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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
いかさまカジノ激闘編
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神器を手に入れろ!①

 一日の終わろうとする夜にマリアは悩んでいた。愛剣ラムゼイブレードの手入れをしながら悩んでいた。何に悩んでるんだ?ってなると愛剣の威力に不満があるのだ。


 ラムゼイブレードは剣じゃない。剣の形をした頑丈な鈍器だ。素材自体はけっこうな物が使われているため頑丈なのだがそれだけだ。

 冒険者支援プログラムで高品質な剣の味を覚えた結果、剣というには不満しかない鈍器に不満ばかり感じてしまうのだ。簡単に言うと新しい武器が欲しい。


 手入れ油を染み込ませた布で愛剣を磨きながら想うのは新しい可愛い子ちゃんの御姿だ。


 ちょうどその時、夜遊びからナシェカが帰ってきた。ナシェカは悪い子なので男子を弄んで遊ぶ大変不届きなご令嬢様だ。いつも夜遅くまで遊んでる。おかげで同室のマリアは大変だ。気苦労で大変だ。

 ナシェカは帰ってくるなり頬ずりしてきた。


「おっすマリア、お前は今日も可愛いなあ~~」

「酔って帰ってきたお父ちゃんか」

「なんだその例え」


 アイアンハート家の日常風景です。


「まぁいいや、これお土産ね、いいとこのケーキね」


 今夜はどうやら良いレストランを奢らせたようだ。男に貢がせた金額をこっそり手帳に記すくらい悪い子なのだ。

 とはいえケーキのお土産は嬉しいのでフォークと皿を用意してやる。


 ケーキを食いながらナシェカの武勇伝を聞いてやる。どうやら本日はイーグレット伯爵家のご子息様を誑かしたらしい。


「悪い青春だー、ふしだらすぎでしょ」

「ふしだらなことはしないよー。するとね、価値が下がるの」

「価値とな?」


 恋愛の話をしてたのに価値とか言われても困るマリアなのである。

 ナシェカの自慢げな顔つきの腹立たしさは完璧だ。相手の前で盾をガンガン叩いてアピールするヘイトリアクション並みに腹が立つ。もはや戦技のレベルだ。


「そう価値だね。男は手に入れると満足するの、一発ヤっちゃうと余裕ができちゃうの。だから満足もさせないし余裕も持たせない。これが貢がせるコツだね」

「悪い女だー」


 本日の戦果である宝石のネックレスを指に掛けて回しているナシェカはたぶん数日以内にこれを売り払っているにちがいない。

 ケーキを食べ終えて愛剣をもう一度引き抜き、うーんとうなる。手入れはもう終えたので鞘に納めると……


「お、そろそろ買い替えるのかい?」

「よくわかったね」

「他の女に目移りしている時の男の顔に似てたからね」


 ナシェカの怖いところはこういう観察眼だと思う。

 普段はふざけてばかりいるのに周りをよく見ている。たまに出てくる指摘が恐ろしいほどそいつの性根を言い当てている。普段なら感心しているだけだが、矛先が自分に来るとそこまで呑気ではいられない。

