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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
帝都決戦編 レミングの進軍
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会食というか軍議というかとにかく俺は嵌められたんだ!

 帝国には二種類の軍事力がある。

 まず帝国皇室が保有する帝国騎士団と皇室近衛騎士団。どっちも組織としてはちがう組織だが皇室が管理する軍事力という意味では一緒だ。


 次に貴族が保有する領軍。領によってこれの呼び方は様々だが領主が保有する軍事力だ。領軍の中身はだいたいこんな感じになる。


 ①分家の子弟なんかを雇って教育を施した非正規の騎士階級。非正規とは帝国皇室が管理する帝国貴族制度とは関係のないその領地でのみ通じる騎士の称号だ。だいたいは世襲できるので帝国より扱いがいいよね。

 この人達は領軍の将校だ。見習い騎士とかいう従騎士から初めて偉くなっていく感じだね。


 ②領民なんかを雇い入れた正規雇用の兵隊。これを正規雇用と表現したのは常雇いという意味であり、戦の前に招集された農民や町民とはちがって生活を保証された立場で毎日訓練している兵隊さんだ。普段は町の警備や街道の巡回なんかをしてるよね。


 ③臨時雇用の冒険者の兵隊。強い冒険者を臨時雇用することで即席の強兵として運用するスタイルだ。こいつらは装備が他とちがうんで見ればすぐにわかるね。


 俺の知る限りではこの三種類だな。強い魔獣討伐の時なんかは神殿にお願いしてアルテナ神官を派遣してもらったりするけど、対外戦争には不介入の戒律があるからね。


 そしてここに集まっているのは諸侯軍。つまりは領軍の集まりだ。

 分かり易く説明するとだ。

 今回のような大きな戦になると帝国騎士団の要請で、貴族家には出兵ノルマが課される。俺も詳しくは知らんけど「お前んとこ百人な!」って感じらしい。

 でも戦場は過酷だ。たった百人で敵軍にあたるのは怖い。そこで日頃付き合いのある貴族家どうしがまとまって100+100の200になる的なのが諸侯軍なのだ。


 バートランド公軍は諸々合わせて二万の兵力で百家を越える貴族家が身を寄せている。これも公への信頼の証なのだろう。公の下ならたくさんの戦利品を抱えて無事帰国できるっていう信頼だ。


 この集結地には公軍のように、大貴族を中心にした大軍が他にも存在する。無用な争いを避けるために宿営地を少し離しているけどね。


 今も帝国本国からのピストン移動が続いているけど、海上でドゥラム軍国のような敵性国家の艦隊に邪魔をされているらしい。まぁ今年は例年稀に見る豪雪だったのもあって、色々な理由で集結が遅れているんだそうな。


 まぁ実際に実行すると色々あるよね。地図上では通れるのにがけ崩れで道が消えてたり、橋が落とされてて迂回路を強いられたり。それが何年も直ってなかったりね。冒険者として各地を回ってると地元民からの情報収集の大事さがわかる。


 合流の翌日。集結地を適当にぶらついていると学院で見た顔もちらほら見かける。兄弟っぽいのとしゃべっていたディルクルス君を見かけたので軽く手を振っておいた。初陣かなー?

 今は暇つぶしの時間だ。昼食時に現在の状況を詳しく説明してくれるというので、お昼ごはんの準備が整うまで待っている感じだ。


 やがて御三方がやってきた。旧世代型3B-AKAことバートランド公アルヴィン、前マクローエン男爵ファウル、セルジリア伯バランジットだ。なお今の悪口は本人達にはナイショだぞ。怒られるからね。


 親父殿が手招きしてる。


「来なさい、会食の準備が整った」

「会食なんて大げさな……」


 旧三馬鹿と三馬鹿でメシを食うぐらいで会食なんて大げさだ。そう思ってたんだが……


 連れていかれたのは宿営地に新設された大きな天幕で、テントの中とは思えないほど絢爛豪華な調度品に囲まれたそこに大勢の貴族が座り込んでいる。

 あぐらを掻いて座り込む大貴族。その背後に起立する護衛の貴族。ピリピリした空気でわかる。諸侯軍の大貴族を集めた会食だ。……マジの会食かよ。


「やあ、よく来てくれたね。それじゃあ悪いたくらみを始めようか」


 バートランド公が人を食った挨拶の言葉を述べてから食事が運び込まれる。


 大皿で運び込まれ、手掴みで食うスタイルだ。親父殿にいま聞いたんだがこの食事スタイルは始祖皇帝ドルジアがそうしていたのに倣い、戦勝を祈願して現在でも行われているらしい。

 うちの国が北の蛮族とか呼ばれてる理由はこれじゃね?


