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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
いかさまカジノ激闘編
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色々と奔走してアワワなリリウス、初心に立ち返る

 深夜に起きた。二度寝しようという気分になれないほどパッチリと目が冴えている。

 どうでもいい気分で夜の学院をぶらついてみる。うーむ、夜の学院にも関わらず逢引なし。もっと青春をエンジョイしろよ。


 風に乗って聞こえてくる微かな物音を辿っていくと考古工学クラブのガレージが見えてきた。オレンジ色の明かりの灯るガレージの前で何とか先輩がバイクをいじっている。

 何だっけ? レ、レレレのレ……


「レリア先輩?」

「お前か。どうした、盗みにでも来たか?」


 ゴミ屋敷に盗みに入る人がいるわけねえだろ、っていうと怒られそうだ。

 世間一般的に先史文明の遺跡で見つかるものはハイパーウェポンorスクラップだ。バイクを直して動きました。だから何だ? バイクは強いのか? それが世間一般の認識だ。皆が欲しがる遺物は武器だけなんだよ。

 ハイパーウェポンになら何十万枚の金貨も動くが、バイクなんて物好きが数十枚の金貨で買う程度。珍しいオモチャ止まりなんだよ。


 ハーレー・ダヴィッドソンを彷彿とさせる1600cc級のビッグバイクにてこずっている先輩へは微笑みかけておく。


「苦戦してますね。どこです?」

「これだ。ギア変更部分なんだろうがどうしてもうまくゆかない」

「ん~~~~、ここがナメってるのが原因かも。予備の部品はどこです?」

「こいつだ」


 レリア先輩ががんと木箱を蹴る。


「ここに色々放り込んである」


 おおっ、他の単車から外してきたらしいパーツが山盛り放り込まれている。35口径のギアは……ねえか。口の合うギアがねえとさすがにどうしようもない。作るか。


「これとこれ、素材にしていいですか?」

「素材とは妙な表現をする。修理に使う分には構わん、やってくれ」


 鉄製のスクラップを素材に魔導錬成で新しいギアを生み出す。魔導錬成は錬金術を用いた工作技能だ。

 拙い術者にはそもそも起動できないが、それなりの術者でも球体や円柱なんかの大雑把な形にしか作れない。完全な円形にするのだって難しい。賢者級の魔導師でも凸凹だらけの謎の球ができるだけだ。

 俺の場合は魔王様にみっちり仕込まれたってのもあるが元々の器用さが飛び抜けてるからな。自分の指を1ミクロン単位の誤差で動かし、違和感を把握できること。前回の自分の動きを完全に再現できること。

 鑑定の女神にさえもキモい呼ばわりされる器用さが俺の魔導錬成を支えている。


 新たに作り直したギアを嵌め込んで単車を動かしてみる。台の上で空転する後輪が噛み合って、成功を確信した。


「へえ、面白いな。いったいどういう技術だね?」

「魔導錬成って言います。知りませんか、神代では鍛冶師の代わりにこれで金属加工を行い武器を作っていたんですよ」

「レトロな技術なのに最先端を越えていくとは感動するね」

「ニッチな技術とか技術屋は熱くなりますよね」

「ロマンの話なら正にその通りだ。話のわかる小僧だな」


 小僧て。一歳差のくせに……

 と思ったが年齢制限のない学院だ。学年一個上が本当に年齢一個上とは限らないし、レリア先輩は見た目はともかく纏っている雰囲気が年齢不詳すぎる。


「なあ、その魔導錬成だが私に教えてみる気はないか?」

「代わりに年齢を教えてくれるならいいですよ」


 笑われてしまった。


「幾つに見えるか当ててみな。見事当てられたなら正解だと教えてやるよ」

「17?」


 返答はない。外れか。


「18、19、20、21」

「それは反則だな。姑息なまねはよすのだな、お前の品性が下がって見える」

「たかが年齢当てクイズで品性を疑いますか」

「愚かな小僧め。女の年齢を対価にしている時点で充分に下劣なのだよ」


 ニィッと微笑む先輩へは同じ感じで微笑みかけておく。

 まぁなんだ。このままだと負けた空気が出そうだから、引き分けに持ち込んだわけだ。気分の問題だ。


「先輩の方向性って機械技術の中でもモーターギアだけなんですか?」

「いいや、パカの技術なら何だって解き明かしたいね」

「それならこういうのに興味はあります?」


 バイザー型のネットワーク端末を渡す。装着した先輩が適当に弄っている。

 どうかな?


