃんからまた報告だ。


『プランB進捗率55%、公城の制圧に成功しました。プランCにてワーブル国教四神殿の部隊を視認。神聖存在は未確認、これによりプランCの成功確率が60%から98%へと上昇します。ワーブル六軍団殲滅プラン『天空の炎』の作戦区域への誘引を継続します』


「了解、ナシェカを激励しておいてくれ」

『あの子も喜ぶでしょう』


 真面目なシェナちゃんからの通信が切れる。もう少ししゃべりたいって想いを残させる技術はすげえわ。恋しそうになるね。


 通信を終えるとラキウス兄貴が問うてくる。


「どうだ?」

「順調。公都アルジャハルにこもっていた公王エンザギはガンズバックが討ち取ったよ。今は公城を制圧したところらしい。ワーブルも四神殿が出しゃばってきているらしいがまず問題はない」

「神殿は手強いと思うのだがな」

「神様が出張ってこねえのなら問題ないさ。エンヴィーは手強いらしいが他の三柱は問題にならない」


 大地母神ママボボは先史文明の豊穣の女神だ。巨大神話大系の三頂点に君臨するちからある女神で、デス神とか様々な神様のお母さんらしい。しかし戦闘向きの権能は持たず、大地母神の名の通りに大地に生きるすべての命を祝福する存在であるようだ。要はバッファー。それも繁殖とか作物の生育を助けるタイプの。


 燃える泥のガンドゥムは手強い神だ。だが特性からしてナシェカなら完封できる。こいつもママボボから生まれた従属神でやや混沌側なんだがママボボ信仰の強いワーブルでは善なる神として扱われているようだ。

 タイムスリップした時にダージェイル大陸で戦ったドロヌーバみたいな魔物はこいつが生み出した神獣であるらしい。あの時は俺の性能がとち狂っていたせいで雑魚だと感じたがオデの苦戦ぶりから見るに相当に手強いはずだ。


 サルナーンはけっこう有名な水神だ。こいつもママボボから生まれた女神で先史文明の頃から存在する。勇者にアロンダイクという聖剣を授けたという逸話から湖の乙女と呼ばれているのだとか。うん、どこかで聞いたねアロンダイク。あれが湖銀と呼ばれるゆえんだ。


 で、問題のエンヴィーはゼニゲバとママボボの子供らしい。なんでてめえが出てくるんだよ!って言いたい気持ちをグッと堪えるとして、まぁ有名な風神だ。マクローエン家もエンヴィーの信徒なんだよ。そういう理由でマクローエン家はエンヴィー神には勝てない。加護の鎖に縛られてエンヴィーへの攻撃は通らず、奴の攻性法術には抗えない。

 それとナシェカもかなり相性が悪い。エンヴィーは矢除けの権能を有するので遠距離攻撃のほとんどが意味を為さない。厳密に言えば矢除けの加護ではない別物なんだけど性能は似ている。


 エンヴィーが出てきたら俺が戻って戦うしかなかったが、戦えば確実に勝てるってレベルで俺が有利だ。俺はゼニゲバの神気を半身と呼ばれるほど保有しているからエンヴィーに対して防御力攻撃力ともに有利に戦えるんだよ。


