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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
いかさまカジノ激闘編
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考古工学部の魔女皇

 学院の前に停まった馬車からわらわらと出てきた俺ら。馬車が馬のいななきを残して去っていく。

 深い霧の路上から学院の正門を潜る。警備の騎士が四人いたが学生手帳を見せて通してもらった。……馬車で少し眠ったとはいえ眠気がやべー。


「くぁーあ。こりゃ午前の授業ぶっちだなー」

「リリウスくん昨日も半分寝てたよね」

「新歓コンパのせいでな。ほぼ二徹とか学生生活も大変だぜ。……おいおいどうしたんだい、みんなして俺を責めるような目つきをしてさ」


 女子四人を女子寮まで送り届ける。男子寮のある坂道をのぼりきると女子寮がある。


「じゃあなー」

「今日は真面目に授業受けろよー」

「また誘えってねー」

「おう!」


 いやぁ女子は元気だ。素晴らしいね。

 坂道を下って男子寮へと戻る。先に裏口に回って、朝も早くから水仕事をしている女中に声をかける。処理としてはこうなる。


『昨夜学生様からたしかに預かっていたけど寮長さんに報告し忘れていました』


 こういう報告をしてもらうためにも寮付きの女中さんのご機嫌はとっておいた方がいい。

 銀貨を手渡しながら交渉だ。


「そんな…困ります……」

「つれないことを言うなよ。たまにお願いを聞いてくれるだけでいいんだ」

「困ります。ジルベスター寮長からは金品を受け取ってはならないと……」


 一応最初は断っておくっていうポーズではなく、本気でルール違反はよくないって考えてそうだ。金髪の清楚系女中さんは清楚なのに泣きぼくろがセクシーな子だ。


 うん、説得の一環としておっぱいを揉む。


「あっ……」


 見上げてくる潤んだ瞳で確信した。一撃で落とした。


「お堅いのも悪かないが人生損してると思うぜ。退屈な日々を潤すのは危ない刺激だけさ。俺は仲良くしたいと思ってるんだが、どうかな?」

「仲良くって……」

「こういうことも含めてが仲良くってやつだろ。これから俺の部屋に来なよ、なぜ男と女の二つしかいないのか世界の真実について語り合おう」

「はい……」


 最後に外泊届けの念押しをして部屋に戻る。

 デブよ、なぜ冷たい目をする。


「さっきの子知り合っただったの?」

「ついさっき会ったばかりだが」

「……ついさっき会ったばかりの子の胸を揉みしだいて約束を取り付けたの? それはもうナンパがどうのってレベルの話じゃなくない?」

「最悪嫌われてもいいやって思うと無茶もできるんだよ」


 俺の腕には繁殖神のちからが現物で宿っている。以前は感度上昇だと思い込んでたが実際はちがう。繁殖は楽しい。繁殖は嬉しい。繁殖こそが生まれた意味!っていう生物的な喜びを与える、言わば意識改変の奇跡そのものなんだよ。簡単に言えば理性を砕く発情期魔法だな。

 厳密に定義すると精神改変や精神汚染の系統なのでむやみやたらに人に使っていい代物じゃない。精神の自由を害する魔導師は外道なんだよ。


 しかしこれを使ってもナシェカはちっともその気にならなかった。俺が乱用しない理由はこれだ。飛び抜けて強い意志を持つ子や理性の強い子には効果が薄い。マインドセットの訓練を受けている騎士にも効きにくい。ここが問題だ。


 この奇跡は吸血鬼の権能であるチャームパーソンと酷似している。告発されると吸血鬼認定を受け討伐対象に指定される可能性があるんだ。……魔の大神とか呼ばれてるやつの奇跡だから世間の扱いもまともじゃないんだよ。


