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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
帝都決戦編 レミングの進軍
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アーザードの亡霊旅団③ 救世の御手

 デス教徒対策マニュアル。

 其の一、奴らは基本的に暗くてじめじめした環境が好きだぞ。夜天は当然として昼間でも普段は人の立ち寄らない墓所とか遺跡も大好きだから要注意だ。奴らには暗所でしか活用できない特殊魔法があるからな。


 其の二、アンデッドが垂れ流すデスの下位魔法は主に生者の精神に干渉するものだから護符は必須だ。露店で売ってる安いのでも効果はあるし聖句を唱えても効果がある。恐怖の状態異常はアンデッドというよりも被対象者である俺達が自発的に心を鎮める方が大切なんだ。プラシーボ効果っつってもマリアにはわかんねえだろうな。


 其の三、アンデッドには聖銀が有効だ。盾だって効果がバツグンだ。霊体ならバッシュで潰せるので聖銀装備さえ持っていればかなり有利に戦えるゾ!


「ここまでがデスきょ対策の基本な。ここから応用編というか超高位アンデッドの話になる」


 デス神の寵愛を受けたマジモンの超高位アンデッド、それも司祭級になると下位アンデッドと比較にならない。特殊な系統魔法を使いこなすしタフネスも精霊級になる。実際に人の身を捨てて疑似精霊になってるって考えてもいいくらいだ。

 高位アンデッドは配下をぞろぞろ引き連れている。その理由は配下を肉の壁として使うってのと、配下を魔力の外部タンクとして運用できるからだ。


 こいつらまで至ると意思がある。しかし生者と比べたら短絡的だ。理性が足りないんだ。挑発にも簡単に乗るし会話は通じないし、なんていうかもう本当にヒトじゃないモンスターに成り下がっているんだ。


「じゃあここからが弱点の話だ。そもそも霊体が何かって話をすると空気中に漂う魔素に擬態したものなんだよ。つまりだ、霊体は可燃性なんで燃えやすいんだよね」


 おっとマリアくんから質問があるようだ。


「はい、リリウス先生」

「なんだねマリアくん」

「それだけですか?」


 それは何かね。先生の講義って底が浅いですね的な批判かね?

 マリアくん、先生は悲しいよ。


「それだけっていうか必要な情報はこれだけだぞ」

「ぐだぐだと無意味な長話をされるよりはマシだ」


 ラグナ・イースが助け船ならぬ口撃を放ってきた。先生は君のことが好きになれそうもないよ。

 よろしい、リリウス先生のデスきょ対策講座はここまでだ。


「では前置きはここまでだ。俺とナシェカが乗り込んでアーザードを倒しておしまい大作戦について説明しよう」

「うわぁ、作戦の内容がもう全部わかっちゃったよ……」


「まず俺とナシェカが突入する。そして倒す。君達の役割はだね」

「あたしたちにも役割あるんだ」

「傷つき疲れて帰ってきた俺らが労う報酬を用意する役割だ」

「かねづるじゃん!」

「そうだよ?」


「いやいや待て待て! 報酬面は帝国騎士団と話が着いていたはずだろ!」


 ラムゼイから鋭いつっこみ。お前その面と体格でつっこみ役なのかよ。違和感しかねーわ。


「慰労金のようなものがあってもいい、そうは思わないか?」

「俺も坊主の要求額が桁違いじゃなければそういう気持ちはあるんだがな」

「幾らなら包んでもらえますか……?」

「急に低姿勢だなオイ。マリア、どうする?」


 ラムゼイがマリアに振り。ラグナ・イースも頷いている。基本的に大きな決断はマリアに任せ、変な部分があれば指摘するような教育方針であるらしい。

 マクローエン家の教育に比べればだいぶまともだな。いや知らんが。


「じゃあ手料理を作ってあげる」

「よっしゃ、じゃあやるか!」

「いいのかよ!」

「貴様もわからん男だな……」


 ふっ、俺は追加報酬に限っては欲張らない男なのさ。

 どんな物でも喜ぶ。すると次回からも美味しい思いができるってもんだ。こっちも奢ってもらえて嬉しい。あっちも喜ぶ顔が見れて嬉しい。これがウィンウィンな関係性ってものだ。