「エンヴィーか。まさか当家の守り神と戦うかもしれなかったとはな……」

「戦えなくて残念って顔するー」


 勇敢さは素晴らしい資質だと思うが勇敢すぎるのは怖い。心配になるぜ。


「神と戦いたいのならいずれ場は用意する。だからそのワクワクは次までとっておいてくれ」

「兄想いの弟で嬉しいよ。楽しみにしているぞ」


「……一応言っておくけど俺には要らないからな?」

「ルド兄貴も連行するに決まってるだろ。マクローエン家全員集合のパーティーバトルにすっからな」


「……嫌な弟だぜ」


 今の本気っぽかったんで容赦なく開催するからな。腕を磨いて待ってろよ。半端な腕だとマジで死ぬからな。


 やがて陸地が見えてきた。地図情報から見てバートランド公爵領だろう。昼前ってんで賑わっている港町が……

 あ、パニックになってる。遠くからも見える大きなシャチがご登場だ。そりゃ避難するわ。


「ハザクくんはここで旋回してELS海軍に備えてくれ。俺達で港町と交渉する!」


 ハザクくんの背中から飛び立ったグリフォン騎兵と一緒に港町に向かう。イースとバートランドの軍旗を掲げているからまず大丈夫だろ。


 親父殿頼むぜ。息子は旗をぶんぶん振ってるからよ。


「バートランド公アルヴィンの軍使ファウル・マクローエンだ。頼むから誤射はせんでくれよ!」


 親父殿と揃って港町に降り立ち、駆け寄ってくる軍のエライ人と話をする。


「ELS海軍の動きは掴んでいるか? 奴らの狙いは船だ。遠征軍の孤立を防ぐために救援を率いてきた」

「はい、閣下。ELSの蛮行とおおよその位置ならば把握できております。こうして防備を固めて迎え撃つつもりでおりました」


 エライ人がこう答え、頼もしい顔つきで微笑む。


「ですが閣下の部隊があればもう少しマシな対策も取れます」

「よい答えだ。では軍令所に案内してくれ。息子たちも来なさい。サトラー殿には部隊の取りまとめをお願いしたい」


 イースのおえらいさんが俺を見つめてくるので頷いておく。これはあれだ、こいつはこう言ってるけどお前はどう思ってんだオオン?って奴だ。サトラーさんとはローゼンパームからの付き合いだけど仲良しではないからね。


「では航空騎兵の統率を引き続き行うとしよう。リリウス殿、ELS海軍の詳しい位置情報の提供をお願いする」

「現在の位置がここより東方に120キロ。まぁ嫌な位置ですね」

「ですな。航空騎兵なら四半時で来る、そして彼らの航空騎兵が我らよりも練度が低いとは考えない方がいい」


 ELSを侮るのは正直馬鹿がすぎる。実際こうして裏を掻かれているのに戦力を低く見積もるなんてフラグだろ。


 ハザクくんにもう一度命令を出してから軍令部に向かう。メンバーはもちろんマクローエン家ご一行だ。……この途中で馬鹿を見つけた。


 兵隊のごった返している埠頭で大荷物を背負ったまま、ハザクくんを見上げている馬鹿だ。ウェルキンだ。


「ウェルキンなんで?」

「リリウス! ようやく会えたぜ、ナシェカちゃんもここにいるのか!?」


 第一声からナシェカちゃんときやがった。触れた瞬間に壊れそうな脆い友情も相変わらずだな。


「すまん」

 っていうとウェルキンががっくり項垂れる。


「いまちょっと別行動中で」

 っていうと途端にしゃっきりするウェルキン。お前のこの分かり易さだけは愛おしいよ。馬鹿すぎて。


「じゃあ後で会えるんだな!?」

「セッティングはしてやるよ。じゃあ俺はこれから用事があるんで」

「俺もついていく!」


 マクローエン家ご一行にプラス馬鹿ワンが足されてしまった。これ以上の馬鹿枠は要らないんだがな。


 俺=勉強のできる馬鹿。親父殿=勉強のできない馬鹿。ラキウス兄貴=空気を読まない馬鹿。アーチー=ただの馬鹿。ルア=反抗期の馬鹿。ルド兄貴=意外にも秀才。ここにプラスワンされた偉大なるイエスマンのウェルキンか。要らねえなあ……


「リリ兄、その人はどなたですの?」

「学院同期の馬鹿」

「ふぅん、格好いい方なのに馬鹿なんだ」


 ルアよ怖いことを言うなよ。いつの間にかお前とウェルキンができていたなんて兄ちゃん嫌だぞ。


 軍令部に到着して親父殿と兄貴たちが公軍の軍人さんたちとあーだこーだ会議している場にもウェルキンがいる。腕を組んでどっしり構えている。どうせ何も聞いてないんだろうな……


 お前どうしてついてきたの?って聞いてやってもいいんだが、答える前からわかってるから何の意味もねえんだよなあ……

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