 つまりいじられてるのがリジーやエリンなら素直に笑ってられるだけだ。


「まだ使えるからもったいないとは思うんだけど新しい子が欲しいなーって」

「逆に今までよく使ってこれたよね。それで迷宮潜ってたとか自殺行為でしょ」

「かもね」


 そこは認める。技も大事だけど武器も大事だ。

 冒険者支援プログラムの武器を使って初めて理解できた。技は二割で武具が八割。そのくらいの比率で重要だ。

 新しい武器が欲しい。不滅のスラーンドなんて贅沢は言わなくても強い武器が欲しい。


「ナシェカの武器は幾らくらいするの?」

「これ? 貰いものだからわかんないけど大したもんじゃないよ」


 ナシェカが腰の細剣を叩く。でもそっちじゃない。ナシェカは本気を出す時はそっちじゃなくて不思議な形状をしたナイフを使う。


「こっちか。こっちは古巣からの支給品でねー」

「古巣?」

「おっとナシェカちゃんの過去バナは有料でして」

「じゃあいいや」

「マリアぁああ! もっと興味もてよ!」

「どっちなんだよ!」


 この日はこんな感じでギャーギャー騒いで終わった。


 翌朝は安息日。学院は休みだ。女子寮の食堂で朝ごはんをいつもの面子で食べていると……


「リジー今日はどうすんの?」

「姉ちゃんがこっちまで来てるから会いにいくぞ」

「エリンは?」

「図書館」


 みんな納得の答えである。見た目だけは白衣の似合いそうな知的なエリンがじつはお馬鹿ちゃんだと発覚するのは中間テストの後になる。


「マリアは?」

「武器屋巡り」

「じゃあマリアについてくか」


 こうして帝都の武器屋巡りが始まる。

 激動へいわな一日が始まろうとしている。



◇◇◇◇◇◇



 武器は安い買い物ではない。いわゆる最低ランクの品でも銀貨15枚はする。


 人を害するがゆえに魔物と呼ばれる生き物を殺せる物。それが武器だ。つまり鉈とか短刀は物の内に入ってない。あれらは生活用品だ。何なら子供だって一本は持たされている。そういった鉈や短刀は手捏ね銅で作られた安物だ。

 鉄だ。鉄こそが武器なのだ。鍛鉄スチールこそが魔物を打倒し得る最低ランクの武器なのだ。


「というわけで本日は帝都の武器屋に来てみましたー、はい拍手」

「拍手はちがくね?」


 ってつっこんだマリアがとりあえず拍手する。司会進行ならぬ仕切り屋のナシェカがマイクを武器屋の店主に向ける。そこそこ年のいった厳めしいマッチョだ。額にねじりはちまきを巻いて腕を組む店主は変なお嬢ちゃんたちが来たなあって思っているのである。


「お名前は?」

「ディーンズだ。つーか店の名前見りゃわかんだろ」


 ちなみに軒先にはディーンズ・ソードメイカーって看板が釣り下がっているのである。剣を握るマッチョな腕がマークの如何にもな武器屋だ。


「職人歴は?」

「三年だ」

「思ったより短いですね。以前は何をされていたんですか?」

「行商だ」

「なんでまた武器屋に転身を?」


「あー、別に大した理由じゃねえんだがよ。武器っつっても品質が色々あるんだよ。マジモンの名剣もあれば数打ちのしょうもないのもある。そういう物を仕入れてあちこち回ってる内に考え付いたんだよ。このしょうもねえ量産品なら俺にも作れるんじゃねえかってな」

「マジでしょうもない思いつきですね」


「っせーな。でよぉ、自分で作って自分で売ればもっと儲かるんじゃねえかって思って始めた商売だ」


 中々の発言だ。この武器屋に入ったのが間違いまである。


「つまり店頭に並んでいるのはしょうもない数打ちばかり?」

「きちんとした物も作ってるぞ。最近は鍛冶道具も進歩しててな、素人でも理論的にやればそれなりの品は作れるようになってんだ」

「でも鍛冶職人が一人前と認められるのは十年から二十年だと言われてますよね。目利きに三年、鉄打ちに五年、真作に二年って言葉もありますしぃ」

「古い考えだよ。叩きまくったからって強い鉄になるわけじゃねえ。問題は内部構造からどれだけ不純物を取り除けるかなんだよ。うちは豊国製の魔鉱炉を使っているんだが……」


 店主のなが~いお話が始まる。どうやら若い子に自慢したい炉のようだ。

 よその商会が顧客からの要望で仕入れたはいいが売れなかった炉を安値で仕入れて~というどうでもいい苦労話は聞き流す。


「では実際の物を見てみましょう。まずは安い品からお願いします」

「軽く流しやがって。じゃあこの辺りからだな」


 店内のテーブルにはクッションみたいに藁束が敷かれ、その上に何本もの剣が乗っかっている。値段はどれも80ヘックスから110ヘックス帯の安価な品だ。新品の武器ってのは銀貨100枚は覚悟しなければならないのだ。