「だから一個だけお願いしてもいい?」

「手料理の分だけ条件追加ってわけだ。マリアも手強くなってきたな」

「えへへへ!」


 神速の前言撤回である。

 こんなことで喜ぶなよ。相変わらずチョロい子だなー。


「あたしも連れていって」


「怖かったんじゃないのか?」

「怖いよ。でもみんな戦ってるのにあたしだけここで待ってるなんて無理!」


 勇敢だな。だがその勇敢さは俺やナシェカという存在あってのものだ。そこが少し不安だ。

 いざという時に頼りになる兄貴分と姉貴分として振る舞いすぎたせいか? まいったな。


 本編である春のマリアが絆の物語だとすれば追加エピソードは孤高の物語だ。マリア・イースという少女の内面を掘り下げ、ただ一人で真実を向き合うシナリオだ。

 築き上げた友情も愛情も本当に大切な人でさえも斬り倒して突き進む孤高の王道だ。まぁなんだ、エピソード・オブ・ブルーピリオドはBAD寄りのビターエンドなんだよ。


 マリアが覚悟を告げ、ラグナ・イースが頷く。


「ここで高みの見物といける御方であれば苦労はなかったのだがな。マリア様が往くのであれば私も往かねばならぬ」

「あんたは何だかんだ言いながら付き合いがいいよな。娘が行くって言ってんだ、俺もいくぜ」


 男二人がそう言い、嬉しそうに破顔するマリアを見る俺の気持ちよ。


 いやね、先を知っている身からするとね。やむにやまれぬ事情があるとはいえどうせ後で倒す連中なんだよなとか見れなくてね……

 いやね、わざとらしい咳払いとかしちゃうよ。気づいてほしい的な意味もかねてね。


「んんぅ! ん!」

「やばい超面白い。後々どういうぶっ壊れ方をするかを知ってる人間関係って本当に面白い……」


 含み笑いをする俺ら二人を見つめる三人の目つきが本当に面白いのである。



◆◆◆◆◆◆



 戦場はひどいことになっている。


 アーザードの召喚した汚泥と雨のフィールドで無限に湧き続けるアンデッドと戦うアシェンダリア侯国軍はすでに瓦解し、残すは本陣だけという有り様だ。

 本陣も長くは保たない。干渉結界を維持できずに汚泥のフィールドの呑まれたせいで落城寸前の城のような騒ぎになっている。……そういう意味でいえば帝国騎士団の強さは別格なんだろうな。多少の負傷者はいても落ちる気配さえない。


 戦場の最も外側から戦うイースの軍勢も見事なものだ。汚泥のフィールドを少しずつ解除して自陣をゆっくりと進めている。堅実な戦術といえる。なんでこの状況でマリアと大ボスが遭遇したんだ? まさか汚泥のフィールドに突入したんか?


「なあマリア、もしかしてここに突入して大将首を獲りにいったの?」

「だってラグナがやれっていうから……」


 すべての責任を鳳さんに押し付けようとした隊長かな?