「ほぉー……こりゃすごい。個人認証の外された端末が出てくるだけでも相当に珍しいんだがな。アカウント名がお前自身になっている。預金口座まで付いてる。いったい何をしたらこんな真似ができるんだ?」

「ちょっと怨敵のパカ政府代表から貰いまして」

「政府代表だと? いったい何時の話だね?」

「約9000年前ですよ」

「はっ! ハハハハハ!」


 腹を抱えて笑われてしまった。笑い死ぬんじゃないかってくらい笑われている。まぁ普通の反応だ。さっき年齢を聞いてきた男が9000年以上生きているって言ったも同然だからだ。真実はタイムスリップ。


「お前は思った以上に面白い男だ。狂人のような言動が真実なのだから面白い! で、こいつを渡す理由はなんだ? 私に何をさせたい?」

「いや~~、先輩ハッキングとか興味ないっすか?」


「スペルハックが苦手か? まぁそれくらいなら教えて……いや待て、ちがうのか? 何をハックするのだ?」

「ネットワーク・ハッキングっていうやつでして。電子書籍アプリに関連書籍を買いこんでますんで詳しくはそちらでお願いします」

「どういうことだね?」

「俺バカだから猿でもわかるハッキング入門読んでも何がなんだか分からなかったんですよ……」


 これはマジの話だ。わりと真剣に勉強したが全然わからんかった。

 ちなみに安易にハッキングを試みると呪術式が自身を媒介に発動してカウンターショックを食らう等のセキュリティもあるので、けっこうリスクが高いんだ。


 そういうの色々お話した上で取引を持ち掛ける。


「魔導錬成を教える代わりにハッキングを覚えてほしいなーって。で、最終的に古代魔法王国の軍事サーバーに潜入してほしいんですよ~~~」

「何言ってるのか全然わからん。わからんが……これを読めばわかるようになるわけか」

「ですです。先輩にとっても面白い依頼なんじゃないかなーっと思いまして」

「ふぅ~~む、粘ればまだまだ出てきそうだな?」


 おっ、交渉成立の流れだ。本気で上乗せが欲しいやつはこんなことは言わないからな。


「後輩が健気にも頼ってきたのだ。ここは先輩として度量を見せてやらねばならん。よろしい、その面白い話に乗ってやる」

「最後に本音が出ましたね」

「根は正直者なんだ」


 微かな期待程度のつもりでレリア先輩という協力者を得た。どう転んでも大した結果にはならないと思うけど、機械文明にロマンを抱く者としてささやかな援助のつもりでだ。


 あとは適当にバイクの話に興じる。超盛り上がった!

 伯爵ー、はやく公道レースを復活してくれー! アルステルム市で公道レースとか絶対盛り上がると思うんだよね。


「やっぱカネですよカネ、カネ出さないと技術は盛り上がらないんですよ!」

「技術に興味のない連中も賞金を出せば食いついてくると。となると運営資金は……ははぁ、リゾートビーチに遊びに来る連中から毟ろうというわけか。席料かね?」


「賭博っすよ。レースの着順を当てるギャンブルで運営資金を稼ぐんです。賭博だけじゃない、飲みものや食い物ぜんぶこっちで用意して買わせます」

「面白い、随分と儲かりそうだ」


「まぁ儲けるのが目的じゃないんすけどね」

「いや、それでよい。儲けている姿を見せることで真似する者も増える。軽食に飲料どれも局所的な発展を遂げる。もちろんバイクも賞金目当てで改造が行われる。即ち技術の進歩だ」


「町のあちこちにバイク屋ができてさ、店主と客が日夜変な改造について語り合う光景が見られるようになりますね」

「素晴らしい。それこそ私の求める世界だ」


 ガレージに置いてあるドラム缶に座って朝まで語り明かす。

 話のわかる先輩だ、一発で好きになってしまった。これからもちょこちょこ会いに来よう。



◇◇◇◇◇◇



 朝日がのぼる頃に相部屋に戻った。

 ドアノブを回す音で目を覚ましたのかデブがむくりと起き上がる。気のせいか蔑みの視線を感じる……


「女遊び?」

「ちがわい。気の合う先輩とおしゃべりしてきた」


 いやー、打てば響くっていうのかな。何気ない会話なのに建設的というか土台が組上がって俺も誰も見た事のない不思議な工芸品が完成していくような知的な時間だった。あの人天才だよ天才。

 レリア先輩がいかに素晴らしい先輩なのかしゃべってるとデブが首をひねりだした。どういう反応だ。


「リリウスくん学院に女漁りにきたの?」

「ちがわい」

「でもやってることが……」


 過去を振り返ってみよう。

 行方不明のマリア様を探すために魔竜退治。イカサマカジノ激闘編。エロ賢者ガイゼリックの紹介で知り合った機械大好きレリア先輩と朝までおしゃべり。


「……俺は何をしているんだ?」

「何も考えずに生きてるから行き当たりばったりなんだよ」


 くそっ、正論だ!