 マリアがじぃっと見ているが、ぜんぜん気に入ってない感じだ。


「おっちゃんここのは?」

「いわゆる数打ちって呼ばれる量産品だ。型に流し込んで成形したものを売り物になるように仕上げた品で、手が掛からない分安値にしてある。材質はスチールを八割、残りはリンカーと幾つかの軽金属だな。詳しい構成は秘密だ」

「ふぅ~ん」


 マジで興味のない顔だ。


「主な購買層は中堅冒険者ってとこだな」

「中堅とな。じゃあ低ランはどの辺の買ってるんです?」

「あいつらは金がねえからなあ。下取りで買い取った中古品だ、ほれそこの」


 店の隅っこには樽が並んでいて、そこに乱暴に放り込まれた武器が中古品だ。一応店側で手入れはしてあるようだが大抵は傷物だ。


「もちろんあのままで売りはしない。買うってんなら握りなんかの調整はしてやるぞ」

「う~~ん、別にいいや」

「そうしてくれ。俺もあんな物売ってちゃ儲けにならねえんだ」


 中古品販売はあくまで慈善事業の領域なんだそうな。今は高い品の買えない新米冒険者に恩を売るような感覚で出してるだけで、手間賃を考えれば日銭稼ぎでしかない。

 中古品は安い物なら銀貨数枚で購入できるが武器職人が銀貨数枚と値付けした品だ。投擲具としての用途以外は本気で考えられない耐久性しか残っていない。しかしこんなものでもメインウェポンにせざるを得ないのが低ラン冒険者の実情だ。

 Gランク冒険者の死亡率が七割を超える理由は装備面も大きい。そういう話だ。


 色々な武器を見せてもらう。


「冒険者で例えさせてもらうと位階や受注するクエストで装備が変わっていく。位階が上がれば資金力があがり、様々な依頼に対応できるだけの装備を揃えられるようになるわけだ。いわゆる一人前とされるDランくらいになると雑魚用の武器を二本は用意しておいてメインウェポンを持ってるな」


 どんな名剣も使い続ければ切れ味が鈍る。強い魔物の固い肉体に叩きつければ歪みも出る。その武装がどれだけの金額を費やした物であろうが残酷なまでに起きる。それは一回のクエストの間で起きる当然の摩耗だ。戦闘回数の多くなる冒険者ほどサブウェポンの重要性は理解している。

 一回戦争に出かけて金品と共に凱旋する騎士とは考え方が根本から異なるのだ。騎士は倒した敵から武装を剥ぎ取って使えるからだ。ゆえに貴族はあらゆる武器種に精通する。どんな武器でも扱えて初めて一人前の騎士であるのだ。まぁいまは騎士の話はどうでもいい。


 腕のいい冒険者はクエストに合わせて武装を変える。ゴーストなどの霊体系モンスターに対してはリンカー鉱を多めに含んだ武器を用いる。リンカー鉱には微弱だが霊体攻撃能力がある。また悪意ある霊体に触れると一時的にドス黒く変色する性質があるので悪霊との戦闘回避に役立つ。リンカーの守り刀は貴族でも必ず一本は携帯する習慣があるほどだ。


 肉厚な片刃の手斧もサブウェポンの王様と呼ばれるくらい人気がある。頑丈でそこそこの攻撃力があり、投擲具としても優秀だ。にも関わらず女子人気は本気で無い。ダサいのだ。野蛮かもしれない。


「対人戦闘なら細剣だ。刺すという攻撃方法は対人戦において最効率。眼球から脳まで刺し貫くのが必殺なら少し下に心臓があり、さらに下には内臓がある。細剣は対人戦における最適解なんだ」

