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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
学院入学編(入学できるとは言ってない)
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フラメイオンに迫る危機

 とある日の晩。フラメイオン卿は派閥の者を集めて会議を開いた。

 リリウス・マクローエン対策会議である。まずは奴の本性を知らねばなるまいと部下に調査を命じていたのだ。


 部下の一人は冒険者あがりの騎士候だ。元はB級冒険者でフラメイオンの目に留まりスカウトされた男で、そいつが会議の開始と同時に立ち上がる。


「リリウス・マクローエンの活動領域は近年はサン・イルスローゼということもあり時間的な問題から実地での調査活動は難しいと判断しました」


 前置きはこんな感じだ。前置きの後は本題だ。


「冒険者ギルドの知人を通じて奴の資料を入手しました。まずは写しをご覧いただきたい」


 彼は有能な男だ。手に入れた資料を書き写させて参加者の人数分を用意している。こういう有能な人材をスカウトできたことはフラメイオンの喜びでもある。


「資料にもあるとおりリリウス・マクローエンが冒険者として活動を始めたのはウェンドール803年の後半です。冒険者ギルド本部に現れた奴は当初から実力を示しました」


 資料にはリリウス・マクローエンの詳細な戦歴が記載されている。

 数日に一度の頻度で冒険者ギルドに現れては同じ冒険者を狩り金品をカツアゲ。主にD~Cランクの木っ端冒険者が対象であったが二つ名持ちのAランカーも相当数吊るしたそうだ。

 世界最高難度の迷宮『王都地下迷宮』の10層を単独攻略。この難度は数を揃えればさほど高くないと言われているが新人冒険者の登竜門と呼ばれるだけの厳しい戦いになる。事にソロで攻略というのはAランカー級の実力者でも厳しいようだ。


 そしてその翌日くらいには20層をコンビで攻略。20層の攻略難度は成立後数十年という迷宮の完全攻略と同等の難度にあたる。

 五大国会議では黄金騎士団と敵対してルーデット派を援護。派の勝利に大きく貢献する。未確認ながらフェスタの総艦長ライアード・バーネットを打倒したともある。


 彗星のごとく現れたリリウス・マクローエンはウェンドール804年の年明けに旅に出る。旅の目的の部分でフラメイオン卿が噴き出す!


「ウェルゲート海一周俺より強い奴に会いに行く旅だと。いったいどれだけ調子に乗ればそこまでの思い上がりを……」

「当時の彼はまだ13歳の誕生日を迎える前の少年でした」

「幼さゆえの無謀さというわけか」


 ウェルゲート海は人類史と共に発展と血みどろの闘争を積み重ねてきた戦士の聖域。彼の大英雄レグルス・イースもウェルゲート海で名乗りをあげて英雄の座へと駆け上がった。ドルジアの男児たるもの一度はウェルゲート海に夢を見るのだ。


 リリウスの行いは無謀そのもの。だが無謀を跳ねのけて躍進する。フェニキアではフェニキア王家を敵に回して王宮の占拠。アシェラ神殿に乗り込んで女神アシェラを捕縛。もう何が書かれているのが理解したくない。しかもフェニキア女王アシェルとの間には子供までいるらしい。王宮を制圧した理由はそれかと言いたくなるような記述だ。

 一介の冒険者ごときが小国とはいえ国家に喧嘩を売って王族を孕ませる。もう同じ人類とは思えない暴挙だ。娯楽小説でもそこまでやってる奴は見た事がない。


 砂のジベールでは砂の名将イルドシャーン王子を襲撃。近衛を何人も殺害して堂々と逃亡。なお迷宮も破壊している。なぜそんなことをしたのか理解できない。

 フェスタではライアード・バーネット率いるクーデター軍に参加。イルスローゼ・ベイグラントが結成した侵略軍に交じって戦争に介入するも敗北。敗北した両軍と共にイルスローゼに帰還する。……資料を読んでいるみなさんの顔にようやく安堵が表れる。ようやく負けてくれたかという安堵だ。