「ねえリリウスくん、この後俺の部屋に来いって言ってたけど僕との相部屋だって覚えてるよね?」

「悪いな。授業開始までどっかで暇をつぶしててくれ」


 先に食堂に寄ってコックさんからコーヒーを淹れてもらう。

 軽く談笑してから部屋に戻ると……


「あっ……」


 さっきの女中と部屋の扉の前でばったり会った。

 俯いてもじもじしてる彼女の肩を抱く。


「嬉しいよ。哲学に興味があるんだね」

「哲学…なのですか?」

「そうさ。素晴らしいものはみんな哲学だ。知らないことを知るのは喜びなのさ」


 彼女には二つの意味で扉を開いてやった。

 生の喜びも知らず生きるには人生は退屈で、若い日はあまりにも長すぎる。by俺。



◇◇◇◇◇◇



 起きてみると夕方だった。

 起きてみると夕焼けが空を真っ赤に染めていた。


「おおお……雄大だぁ」


 窓枠に切り取られた夕焼けを見つめながら懐中時計を探す。みっけた。午後三時半か……


 思った。俺の学生生活が息してない。

 入学式には出られず騎士団でごますりの日々。

 やっと入学できたと思ったらマリア様捜索費用捻出のために魔竜退治に出かけ、ようやく出られた授業は午後からブッチ。イカサマカジノ激闘編を終えてみればナシェカのエロい肉体でムラムラしていた情欲を女中に吐き出してナウ。


 なんか俺の思い描いていた学院生活とちがう……


 健やかな寝息を立てる女中ちゃんのほっぺにキスして立ち上がる。選択の講義だけでも聞きに行こう。

 根っこが生真面目な俺は堕落が続くと心に重たい不安を感じ始めるのだ。

 坂道を下って校舎のほうへと歩いてく。すると途中で何人かの生徒が号外を配っていた。


「号外号外! 不動産王のスキャンダルだー!」


 両面刷りの号外を読んでみる。


『昨夜未明、帝都邸宅内でワイスマン子爵が襲撃されるという事件が起きた。全裸で吊るされたまま発見されたワイスマン子爵の臀部にはなぜかスプーンが八本も突き刺さっていたようだ』


『室内には書き置きが残されており、内容は以下の通り』

『所有するカジノでイカサマを働く不逞の輩をここに成敗する。心優しき一般人より愛を込めて』

『当時ワイスマン子爵は就寝中で何が何だかわからないままに襲撃を受けたようだ。犯人につながる情報もなく、犯人逮捕を要請された帝国騎士団も困惑している』

『帝国の不動産王と名高いワイスマン子爵のイカサマカジノ疑惑は本当なのか。僅か数年で得た名声は偽りのものだったのか、当倶楽部も鋭意取材していく所存である。続報を待たれよ!』

『学生新聞倶楽部ガイゼリック・ワイスマン特派員』


 ふーん、学生新聞なんてあるんだ。

 号外を配ってる生徒に声を掛ける。ネクタイの色は赤。同じ一年生だ。


「この学生新聞倶楽部ってのは?」

「おおっ、当倶楽部にご興味が!?」


 いえ入部ではないです。

 そう伝えるとがっかりされてしまった。ごめんよ。


「新聞という文化的な活動は我が国には存在しないけどサン・イルスローゼやトライブ七都市同盟では庶民の娯楽として評判なんだ。最近起きた事件や吉事を取り扱って今起きていることを第三者に伝える。他人の噂なんかと同じだと考えてしまうかもしれないけど、主観を省いた正しい噂を伝えることは公共の利益につながる。社会への奉仕だ。素晴らしい活動だよ。君も興味があるならどうだい、体験入部だけでも?」


 怒涛の勧誘をなおも断る。またがっかりされた。


「……ちなみにバックナンバーにはこういうのもあるんだけど」


 新入生女子美少女ランキングという見出しがちらり。

 くっ、興味しかない!


 ちなみに最新号に関しては学内各所への張り出しと無料配布が行われているが、バックナンバーは有料だ。一枚300ボナ。学生新聞倶楽部の部室で販売されている。


 本当はおかねなんて取りたくないけど倶楽部運営資金のために仕方なくご理解いただきたいという熱弁をされてしまった。

 銀貨三枚で第一号を購入する。モノクロ写真付きだ。


 第一位 ロザリア・バートランド(公爵家)

 第二位 ナシェカ・レオン(騎士候家)

 第三位 カサンドラ・バスティーユ(侯爵家)

 第四位 アルマンディーネ・ルインカークス(伯爵家)

 第五位 シャルロッテ・バイエル(辺境伯家)


 トップ五のみインタヴュー付き。ロザリアお嬢様のところを読んでみよう。


Q,1 全校生徒からの支持を集め見事一位に選ばれた感想をお願い致したく。

『一位という順位には素直に喜んでおきますが他人の容姿だけをあげつらった企画でみなさんの関心を集めようというのは好ましくない。真実を伝えようとする倶楽部の活動には大いに興味があります。けれど実態がこれでは素直な気持ちで応援はできません』


Q,2 では今後、当倶楽部にどのような記事をご期待くださいますか?