 まぁ実際「やれ」からの「はい……」だったんだろうな。「はい!」かもしれない。マリアには突撃ですべてを終わらせる戦法以外知らないイメージがある。


 まぁ彼女の教育のためにも正直な意見を言っておこう。


「ばかでえ」

「あうー……」


 マリアが撃沈する。すぐにナシェカに泣きつくあたり完全にお姉ちゃんと認識しているな。


「じゃあ作戦を始めよう。まっすぐ行って殴る大作戦だ」

「ばか二号! ここにばか二号がいる!」


「うるせえ。彼我の戦力差を考えての最適な作戦だ」

「あんだけ対策をしゃべっておいて!?」

「あれは対策の必要な低実力者向けの講義だから。俺ほどの実力者になると片手でチョチョイだから」


 ってのは不親切なんだろうな。

 俺はデスの軍勢と相性がいいぜ。奴らの使う汎用チャンネルにするっと割り込みをかけて固有神域のフィールド内で魔法行使権限を確保できる程度にはな。


 殺害の王と冥府の王の魔法力はともに同じオルタナティブ・フィアー。五木ひろしとコロッケくらいの同一性を有しているからだ。


「デスの軍勢が強い理由は汚泥のフィールド内では原初の暗闇のちからが強まり、他のちからが弱まるせいだ。つまりは俺にとっても相性のいいフィールドってことだ」


「あ、そういえば杖を作りにいった時に!」

「デス教徒と間違われたよな。あれ、じつは怒ってみせたけど間違いではないんだよ」


 降雨の沼地と化した戦場に突入する。


「ついてこい! まずは全滅しかけているアシェンダリア侯国軍の本陣にイクゾー!」

「まっすぐ行って殴るんじゃなかったの!?」

「まあまあマリア。うちの旦那さんは発言ほど考えなしじゃないから」


 俺の発言は常に思慮に溢れているだろうが。

 先々のことを考えたらアシェンダリア侯国のお偉いさんを確保しておくのは有益だ。どう転ぶにせよ交渉用のパイプがあって困るもんじゃない。


 強そうな元自軍アンデッドに群がられている本陣に突入する。時速36000を超える俺の速度について来られない奴らは置いてきた。俺もさすがにこの速度は三歩で限界だ。一歩目ジャンプ、二歩目で加速。散歩目はあらゆるものすべてをなぎ倒しての急停止さ。