 無敵の快進撃を続ける怨敵にややビビリ始めていたところなのだ。


「何が書いてあるのか理解に苦しむな。そもそも鑑定の女神アシェラは実在するのか?」

「資料の信憑性が疑われる記述であったことは確かですが神々の実在性はこの際どうでもいいのでは? 気になるのは確かですが……」

「これが半年の間の出来事なのか。こいつらは地獄の使者か何かなのか」


 サン・イルスローゼに帰国したリリウス・マクローエンは一段も二段もパワーアップしたパワーで海外の工作員を吊るし始める。ロキ神を崇める大罪教徒の第二位ガラテア・グローゼアルと戦ったという記述は驚く他にない。

 帝国騎士団は長きにわたり大罪教徒と戦ってきた。まさか怨敵リリウスも奴らと戦っているとは思わなかった。迷宮の人為的暴走というのも興味がある。太陽の王子シュテルから腕前を買われて懇意になるともある。


「黄金騎士団とは交戦状態にあったはずでは……」

「私怨を呑んででも付き合う価値があると考えたのだろう。確かにこの実力なら我らも欲しい…っと、失言でした」


 そう漏らした騎士が周囲の冷たい視線を感じて訂正する。

 祈りの都に潜伏する大罪教徒との交戦。並びに黒の賢者ゾルタンが大罪教徒だと判明し、彼の組織の息のかかった人物の芋づる式の検挙に貢献した。

 アルテナ神と拝謁したのみならず女神を連れて観光案内に出かける。もう本当に理解に苦しむ。故人のはずの剣聖マルディークとの一戦。フェスタの空中戦艦の撃破。竜の谷の攻略をしたりとワケのわからない記述ばかりが続くと思えば太陽に巣食う大悪魔ディアンマの討伐だ。

 太陽の王位継承戦の最中だというのに太陽の中核戦力が集結。ベイグラントからはラスト王女率いる赤薔薇騎士団が参加。イース海運からもレグルス・イースが参加。アシェラ神殿も全面協力している。

 驚くべきはこれら勢力が一堂に会したのはリリウス・マクローエンの呼びかけがあればこそだという。


 大悪魔を倒して太陽の英雄伯になったリリウス・マクローエンはフェスタを襲う砂の魔の手を退けてクライスラー選帝公家の第一継承者であるラクスレーベ姫を娶る。これはフェスタ皇帝ライアード承認の正式なものだ。

 ローゼンパームを襲った偽証精霊に敗北するも殺人教団ガレリアの教祖には勝利を収める。彼の興したLM商会は今や中央文明圏の各地に支店を持つ大商会で各国での特権を有する。曰く金さえ払えば神々の妙薬でさえも買えるとか。

 そんな彼は古代に予言された約束の救世主であり数多の神々と友諠を結ぶ大英雄。その活動は人界の救済のためにあるらしい。……ちょっと理解に苦しむな。


 フラメイオン卿が懊悩するみたいに天井を仰ぐ。

 資料を読めば読むほど彼という男が理解できない。虚構の英雄譚じみたこの物語がもし本当なら彼はフラメイオンなど足元にも及ばないほどの大人物だ。この世に二人といない大英雄だ。世界を救う救世主だ。なんでそんな奴がお弁当もって訓練しに来るんだ?


 資料を手に騎士が言う。


「次のページをご覧ください。こちらはリリウス・マクローエンの性格面についての記述です」


 ページをめくる。そこにはさらなる混沌が書かれていた。

 みんな資料を読んだうえで愕然としている。文字が読めない奴なんてこの場にいるわけではないが使命感から騎士が読み上げる。


「その…リリウス・マクローエンには男性の尻に異物突っ込む不可解な性癖がありまして……そのぅ」


 騎士がものすごく言いにくそうに言葉を濁している。フラメイオン卿的にはさっさと言えと言いたいがやっぱり少し待てとも思っている。


「リリウス・マクローエンにはバイセクシャルではないかという疑いもあり、そのぅ、彼はフラメイオン卿にぞっこんなのではと……」

「……」

「……」

「……」


 みんな黙り込んじゃった。

 みんな黙ったまま当事者であるフラメイオン卿を見つめている。気の毒そうに見つめている。


「ね…狙いは私か……」


 フラメイオン卿は自らの尻穴がキュッと締まるのを感じた。

 ようやく見えてきたリリウス・マクローエンの狙いはこの体だったのだ。

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