「メイン武器は自分の得意な武器種の良いやつを持っておけ。+サブウェポンもあると便利だぞっていう話だね。一式まとめて買わせるセールストークだ。さすが元行商人」

「こっちの意図を見抜くまではいいけどしたり顔でバラすんじゃねえよ……」


 色々な武器を見せてもらった。150ヘックス帯の武器。200ヘックス帯の武器。300ヘックス帯の武器……

 マリアは本当に興味のなさそうな顔をしている。どう見ても新しいオモチャを買いに来てるやつの顔じゃないのでナシェカも不審に思ったらしい。


「ここまででいいのあった?」

「全然。ここの子って全然可愛くなーい」


 武器屋のおっちゃんの表情が硬直する。

 まさか客が武器に可愛さを求めてるなんて思いもしなかったんだ。しかしナシェカだけがハッと閃いた顔をしている。何に気づいたんだ何に。


「たしかにここの剣ってあんまり……」

「可愛くないよねー」

「待て、可愛いとか可愛くないとかいったい何の話をしてやがんだ?」


 無言で短刀シターラを抜いてマリアに見せる。Sの字に湾曲する殺人ナイフを見たマリアがふぉおおって言いながら頬ずりする。


「この子可愛いよね。ここの曲線とかサイコー」

「うんうん、ここいいよねー」

「……?」


 武器屋のおっちゃんが黙って殺人ナイフを見つめているがわかってない。さっぱりわかってないって顔してる。でも仕方ない。彼は職人でも戦士でもないただの商人なのだ。ましてや女学生じゃないのだ。


 これは強い武器を探す話ではない。ミーハー女子マリアが可愛い相棒を探す話なのである。

 十五歳の女子が型に鉄流し込んで作った量産品に大金出すわけがなかった。



◇◇◇◇◇◇



「という理由で二軒目ー!」

「いえーい!」


 続いてやってきたのは新市街のメインストリートにあるイース百貨店だ。200m×200mの一区画まるまるイース海運の商店というトンデモナイ店へとやってきた。

 旧市街冒険者ギルドの前にも武器屋を出しているイース海運であるが新市街の方は貴族向けの商売だ。取り扱いは武器のみに留まらず書籍や化粧品にドレスも用意し、遠方の珍しい香辛料や茶葉も扱っている。

 帝都の有閑マダムは暇さえあれば三階のパーラーでカタログ見ながら雑談している、という噂もあながち間違いではない。なおエリンにここに来たって言ったら「なんで誘ってくれなかった!?」って怒鳴り散らされること間違いない。


 三階建てのクソでか建築イース百貨店を見上げるマリアはビビっている。出入りしているハイソなマダム方にも気後れするが一番の理由は……


「ここあたしらが入っていい場所じゃなくね?」

「私らが入らなかったら誰が入るんだよ」


 口では貴族のご令嬢サマだぞとか言いながら自覚がこれっぽっちも無い。


 慣れてそうなナシェカの背中に隠れながら百貨店に入る。慣れてそうなナシェカがずんどか進んでいくのでついていくとあっさり武器屋にたどり着いた。


「都会の子すげえ」

「普段のクソ度胸はどこにいったんだ。マリアって変なところでビビるよね、ナンデ?」

「この剣で切り倒せない問題は苦手なの……」


 軽く聞いてみたら恐ろしい答えが返ってきた。

 とりあえずは武器屋だ。さっきの店は剣ばっかり置いてたけどデパート内の武器屋は色々置いてある。

 鞘まで美しく仕上げた聖銀のレイピアは200テンペル金貨でござい。

 美麗な装飾の施されたハルバードが650テンペルでござい。

 中二心を刺激する格好いい大剣が600テンペルでござい。


「マリア、どう?」

「う~~~ん、悪くはないけどさあ」


 反応が微妙だ。

 武器はたしかに良い物が揃っている。聖銀武器もあればより純度の高い純聖銀のサーベルもある。でも反応が微妙だ。


 一通り見せてもらう。でも気に入ったのがないので店を出る。

 退店後は流れるようにパーラーで休憩だ。イースデパートの名物であるジュエルパフェを食べながら次の話をする。と言っても次はなさそうだ。


「イースでダメなら解散かなー、帝都でここ以上の品揃えなんて期待できないし。やっぱり基準はカワイイ?」

「うん。せっかく大金出すんだから一番気に入った子じゃないと後悔しそうだし」

「そりゃそうだ」


 じつは今マリアはけっこうなお金持ちだ。自分捜索報酬に加えてカジノでの換金分があり手持ちが488テンペルもある。武器の新調に200枚は使ってもいいかなって思っている。