 ボーリングの球のように乱入してきた俺におっさんの戸惑いの声がかかる。


「なんだあ! 人間なら人間らしい登場をしろぉ!」

「アンデッドに群がられている時にしか出てこないリアルな発言だな」

「脳腐れでは出てこない鳴き声だな。茶を出してやりたいところだが生憎いまは忙しい、用件はなんだ、助力以外は聞いてやれんぞ」


 全滅しかけているこの修羅場で発言はまとも。頭の回転している。これは相当に修羅場を潜ってきた軍人さんだな。鎧からして高そうだし。


「侯国とのパイプ役が欲しい。限定一名様になるが帝国軍本隊まで避難させてやる」

「ふんっ、残念だがそいつは聞いてやれる話だ。ランツベール卿、まだ生きているな!」


 おっさん軍人が振り返り、数名だけいる負傷兵の中から片膝をついたまま死者鎮魂の祝詞を唱えている若者がおっさん軍人を見上げる。


「こいつを連れていけ。遠縁だが候王家の者だ」

「ディグラス様! わたしめに生き恥を晒せとおっしゃいますか!」

「遺憾ながら貴官には生き恥を晒してもらう。生き延びてドルジアとの交渉役を見事務めてみせよ」


 長くなりそうな気がするのでさっさとランツベール卿を確保する。鎧の襟首を掴んで確保成功。

 ついでにまぁ本陣を襲っているアンデッドは全部概念斬撃で破壊しておく。


「あちらが手薄だ。一目散に走れば生きる目もあるだろ」

「何者かは知らぬが感謝する。すべてが終わった後は侯都に来い、茶くらいは出してやる」


 もうほんの十数名になってしまった侯国軍が戦場から抜け出すために走り出した。助かる確率は低いのだろうがそれはもう仕方のないことだ。

 その背を見守るまだ年若い少年軍人くんが呟く。


「みなは助かるであろうか?」

「運命のダーナのサイコロ次第になるが、俺とお前くらいは信じてやってもいいんじゃないか?」

「そうだな。世はすべてダーナの賽の目次第か……」


 少年軍人くんが目を閉じ、様々な葛藤を受け入れるような表情で再び目を開く。

 立派な若者だ。いや俺よりは年上なんだろうけど童顔だからね。


「捕虜の身を受け入れる、さあ連れていくがよい」

「ではお連れしよう」


 アンデッドと交戦しながらのそのそとこっちに向かってきているマリア班にジョギングで合流する。俺の速さは通常の人体では耐えられない。だから帰りは低速モードだ。


「はやぁ……」

「よお雑魚ども遅かったな。わるいが一旦後退だ、こちらのランツベール卿をお送りするぞ」


 こんな状況だからこそ自己紹介くらいはさせておく。

 まぁジョギングの合間にだ。


「ランツベール卿、こちらはイース海運の姫マリア様です」

「貴殿はついさっきイースの姫を雑魚ども呼ばわりしたというのか」


 それは忘れてくれと肩をすくめてみせる。誰も得をしない事実だからね。


「ランツベール卿は……」

「よい。お初にお目にかかる、ダリウス・ルーラ・ランツベールと申す。侯国においては子爵位、従騎士を拝命している」


 ここでラグナが補足する。


「ルーラは侯爵家の分家を意味する家格名です」

「では貴方はアシェンダリア侯爵家の?」

「それほどの者ではありませんが。侯国のため身命を賭して交渉に臨む所存であります」


 こんな場にあっても貴公子っぽい空気が出ているのでマリアが戸惑っている。この子は本当にイケメンに弱いな。もうイケメンは見飽きたぜとか言ってたくせに。


「えっと……頑張ってください?」

「ありがとう。何故だか貴女の言葉は素直に受け取れる」


 何だかしゃっきりしてきたランツベール卿が今度はこっちを向く。


「まだ貴殿の名を聞いていないのだがな」

「リリウス・マクローエン。LM商会の会長で今回は傭兵として参加している。……どういう顔だよそれは」


「貴殿のごとき男が我が国にもいればここまでの事態にはならなかったのだろうか、そう思っただけだ」

「そいつはまだ遅くないぜ」

「そうなのか?」

「俺は傭兵だ。金さえ出すならアシェンについてもいい」

「リリウス!?」


 マリアが驚いているがそんなに驚くようなことか?

 金を出し惜しむイースと帝国騎士団なら金払いのいい方に付くのが商人的な行動じゃないか。


「俺を敵に回したくないのなら金を出しな。好条件の方にやとわれてやる」

「こんなこと言ってるけど! ナシェカ!?」

「いやあ、うちの会長さんの発言は絶対なんで」


 またマリアの悲鳴が挙がる。まるでコントだな。こんな状況でも呑気なもんだ。まぁマリアからすれば救世主が敵に回るという難易度『死ぬがよい』への分岐点なんだが。

 ランツベール卿が快活に笑い出す。こんな状況なのに希望を見いだしたか。LM商会を雇う、いい判断です。


「それはよいことを聞いた。何としても生き延びて侯国存続の目を掴まねばな」


 戦場からの脱出は難しくない。こっちは猛者揃いな上にラグナ・イースが恐ろしく強い。オーラの使い方が達人級で、魔法力も太陽の王家クラスはある。フェイとやってもいい線いく。さすがにフェイに勝てるとは思わんが……

 どうだろうな。わかんね。こういうのは本当に戦ってみるまでわからない。つまりラグナ・イースってのはそういう領域にいる男だ。


 ランツベール卿はウェーバーさんに直接送り届けた。こういう時に頼るべきはウェーバーさんだ。判断力においては帝国騎士団において最も信頼できる人物だからだ。


 ランツベール卿は別れ際になってこんなことを尋ねてきた。


「本当にあの怪物どもに勝てるのか?」

「楽勝」


 言うほど楽な相手ではないが親指立ててこう言ってやるのも救世主の仕事だ。

 争いを無くすために戦う救世主さんに戦争をさせるなんて人間ってのは罪深いもんだ。だがデス教徒との戦いは俺の本来の仕事だ。



◆◆◆◆◆◆



「薙ぎ払え!」


 俺の命令で発射されたレーザーブラスターがデスの軍勢を焼き払う。

 先に高屈折率を誇る水晶体を発射して、そいつにレーザー光線をぶち込んで拡散させるという最初に思いついた天才的な馬鹿の頭を疑うような超兵器が高熱に弱いアンデッドを焼き尽くしていく。