『そうねぇ。どなたとどなたが交際しているなんかの情報には興味があるわ』


 さすがお嬢様だ。二秒で矛盾起こしてる。歴戦のブーメラン職人芸だ。

 他には最近のドレスの流行りとか職人が知りたいとか学生新聞倶楽部には荷が重そうなリクエストばかりだ。さすがうちのお嬢様だ。


 ナシェカのインタヴューは完全にオタクを釣ろうとするアイドルなんだけど……

 20位まである。全部写真付きだ。すごいぞ学生新聞。けっこう面白いぞ。これは購読確定だな。立ち読みしてると倶楽部員が声をかけてきた。


「美少女にご興味が?」

「なかったらホモだろ」

「そういう方にうってつけの商品があるのですが、ご興味は?」


 商品とな?

 ちょうど今頃部室で販売中だというので部室に行ってみる。倶楽部の部室は校舎隣のクラブ棟の三階にあるらしい。


 新築っぽい真新しいクラブ棟の三階に部室を見つけた。生徒が四人も警備に立っている物々しさだ。ナンデ?


「何奴!」

「なにやつて。号外配ってる人にここに行けと言われてきたんですけど……」

「しっ新入部員か!?」


 ちがうって言ったらがっかりされたわ。もしかして今年の一年はあんまり入ってくれなかったのかなぁ。


「じゃあおたから写真の方か。入りな」

「うす」


 部室内は真っ暗だ。拡散しないタイプの魔法照明を数個打ち上げて局所的に明るくしている。騎士学の先輩がたの魔法制御能力むだに高いな。

 しかしなぜ先輩がたは皆まっ黒いローブ被ってんだろ……


 どうやら部室では女子の盗撮写真を販売しているらしい。明らかに排水溝内に潜んで撮影したと思われるパンモロ写真や、食堂内での盗撮と思われる写真。本当に色々ある。


 グレードは三段階。銀貨三枚の写真が一番安く、普通にお友達としゃべってるところや歩いてるところの隠し撮り。

 銀貨十枚の写真は少しきわどいやつでブラの位置を直してたり……そんな感じ。

 金貨二枚に関しては封筒から半分だけ出てる。興味しかない。


「ハイグレード写真は……」

「更衣室での隠し撮りだ」

「買います。ロザリア様のをください」

「すまないがロザリア嬢のは無いんだ」


 ショック!


「でもこっそり隠し持っているんじゃ?」

「すまない、本当に撮ってないんだ。冗談ですまないどころか消される危険性があるから……」


 わかる。お嬢様の盗撮をしたらたぶん俺が直接始末に向かわされると思う。こうやって販売している以上盗撮は絶対に露見する。リスク管理のできてる盗撮集団なんだな。……警備を立ててる理由も新入部員が少ない理由もこれで説明がつくな。


 普通に銀貨三枚のマリア様の横顔写真を買っておいた。お守り代わりに財布の中に入れておこう。運動の後に水を被ったマリア様の横顔がいい感じだ。何がいいってほっぺが赤いので妄想が捗るところだ。


 部室のドアがどばん!と勢いよく開かれる。高笑いしながら怪しげな黒いコートの新聞部員が入ってくる。


「「ガイゼリック!?」」

「待たせたな! ナシェカ・レオン嬢のとっておきのおたから写真入荷だ!」


「賢者だ! 賢者がやりやがった!」

「すげえ、親父が吊るされた日に盗撮してくるとかエロ賢者の名は伊達じゃねえぜ!」

「どんな写真だ!?」


 やつはガイゼリックというらしい。顔立ちはカックイイのに負のオーラが滲みだしているな。確実に友達少ないやつだ。

 そんなガイゼリックが溜めに溜める。みんな固唾を呑んで待っている。なんだこの空間。空気がわいせつだ。


「ふっ、シャワー写真だ。金貨四枚、限定品だ、三名まで!」

「買ったぁあああ!」

「くれ、俺に売ってくれ!」

「俺だ! 早く!」

「慌てるな慌てるな。購入権はクイズ形式で勝ち取れよ、出題は今期発行の六部から出題する!」


 なんだろうこの空間に渦巻く陰キャオーラは。正直キライではない。帰ってきた故郷感がある。

 あ、ウェルキン発見。新歓コンパで俺と一緒に暴れた馬鹿野郎がシャワー写真欲しさに飛び跳ねてるぜ。


 クイズ大会が始まり、脱落者が順当に出て行って三人残ったところで決着。ウェルキンが泣きながら四つん這いになってる。未だ一個の活躍もないとか敗者の星に生まれたのか?