 ナシェカも予算は聞いてある。聖銀剣くらいなら買える額なので午前中で終わると思っていたのにもう午後だ。


「どういう武器が欲しいのさ。何か目安とかないの?」

「スラーンドちゃんみたいな相棒が欲しいのさ」


「……まさか個人携帯用ソードパッケージ特殊戦仕様のSRND-17スラーンドじゃないよね」

「おっ、知ってんだ」

「逆にマリアがどうして知ってんのか気になるなあ……。それうちの古巣で支給される装備品でもけっこう上のランクなんだけど」

「ナシェカの古巣が気になるんだけど?」

「先にマリアがいいなよー」

「先に教えてから有料とか言い出すんじゃなければいいけどー」


 ナシェカが舌打ち。図星だ。


「じゃあ一斉に明かす。いいね?」

「いいよ」

「じゃあ」

「いくよ」


「「―――!」」


 二人がそろって口パクで何か叫んだふりをした。

 呆然とした顔で二人そろって口をパクパクさせるだけの静寂の後、二人は握手!


「相性ばっちり!」

「結婚しよう!」


 カップル誕生の瞬間である。ハグしあった二人。マリアが犬みたいに顎を撫でられているのである。


 そしてそんな瞬間に鳴り響くシャッター音。カメラの音の方を見れば一眼レフを構えた黒衣の魔導師の姿がある。いや黒衣の下は学生服だった。


「俺を気にする必要はない。さあ続けて」

「いや気になるわ。あんた誰よ」

「ん~~~学生新聞部のガイゼリック?」

「だれ?」

「こないだのカジノのオーナーの息子さん」


 黒衣の盗撮魔が立ち上がる。無意味にマントを二回バサリバサリとひるがえすもんだから怪しいやつ勘が半端ないのである。そしてなぜかポーズを決める。


「そう、俺が学生新聞部特派員のガイゼリック・ワイスマンだ。よろしく同級生」

「何か用?」

「ナシェカ嬢を見かけたものだから仕入れに……げふんげふん!」


 盗撮写真を販売している性犯罪者が自白する寸前で正気に返った。ちなみにこの変態、直接戦闘能力はやや低めだ。


「そうそう、これは先日の売り上げだ」

「おっ、けっこう重いね」


 マリアには何のやり取りだか分からないが二人の間で金銭のやり取りが発生した。意味は本当に理解しなくていい。


「マリア君は武器を探しているとか」

「なんであたしの名前知ってんの、とか聞いていいの?」

「こいつ学院の女子の顔と名前は全員一致させてるよ」

「女好きの人?」

「そう蔑んだ目つきになるものではない。瞬く間に咲き誇り散ってゆく乙女という儚い花を永遠に留めんと活動する美の奉仕者なのだ」


 盗撮魔が自分のことを超格好よく言っただけだ。


「芸術家の人?」

「そのように理解してくれてもいい。話を戻そう、武器を探しているんだろ。で次の行き先に困っていると。なら午後は俺に付き合ってみないか?」

「へえ、成金の家の子推薦の店がある感じだ」

「素晴らしく話が早くて助かるな。我がワイスマンカジノでは景品交換システムがあるのだがマリア君にならとっておきの景品を出してもいい。神器の剣だ」

「マジで!?」


「なんだその反応。ナシェカー、神器って何ー?」

「最高ランクのマジックアイテム。神々のちからを封じたアーティファクトの呼称」

「すごそう」

「すごいよ。特に武器の形状をした神器なんてそうそう出てくるもんじゃない。オークションにかければ国家予算並みの金額が動くっていう品なんだ」

「ほあー」


 マリアが目を回しそうになってる。国家予算ってのが何万テンペルなのか想像もつかないせいだ。そして何万なんてちんけな額では絶対にない。


「ガイゼリック君マジで言ってんの? 嘘だったらさすがのナシェカちゃんも怒っちゃうくらい期待値引き上げてるよ?」