 いや本当にこの兵器は何を想定しているの? デスの軍勢が一撃でほとんど吹き飛んだじゃんよ。この兵器からはデス神の信徒を絶対に殺すという強い意志が伝わってくるぜ。


「どうした、それでもこの世で最も邪悪な一族の末裔か! まるでゴミのようだぞ、ガハハ!」

「突撃! 野郎ども、ナシェカちゃんの後ろについてきな!」


 ナシェカが切り開いた道を突き進む。横からすごい速さで斬り込んできた高レベルアンデッドはマリアとラムゼイが一刀で斬り伏せている。剣士は一対一だと強いからな。


 ラムゼイが唸っている。どうやらお眼鏡に適ったようだ。


「ううむ、強すぎる。60万枚で雇えと豪語するだけはあるな」

「この戦場で死ぬ予定の命を拾える金額だと思えば安いもんだろ」

「安くはない!」


 だがラグナはそうは考えなかったようだ。


「安くはない。だが次回からは真面目に交渉してやってもいい」

「まるで初対面のような口を利くんだな?」

「まるで初対面ではないふうな言い草だな? 分を弁えろよ小僧、雇ってやるつもりも失せる」


 お偉いイース様らしい口振りだ。

 まぁ雑談している場合ではない。そろそろ大ボスのご登場だ。


 旅団内でも特に強力な英雄級アンデッドで周囲を固めた旅団長さまが待ち構えている。……腐れ脳が。


「羽虫がッ、俺の敵になれるつもりか! てめえごときが俺に勝てるつもりか!」


 生者を弄び続けたイカレの亡者め。俺の前に出てきたのが運の尽きだ。


「≪星の光の清浄なるかな 月の光の尊きかな 導きの星はいずこに在るか!≫」


 耳に付けたイヤリングが祝詞に呼応して光を放つ。

 今はまだ小さな七つの光。祝詞に応じて強く強くなっていく光が眩しい!


「≪さあ天を仰ぐがよい 導きの星は我らが頭上にあるぞ 七星の輝きは汝が罪をけして見逃さぬ! 終焉の時がきた、悪しき冥府の王の傀儡め、汝が悪しき生を裁く時だ!≫」


 なぜアルテナがこの世界において最大の信仰を集めるのか。

 どうして最高神に等しいデスの世が訪れずに人が未だ世界の頂点に立つのかその腐れ脳に教えてやる。


「≪聖光・七つ星明かり≫」


 天から降り注ぐ七つの星明かりがデスの大司祭を叩き伏せる。まるで光のハンマーだ。それと最初に七つの星明かりなんて言ったと思うがアルテナ神はケチじゃねえ。特に大嫌いなデスのためなら乱れ打ちをしてくれる。


「我が名はリリウス・マクローエン。この地上において唯一アルテナ神の意思を代行する者なり。冥府に帰っててめえのクソッタレな主人に伝えろ、我が友ティト・プロメテアを取り戻しにいく日まで首を洗って待ってろってな!」


 星の光を我が手に集約する。とっておきをくれてやる。

 星の光を束ねて剣を為す。超特大の、それこそ大地だって斬れそうな祈りの大剣だ。


「聖光・星明かりの剣」


 真っ黒こげの焼死体であるデスの大司祭アーザードが切っ先に触れた瞬間に弾け飛ぶ。当然の威力だ。遥かな大昔にアルテナがデス神の本体を消し飛ばした光だからな。


 じゃあ最後だ。


「不浄の暗雲よ、消え去れ、セイクリッド・ピュリフィケーション!」


 暗雲に覆われた不吉な空が晴天に晴れ渡り、不浄の魔力に冒された沼地が浄化されていく。


 デスの魔法力に汚染されていた死者どもの魂が俺の下へと集まり、救済をもとめるように見つめてくる。

 それがどのような想いによるものかはわかる。だが願いには応じられない。


「すまないが失われた命は返してやれない。返してはならないんだ。それがお前達にとってどれほど喜ばしいことであっても星の摂理を曲げてはならない。すまない、お前達はこのまま星へと還す」


 死者の魂をこの身に招き入れる。

 光になって俺の身に入っていく魂たちの姿に悲しみでも抱いたのか、マリアが寄ってきた。


「た…食べてるの?」

「食べてない。こいつらは憎しみを殺害の王に置いて神の座を通って大いなる川へと還る。またいずれかの形で生まれ直すための魂の傷を癒す旅に出るんだ。デスが死者を冒涜する神なら、対の俺は死者を次の生へと導く神なんだ」


 共に死を司る神は死の二つの面を司る。

 生の先に不浄の生を与えるデス。殺し、その次の生へと導くアルザイン。まるでアルテナとティトだな。病魔をもたらすと同時に癒して生を長引かせるアルテナと闘争を是としながらも繁殖をよしとするティト。

 神は常に二つの顔を持つ。英知を司りながらも不要な知識を消してきたアシェラのようにな。


「さあ眠れ、もう迷わなくていいんだ」


 死者に安らぎを与えるもの。それが殺害の王のもう一つの顔。

 何だろうね。そこだけ聞けば確かに救世主っぽいんだよな。クロノスに選ばれた理由も案外その辺りなんだろうか?

時の大神「ハーバーボッシュ法」

時の大神「フュージョンブラスト」

時の大神「あれだけの利点を持ちながらどうして異世界原理魔法『物理』でいこうと思ったのか……」

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