 ウェルキンの馬鹿野郎を慰めてるベル君の肩をたたく。


「よっ、ベル君は誰狙い?」

「こいつに付き合わされただけだよ」

「嘘だね、ルリア・ハストラの写真買ってたね!」


 ウェルキンからの容赦なき密告。なんて友情の軽いやつらだ。

 なお三日後にルリア嬢と二年生男子の密会が報告され、ベル君を励ます会が男子寮で開かれるのだがそれはまだ先の話だ。


「ちょ―――なんでバラすんだよ!」

「別に隠すことはないだろー!」

「へえ、知らん子だけど可愛いの?」

「普通」


 他人様の好きな子に対して思ってても普通はやめようぜ。


「こいつ地味な子が好きなんだよ」

「地味って。物静かなルリアが気になるってだけだし……」

「ほうほう、プッシュしてやろうか?」

「リリウスまで止めてよ。僕は放っておいてくれよ」


 ベル君が「なんであの時もっとプッシュしてくれなかったんだよ!」って泣き叫ぶ三日後の宴会までのカウントダウンが始まっている。

 好きなあの子が自分が告白するまで待っててくれる、という都合のいい幻想は存在しないから、みんなも好きになったらさっさとアタックしろよ。でもフラレたら脈無しだから別の子に切り替えろよ。


 競売ならぬクイズ販売を終えた黒衣の男がやってきた。

 纏う空気はダークパワー。凄まじい圧力を感じる。悪臭のパワーだ。こいつは確実に排水溝ローアングラーだ。


「ガイゼリック・ワイスマンだ」

「もしや不動産王の息子さん?」

「そうだ、君に吊るされたハゲ親父の息子だ」


 復讐かと思ったが握手を求める孝行息子はいねーわ。


「リリウス・マクローエンくんよ、個人的な事情で君とは敵対したくない。すでに怒りはないようだが取引をしチャラにしてもらいたいと考えている」

「……事情を把握していてそういう打診をする意図が不明すぎる」


 俺は盗みに入った側だ。即死級のトラップ盛りだくさんとはいえ迎撃したのはワイスマン子爵だ。非がどちらにあるかなど論ずるまでもない。

 悪いやつが子爵から散々おちょくられてブチギレただけだ。


「意図が不明ときたか。逆に君が俺の立場だとしてだ、君ぐらいの実力者の恨みを買うのがどれだけ手間かを考えれば多少の理不尽を呑んででも怨恨を解消したいと考えるのがそんなに不自然か?」


「俺がものすごく嫌なやつになるな」

「泥棒に追い銭と捉えるか邏卒ヤクザの懐柔かは後者に捉えてほしい。何事も気の持ちようだ。そうだな、もし気分が悪いのならこれを借りと考えてほしい」


「借りね。何か頼み事の予定が?」

「今のところは問題ない。まぁなんだ、借りを三つくらいと考えて今後俺との敵対は積極的に控えてほしい。そういう話だ」


 何だかよくわからん男だ。親父とは仲が悪いのかもしれない。ファウル・マクローエンを吊るしたやつがいたら俺なら感謝状を贈るね。

 ちなみにこのガイゼリック・ワイスマン。後に我ら騎士学院282期生を代表するエロの三大巨頭として高名を馳せることになるのだが今は別の話だ。


「リリウスくんよ、君には学院を案内してやろう」

「それが取引なのか?」

「情報は時としてゴールドに勝る価値がある。無論それだけの価値を持たせるには使う側の器量も問われるが……」


 こいつなんてどや顔を……


「自信がないのか?」

「案内してくれ」

「ではついてこい。まずは女子更衣室からだ!」


 不安しかない学校案内が始まってしまった。

 校舎一階にある女子更衣室。女子トイレ。不安しかない始まり方をした案内は薬学研究棟に移る。意外にもしっかりした外観だ。


「学院の薬学研究棟は皇室典医局の分館だ。学ぼうと思えば思ったよりも高度な薬学を学べる。二年からのコース選択で衛生科を受講すれば実習にも駆り出されるので実践経験も補えるのだ」

