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最終章 『春のマリア』  作者: 松島 雄二郎
いかさまカジノ激闘編
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ガイゼリック・ワイスマンの失態

 前回までのあらすじ

 カジノに盗みに入ったらセックスしないと出られない部屋に閉じ込められた。なに言ってんのかわかんねえだろ、俺にもわかんねえ。


 静寂が、完全なる静寂が生まれた。あらゆる感情がぐちゃぐちゃに混ざり合い疲労と脱力と不思議パワーが交錯して俺の脳内宇宙に朝日がのぼる。


「セックスしないと出られない部屋だってさ!」


 自分でもそら恐ろしいほど乾いた笑い声が出てきた。ケタタマシイとはこういう笑い声をいうんだろう。


「いやー笑うわ、こんなん笑うしかないわ。ワイスマン子爵めっちゃユーモラスなやつじゃん」

「ほんとだねー。お姉さん久しぶりに人を殺したくなってきた!」

「超わかるぅー」


 クソほど深い笑みを浮かべるナシェカの肩を抱く。俺はそうでもないがこいつはひどい有り様だ。ボロボロだ。ブレザーの袖は残ってるのに右肩らへんは全滅でブラは残っててもホックは溶解している有り様だ。前の罠が服だけ溶かすスライム洗濯機だったんだよ!


「ま、シャワーでも浴びてこいよ。俺は後ろ向いとくからさ」

「そうするー」


 ナシェカがシャワーを浴びている間、ベッドに座って一服しよう。懐から葉巻ケースを取り出すと……

 粘液で葉巻がダメになっていた。思わずケースを握りつぶしたわ。


「いやー、セックスしないと出られない部屋かー、本当に面白いなー……で、意図はなんだ?」


 俺の懐柔か? 俺にナシェカを説得させようってか? ナシェカをいただいちまっていい気分になってもらおうってか? あれだけ罠を仕込んでおいて!


 人として越えてはいけないラインをジェット噴射で飛び越えていく殺意満々の罠を突破してきた俺に……

 舐められたもんだな。


 ふとベッドの座り心地に違和感を感じた。

 下を覗き込んでみると宝箱があったので開けてみる。クソでけえ宝箱の中身はメモ用紙が一枚。


『隣を見るがよい。この大冒険を共に突破してきた仲間との絆こそが掛け替えなき宝物なのだ』


 メモを読んだ瞬間に天井の一部が開いて折り畳みの梯子がカシャンカシャン音を立てながら落ちてきた。


「……ワイスマン子爵あんたはすげえよ。怒りのあまり後頭部がジンジンとしびれてきた。ここまでの怒りを感じた覚えはそうそうない」


 シャワーを浴び終えたナシェカに服を貸す。ステルス収納には色々入っているが女子にしちゃ身長の高いナシェカに合うものがなくて、この場は夜会用の背中空きドレスで許してもらおう。

 俺もシャワーを浴びる。汗を掻いた後の冷たいシャワーは格別だぜ。これに目覚めるともう温水なんて生温い刺激に戻れなくなる。

 俺も新品の戦闘服に着替え終える。するとナシェカが甘えた声を出してきた。


「リリウスのそれって色々入ってるよね~~?」

「やっぱり別の服がいいか?」

「じゃなくてさー、武装も入ってるよねって話ぃ」

「どんな武器が欲しいんだい?」


 ナシェカがメモ用紙を見つめながら、暗い顔なのにとびきりのスマイル。


「このカジノまるごと爆破できそうなやつ!」

「いいねえ」


 おそらくあの梯子から地上に出られる。それはわかっている。

 だがもうそういう話じゃねーんだよ。これはもう俺らとワイスマン子爵の戦争なんだよ!


 俺もナシェカも共通の願いをもってしてワイスマン・カジノに再戦を挑む。一発ぶん殴ってやんないと気が済まない!



◇◇◇◇◇◇



 明け方の帝都は深い霧に覆われ、朝ではなく夢の中のようだ。

 一晩待ってもナシェカもリリウスも帰ってこなかった。朝食を出してくれたフェイさんに聞いてもわからんかった。


「リリウスは別件で出ていった。あの黒髪の女がどこに行ったかは知らんが、まぁ変なことになってはいないだろ。そこいらの酔漢に遅れを取るようなレベルではない」

「そうですかね?」

「あんたもそこそこ鍛えていると見たがあれは別格だ。実力的には僕やリリウスと近い位置にいるはずだ」


 店長さんも冒険者でなんとS級らしい。

 まぁ納得だ。今まで見た人の中で一番オーラが穏やかだ。常にオーラを抑え込んでマナと混ぜ込み、体内で調和させている感じがする。むかし一回だけ村にやってきた剣聖マルディークの門弟の人と近い感覚がする。


「好き勝手にやってるやつらだ、気を揉むだけ無駄だと思うな。さっさとメシを食っちまえ。学院に戻るんなら馬車を出してやる」

「はぁーい」


 明け方の帝都は五里霧中。まっさらな白い闇の中みたいだ。

 やけに乗り心地のいい幌付きの馬車で貴族街の丘を目指していると……


「ガハハ! 快勝快勝!」

「すっきりしたー!」


 ナシェカとリリウスが肩を組んで歩いてきた。二人とも気分爽快って感じでガハガハ笑っている。

 御者をやってる店長さんが流し目で「な、無駄だったろ?」って苦笑してる。


「おう、フェイくんご苦労!」

「ご苦労!」

「おう、送ってやるから乗れよ」


 ナシェカたちが乗り込んできた。

 どうやらカジノに乗り込んでたらしい。なんでかわからんが二人とも興奮してて聞く暇がない。二人して手柄話をべらべらしゃべってる。


「あの部屋な、あれでキレちまった」

「セックスしないと出られない部屋ね。ふざけすぎでしょ」

「……したの?」

「ドア蹴っ飛ばして出てきた」

「出れてるじゃん」

「出れるんだよ」


「空間が捻じ曲がってて術者の思い通りの場所に飛ばされてるって気づけなかったらまだ地下で迷ってたかもねー」

「まったくだ。使う予定がないとはいえ貴重なリブをけっこう使わされちまったぜ」

「まさか最初のエレベーターの時点で失敗していたとはナシェカちゃんも気づけなかったぜ」

「そうそう、B5かと思ったらB7だったもんな」


 べらべら二人してしゃべってる。超仲良さそうだ。ずっと肩組んでる。

 最終的にワイスマン子爵の屋敷に突入して子爵を吊るしてきたらしい。なんもかんも聞き終えたリジーが言う。


「なー、二人は何しにいったんだ?」

「……なんだっけ?」

「イカサマカジノのオーナーをとっちめにじゃない?」


 そんな感じの二人はそのうち寝息を立て始めた。どうやらすごく疲れたらしい。

 セ部屋突入前のガイゼリック

「完璧だ。完璧な仕掛けだ、これなら大人しく帰ってくれるだろう」


 セ部屋突入後のガイゼリック

「なぜだ! なぜヤらない!?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初登場?のガイゼリック君早速世界観に馴染みすぎてる!
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