「これから見せてやるという話をしている時に虚言を用いるわけがあるか。さあ往くぞ、俺の盗掘コレクションを堪能するがいい!」


 予言者ガイゼリック・ワイスマンは未来を視る。未来において何者かが発見するお宝の経路を逆にたどって先にネコババできる。そうやって入手した多くの財宝がカジノ地下の魔導工房に眠っているのである。

 とんだ犯罪者だ……

 世間一般における武具の価値とレアリティ


 物理部門

 第一位 高次元物質兵装いわゆる神器と相称される謎の物体、ディンクライ・シール・ウェポンという総称もあるがそう呼ばれる物の中でも一部も一部がこれだ。本作における代表例を挙げるなら悪夢の宝杖エクスグレイスなどがこれに当たる。レアリティはレジェンダリー。神に仕える信徒の中でも選ばれた聖戦士のみが手にする至高の武器。値段はつけられず、また売却などで入手しても高確率で呪殺される。

 第二位 オリハルコン装備。魔法力を蓄積可能な性質を持つためマジックウェポンに加工される。重量や頑丈さの面においては文句なしに人界最強の武器。だが現代でも生産可能なためレアリティはSR程度。価格はオーダーメードで3000ユーベルほどだがオークションに出てくれば二倍三倍の値がつく場合もある。

 第三位 グレートアーク合金武器。古代魔法文明期に主流であった超硬質物体。軽く強いが弾性にやや欠けるためこれを用いての直接攻撃は悪手。高価な消耗品に成り下がる。レアリティはレジェンダリー。価格は最低でも10万ユーベルからというハイパーウェポンに分類されるがコストパフォーマンスの面でオリハルコンに劣る。なお神代における主な用途は高級自動車のフレーム。

 第四位 アロンダイク合金武器。古代魔法文明期に多用された軍用品の多くはアロンダイク製武装であった、という逸話が残っているくらい優秀な素材。霊的な存在への大きなダメージが期待できる。レアリティはUR程度だが完品はほぼ存在しない。価格は最低でも数十万ユーベル。物によっては天井知らず。


 霊的部門

 第一位 神器。神器とは即ち神が神兵に与える神殺しの刃なのである。現存する神器のほとんどはアイテム形であるが、武器の形をしたものは例外なく最高の対霊特攻装備である。

 第二位 アロンダイク合金武器。

 第三位 ミスリル武器。対霊的存在における最適解。非常に強力なためか人界において最もポピュラーな装備。これを所有することが一流の戦士の証であり、英雄と呼ばれる個人とはミスリルを凌駕する肉体強度を有してこそという基準に挙げられることも多い。まぁ防具の恩恵もなく聖銀を越える肉体を持つ怪物なんてルーデット家くらいだろう。レアリティはUNかR程度。金を出せば買える武器の中では最優秀と言える。

 第四位 ダマスカス鋼の武器。刀剣と言えばダマスカス、こんな格言があるくらい優秀な斬撃特化合金。防具やハンマーには恐ろしく向いていないが刃物に加工すれば素晴らしい切断力を有する。霊体攻撃能力の高さは成分に多少のミスリルが含まれているためだ。レアリティはRほど。騎兵文化のある中原の国々では防具を疎かにしがちなので尊ばれているという文化的事情がある。


 余談。古代魔法文明期には山ほどの合金が存在したが現代ではまとめてひっくるめてアロンダイクと呼ばれている節がある。その裏には見分けがつかないというしょうもない事情がある。またアシェラの鑑定師も依頼主が混乱しないためとか揉めないためにアロンダイクだと鑑定結果に記す。前述のグレートアーク合金がアロンダイク枠に括られていないのは対霊効果が存在しないからだ。だって用途が非常扉を破るための手斧だったりするし。

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