 丸焼きにしたリリを骨を掴んでがぶりと食いつく。普通にうまいのでよし!


 会食が始まり、最初に口を開いたのはタカ派で知られるザクセン公爵ガンザックだ。うちと同じ極北の領地にありながら鉱山で大儲けしているらしい。


「兵どもが焦れておる」


 むすっとした声だ。現状に不満ありなんだろ。


「先に進発した貴公の息子の勝利報告が毎日のように飛び込んでくるのでな、兵どもは自分らが略奪するべき都邑が残っているのか不安なのだ。ワシも若い連中を押さえつけられなくなってきた」

「極北のアレスとまで謳われた貴公が若い連中の突き上げに苦心しているって? 面白い冗談だね」

「なあに、ワシも老いたわ」


 ザクセン公がハゲ頭をツルリと撫でる。見た目は厳格な老将軍だがお茶目な人なのかもしれない。


 ザクセン公が隣に座る武張った外見の偉丈夫の背を叩く。息子っぽいな。顔立ちがそっくりだ。


「ワシは此度の戦は息子の手伝いよ。こやつが使い物にならねばワシもおちおち死ねやせんのでな」

「へえ、じゃあ突き上げに苦心してるってのはジュニアくんの方か」


 ジュニア呼ばわりにムッとしちゃう息子くん。見た目は二十代半ばだが心の方はまだガキか。


「こやつは下の者の言葉をイチイチ聞きすぎる。肝が据わっておらぬのだ」

「父上、そのような仰いようでは……」

「これはワシと公の話よ。未熟者は黙って聞いておれ」


 頑固親父の一喝である。


「ヴァルキアくんだりまで来てとんぼ帰りでは話にならぬ。ワシらは戦いに来たのだ」

「ふむ、そうだね、他にもザクセン公の意見に賛成という方はいるかな?」


 大勢の手が盃を掲げる。後で聞いた話だがすでに根回しは済んでいたそうだ。


「じゃあこうしよう。いま手を挙げた軍だけで進軍する。手を挙げなかった軍は兵力合流をここで待つ。ロガード候、集結地の取りまとめをお願いできるかな?」

「大役ですな。謹んでお受けする」


 十人いれば十人十色の思惑があるようにここには戦争反対な人もいる。帝国騎士団からの派兵要請には否とは言えないけど、連れてきた兵や息子を死なせたくないという人もだ。

 そういう人も本当は嫌だけど自分からは言い出せない。臆病者なんて汚名がつけば今後の領地運営や嫁取りなどの他家との付き合いに支障が出るからだ。


 今回はそういう人達をロガード侯爵軍に預けて、大攻勢の本拠地であるここの守護に当たらせる。これはもう冬の間に帝都で決定してあったのだそうな。

 そんな合議が行われたのもバートランド公が今回の戦に感じる不信感ゆえだろう。


「では進軍ルートの話し合いをしよう。その前にこの男を紹介しよう。皆様にとってはお馴染みであろう我が親友にして我が軍の総大将ファウル・マクローエンだ」


 本当にお馴染みだなって野次が飛んでるわ。


「そして彼だ、ファウルの息子のリリウス君だ」

「え、俺?」


「さあリリウス君、皆様にご説明を」

「え、俺がですか?」


 救いを求めて親父殿に視線を向けるも激励されたぁ……

 ロザリアお嬢様も知らんぷり! デブ! お前はまず話を聞け! バートランド公はいつもニコニコ大悪党だ……


「さあリリウス君、よろしく頼むよ。君の恥は任せた私の恥であるからしてくれぐれも笑いものにならないようにしてくれよ」

「こっ、このクソ外道ぉおおおおおおおお!!!」


 バートランド公に嵌められた。

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