 何も言い返せないレベルで眠い。今日の授業もサボりたいくらいの疲労感だ。このままじゃ本当にダメだ! やがて不登校になるのが目に見えている!


「初心に立ち返らねば……」

「早めに気づけてよかったね。で、初心って何さ?」

「決まっている」


 俺は颯爽と立ち上がった。これだけの醜態をさらしておいて格好よく立ち上がった。俺にできることは臆面もなく何度でも立ち上がることだけだ。


「マリア様の婚活のお手伝いをする!」

「マリア…さんの婚活の?」

「おう!」

「それが学院でリリウスくんがやるべきこと?」

「おう!」


「マジな話リリウスくんが何考えてるか全然わからないんだけど?」

「おいおい救世主さまの仕事だぞ、世界を救うお仕事に決まってるだろ」


 そこからして分からないんだよみたいな目つきをされてるわ。失礼なデブを放置して朝風呂に向かう。サウナで計画を練り上げるんだ。

 明け方の男子寮サウナはまだ暖気の途中だ。水を掛けると発熱する通称サウナ石に、ウェルキンが水をかけて室温を調整している途中だった。


「おう、早いな」

「ジョギング後の習慣でな。そっちは?」

「考古工学部の先輩とさっきまでだべってた」

「じょっ、女子か!?」


 焦りながらも迫真面のウェルキンがオモシロすぎる。

 一緒にサウナの準備をしながら会話をする。どうやら他の男子の動向が気になるらしい。


「いいかリリウス、世には二種類の男子がいる。女と付き合ってる男子と付き合ってない男子だ」


 ウェルキンは語る。

 女子と付き合えていない男子は負け組だ。女子としゃべれない男子はゴミだ。女子と友達になれない男子は死んでしまえ。


「ウェルキンお前は?」 

「俺なんか死んでしまえばいいんだ……」


 過激な自己啓発文かな?


「だが希望はある。俺達はいま新たなプロジェクトを立ち上げようとしている。リリウス、お前も参加してくれ。お前のノリの良さと恐れを知らない滑り芸が欲しい」

「そこに着目されたの初めてだよ。で、どんなプロジェクトだ?」

「プロジェクト『グループ交際』だ!」


 どういう計画か名前だけで分かるのも珍しいな。このお調子者はじつは戦士適正が高いのかもしれない。作戦行動を明確にできるのは指揮官にとって掛け替えのない適正だ。


「作戦を説明する。俺はナシェカちゃんを口説く、ベルはエリンちゃんを誘う、お前はリジーちゃんかマリアちゃんのどっちかを誘う」


 我が国の聖女 (予定)が余り物みたいな扱いを受けている国辱。


「で、うまく誘えたらいつもの面子で遊ぼうぜって流れにする。誰かが失敗しても最終的にみんな仲良くできる最高のプロジェクトだ」


「すまん俺はいいや」

「マジかよ、後で入れてくれって言っても遅いからな」


 そう言ってキラリと前歯を光らせたウェルキンだが賭けてもいい。こいつは絶対に失敗する。あの合コン女王のようなナシェカにこいつごときが敵うわけがない。


 夢を語りだしたウェルキンにはそっと合掌する。なむなむ。



◇◇◇◇◇◇



 朝日も空気もあんなに清々しいのに男子寮の食堂は暗黒のオーラに包まれている。


「ベアトリスちゃんがよぉ、昨日男と一緒に学外に出ていくの見たってよ」

「はぁ~~~~、誰? 今から吊るしてくる」

「ランドルフの野郎最近付き合い悪くね?」

「昨日女子とご飯してたぞ」

「殺せ、俺が許可する」


 なんという暗黒の情念だ。

 女子と仲良くなれなかった男たちの情念が勝ち組へと向けられている。モテる努力ではなくモテたやつの足を引っ張ろうとしている。

 一応モテようと努力するあたりウェルキンはマシなんだろう。


 あぁモテ組の席だけ朝日が差してて爽やかな朝だぁー。


 騎士学院は婚活の場だ。家格に合った相手と出会える貴重な場であり、ここを逃すと婚期がぐぐっと遠ざかる。

 時はまさに恋愛戦国時代。俺は人知れずマリア様のご尊顔を思い浮かべ、思った。


 不安だ……

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