「普通の案内になったね」

「俺は無駄なことはせん。黙る必要はないが茶化さずについてこい」


 研究棟には入らずに棟を回り込む。ガレージみたいな場所があってそこで何人かが作業をしている。……機械をいじってんな。自動二輪だな。


「ここは考古工学クラブの部室だ。この倶楽部では主に先史文明の技術再現に取り組んでいる」


 軽く概略を話してくれる。長期休暇になると魔法文明時代の遺跡を探しに行き、持ち帰ったスクラップを修繕レストアして満足するまで遊んだら道楽貴族に売却して部費を稼ぎ、また遺跡を探しに行くという科学冒険野郎どもの巣窟であるらしい。


「紹介したい人物というのは……」

「まず紹介したい人物からして初耳なんだけど……」

「俺は金にも勝る情報を提供すると言ったぞ。勝手に余計な解釈をして文句を抜かすな」


 紹介したい人物ってのはヨレヨレの白衣を機械油で汚した作業つなぎの女だ。ゴーグルを掛けた彼女は一心不乱にバイクをいじっている。


「こちらが考古工学クラブ二年のレリア先輩だ。別名をぬしという」

「ぬし?」

「女子寮にも帰らずここで寝泊りをしているのでな」


 池のぬしみたいな扱いだ。

 俺らなど気にも留めずにバイクをいじってるレリア先輩がようやく俺らに気づき、ゴーグルを取り払う。


 綺麗系のものすごい美女だけど年齢が読めない。二十代にも三十代にも見えるが十代と言われても不思議はない。凄まじい威圧感で気圧されるぞ……


「盗撮魔、こいつは?」

「今朝話した男です」

「あぁあんたがリリウス・マクローエンか。なるほど聞いていた通りの厳めしい面構えだ」


 何を聞かされたんだこの人は。俺ほど可愛い……

 可愛くはねえな。


「甥からも手紙で聞いている。随分と世話になったそうじゃないか、あれが礼を欠かすとは思わないが私からも礼を述べたい。甥への助力感謝する」


 二年の先輩の甥……?

 貴族社会において自分より年上の甥なんて珍しくもないが……


「すんません、いったい誰のことですか?」

「……私のことは聞いていない。意外に信用されていないのか?」


 値踏みするような眼差しの意味はわからない。

 ただ警戒されたような気がする。


「今後もし私の正体がわかったのならその名で呼んでくれ。その時は可能な限りの助力を約束しよう」

「はぁ……? わかりました」

「では疾く去るがいい。我らが知的研究の時間は有限なのでな」


 レリア先輩がバイクに向き直る。根っからの研究バカって感じだ。

 考古工学クラブのガレージを出ていく。


「ぬしはああいう素っ気ない女だが考古工学部は常に金欠だ。まとまった額を渡せば渋々ながらも協力してくれるだろう」

「協力? 何の?」

「提供した情報の使い道はお前が決めろ」


 ガイゼリックについてって学院内をあれこれ巡る。

 最後に教員棟四階の隠し部屋に連れていかれた。チャイムのある大鐘楼の狭い階段にあるギミック壁を押すと入れる部屋だ。


「ここは探査系の魔法を阻害する部屋だ。特殊な系統魔法にも効果がある」

「わるさできそうな部屋だな」

「頻繁に出入りすれば怪しむ者も出る。いざという時までとっておくのだな」

「いざって何だよ」

「数多無限の広がりを見せる未来のすべてを読み解くことは神々にも不可能だ。只人である俺やお前が見通せるものか。……例え無力なれど善き先行きを目指すことはできよう」


 わからんことばかりを言うガイゼリックは情報提供の終了を告げ、クラブ棟へと戻っていった。

 もうすっかり日が暮れている。


 やや肌寒い風が吹くオープンテラスで一服しているとナシェカがやってきた。ガイゼリックとかいう頭の愉快なやつの話をすると笑われてしまった。


「あははは! なるほど、たまに驚くほど察しが悪くなるとは聞いていたけど本当だね」


 誰に聞いたんだろ。デブか。


「どういうことだよ」

「昨夜のトラップはワイスマン子爵じゃなかった。息子のガイゼリックだったってことでしょ」

「あ、なーるほど」


 よく考えてみるとそうだな。

 取引をしてまで敵対を恐れ、なおかつ貸しを作ったという時点で確定か。


『借りを三つくらいと考えて今後俺との敵対は積極的に控えてほしい』


 これで借りを一つ返したと考えていいのか?

 だとすればあいつは後二回は俺を怒らせる予定があるのか、それとも適当に言っただけか。謎だ。


 適当にしゃべり散らかしてるとマリア様たちもやってきた。自然におごる流れになってるのが素晴らしいね!

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